表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にかけの第一王子を拾いました 生ず殺さず領土開拓  作者: トール
四章 覇王の胎動 第一節 テルマブル王国 C級:消耗と奇襲の的

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/109

第八十一話 戦慄する王都の深淵

 キノア王都ノルディア。テスラ侯爵家の広間は、王国の経済と軍事の「深淵」を牛耳る中央貴族たちの、重く澱んだ空気で満たされていた。現王妃ドロテーの父であるテスラ侯爵が、眉間に深い皺を刻み、玉座の影で静かに座している。


 そこへ、血相を変えた伝令が飛び込んできた。


「報……報告申し上げます! 北西方面より、信じられぬ凶報が!」


 テスラ侯爵が、冷たい眼光で伝令を射抜く。


「落ち着け。たかが辺境の諍い。北の犬(グッドスピード辺境伯)が少し有利になった程度であろう」


「いえ、侯爵様! テルマブル王国が……陥落しました!」


 広間に、凍てついた静寂が広がる。貴族たちは一瞬、息を止めた。


「陥落だと? グッドスピード辺境伯が勝利したのか!?」


「それが……! 辺境伯軍の本格的な攻勢はなかったと。テルマブル王族は、首都で捕縛されました。制圧したのは、アルヴァン第一王子の私兵……サマーズの航空魔導部隊です!」


「サマーズだと!?」


 テスラ侯爵は、その瞬間、座っていた椅子を蹴り倒し、立ち上がった。彼の顔には、怒りではなく、絶対的な恐怖が滲んでいた。


 驚愕は、すぐに戦慄へと変わった。次々と入る情報が、彼らの築いた「深淵」を音を立てて崩していく。


 テルマブルの陥落は、流血を伴う「征服」ではなかった。航空魔導部隊による『奇襲と制圧』は一瞬で終わり、その後は『光の統治』が始まったのだ。


「テルマブルの全農地に、サマーズの八倍収穫の種籾が配給されていると!」


「首都で無償の医療が始まった! セブンシスターズの巫女たちが、女神エイルの名の下に!」


  「テルマブルの国民が、アルヴァン第一王子の旗に歓喜して集っている……! 旧王家を糾弾し、アルヴァンを解放者と呼んでいる!」


 貴族たちは、顔を青ざめさせ、互いに目を見交わす。彼らがテルマブル国民の支持という名の『深淵』を軽視していた間に、アルヴァンは、経済的苦痛と慈悲の光という二つの力で、国民の魂を完全に支配していた。


 テスラ侯爵は、奥歯を噛みしめる。


  「くそっ! 我々が資源の輸出を止め、経済的に苦しめている間に、あの小僧はテルマブル国民の『心』を買っていたというのか!」


 そして、決定的な報告が、広間に叩きつけられた。


「グッドスピード辺境伯が、アルヴァン第一王子に対し、恭順の意を示しました! テルマブルの北部領土を割譲され、アルヴァンを『統一国家の礎』として公然と支持すると!」


 テスラ侯爵は、その場で崩れ落ちそうになった。グッドスピード辺境伯は、王都の第二王子派閥が頼りとしていた最大武力の一つ。その辺境伯が、テルマブル併合の報酬と引き換えに、アルヴァンの「覇道」を承認したのだ。


「グッドスピードが動いた…… 我々の軍事的な基盤が……!」 「ブッファ王国の後ろ盾に、今やグッドスピード辺境伯の武力までが加わった!」


 貴族たちの顔には、もはや焦りではない、絶望的な恐怖が広がっていた。


 テスラ侯爵は、血走った眼で広間の虚空を睨みつける。彼の脳裏には、オリビアの冷徹な笑みが浮かんでいた。


「血を流すことなき併合……。国民の支持という名の、最も強固な光の支配……」


 彼の口から、蚊の鳴くような、しかし、広間の全員に届く戦慄の声が漏れた。


「アルヴァンは……自分の国を作るつもりか!?」


「東のサルノヴァ辺境伯は、どうなのだ? 我々の側なのだろうな!」


 王都ノルディアの深淵に、若き覇王が築き始めた「統一国家」の、巨大な影が、今、不気味に迫りつつあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ