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死にかけの第一王子を拾いました 生ず殺さず領土開拓  作者: トール
四章 覇王の胎動 第二節 ハディ王国 B級:資源と疲弊の戦場

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黄金の鎖と北の鉄槌:ブッファ・コネクションの発動

 キノア王国東部の空。サルノヴァ辺境伯領のさらに上空、雲海を突き抜ける高さに、一本の巨大な人工の龍が走っていた。「天空の回廊エイル・ロード」である。


 その舗装された路面を、サマーズ貿易公社の陸戦型モクバの大船団が、地鳴りのような重低音を響かせながら疾走していた。


「見よ! 荷台が沈み込むほどの物資だ!」


 輸送隊長が叫ぶ。荷台には、サマーズ産のオーク肉の燻製、樽詰めのバーボン、そして最新鋭のアサルトライフルと弾薬が満載されている。行き先は、北東のブッファ王国。


 眼下、地上のサルノヴァ辺境伯領の街道は、閑古鳥が鳴いていた。かつて東方貿易の要衝として栄えた関所は、今やただの石塊と化していた。


「くそっ……! まただ! また我らの頭上を、莫大な富が素通りしていく!」 サルノヴァの衛兵が、空を見上げて地団駄を踏む。通行税も落ちず、情報も入らない。彼らは、経済という名の血液が循環しない、壊死した手足になりつつあった。


 ブッファ王国の王都。アンジェリーナ第二王女は、サマーズから届いた物資の山を前に、震える手で目録を握りしめていた。


「これほどの支援物資……。アルヴァン様は、約束を守ってくださった」


 彼女の瞳に、決意の炎が宿る。長年の財政難で錆びついていたブッファ王国の歯車が、サマーズの「経済チート」という潤滑油を得て、再び轟音を立てて回り始めたのだ。


「全軍に告ぐ! 我が婚約者、アルヴァン殿下の期待に応える時が来た! 南のハディ王国国境へ軍を展開せよ!」


 ブッファ軍の動きは早かった。新品の装備と十分な食料を得た兵士たちが、ハディ王国の北境に殺到する。


 一方、ハディ王国の王宮。 「北からブッファ軍が南下!? 馬鹿な、あそこは貧困で死に体のはずだ!」 「報告します! ブッファ軍の装備……あれはサマーズのアサルトライフルです! 我が軍の旧式魔導では太刀打ちできません!」


 ハディ国王は、玉座で頭を抱えた。 西からはサマーズ(旧テルマブル)、頭上には採掘要塞、そして北からは復活したブッファ王国。 「ブッファ・コネクション」――それは、ハディ王国を完全に窒息させる、三方向からの包囲網であった。


 そして、オリビアの次なる一手は、疑心暗鬼の深淵に沈むサルノヴァ辺境伯へと向けられた。


 サルノヴァの居城。テスラ侯爵からの「東方王」の密約に酔いしれつつも、眼前の経済的困窮に焦りを募らせる辺境伯の元に、一通の親書が届く。差出人は、サマーズ貿易公社総裁、ハリー・ウィンストン。


 辺境伯が封を切ると、そこには甘美な毒のような提案が記されていた。


『サルノヴァ辺境伯閣下。貴殿が王都の甘言に踊らされ、疲弊していく様を見るに忍びない。 我々は提案する。もし貴殿が、来るべきハディ王国への「制裁」において、「賢明な沈黙(黙認)」を守るならば……』


 辺境伯の目が、文面の最後の一行に釘付けになった。


『天空の回廊へのアクセス権と、サマーズ貿易公社のハディ領内における権益の3割を、貴殿に譲渡する用意がある』


「な……!? 通行権だと!? あの黄金の道にか!?」


 辺境伯の手が震える。テスラ侯爵が約束した「東方王」は、アルヴァンを倒した後の「不確定な未来」。しかし、オリビアが提示したのは、「確実かつ即金」の莫大な富である。


「ハディを攻める際、見て見ぬふりをするだけで……この富が手に入るのか?」


 ハディ王国と結んだ「屍の同盟」。しかし、目の前にぶら下げられた黄金の果実は、あまりにも魅力的だった。


 ヴェルリーナ要塞の指令室。オリビアは、東方の地図に駒を進めながら、冷酷に呟いた。


「ハディは包囲された。そしてサルノヴァは、『共倒れ』か『裏切り』か、天秤にかけられた」


「サルノヴァは裏切りますか?」 ハリー家令が問う。


「裏切らずともよい。迷うだけで十分だ。彼が『甘い蜜』に心を奪われ、ハディへの援軍を一瞬でも躊躇えば……その瞬間に、ハディ王国は地図から消える」


 オリビアの指が、ハディ王国の領土を弾く。 「ブッファ・コネクション」による包囲と誘惑。それは、東方諸国の連帯を内側から食い破る、経済と謀略の毒牙であった。



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