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死にかけの第一王子を拾いました 生ず殺さず領土開拓  作者: トール
四章 覇王の胎動 第三節 グレートバレン聖国 A級:情報と外交の壁

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神殺しの鉄槌と黄金の包帯:北伐、聖地化計画

「見よ! 我らが鎧にはスタプアの神の加護がある! 異教の徒の攻撃など、蚊ほども効かぬわ!」


 グレートバレン聖国の国境平原。教皇の聖戦クルセイド布告に応じ、聖国が誇る「白銀聖騎士団」五千騎が、地を埋め尽くすように展開していた。彼らは狂信に酔いしれ、神の盾(物理防御付与魔法)を過信し、サマーズ軍など一捻りだと高笑いしていた。


 だが、彼らの頭上、雲の切れ間から冷徹な死刑宣告が下される。


「……哀れな。時代遅れの遺物に祈りを捧げるとは」


 高度八千メートル。『ナイチンゲール』のコクピットで、オリビアは眼下の銀色の波を見下ろし、小さく溜息をついた。


「フリーダ、始めなさい。まずは『足』を奪う」


了解ラジャー! 全機、対地攻撃用意!」


 中隊長フリーダの号令と共に、航空魔導部隊「漆黒の豹」が、ハヤブサのごとく急降下を開始する。彼女たちが狙ったのは、騎士団の本体ではない。その後方に伸びる、食料と魔石を満載した補給部隊だ。


 ズドォォォォン!!


『ジャイアントバズーカ』の炸裂音が、聖騎士たちの高笑いをかき消した。振り返れば、補給馬車が炎の柱となって吹き飛んでいる。


「なっ、後方が!? 卑怯な! 正面から戦え!」 騎士団長が剣を振り上げるが、その声は届かない。


「正面? いいえ、これは『掃除』です」


 低空を滑空する『ケンプファー』から、無慈悲な雨が降り注ぐ。『アサルトライフル』の銃口が火を噴いた。


 ダァン! ダダダダダッ!!


 爆裂魔石弾の嵐。聖騎士たちが信じた「神の加護」が付与されたミスリルの鎧は、超高速の弾丸の前では紙屑同然だった。鎧を貫き、内側で炸裂する暴力。


「ぐあぁっ! 魔法障壁が……貫通されただと!?」 「馬鹿な! 剣が届かない空から……一方的に!」


 さらに、絶望的な騎士たちが放った火球や雷撃は、航空魔導部隊が展開する『結界四式』の不可視の壁に弾かれ、虚しく空中で四散する。


「我々の神は、お前たちを守らない。だが、我々の科学チートは、お前たちを殺す」


 わずか数十分。白銀の平原は、鉄屑と呻き声に満ちた地獄絵図へと変貌した。


 硝煙が晴れた戦場。生き残った聖騎士たちは、恐怖と絶望に震え、地に這いつくばっていた。彼らの信仰は、圧倒的な武力格差の前に粉々に砕け散ったのだ。


「殺せ……! 異教徒の手にかかるくらいなら……!」 片腕を失った騎士団長が、血を吐きながら呻く。


 しかし、空から降りてきたのは、死神の鎌ではなかった。


 キラァァァ……


 まばゆい黄金の粒子と共に、純白のローブを纏ったセブンシスターズが舞い降りる。彼女たちの前髪には、女神エイルの加護を示すブロンドのハイライトが輝いている。


「可哀想に。スタプアの神は、貴方たちを守らなかったのですね」 シスター・フィオナが、慈愛に満ちた瞳で騎士団長を見下ろす。


「な、何を……」


「でも、安心なさい。女神エイル様は、敵である貴方たちさえも見捨てません」


 彼女たちが手をかざすと、戦場全体を包み込むような広域回復魔法エリア・ハイキュアが発動した。千切れた腕が繋がり、砕けた骨が接合し、痛みという名の地獄が、温かな光によって消し飛んでいく。


「おぉ……! 傷が……痛みが消える!」 「これほどの奇跡……! 教皇猊下ですら、成し得ぬ御業だ!」


 騎士たちは涙を流し、自らが信じてきた神ではなく、目の前の「敵の女神」に跪いた。武力による敗北以上に、この「圧倒的な慈悲」が、彼らの信仰心を根底から書き換えたのだ。


 数日後。グレートバレン聖国の王都は、無血開城された。 王宮のバルコニーに立ったのは、オリビアの意を受けたハリー家令と、セブンシスターズ。


 広場を埋め尽くすのは、サマーズ軍に治療され、帰還した聖騎士たちと、その家族である国民たちだ。彼らの眼差しには、もはや敵意はない。あるのは、「真の救済者」への熱狂的な崇拝のみ。


 ハリー家令が、高らかに宣言する。


「グレートバレン聖国は、本日より生まれ変わる! 腐敗した教皇領の盾であることを辞め、女神エイル様の『北の聖地』として、真の慈悲を世界に発信するのだ!」


 ワァァァァァァッ!!


 国民の歓声が轟く。オリビアの描いたシナリオ通り、グレートバレンは占領地ではなく、「女神エイル信仰の新たな総本山」として再定義された。


 かつてのスタプア教の教会は、看板を掛け替え、「女神エイル治療院・聖国支部」となり、無償の医療と食料配給の拠点となった。


 ヴェルリーナ要塞の指令室で、オリビアは北の空を見上げ、冷ややかに微笑んだ。


「教皇領の北側は塞いだ。そして、彼らが頼みにしていた『狂信の騎士団』は、今や我々の『最も忠実な信徒』となった」


「さあ、教皇猊下。貴方の周りには、もう味方はいない。神に見放された気分はどうかしら?」


 北伐の完了。それは、大陸の精神的支柱が、スタプアからエイルへと完全に移行し始めたことを告げる、決定的な転換点であった。



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