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死にかけの第一王子を拾いました 生ず殺さず領土開拓  作者: トール
四章 覇王の胎動 第二節 ハディ王国 B級:資源と疲弊の戦場

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聖域という名の要塞:慈悲の鎖、国境を封鎖す

 天空の回廊エイル・ロードが開通してから数日。教皇領を見下ろす断崖絶壁の上に、突如として白亜の建造物群が出現した。サマーズの建築部隊が、土魔法とプレハブ工法を駆使して一夜にして築き上げた「巡礼者保護区」である。


 そこは、教皇領へ向かう巡礼者たちが、険しい山越えの途中で息絶える「難所」として知られた場所だった。だが今、そこには温かいスープの香りと、女神エイルの旗がはためいていた。


「ああ、なんと……! 足が凍傷で壊死しかけていたのに、タダで治してくださるとは!」 ボロボロの巡礼者が、涙を流して感謝を捧げる。彼の目の前には、サマーズから派遣されたセブンシスターズのシスター・クレアが、慈愛に満ちた微笑みで手をかざしていた。


「安心なさい。ここは女神エイル様の直轄地。魔物も、強欲な山賊も、そして『金銭を要求する理不尽』も、ここには存在しません」


 彼女の言葉は、眼下に広がる教皇領の教会――救済に対価を求める旧体制――への、静かだが痛烈な批判を含んでいた。温かい食事、清潔なベッド、そして無償の医療。巡礼者たちにとって、この場所は文字通りの「天国」だった。


 しかし、その「天国」の入り口には、冷徹な「現実」が立ちはだかっていた。


 保護区の境界線。そこには、鋼鉄のバリケードと、黒い軍服に身を包んだサマーズ衛兵隊が仁王立ちしていた。彼らの手には、最新鋭の『アサルトライフル』が握られている。


「武装検問所」――それが、この施設のもう一つの顔である。


「止まれ! 教皇領からの使者か。身分証と通行許可証を提示せよ」 衛兵隊長の声が、凍てつく風よりも冷たく響く。


 教皇領から抗議に来た司教は、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。 「無礼な! ここは教会の威光が及ぶべき聖なる山だ! 貴様らサマーズの私兵が、勝手に検問所を設けるなど、神への冒涜だぞ!」


「冒涜? 異なことを仰る」 司教の背後から、オリビアが姿を現した。彼女は、眼下の教皇領を冷ややかな目で見下ろしていた。


「貴殿らが管理を怠り、巡礼者を魔物や山賊の餌食にしていたこの山を、我々が『女神エイルの慈悲』によって浄化したのです。我々の武装は、か弱き子羊を守るための『正義の剣』。それに異を唱えるというなら……」


 オリビアは、衛兵隊に目配せをした。 ジャキッ! 一斉にアサルトライフルの銃口が司教に向けられる。


「貴殿は、巡礼者の安全よりも、自らの面子を優先する『悪魔の使徒』と見なし、排除せざるを得ませんな」


「ひっ……!」 司教は、見たこともない黒い鉄の筒(銃口)から放たれる殺気に圧倒され、尻餅をついた。論理的な正義と、圧倒的な武力。サマーズは、「巡礼者保護」という絶対的な大義名分を盾に、教皇領の国境線を実質的に「切り取った」のである。


 この武装検問所の真の目的は、単なる嫌がらせではなかった。


 検問所の奥、情報解析室。ハディ王国やサルノヴァ辺境伯領へ向かう商人、旅人、そして密偵たちの動きが、全て記録されていた。


「ハディ王国へ向かう穀物商人の数が激減しています。国内の食料事情が悪化している証拠です」 「サルノヴァ辺境伯の密使が、教皇領へ助けを求めに入りましたが……手ぶらで帰されましたね」


 オリビアは、集まった報告書を見ながら、薄い唇を歪めた。 「見える……。この検問所は、ハディとサルノヴァの『脈』を測る聴診器だ。彼らの疲弊、焦燥、そして絶望が、手に取るように分かる」


 天空の回廊に設置された「巡礼者保護区」は、教皇領を信仰面で牽制しつつ、ハディ王国とサルノヴァ辺境伯の動向を完全監視する、巨大な「監視塔」となった。


「慈悲を与え、情報を抜き、喉元に刃を突きつける。さあ、ハディよ、サルノヴァよ。お前たちの頭上には、常に我々の『目』と『銃口』があることを忘れるな」


 雲海の上、聖なる旗の下で、オリビアによる「慈悲という名の侵略」は、静かに、しかし確実に完了したのである。



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