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死にかけの第一王子を拾いました 生ず殺さず領土開拓  作者: トール
四章 覇王の胎動 第五節 「道連れ」か「禁忌」あるいは「自滅覚悟の籠城」

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幽閉の玉座:父王の呪いと断罪の脅迫

 キノア王都ノルディア。  東方の山岳地帯が失われ、教皇領が炎上し、グレートバレンが変節した後も、この都だけは、テスラ侯爵の厳重な支配下に置かれていた。


 王城の最も高い尖塔。かつては王家の威光を象徴したその場所は、今や鉄柵で厳重に囲まれ、異様な雰囲気を放っていた。その中腹にある、唯一開かれたバルコニー。


 テスラ侯爵は、魔導拡声器を手にし、広場に集められた市民と、城壁の外で待機するアルヴァン軍を見下ろしていた。


「見よ、市民たちよ! そして、逆賊アルヴァンよ!」


 侯爵の背後には、衰弱しきった男が、豪華な玉座に座らされていた。キノア国王、アダマン・アセルマンである。


 国王は、毒と絶望によって精神を病み、もはや自力で立つこともできない。だが、テスラ侯爵は彼の体を椅子に縛り付け、まるで「最後の生ける王」であるかのように見せかけていた。


「我らが聖王アダマン陛下は、病と闘いながら、最後までこの都をお守りになられた! しかし、あの逆賊アルヴァンは、陛下が昏睡から覚めた途端、邪魔だとばかりに僻地に追いやった!」


 侯爵の言葉は巧妙だった。アルヴァンが毒で倒れたのはテスラ派の仕業。しかし、それを逆手に取り、「アルヴァンは病を装い王位を狙った真の反逆者」だと喧伝する。


「そして今、この聖都に迫る軍勢こそ、アルヴァンの『呪い』に憑りつかれた魔女の軍隊だ! 陛下は、我が子による反逆から、この都を守り抜こうとされているのだ!」


 II. 幽閉された父と子の断絶

 城壁の外、アルヴァン軍の最前線。  アルヴァン第一王子は、父の姿を見て、血の気が引くのを感じた。


「父上……!」


 オリビアが冷静に観測結果を報告する。 「陛下は薬物と精神的拘束を受けています。あれは、もはや国王ではない。『王の皮を被った人質』です」


 その時、テスラ侯爵の拡声器が、アルヴァンに向けて直接語りかけてきた。魔法通信による、親子の断絶を決定づける宣告だ。


『聞こえているか、アルヴァン! 貴様は父王を愛しているか?』


「テスラ……! 父上に手出しをするな!」


『フフフ。手出し? 私は陛下をお守りしているだけだ。だが、貴様が一歩でもこの王都に足を踏み入れた瞬間――』


 侯爵は国王の細い首に、鋭い短剣を押し当てた。国王は弱々しく目を開き、アルヴァンのいる方角を見つめた。その瞳には、恐怖と、助けを求めるような僅かな光が宿っていた。


『貴様は、「親殺し」という永遠の罪を背負うことになる! 貴様がどれほど正義を謳おうとも、市民の目の前で、全世界の目の前で、父王を処刑した逆賊として、歴史に永遠に名を残すのだ!』


 テスラ侯爵は、アルヴァンの「人道主義」と「血縁への情」、そして「正当性の追求」という、彼の全ての信念を、最も残酷な二択でへし折りに来たのだ。


 III. 倫理的敗北の瀬戸際

 アルヴァン軍の進撃は、再び凍りついた。  兵士たちも、指揮官たちも、困惑し、武器を構えたまま立ち尽くす。


「陛下を……撃てません」 「我々は逆賊討伐に来たのであって、王殺しに来たのではない!」


 この作戦は、教皇領の「嘆きの聖壁」よりも悪質だった。壁に縛られたのは無辜の民だったが、この尖塔にいるのは、アルヴァンの唯一の肉親であり、「王国の象徴そのもの」だからだ。


「オリビア……どうする」  アルヴァンは、助けを求めるようにオリビアを見た。


 オリビアの顔は、苦痛に歪んでいた。ヘカトンケイルやアンブロシアの非人道的な攻撃ですら、彼女は冷静に処理できた。しかし、これは「論理」や「科学」では処理できない、「感情」と「政治」の罠だった。


「テスラ侯爵の勝ちです。この状況で強行すれば、アルヴァン様の覇道は、永遠に『親殺し』の汚名を背負うことになります」


 彼女は唇を噛み締め、悔しさを滲ませる。 「我々は、時間を稼がれることだけは避けたかったのに。……彼らは、アルヴァン様を『殺す』のではなく、『社会的に抹殺』しに来たのです」


 IV. 籠城の開始、そして密かな手

 アルヴァンは、王都に向けて最後の言葉を叫んだ。 「テスラ! 私は貴様らの策略に乗らぬ! しかし、父上には指一本触れさせん!」


 テスラ侯爵は、勝利の笑みを浮かべた。 『ならば、外で腐るがいい! この王都は、貴様が屈するまで開かぬ!』


 王都の城門は、内部から完全に閉ざされた。  テスラ侯爵は、この人質を利用した籠城戦で時間を稼ぎ、裏の策――「魔族遺産アーティファクトの開放」へと移るつもりだった。


 しかし、誰も気づかなかった。  王城の尖塔、国王アダマンの足元に、極めて微細な「通信用魔法具」が隠されていることを。それは、シルヴィアが謁見時に、床に一瞬触れることで設置した、極秘の魔導盗聴器だった。


 オリビアは、アルヴァンに聞こえないよう、通信機に囁いた。


「アルヴァン様は、陛下を救うために王都を落とす。しかし、王都を落とすために陛下を犠牲にはしない」


「テスラ侯爵。あなたは大きなミスを犯しました。あなたはアルヴァン様の『弱点』を突き止めたつもりでいる。しかし、私たちは既に、『陛下の居場所』を知っている」


「……人質解放の作戦は、魔法的な封鎖が完了する前に、『内部』から仕掛ける。準備を」


 王都を包囲するアルヴァン軍。テスラ侯爵が築いた籠城の壁は強固だったが、オリビアの視線はすでに、その壁の「内側」へと向けられていた。



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