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神の落とし子  作者: ちゅらちゅら
103/176

103  王都で一休み

 西の公爵領での高熱病の終息をもって、ライたちは王様と謁見するために一度王都に転移して、それから東に転移して帰ることになった。来た時の逆になる。晩餐会の翌日、すっきりピカピカの女性たちに反して、二日酔いのグタグタな男性陣が宿に戻ってきた。


「ライさん、二日酔いの薬はないですか・・」

「ありますが、反省のために出しません。寝台は沢山あります。アルコールを抜くのは」


「「「迎え酒!」」」


「死んでください」

「たらふく水を飲んでトイレに通ってください。明日には出立ですよね」


「大きな声出さないでください。王都の書記官が治療宿の記録を書き加えているから明日は無理かも」

「西に捕まっていたんですか」

「接待されてたらしい。ストロングさんが怒って、こっちの情報は伝えていない」


「現場を見てないからね。書きようがない」

「早く元気になって、論文もう一度出すんでしょ」


「出すぞ。今度は完璧に仕上げる。頭が痛い」

「大声出すな。うっ、吐き気がする」


 頼りにならない男性たちを置いて、荷物を片付ける。持ち帰る物は箱詰めにして、各ギルド宛に魔法袋に詰めていく。来た時より少ないが、一度広げたものを片付けるのは大変なことだった。使いかけは西の協力者に残しておくことにした。


 まだまだ使える宿だから再開するかもしれない。ここに通う道は整備されたし、空き家に人が住み始めた。人が住めばまた村になる。上が変わればきっと住みやすくなるだろう。


 接待漬けの王都の書記官は、仕事をしないまま帰還することになった。ストロングもアーツたちも情報は流さなかった。声を荒げたり、泣き落としをしたらしいが無駄だった。


 西の公爵家からの王都への報告書はストロングが預かっているので手も足も出ない。書記官と深くかかわった大臣たちは、古参の人から情報を得ようと賄賂を贈ったが、情報を得ることはできなかった。


 王都の書記官たちは西の公爵から賄賂を貰っていた。その賄賂を使って大臣たちから得られなかった情報を治療宿の人たちから得ようとしたが、相手が悪かった。真面目な東の人たちが相手にするわけがない。ライにもすり寄ってきたが、ストーンが締め上げて追い出してくれた。


 バタバタと帰り支度が済むと、来た時と同じように公爵邸に集まり帰りの会となった。第三夫人が公爵代理として、丁重にお礼の挨拶をして旅の安全を祈ってくれた。東の治療応援の人たちと目の下にクマを作った王都の書記官と護衛たちは、公爵邸の転移陣をつかって王都に向かった。


 さすがに転移陣は三回目、東の人たちは少し慣れた様子だ。王宮は王都の宮殿近くの街中に帰りは宿を取ってくれた。街の賑わいが耳に届く。行きは緊張していたせいか、何も覚えていない。


 ストロングが謁見に出ない人たちに軍資金1金貨手渡してくれた。公爵様の自腹だそうだ。行く前から問題だらけの出立だったから奮発して用意してくれていた。帰宅を待つ家族に土産を買うようにだそうだ。ライは自宅で待つリリーや地下の仲間に何を買おうかとワクワクしていた。


 もちろん使わなくてもいいんだけど、外に出て、店を回ったら買わずにはいられない。ライの上でグレイがそわそわしている。東に帰ればお手当てが手渡される。財布のひもがもう緩んでいる。


「王都はスリがいる。大人も子供もいる。財布は、懐奥に入れておくように。きれいなお嬢さんたちは、人攫いに合わぬよう、一人ぐらい男性を連れて歩くように。ライさんはストーンさんを連れて行くように」


『俺がいるのに』とグレイがストーンをじろりと見る。以前なら緊張したのに、にっこり笑っている。ストーンはグレイと仲良くなったようだ。


『あいつ図太くなった。まあ逃げるやつを俺は捕まえることはできないから連れて行くか』


「グレイ、教会に行かない?」

『今回は助けられたからな』


「ストーンさん、教会に行きたいんだけど」

「お任せください。公爵様に付添って、王都に来ています。遊ぶところは分かりませんが教会は分かります」


『堅物が』


 女性陣は謁見に行かない男性陣と店を回り、家族や知人に土産を買いに出かけた。ライはストーンに案内され立派な教会に向かった。東の公爵様がオズの治療に訪れる予定だった教会らしい。人の出入りも多い。いつものようにお礼のお祈りをした。ライは一瞬で女神の前にいた。


「久しぶり。今回は大変だったわね」

「お久しぶりです。ストーンさんを助けるのに力を貸していただき、ありがとうございます」


「あら気にしなくていいのよ。あの子は私ではない女神に祈りを捧げていたけど許してあげる」

「えっ、女神様以外の女神なんているのですか?」


「ぶっ、」

「グレイは分かっているわね。ライは当分無理なのかしら?」


「どんなことでも神に感謝する真面目な子は助けないとね。ライをしっかり守ったからお礼だわ」

「ありがとうございます」


「じゃあ、気を付けて帰りなさい。グレイは残って」

「げっ、」


 祈りから顔を上げれば、ふてくされたグレイと笑顔のストーンがいた。さっそく街に散策に出かける。人が多い。東の公爵領と違って、街の色が鮮やかすぎて目がちかちかする。


 リリーと地下の友人に何を買おうか?リリーは珍しい布か飾り石。モスは花の種か苗。珍しい果物にお菓子。スラ達は何でも溶かしちゃうから困る。ライは目だけを忙しく動かして、あちこちの店を見比べながら散策を楽しむ。先ほどから無口なグレイにライは声を掛ける。


「女神に何言われたの?怒られるような事したの?」

『しないよ。ただ、女神が余計なことをした。ライのは良いんだけど、ストーンのがな』


「ストーンさんに?」

『あいつ、魔力が出せないから身体強化を極めると頑張っているのに女神が』


「何したの?」

『あいつが、魔法を使えるようにした』

「えっ、そんなに簡単に使えるようになるの?」


『詳しいことは夜話す。高熱病で魔力回路が変質したらしいところを女神が弄って魔力を外に出せるようにしたらしい。めったにない事だから女神も驚いていた』


「それじゃ、ストーンさんが、魔法を使いたいなら使えるってこと?」

『そう簡単じゃないが。今まで魔力を外に出す事してないから、訓練が大変だ。必ず使えるようになるか分からない』


「ライさん、人が多い時に、上の空では危ないです。疲れているなら宿に戻ります?」


 突然ストーンに声を掛けられた。ついついグレイの念話に夢中になってしまった。ストーンにお礼を言って、買い物を続ける。グレイも言い返せない。


 王都は四公の領地から色々のものが集まる。ライは鑑定を使いながら、モスが喜びそうな種や苗を買う。布屋では生成りのしっかりした綿生地の白と濃茶を買う。(これで冒険者の服を作ってもらおう。背が伸びたから、楽しみだ)


「ストーンさん、軽くお昼を食べませんか?それとストーンさんはお土産を買わないのですか?」

「お昼でしたら、もう少し先にカフェがあります。お土産ですか?誰に買いましょう?」


「わたしに聞かれても・・・ご両親とか彼女とか兄妹は?」

「そういうものでしょうか?家族は必要なものは自分で買いますし、僕の買えるもので喜ぶものなどないと思います」


『だから女も寄り付かないんだ』


 ストーンのお勧めカフェに寄り、軽くサンドイッチと紅茶、フルーツの盛り合わせを食べることにした。同席を断わるストーンを説き伏せ、同じテーブルで食べ始める。


「カフェに入りたいお客様が沢山います。同席すれば次の人が入れます。それに今日は護衛依頼ではないから、楽しみましょう」

「ライさんがおっしゃるなら」


 そういいながらストーンはサンドイッチを5皿平らげた。まだ物足りなそうだが、満腹はいざという時の反応を遅らすから、少なめでいいという。自分に厳しい人だ。彼女とのデートもこんな感じだろうか。


「肉パンの方が美味しい・・」


 カフェのサンドイッチは、パリパリの葉野菜に黄色いソースとゆで卵にお肉が入っていて手の込んだものだ。黄色いソースはライが登録したもので、王都まで広がっているとは思わなかった。


「ストーンさん、もし魔法が使えたら嬉しいですか」


「もちろんです。今まで騎士でいるのに身体強化を極めれば十分だと思っていましたが、ライさんの魔力弾を見て、剣では間に合わないことがあると思いました。しかし我が家系は体外に魔力を放出できません。ない物強請りをせずに今あるものを磨いていきます」


 何処までも生真面目なストーンは、自らの体の異変に気が付いていない。ライはストーンに魔法が使えるかもしれないとどう説明するべきか悩む。女神のことは伝えられないので、今晩グレイと共に悩むことになった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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