表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/38

<37>通知表

 街に定住する、治療従事者として生活するならば、良い。しかし、冒険についていく回復士ならば、怪我は避けて通れない。

 自分が怪我を負いながら回復魔法を使えること、というのは高度な技ではあるが、冒険者にとっては最低限必要なスキルともいえる。


「うー……。分かりました」


 僕は、覚悟を決めた。


「やります」


 しかし、怖い。このために、ギロチンみたいな装置でも準備してくれればよいのに、と思う。

 ────でもギロチンも怖いな……。

 すべすべの腕を見る。『アーラ』の体を傷つけるのはなんだか申し訳ない気もする。いや、しかし綺麗に治療すれば問題ない。隣に回復士さんもいるし、大丈夫だ。


「……すみません、やりますけど、切るのはお願いしてもいいですか?」


 そう言って、ナイフをギルド職員さんに渡した。

 僕がやったら、躊躇い傷だらけになりそうだ。


「うわぁ。私ですか。はい、分かりました」


 職員さんも気が進まないようではあったが、文句は言わずに受け取ってくれた。


「いきますよ」


 僕は、腕を差し出し、目を背ける。

 ちょっとだけ、病院で注射を受ける時に似ている。でも、やることは、注射とは比べ物にならない。


「力抜いてくださいね。切れにくくなるので」


 と言われた。

 そんなの無理だよ、と思ったが、力を抜いたほうが、まだ痛くない気がしたので息を吸って、吐いた。


 冷たい。

 一瞬、優しく撫でられたような感じがあった。

 その後、ブワーッと痛みが広がった。

 冷たくない。熱い。


 僕はみっともなく「痛い! うっわ、これ、本当に痛いんですけど!」「えーーーっ、痛い! 痛い!」と喚いてしまった。しかし、痛いと叫んでいると、回復魔法が唱えられない。これは、一つの知見だ。

 切った腕から、景気よく、大量の血が溢れてくる。動脈まで切ってるんじゃないか、と思う。

 恐怖で眩暈がする。貧血が起きそうだ。痛い。こんな試験、止めて置けばよかった。


「早く、回復、どうぞ!」


 強めの口調でうながされ、僕は怪我部分に手をあてた。


『ルイヲッウティ』


 僕の手から靄が大量に出る。お湯に入れたドライアイスみたいな勢いだ。

 なんか、いつもと違う。やはり、痛みのせいでコントロールがうまくいっていないのかもしれない。

 僕は痛みを堪えて、意識を集中させた。


「────え? あれ? 治った……?」


 怪我は素早く治ったように見える。

 だけど、腕はまだ痛い。

 ジンジンする感じだ。皮がつながっただけで、組織が完全に回復していないのかもしれない。そう思い、更に回復のイメージを強くした。

 僕の手のひらから回復魔法の力が、再度放たれる。


「あ、もう大丈夫です。回復してますので。十分です」

「えっ、本当ですか?」


 僕は、おそるおそる、指先で自分の腕をつついた。


「なんか、まだちょっと……違和感と言うか……」


 まだ痛い、と言ったら減点されるかもしれないと警戒し、言葉を濁す。


「はい。十分です。早いですね」

「あ、そうですか……。」


 褒められた感じだったので、僕はホッとした。深呼吸すると、痛みはだいぶ引いてきた。


「はい。では、早速次のテストに入りますので、準備してきますね」


 そう言って、職員さんは部屋を出て行った。


 僕が、事前詠唱なしで回復魔法を発動させられるのは幸いだった。

 あんなに痛い中、長々と魔法の呪文なんて唱えられない。

 もし、事前詠唱が無いと、回復魔法がかけられないなら、このテストを受けるべきではないと思う。

 それと、片手を直すわけなので、回復時に片手しか使えないのも、注意点だ。両手をかざさないと回復魔法が使えない人は、このテストを受けるべきではない。

 僕は、片手で回復魔法を使うのは初だったが、幸い発動させられた。良かった。


「では、次は病気の治療のテストです」


 ギルド職員さんは、籠に入った動物────小動物を3種類持って来た。


「……まさか、動物の病気を回復するんですか?」

「はい。もちろんです。人間の病人を使うわけにはいかないですから」


 言われてみれば、確かにそうだ。

 人間の病人を使おうと思ったら、怪我の時と同じく、事前に罹病した人間を準備しなくてはいけなくなる。それは、いくらなんでも難しいだろう。


 籠の中には、結構大きめのネズミのような動物が入っている。

 一匹は毛並みが非常に悪く、禿げた部分から皮膚が覗いている。一匹は籠の隅に蹲っていて、ほとんど動かない。最後の一匹は、元気に見えるが、きっとこれも何かの病気なのだろう。


 それにしても、回復魔法が、人間のみを対象とするわけではないと言うのは、驚きの事実だ。


 回復魔法に関する基本的な知識が不足している僕にとって、こうして新しく知ることは、本当に衝撃的だ。


 この世界における回復魔法と言うのは、絶対的なのだな、と思う。

 そして、考えてみれば奥が深い。


 ────回復とって、受傷、罹病する前の状態に時間を巻き戻すことなのかな。それとも治癒の速度を進めることなのかな。ほんと、どういう理屈なんだろう……。


 こうして、一連の試験は、無事に終わった。


 **


「アーラさん。3番窓口にお越しください。アーラさん、いらっしゃいますか~」

「あ、はい。はーい。いまーす」


 僕は手を挙げて、アピールした。

 列を飛ばして、呼ばれた窓口に立った。


「はい、では、こちらが回復士のレベル証明書です。お名前に間違いはないですか」

「はい」

「もし、試験結果に異議があれば、三日以内ならば半額で再試験が受けられますので」

「えっ、本当ですか?」


 それは、とてもお得なサービスのように思える。2回目だったら、勝手も分かったことだし、もっと良い成績を狙える気がする。


「ご希望されますか?」

「いえ、全くしません!」


 僕は強めに拒絶した。

 いくらお得であろうと、もう二度とあの試験は受けたくない。


 とにかく、腕を切るのが、厭過ぎる。


 予想外の苦労の末、ようやく回復士の証明書を受け取ることができた。

 僕は感慨を胸に、証明書に目を通した。まるで、通知表みたいに、成績が記録されている。


 --------------


 以下のものを回復士として証明書する

 名前:アーラ・キーィフェンス・マルクディア

 怪我回復:☆☆☆☆☆(Lv5/5)

  -集中力:優

 -範囲:優

 -速度:優

 病気回復:☆☆(Lv2/5)

 -種類:可

 -効果:可

 状態異常回復:☆(Lv1/5)

 -種類:劣

 -効果:可


 --------------


 これだけの情報が、薄っぺらい金属片に打刻してある。グラスの下に敷く、コースターくらいのサイズだ。

 裏返すと、街名と、日付、ギルドの証明印も刻まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ