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死にかけの第一王子を拾いました 生ず殺さず領土開拓  作者: トール
四章 覇王の胎動 第五節 「道連れ」か「禁忌」あるいは「自滅覚悟の籠城」

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最後の決戦:心臓への降下

 王都ノルディアを覆う、黒い「ディメンション・シフト・シールド」。外部からの魔法を遮断し、内部の時間を停止させる、古代魔族の禁断の遺産。


 オリビアとアルヴァンは、その強固な壁のただ一つ、テスラ侯爵が見逃した「マナの流れの淀み」――古い導水路が地下深部の古代魔導回路に隣接する、わずか数十センチの隙間――に立っていた。


「ここが、唯一の入り口よ。結界の位相が乱れる、一瞬の穴」  オリビアは、手首の装置を操作し、その隙間を精密な魔力で固定する。


 アルヴァンは、サマーズ製の最新鋭魔導銃を手にし、覚悟を固めた。 「テスラ侯爵が魔族遺産の起動を完了しているなら、内部は既に地獄だろう。だが、市民を救うため、父王の汚名を濯ぐため……行くぞ」


「ええ。もし私がゲートのコアを破壊できなかったら、アルヴァン様、私ごと破壊してください」  オリビアは、冗談めかさずに言った。


「馬鹿を言うな。私が貴女を失うわけにはいかない」  アルヴァンは、オリビアの肩を強く掴み、その瞳を真っ直ぐに見つめた。 「貴女は、この世界の未来に必要な光だ。生きて、私の隣で、この帝国を導け」


 オリビアは、その強い視線に小さく頷いた。


「フリーダとガリウスは、陛下を連れて脱出ルートを確保している。私たちは、この世界の『心臓』を止めに行く」


 オリビアは、強化スーツの起動スイッチを入れる。アルヴァンもまた、戦闘態勢を整えた。


 ズン……


 オリビアが固定した隙間が、一瞬だけ開き、二人は闇へと飛び込んだ。


 王都の地下。内部に侵入した二人が目にしたのは、異様な光景だった。  時間が切り離された王都の地下は、空気が重く、湿気と、わずかな「腐敗臭」が混じり合っていた。


「時間が止まっている影響ね。腐敗の進行は遅いが、完全ではない」  オリビアは、足元に転がる乾いたパンを蹴った。


 そして、前方から聞こえてくる、異形の唸り声。 「魔族の侵入を確認。ゲートは既に稼働している」


 テスラ侯爵が起動させた小規模なゲートから放たれた低級魔族と、アンブロシアの狂気が残る残留物とが混ざり合い、この地下を徘徊していた。


 ドスッ!


 アルヴァンが、突如飛び出してきた醜悪な魔物を、魔導銃の銃床で叩き割る。 「魔族は倒せる。問題はテスラ侯爵だ」


 二人は、魔族と化した王都の市民、そして真の魔族を避けながら、地下通路を駆け抜ける。


 テスラ侯爵が籠る、古代魔族の遺跡「ディメンション・コア」の石室へ向かう最後の通路。  そこは、テスラ侯爵の最後の防衛線となっていた。


「来たか、逆賊ども!」  通路の先に、テスラ侯爵の最後の近衛兵たちが立ち塞がる。


「侯爵はどこだ!」 「侯爵閣下は、神の偉業を成就されている! 貴様らは、ここで血を流して死ぬがいい!」


 近衛兵たちは、ただの兵士ではなかった。彼らは、テスラ侯爵が権力維持のために秘密裏に交わしていた『闇の契約』により、魔力を増幅された、強力な魔導騎士となっていた。


「アルヴァン様、正面突破は危険です。魔力増幅された騎士は、私たちの魔法を吸収する可能性があります!」


「構うものか!」  アルヴァンは魔導銃を捨てた。彼の両手に、土属性の魔力が集中する。


「大地よ、我に応えよ! 『ロック・ハンマー』!!」


 アルヴァンの掌から、巨大な岩石の槌が生成され、近衛兵たちに叩きつけられる。  魔力増幅された騎士たちは、岩槌を魔法障壁で防ごうとするが、アルヴァンの魔力は既に、従来の魔法使いの域を超えていた。圧倒的な「量」による暴力。


 ガアアアアァン!!


 岩槌が魔法障壁を粉砕し、騎士たちを壁に叩きつける。 「くっ……これが、覚醒した王子……!」


 オリビアは、アルヴァンに背中を向けながら、近衛兵の横をすり抜け、最後の扉に手をかけた。


 石室の内部。  テスラ侯爵は、黒曜石の巨大な柱――ディメンション・コアの制御装置――を抱きかかえ、狂乱の笑みを浮かべていた。


「間に合わなかったな、魔王アルヴァン! これで王都は、永遠に貴様の手に渡らない! 私は、世界を売ってでも、貴様を孤立させる!」


 柱からは、さらに激しい赤黒い光が放出され、空間が歪み始めている。完全起動まで、もう時間がない。


「テスラ侯爵、その手を離しなさい!」


「馬鹿な女め! お前の魔法は、このコアには効かん! ここは時間の外側だ! 貴様らの技術は通用せん!」


 テスラ侯爵は、柱から伸びた魔族の触手に守られ、オリビアを嘲笑する。


 オリビアは、一切の魔法を使わなかった。彼女は、腰に下げていた「古代の爆薬」の束を取り出した。サマーズの技術と、オリビアの知識が融合した、純粋な化学エネルギー爆弾。


「そうね。魔法は使わないわ」


 オリビアは、爆弾の安全ピンを抜き、それを柱の表面に貼り付けた。


「私は、貴方の『時間』を終わらせに来たのよ」


「なっ……何だそれは!? 魔力が、ない!?」


 テスラ侯爵が気づいた時には遅かった。オリビアが、爆弾の起爆装置を起動させた。


 キュルキュルキュル……


 カウントダウンの電子音が、静かな石室に響き渡る。


「やめろォォォッ!! それは王都のコアだぞ! 王都もろとも消滅するぞ!」


「いいえ。貴方が、です」


 オリビアは、駆け込んできたアルヴァンと共に、崩れかけた扉から外へ飛び出した。


 ドォォォォォォォォォン!!!!


 激しい爆発音が、地下を揺るがした。爆発はディメンション・コア内部の脆弱な物理構造を破壊し、魔族のゲートを完全に崩壊させた。


 黒曜石の柱が砕け散ると同時に、王都全体を覆っていた黒いドームが、ガラスが割れるように霧散した。  王都に、「外の世界の光」が差し込む。


 時間が解放された。止まっていた市民の飢えが、一気に襲いかかる。


 だが、その光は、王都を包囲していたアルヴァン軍の目の前に、奇跡のように映った。


「結界が消えたぞ! 突入開始!」


 アルヴァン軍の救助部隊が、城門を突き破り、市民の救援に駆けつける。


 地下。爆発の衝撃で全身に傷を負ったテスラ侯爵が、肉塊と化したコアの中で、呻いていた。 「バカな……。私の知恵が……」


 オリビアは、アルヴァンの肩に支えられながら、彼を見下ろした。 「貴方は、王都の市民を信じず、脅しました。私たちは、市民の『希望』を信じた。それが、勝敗を分けたのよ」


 テスラ侯爵の敗北。キノア王都の解放。  アルヴァン帝国は、ここに、グラーブ大陸の「心臓部」を完全に手中に収めた。


 王城の尖塔には、救出されたアダマン国王の旗が再び掲げられる。その隣には、アルヴァン王子の旗と、女神エイルの旗が並んで翻っていた。


「これで、全ての敵を討ったな、オリビア」  アルヴァンは、地下の暗闇の中で、オリビアの手を握りしめた。


「いいえ、アルヴァン様。これで、ようやく『建国』の準備が整っただけです」  オリビアは微笑んだ。


 グラーブ大陸は、アルヴァン帝国という新たな太陽を迎える。そして、その背後には、オリビアという知恵と光の影が、永遠に寄り添うことになるだろう。



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