11 妖精の花畑
ライは、日の出とともに目を覚ました。
懐に温かい毛玉が居る。昨日の事は夢ではなかった。そっと毛を撫で起こさぬように毛布から出る。
グレイがスープを全部食べたから朝食を作らないといけない。薬草茶を準備して、パンをスライス。からっと火であぶる。そこにとっておきの蜜の実を割って蜜を掛ける。
お婆と森に行ったときに見つけた宝物だ。グレイは美味しいと言ってくれるかな?暖かな毛玉のぬくもりを思い返した。グレイと一緒なら街の生活も楽しいかもしれない。
ボブとグレイに声を掛けた。グレイがアプトの実を出してくれた。
「デザート付きか?豪勢だな」
ボブはグレイを膝にのせて朝食を食べた。グレイも満足そうだ。
ボブは、いつも街から村々を回って行商をしていて、お婆のとこで薬草や薬を仕入れて街に帰る。あと5泊は野宿だ。
ボブが兎を仕留めてくれていたので、今晩は焼肉だ。お婆に貰ってきた薬草を血抜きした肉にこすり付け、腐敗防止の葉っぱに包んでおく。
カタゴト揺れる荷馬車の中で街の話やグレイの冒険談を聞きながら楽しく過ごした。兎の肉はとても柔らかく、スープにしても美味しかった。
特にグレイが喜んだ。グレイは狩りができるらしく、後で兎が届いた。
野宿4泊目の朝
「ライ起きろ」
大きな声が聞こえた。まだ薄暗い夜明け前。目をこすりながら起きていく。
いつもは枯草に覆われた草原が、黄色いポポの花畑になっていた。見渡す限り黄色い小花が風になびいている。
昨夜、珍しく雨が降ったことと春の暖かい風のせいらしい。妖精のお花畑と言われているとボブさんが教えてくれた。ポポの花は早朝の1時間ほどで消えてしまう。
「ライ、今から少しの間小雨が降る。よく見ておくんだ」
グレイが杖を出して空に向かって何かを唱えながら円を描く。しとしとと霧雨の様な雨が降った。黄色いポポの花が風に揺れて、花びらの色が黄色から透明に変わっていく。
わずかな時間で透明なポポの花が雨のしずくを光らせてさらさらと音を奏でる。
草原一面が光るとライの目の前から元の枯葉になっていった。目が届く遠くまで花が枯れた時、日が昇り出した。
慌てて朝食を食べて馬車に乗り込んだ。草原はまだ続く。朝見た風景は、ボブでも見たことがない。女神の業か、精霊のいたずらか。
グレイという相棒も持てた。ライは幸先が良いと思った。
街に向かう道はまだ続く。その後大きな問題もなく荷馬車の旅が続いた。
「これがナロン領ヨルンの街の領壁だよ。立派なもんだろう。村からは草原が多かったがあっちを見てごらん。森が広がっている。
その向こうに山も見える。森からは魔物が来ることもあるから、領壁が領民を守っている。
昔は戦争もあったからここの領壁は、他の街より立派なんだ」
ライは今の自分の身長より数倍高い壁を見上げていた。
草原からの出入りはそんなに多くない。冒険者みたいな人やボブの様に荷馬車に乗った人が並んでいた。
「おいボブ。いつ子供ができた」
突然門兵の男性が声を掛けてきた。
「馬鹿。20日前にここ発って、急に5歳の子供が出来るわけないだろう。知り合いから街に連れて行ってくれと頼まれたんだ。これからギルドでカード作るから、5銀貨渡しておくよ」
「おお分かった。この水晶に順番に手をかざしてくれ」
ライがボブの真似をして手のひらサイズの透明な水晶玉に手をかざすと、ピカッと淡く光った。
「通過していいよ。ヨルンの街にようこそ。ボブ、暇になったら酒でも飲もう」
気安く声を掛けられたボブに続いて西門から街に入った。
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