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死にかけの第一王子を拾いました 生ず殺さず領土開拓  作者: トール
四章 覇王の胎動 第二節 ハディ王国 B級:資源と疲弊の戦場

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偽りの王冠:東方動乱の序曲

 テスラ侯爵家(第二王子派)は、暗殺、経済封鎖、監査という「裏工作」や「既存の権力構造を利用した圧力」がことごとく失敗し、逆にアルヴァン(オリビア)の地盤を強化させてしまった事実を受け止めざるを得ません。


 アルヴァンがテルマブルを併合し、独自通貨を発行し、大神殿を建立した今、彼らはアルヴァンを「単なる地方領主」ではなく、「国家転覆を企む明確な反逆者(魔王)」として認識し、なりふり構わぬ手段に出る必要がありました。


 ◆


 キノア王国東部、サルノヴァ辺境伯領の居城。かつては東の要衝として栄えたこの城も、今やアルヴァン第一王子が築いた「天空の回廊エイル・ロード」によって物流から置き去りにされ、静まり返っていた。


 広間の窓辺で、サルノヴァ辺境伯は血走った目で空を見上げていた。遥か頭上を、サマーズ貿易公社の物資を満載した輸送機が、悠々とハディ王国の方へ飛び去っていく。


「おのれアルヴァン……! グッドスピードには領土を与え、このサルノヴァには挨拶ひとつ寄越さぬか! 我が領土の通行税を無視し、頭上を素通りするとは……!」


 彼のプライドはズタズタに引き裂かれ、心は猜疑と焦燥の『深淵』に沈んでいた 。そこへ、闇に溶け込むような黒衣の男が現れた。王都のテスラ侯爵が遣わした密使である。


「サルノヴァ辺境伯。アルヴァン王子の専横、目に余りますな」 密使の声は、毒蛇のように甘く、冷たい。


「テスラ侯爵か……。今更何の用だ。王都もサマーズの勢いに怯えていると聞くぞ」


「怯えてなどおりません。侯爵は、『真の王』を探しておられるのです」


 密使は、懐から一通の羊皮紙を取り出し、辺境伯の目の前に広げた。そこに記されていたのは、キノア王国の地図。しかし、その境界線は書き換えられていた。サマーズ領とハディ王国の一部、そしてサルノヴァ領を統合した、巨大な版図。


「アルヴァン王子は、王家の血筋を穢す逆賊。彼を討伐した暁には、この広大な東方領域を貴殿に与え……キノア王国から独立した『東方王国』の樹立を認めると、テスラ侯爵は約束されました」


「……なっ!? 王だと!?」 辺境伯の喉が鳴る。


「グッドスピードはアルヴァンの犬に成り下がりました。しかし、貴殿は違う。貴殿こそが、東の覇者。『東方王』として、アルヴァンを討つのです」


 承認欲求に飢え、アルヴァンへの嫉妬に狂っていたサルノヴァ辺境伯にとって、その提案は抗うことのできない猛毒の果実であった。


「東方王……。そうだ、私が選ばれなかったのではない。私が、奴を喰らう側なのだ!」


 辺境伯の瞳に、野心という名の暗い炎が宿った。


 時を同じくして、ハディ王国の王宮。東のアルノヴァ辺境伯との戦いで国庫は底をつき、アルヴァンによる資源略奪と経済封鎖で、国は瀕死の状態にあった 。



 そこへ、キノア王都からの裏ルートを通じて、莫大な資金と、王都の地下社会で集められた傭兵部隊が送り込まれた。


「ハディ国王陛下。これはキノア王都、テスラ侯爵からの支援物資です」


 ハディ国王は、震える手で金貨の袋を握りしめた。プライドも何もない。生き残るための藁ならば、悪魔の手でも掴む。


「条件はただ一つ。東のサルノヴァ辺境伯と呼応し、サマーズ領へ同時侵攻すること」


「……やる。やるぞ。サマーズの小僧に、我らが領土を荒らされた恨み、晴らしてやる!」


 こうして、北の「光の同盟」に対抗する、東の「屍の同盟」が結成された。疲弊しきったハディ王国と、野心に溺れたサルノヴァ辺境伯。追い詰められた二匹の獣が、テスラ侯爵の糸に操られ、サマーズへの特攻を決意したのだ。


 サルノヴァ辺境伯の居城にて、密約は成立した。


「ハディ軍が南東から、そして我がサルノヴァ軍が北東からサマーズを挟撃する。アルヴァンの主力がテルマブル統治に割かれている今が好機!」


 サルノヴァ辺境伯は、テスラ侯爵の密使の手を固く握った。彼は知らない。自分たちが、アルヴァンの戦力を東に釘付けにするための、「使い捨ての肉壁」に過ぎないことを。


「見ているか、アルヴァン。グッドスピードばかりを優遇した報いだ。貴様の喉元に、東から牙を突き立ててやる!」


 東の空に、不穏な暗雲が立ち込める。 アルヴァン帝国の「光」を遮るため、王都の「深淵」が放った最後にして最大の賭け――東方挟撃作戦の狼煙が、今まさに上がろうとしていた。



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