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死にかけの第一王子を拾いました 生ず殺さず領土開拓  作者: トール
五章 黎明のノルディア

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継承の夜 ― 漆黒の豹と黄金の知恵

 サマーズ領の夜は、かつてないほどに静まり返っていた。  領主館の最上階、オリビア専用の執務室。窓の外には、かつては魔獣が跋扈していた暗闇を切り裂き、魔導照明が整然と並ぶ美しい要塞都市の夜景が広がっている。


「ザック、入りなさい」


 ノックの音に応じ、一人の男が音もなく入室した。漆黒の豹の将校、ザックである。かつて王都のスラムで暗殺を目論み、オリビアに膝を打ち砕かれた男の面影はどこにもない。今の彼は、オーガ革の漆黒の軍服を完璧に着こなし、その眼光には鉄の規律と深い忠誠心が宿っていた 。


「お呼びでしょうか、ボス」


 ザックは深々と頭を下げた。オリビアは机の上に、一つの黄金に輝くタブレット型魔道具と、分厚い羊皮紙の束を置いた。そこには、この世界の理を根底から覆す「オーバーテクノロジー」の全てが記されている。


「ザック。私は……もうすぐ、女神エイル様の元へ帰らなければならない」


 ザックの肩が、目に見えて震えた。彼は何も言わず、ただ拳を握りしめた。オリビアは淡々と、しかし慈しむような声で言葉を続ける。


「この世界の文明はまだ幼い。だが、私が卸してきた技術は、使い方を誤れば世界を焼き尽くす毒にもなる。ナイチンゲールの機体、ケンプファーの推進力、そして航空魔導部隊が手にする魔導銃器…… 。これらを維持し、正しく運用できるのは、私に最も近い場所で戦い抜いてきたお前だけだ」


 オリビアはザックの手を取り、黄金のタブレットへ触れさせた。その瞬間、ザックの魔力波長がシステムに登録される。それは、オリビア以外には決して許されなかった「ナイチンゲール」のメンテナンス権限、そして秘匿技術の全アーカイブへのアクセス権が譲渡された証だった。


「お前に、この世界の『守護者』としての役割を託す。アルヴァンを支え、エイル様の信仰を守り抜きなさい。……そして何より、この技術を、決して『殺戮』のためだけに使うな。人々の生活を豊かにし、病を癒し、空を自由に翔けるための力としなさい 」


 ザックはゆっくりと膝をついた。それは奴隷としての服従ではなく、一人の騎士としての、そして技術の継承者としての誓いだった。


「この命に代えても。……貴女がこの地に遺した知恵と、その意志。私が、漆黒の豹の誇りにかけて守り抜きます。……オリビア様」


 ザックの瞳から、一筋の涙が頬を伝い、黄金のタブレットに落ちた。  オリビアは満足げに微笑むと、窓の外の夜空を見上げた。そこには、彼女を迎えに来るかのように、一際強く輝く一等星が、冷たく、しかし優しく瞬いていた。


 夜の静寂に包まれた執務室。オリビアは、手元の黄金のタブレットから顔を上げ、前に立つザックに穏やかな視線を向けました。


「ザック。お前を最初に拾った時のことを覚えている? 王子の暗殺に失敗して、私にボコボコにされて……あの時のあんたの顔、今思い出しても傑作だったわ」


 オリビアはふっと、いたずらっぽく微笑みました。


「でも、あの日からあんたは私の『一番の右腕』として、この軍を、この領地を支えてくれた。だからこそ、私が旅立つ前に、私がこの世界に遺していく『知恵』の行く末を、あんたに託したいの。これはただの命令じゃない。私たちの思い出の、続きの話よ」


 彼女は指先で宙をなぞり、4つの光を浮かび上がらせました。


 1. 航空魔導の翼 ― フリーダへ

「まずは、空。フリーダたちのことよ。最初はただのストリートチルドレンだった彼女たちが、今や8,000メートルの高空を自在に舞う『巫女』になった。フリーダには、高機動バックパックと結界四式の『運用』の全てを。彼女の勇気があれば、この翼は折れない。ザック、あんたは彼女たちが補給に困らないよう、地上から支えてあげて」


 2. 万病を癒す雫 ― セニューへ

「ポーションを初めて作った時、あんたたちは毒じゃないかって疑ってたわね。でも、あの小さなセニューが、今では私の調合を一番理解している。彼女には錬金術の深淵を。メンテナンスに必要な魔石の精製や、薬品の知識は彼女に集約させてあるわ。兵たちが傷ついた時、帰る場所を彼女に守らせなさい」


 3. 文明の礎 ― 水車大工の親子と街の職人たちへ

「覚えてる? 無理やりローラー・ベアリングを教え込んだあの職人親子の顔。当時は何のことか分かってなかったけど、今やこの街の物流を支える大きな力になった。生活に根付いた技術は、あえて軍の外に卸したわ。彼らが作る部品がなければ、あんたたちの銃も動かなくなる。職人の誇りを尊重し、守りなさい」


 4. 漆黒の豹の誇り ― そして、ザックへ

「そして最後は、この軍そのものの維持管理。アサルトライフルやケンプファー……これらを動かすための『魂』のメンテナンス。その最終的な権限と知識は、全部このタブレットに込めて、あんたに預けるわ。あんたが私の代わりに、この鋼鉄の獣たちを統べるのよ」


 オリビアは立ち上がり、ザックの目の前に歩み寄りました。


「ザック。私が教えてきた技術は、魔法じゃない。理論と、努力と、少しの遊び心。それを一番近くで見てきたのは、あんたよ。私がエイル様の元へ戻っても、あんたがこの知識を正しく使えば、この国は、アルヴァンは、どこまでも高みへ行ける」


 彼女はザックの肩に優しく手を置き、少女のような、それでいて慈母のような声音で囁きました。


「……私の自慢の指揮官。この『魔法以上の奇跡』を、後の時代まで繋いでくれるわね?」



 後ろ


 ザックへの信頼: オリビアが最初に奴隷化したザックは、実務面での右腕として、王都の拠点管理や新兵の教育を一任されるほど厚い信頼を得ています 。





 技術の引き継ぎ: 作中でオリビアは、水車大工にローラー・ベアリングを教えたり、錬金術師セニューにポーション精製を教えたりと、意図的に技術を「卸す(移転する)」活動を行っています 。




 メンテナンスの重要性: ケンプファーや結界四式などの高度な装備は、オリビアのメンテナンスなしには運用できないため、物語の中で彼女が去る際には、これらの維持管理技術の継承が最重要課題となります 。



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