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死にかけの第一王子を拾いました 生ず殺さず領土開拓  作者: トール
四章 覇王の胎動 第五節 「道連れ」か「禁忌」あるいは「自滅覚悟の籠城」

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闇への侵入:オリビアの針穴作戦

 テスラ侯爵が「勅命プロパガンダ」を完了させ、いよいよ王都全体の「魔導封印結界」を起動させようとしていた、その時。


 王都ノルディア。その地下深くを流れる、使用されなくなった古代の導水路。  膝まで浸かる冷たい汚泥の中を、三人の影が音もなく進んでいた。彼らはサマーズ衛兵隊の戦闘服ではなく、王都の地下作業員が使う、黒い油の染みた作業着を身に纏っている。


 先頭を進むのは、オリビアその人であった。  アルヴァンの「親殺し」という汚名を避けるには、外部からの強攻策は使えない。残された道は、人質を救出し、テスラ侯爵を無力化するという、極めて困難な「内部潜入」しかなかった。


「魔導結界の起動まで、残り一時間二十三分」  オリビアは、手首に装着した魔導時計を確認しながら、冷静に指示を出す。


「この導水路は、テスラ侯爵が築いた王都封鎖の盲点よ。彼は物理的な出口を塞いだ。しかし、古代の魔導回路を流れる『マナの流れ』までは読めていない」


 彼女の背後には、護衛兼実行部隊として、漆黒の豹の隊長フリーダと、元聖騎士団長のガリウスが控えていた。フリーダは魔導士としての魔法探知、ガリウスは地下構造と戦闘経験が買われての選抜である。


「ターゲットは二つ。一つは国王陛下の幽閉場所、王城尖塔。もう一つは、テスラ侯爵が籠城の拠点としている『地下禁断書庫』よ」


 II. ガリウスの贖罪とフリーダの目

 汚泥の中から、ガリウスが顔を上げた。 「オリビア様。陛下を救い出すのは、この身にお任せください。私の旧知の部下で、テスラ派に組していない衛兵が尖塔にいるはずです」


 ガリウスは、故郷を狂信から救われた今、アルヴァンの父親を救うことで、かつて敵対した罪を償おうとしていた。


「フリーダ、貴女は私と行動を共にする。最優先目標はテスラ侯爵の確保ではない。彼の『思考回路』を停止させることよ」


 オリビアが向かうのは、テスラ侯爵が王都の地下深くで管理しているとされる「魔族遺産アーティファクト」の保管場所。テスラ侯爵は籠城の時間稼ぎのために、必ずそこにいるはずだ。


 地下道は迷路のようだった。フリーダが魔力探知で周囲の罠を感知する。 「左の壁、罠が三つ。スタプア教会の光魔法と、土魔法の複合結界です」


 オリビアは歩みを止めない。 「土魔法はガリウスに。光魔法は…」  オリビアが手をかざす。彼女の指先から、アルヴァンから教わった「土」ではなく、純粋な「無属性魔力」が放たれた。


 シュン……


 スタプア教会の結界は、女神エイルの光に似た属性に弱い。オリビアの無属性魔法は、結界を構成する魔力の「位相」をずらすことで、結界を崩壊させた。


 III. 尖塔への突破

 一方、ガリウスは王城の地下深部から、秘密の通路を使って単身、尖塔への垂直移動を開始していた。


 幽閉されていた国王アダマンのバルコニーの直下。ガリウスは、滑車とロープを使って外壁をよじ登った。


 バルコニーを守る衛兵は、テスラ侯爵の私兵たち。 「誰だ!?」


 ガリウスは、音もなく衛兵の影に回り込み、一瞬で首筋の魔力点を叩き、気絶させた。彼の動きは、鎧を纏っていた時代よりも遥かに俊敏だった。


 そして、ついに国王のいるバルコニーに到達した。  鎖で椅子に縛り付けられ、虚ろな目をしたアダマン国王。その首元には、テスラ派の衛兵が短剣を構えていた。


「動くな! 誰だ貴様!」


「国王陛下をお助けに参った。私はガリウス。聖騎士団長を務めていた」


「裏切り者め! 殺すぞ!」  衛兵が短剣を振り上げる。


 キィィィン!!


 短剣の軌道が、金属音と共に弾かれた。ガリウスが、その『義手』の肘に仕込まれたバネ仕掛けの防刃板を起動させ、短剣を受け止めたのだ。


 その隙に、ガリウスのもう片方の手が、衛兵の顎を打ち抜く。衛兵は意識を失い、短剣が石畳に落ちた。


「陛下!」  ガリウスはすぐに国王の鎖を解き放った。


 アダマン国王は、自由になった体で、ガリウスの顔を凝視した。 「……ガリウス……。私の息子は……アルヴァンは……」


「陛下は無事です! 陛下を救出することが、アルヴァン様の大義です!」  ガリウスは国王を背負い上げ、来た道を戻る。


 王城尖塔から、国王人質が消えた。


 IV. 魔族の遺産と侯爵の誤算

 その頃、王都の地下最深部。テスラ侯爵は、魔族の言語で書かれた巨大な石版の前で、狂喜に満ちた笑みを浮かべていた。


「もうすぐだ……。アルヴァンが地獄を見れば、この世界は私のものになる!」


 彼の眼前には、数万年前に魔族が残したという、周囲のマナを歪ませる「古代のゲート」が開かれようとしていた。


 ドォォン!


 扉が破壊され、オリビアとフリーダが突入する。


「テスラ侯爵、降伏しなさい。国王陛下は既に解放されました」


「馬鹿な……!? 貴様ごときが、この結界を……!」


「貴方の防御は全て『魔力』に頼っている。しかし、私は貴方方の論理の外側にいる」


 オリビアはフリーダに指示を出す。 「フリーダ、ゲートのコアを狙え。魔力を流すな。『物理攻撃』よ」


 フリーダは理解した。教皇領のヘカトンケイルと同じだ。魔法に偏重した古代の遺物は、純粋な物理攻撃に弱い。  フリーダは魔導銃の弾丸を、魔石弾からタングステン製の『徹甲弾』に切り替える。


 ダダダダダッ!!


 ゲートの制御コアが、無力な鉄塊に撃ち抜かれ、火花を散らす。


「やめろォォォッ!!」


 テスラ侯爵は、最後の抵抗として、持っていた魔導弾をオリビアに投げつけた。  しかし、オリビアはそれを受け止める代わりに、一歩前に踏み出した。


 ズガァン!


 爆風がオリビアの背後を襲う。彼女は無傷だったが、テスラ侯爵は驚愕に目を見開いた。


「お前……なぜ避けない!? 庇う者がいないのに!」


 オリビアは冷徹に微笑んだ。 「避ける必要はない。貴方の魔法など、私には『効果がない』からよ。……それとも、貴方は本当に、私に『魔女』を演じさせたいのかしら?」


 テスラ侯爵は、自分の魔法が効かないという事実に、完全に戦意を喪失した。  彼の敗因は、アルヴァンの「人道主義」を読みきったこと。そして、オリビアの「規格外の強さ」を読みきれなかったことだった。


 ゲートの光が消え、魔族との接続は断たれた。  籠城戦は、テスラ侯爵の心臓部を突かれたことで、完全に終結したのである。



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