表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にかけの第一王子を拾いました 生ず殺さず領土開拓  作者: トール
四章 覇王の胎動 第五節 「道連れ」か「禁忌」あるいは「自滅覚悟の籠城」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/109

閉ざされた自由:王都の市民、絶望の盾となる

 キノア王都ノルディア。テスラ侯爵の籠城策が始まろうとしていた夜、市民たちはまだ、自分たちが置かれた状況の深刻さを理解していなかった。


「避難命令だ! アルヴァン軍が来るぞ!」


 王都の大通りに、テスラ侯爵の私兵たちが集まり、恐怖を煽っていた。市民たちはパニックに陥り、城門へと殺到する。


「開けてくれ! 郊外の親戚のところに逃げるんだ!」


 だが、彼らを待っていたのは、開かれた門ではなかった。  城門の内側には、数千の兵士ではなく、巨大な土魔法の壁が築かれていた。


「な、何だ!? 門が開かないぞ!」


 その時、城門の上に、テスラ侯爵の片腕である老魔導士が姿を現した。


「諸君、落ち着きたまえ! 王都は陛下を守るため、自ら門を閉ざされた!」


 魔導士はそう叫びながら、門のすぐ脇にある、かつて非常時の避難路として機能していた「テレポートゲート」の起動装置に、巨大な魔導爆弾を設置した。


 ドォォォォン!!


 轟音と共に、テレポートゲートの核が木っ端微塵に吹き飛ぶ。同時に、地下に張り巡らされていた全ての水道、そして秘密の抜け道にも、爆発音が響き渡った。


「テレポートゲートが……!?」 「地下も塞がれた!?」


 市民たちは愕然とした。王都の外への道が、全て断たれたのだ。数十万の市民は、まるで巨大な牢獄に閉じ込められた「人質」となった。


「貴様ら! 何をする! 我々はアルヴァン殿下に助けを求めるぞ!」


 市民の代表者が叫ぶが、老魔導士は冷笑した。


「アルヴァン? 彼は既に『親殺し』の汚名を着た逆賊だ! 貴様らがこの壁の外に出れば、『逆賊アルヴァンの協力者』として、王都から放たれた毒を撒き散らす『病原体』と見なされ、即座に殺されるだろう!」


 恐怖と絶望が、市民の心に広がる。外に出ればアルヴァン軍に殺される。中にいれば籠城戦の地獄に巻き込まれる。テスラ侯爵は、市民を「どちらに転んでも死ぬ」という二重の絶望に突き落としたのだ。


 II. 銃を持たされた父親たち

 夜が明けた。  王都の主要な広場には、テスラ侯爵の私兵が市民たちを強制的に集めていた。


「貴様ら! 籠城の兵力は不足している! 妻子を守りたければ、武器を持て!」


 配られたのは、錆びついた剣、使い古されたボウガン、そして魔法も込められていない旧式の銃。兵士の経験などない、職人、商人、そして教師たちが、有無を言わさず武器を押し付けられた。


「私が裁縫師に弓を持たせてどうなる!?」 「城壁に立て! 貴様らは市民兵だ! アルヴァン軍が攻めてきたら、最前線に立ってもらう!」


 テスラ侯爵の兵士たちは、市民の家族を人質に取り、城壁の最も危険な場所に配置した。彼らは、敵の砲弾から城壁を守るための「肉のクッション」にされたのだ。


 城壁の上。ある市民兵は、自分の背後にいるテスラ派の衛兵に銃を突きつけられながら、遥か遠くのアルヴァン軍の陣地を睨んでいた。その手は、武器の重さではなく、罪悪感で震えていた。


「アルヴァン殿下……。どうか撃たないでください……。我々には、撃つことしかできないのです……」


 彼らが撃つのは、市民を救いに来たはずの軍隊。そして、撃たれれば、彼らはテスラ侯爵が望む通りの「市民の犠牲」となる。


 III. 倫理的防衛線

 城壁の外、アルヴァン軍の包囲陣。  オリビアは、望遠鏡で城壁の上に立つ市民の姿を捉えていた。


「予想通りです。市民の強制徴兵、そして最前列への配置」  オリビアは静かにアルヴァンに報告した。


「あの男は、我々の『人道主義』こそが最大の弱点だと知っている。ヘカトンケイルで汚名を着せた後、次は『父王と市民の虐殺者』という、決定的な汚名を着せに来た」


 アルヴァンの顔は、怒りを通り越し、絶望に満ちていた。 「私は、市民を殺して王都を奪うつもりはない! ……しかし、このままでは籠城が長期化する。彼らは我々が動けないうちに、魔族の遺産を起動させようとするだろう!」


「ええ。これは、『道徳的な防衛線』です。正面から攻めれば、テスラ侯爵は勝利し、我々は倫理的に敗北します」


 籠城戦は、テスラ侯爵の卑劣な思惑通りに進みつつあった。アルヴァン軍の士気は低下し、兵士たちは「もし、市民を撃ってしまったら」という恐怖に苛まれていた。


 IV. 解放への道筋

 オリビアは、静かにアルヴァンに詰め寄った。


「アルヴァン様。ここは一時的に、テスラ侯爵の論理を受け入れるしかありません」


「どういうことだ?」


「王都への『突入』は、正面からはしません。市民を動員できない、あるいはテスラ侯爵が『重要度が低い』と見なした場所に、楔を打ち込みます」


 オリビアは地図を広げ、王都の地下水道と、誰もが忘れている「古い魔導貯蔵庫」のラインを指差した。


「テスラ侯爵は、すべての門とゲートを塞いだと信じています。しかし、彼は『自分の拠点』を守ることに意識が集中しており、市民の監視とプロパガンダに兵力を割きすぎている」


「私たちは、市民に『希望』を届けるために、まず『テスラ侯爵の恐怖の源』を奪います」


 彼女の瞳に、再び冷徹な決意の光が宿る。


「第一段階:ガリウスによる陛下救出の陽動。第二段階:フリーダと私による地下からの『テスラ侯爵の無力化』。これが成功すれば、市民を動員していた彼の権威は崩壊します」


 アルヴァンは頷いた。籠城の壁は、外からの砲撃ではなく、内側からの腐敗と、人質が自由になった瞬間に崩壊する。


「行くぞ、オリビア。父と市民たちを、あの男の狂気から解放する」


 王都は閉ざされ、市民は絶望の盾となった。だが、その閉ざされた地下の闇の中で、オリビアによる「針穴を通す解放作戦」が、密かに始動したのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ