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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
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106  王都再び  2

 コンちゃんのご機嫌が直った。ライはコンちゃんを抱いたまま大通りを歩くとジャロウ商会と看板がたっている店の前で、カロンが立ち止まる。


「ありがとうございます。ここが僕たちの家です。ちょっと待っていてください。コンちゃんおいで」


 カロンが手を差し出すがコンちゃんは、ライの肩に顔をうずめる。ライが首を振ると、カロンは困った顔をしながら店の中に入っていった。店の手前側には、服はないがリボンや布、エプロン、お財布小袋などの布物の他に、ガラス玉や小箱に、籠などいろいろな雑貨が所せましと並んでいて、店の奥側には子供用に小分けした固焼き菓子が並んでいる。


 訪れるお客さんは、家族連れや子供一人での買い物が目につく。近所に愛されるお店のようだ。奥から白いフリルの付いたエプロンをした恰幅の良い夫人が出てきた。


「まあ、すいません。コンちゃん、お母さんの方においで」

「いや」


「まあ、困ったわね。店先では何ですから中に入ってください。カロン、ねーやにお茶をお願いして」


 そういいながらライを店の奥に案内した。店の奥には商談用なのか簡単なソファーセットが置いてあった。コンちゃんはライから降りたが、ぬいぐるみは手放さなかった。そのままコンちゃんはライへと出されたテーブルの上のお菓子に手を伸ばす。


「コンちゃん、お客様のものに手を出してはダメでしょ。それにそのお人形は?」

「ミミ、ミミなの」


「ミミって絵本の猫ちゃん?」

「ミミ、お菓子食べたい?ミミ食べたいって」


 困り顔のお母さんが声を出そうとしたとき、奥からカロンによく似た男性が頭に包帯を巻いて出てきた。


「コンがご迷惑かけました。コン、だめなものはダメだ。お前はコンに甘すぎる」

「お父さんそんなことはいいから」


「あっ、申し訳ない。わたしがこんなため妻や息子に負担をかけていています。今日もカロンがコンの子守に出ていてくれた。カロンすまないね」


「大丈夫だよ。お父さんが痛いのはつらいから」

「お怪我ですか?」


「いや、呪い」

「あなた!ごめんなさい。呪いではないけど、痛みが消えないからみんなが『呪い病』というんです。年を重ねるとたまにかかる病で、人によって痛みが残ることがあるんです。


 夫は10日前から頭が痛いと言いだして、薬を飲んでも良くならなくて。2,3日前から右の頭に赤いぶつぶつが出来始めたので、あわてて治療魔法を掛けに行ったら、手遅れと言われました。赤いぶつぶつが水膨れになってしまって、薬師から痛み止めと赤いぶつぶつに冷やし薬を貰いました」


「初めに頭半分痛みが先に出た。しばらくして、水膨れ・・・今、水膨れはどうですか?あっ、すいませんわたし東のウエートという街から来た薬師です」


 ライは商業ギルドで出された薬師認定書を取り出した。コンちゃんのお父さんは、カルロ・カードと言って、王都で夫婦の他に二人ほど雇って、雑貨屋を営んでいる。カルロさんが商品の買取をしているが、頭痛が酷いうえに水膨れまでできて、見た目が悪く商品を買い取りに出かけられない。それも相まって苛立ちが抑えられず、家族との諍いが増えてしまったと悩んでいた。


 包帯をはずして、水膨れを見ればほぼ乾燥している。ライは少しだけ痘痕にならないように回復魔法をかける。


「温かい」

「子供の頃小さな水ぶくれができたことがありますね」


「カロンは5歳ごろかかった。子供がかならずかかる病だ」

「そうです、その時の水膨れが体の中に隠れていて、大人になって、体調を崩すと暴れだすそうです。誰でも暴れだすわけではないのですが、体調を崩したり疲れがたまると発症する病です」


「あなた、買い取り先で、風邪をひいて帰ってきたことがあったわ」

「命にはかかわりませんが、痛みが残ることがあります。治療魔法では一時よくなるだけです。お薬と貼薬を見せてください」


 見せられた薬は痛み止めと、ハッカスイだった。冷やし薬とは水にハッカ水を入れて、布をそれで濡らして肌に当てるものだった。これが一般的な治療なんだとライは思った。


 ただ、水膨れが無くなって、痛みだけが残る時は、温めた方が良いとお婆は言っていた。お婆は、腰にこの水膨れが出来た跡がある。季節の変わり目や冬の寒いときに痛いと言って、火にくべた石を布で巻いて、痛い腰に当てていた。これは『年寄り病』と言っていた。膝や肩が痛いときも温めていた。


「もう水膨れは良くなっていますから冷やさないほうが良いと思います。わたしの師匠も罹っていました。これからは帽子をかぶって、温めてみてください。お風呂はありますか?」

「小さいがあります」


「熱めでない湯にゆっくり浸かるのも良いです。まだ水膨れ痕がありますから頭はごしごし洗わないでください。頭はこれを使って、泡で、洗う感じで、お風呂にはこの入浴玉を入れてみてください」


「おいくらですか?」

「いいえ、これは私の作った物です。お金はいりません。お風呂入ってみませんか」


 よほどつらかったのかカルロは、すぐにお風呂に向かった。

その間コンちゃんとカロンとライの三人で、絵合わせをして遊んだ。これは孤児院の小さい子用に木札に同じ絵を2枚作って、絵を下にして、2枚めくって、絵が合えば手元に札が集まる。絵は子供が好きな動物や日常品に花などが書いてある。広げる札は、年齢に合わせて数の調節ができる。コンちゃんの好きな絵を選ばせ始めた。


 さすがにカロンは、コンちゃんに拾わせようと手を抜いている。コンちゃんが絵を合わせると、二人して大喜び。いつの間にかミミを手放して、絵合わせできた札を大事に握りしめていた。


「す、凄いです。痛みは消えませんが、ずいぶん楽になりました。髪も長らく洗えなかったのでとてもさっぱりしました。入浴玉はとてもいいです。疲れがとれるようです。痛みに体中が、がちがちでした。温めるのが良いとは知りませんでした」


「良かったです。痛み止めは日中我慢できるなら寝る前に飲むとよいですよ」

「えっ、仕事をするために日中飲むのでは?」


「痛みがひどい時は、朝晩二回飲みます。我慢はしないでください。ただ、日中仕事で気がまぎれるなら夜薬を飲んで、ぐっすり寝る方が体に良いです。布団に入ると痛みに意識がいきがちです。寝不足は翌日に響きますから」


「逆をやっていた」

「今は、痛みが強いなら、しっかり痛み止めを飲んでください。身体が回復してくれば少しは楽になると思います。あと季節の変わり目や冬の寒いころに、痛みがぶり返しますが不安にならないでください。年寄りの腰痛と同じですから」


「いや、温まっただけでもすごく楽です」

「この小瓶に20回分入っています。他の人にもう移りませんから奥さんや子供達もお湯を使ってください。あっ、コンちゃんはもう少し間を開けた方が良いわね。まだ水膨れできていないから。お風呂が無理なら深い桶にお湯をはり小玉を半分いれて、足浴でも体は温まります」


「同じ湯を使ったら移りますか?」

「まだ水膨れにかかっていない子供や赤ちゃんに、移ることがあります。水膨れの後の傷が奇麗になれば心配ないです。」


「こんな思いは一度でいいな」

「ところが2度かかる人もいます。自分の体を大切にしてあげてください」


「この入浴玉は何処で売っていますか」

「王都にモス商会はありますか?モス商会に問い合わせれば取り寄せてくれると思います」


「知っています。モス商会ですね。髪を洗うのもモス商会ですか?」

「髪を洗うのはウエートの商業ギルドが生産していますが、モス商会も取引していると思います」


 カルロは痛みのことからいつの間にか商売の話に代わっていった。もともと仕事熱心な人のようだ。頭の痛みで思うように動けない。それを家族に当たってしまうことをとても悔んでいた。病気といえそんな関係は長く続かない。仕事を辞めてしまおうかと考えていたようだ。


 病には回復するものもあればそれで命を落とすこともある。さらに後遺症を発症すれば二重の苦しみになる。特に痛みは外からは分からない。理解されない苦しさが人間関係を壊す。目に見えれば人は気遣ってもくれるが避けられる事もある。病に心を蝕まれ孤独を背負うことになる。病の治療は難しい。目の前の笑顔を取り戻した親子にライはほっとした。

水膨れの頭痛は帯状疱疹後の神経痛です。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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