第八十話 凱歌の夜明け:光の統治、極北を照らす
極北の風が吹き荒れる夜。テルマブル王国の首都は、辺境での紛争による疲弊、そしてサマーズからの経済的凍結によって、その防衛網は薄紙のように引き伸ばされていた。王宮の魔導照明だけが、虚ろな光を放っている。
その静寂を切り裂く、一陣の漆黒の嵐。
「フッ、テルマブル王都の防衛は、辺境の『消耗の深淵』に全て吸い尽くされたか」
オリビアの搭乗する『ナイチンゲール』が、超高高度から市街地を見下ろす。その下には、『ケンプファー』を駆る航空魔導部隊「漆黒の豹」と、『陸戦型モクバ』に武装した衛兵隊の精鋭が、音もなく首都へと浸透していく。
「ゼロワンより全隊へ! 奇襲開始! 目標は王宮と魔導通信塔! 『光の統治』は、まず闇の根を断つことから始まる!」
フリーダ中隊長(9歳)の冷徹な号令が、サイコミュを通じて響き渡る。
ドォン! ダァーーンッ!
王宮の屋根が、突如として開いた。ケンプファーから放たれた『ジャイアントバズーカ』の砲弾が、魔導通信塔と王宮魔導炉を直撃。通信は断絶、防御結界は起動する間もなく崩壊した。
衛兵隊は、モクバの高い機動性を活かし、市街地の軍事拠点を制圧。『アサルトライフル』の爆裂魔石弾が、旧体制の抵抗を一瞬で粉砕していく。
「何だこの火力は!? 我々の魔導では迎撃できない!」
テルマブルの衛兵隊長が叫ぶが、その声は虚しい。
「戦いは数ではない。光と鋼の技術的優位だ」
短時間で王宮は制圧され、テルマブル王族は抵抗虚しく捕縛された。軍事的な勝利は、『圧倒的な機動と火力による電撃戦』によって、鮮やかに達成された。
夜明けと共に、テルマブル王国の市民が目覚めたのは、混乱ではなく、『驚愕』と『希望』の光景であった。
王宮前の広場に、サマーズから直送された物資が山積みとなる。そして、王宮の隣には、一夜にして簡素ながらも神々しい女神エイルの治療院が出現していた。
「さあ、皆さん! 争いは終わりました! 我らが覇王アルヴァン様の慈悲の光が、この国を豊かさに導きます!」
衛兵隊が、武力ではなく、高品質で安価なオーク肉と無償医療の案内を市民に配布していく。
治療院の前に立つのは、サマーズから派遣されたセブンシスターズの巫女たち。
「長年患っているその病、もう大丈夫。女神エイル様は、無償の恩寵を惜しみません」
テルマブルの市民は、高額な教会の治療に慣れていたため、この『無償の回復魔法』に涙し、熱狂的な歓声を上げた。彼らの心に、旧体制への不信感と、アルヴァンへの感謝の念が深く刻まれていく。
そして、郊外の農地。テルマブルの農民たちの前に、サマーズの土属性魔法使いが整然と並び、新品種種籾を配布する。
「この種籾は、収穫倍率八倍を約束する『光の種』だ。運河穀倉地帯の成功が、そのままこのテルマブルの地で再現される!」
農民たちは、長年の重労働から解放され、豊かさが約束された『農業改革』に、旧王家への忠誠を即座に捨て去った。
王宮に捕縛されたテルマブル王族と貴族たちは、窓の外の光景を見て戦慄する。国民が、彼らを打倒したアルヴァン第一王子の統治を、歓喜をもって受け入れているのだ。
アルヴァンは、オリビアの用意した玉座に、毅然と座していた。彼のヴァイオレットの瞳は、未来を見据えている。
「軍事的な勝利は、『人民の生活向上』という光の統治へ直結する。テルマブル王族よ。貴殿らの支配は、人民を『消耗の深淵』に沈めた。しかし、我々の統治は、この国に『豊穣の光』をもたらす」
オリビアは、捕縛された貴族たちの前に、テルマブル軍事工場の魔石・火薬の在庫がゼロであることを示す監査報告書を叩きつけた。
「貴殿らの軍事力、経済力は、既に我々サマーズの技術と資源の深淵に飲み込まれている。抵抗は無意味。国民は既に、アルヴァン様の平和的かつ恒久的な併合を支持している」
軍事的な勝利は、経済と福祉の光の統合によって、瞬く間に『国民の支持』という名の強固な地盤へと変貌した。オリビアの計画は、テルマブル王国を、統一国家の新たな礎として、血を流すことなく統合させることに成功したのだ。




