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<33>人工呼吸

 最後に、サアスが他の二人の顔を見た。


「ええと、他に、何か二人からは、ないか?」

「………えっと……そうだな。まぁ、一応、言っておいた方がいいんじゃないか。なぁ、イト」

「んんっ? あぁ、うん。そうだよ。サアス。あのことを、話しておいたら?」


 あのこと?

 意味深な言葉に僕は眉をひそめる。

 サアス、イト、ルザクは互いに顔色を窺うようにしている。

 何か、懸念事項があるのだろうか……。それとも、件のプロポーズのこと?

 今、プロポーズの回答を迫られるとしたら、こっちとしては結構、やりにくい。


 ────まぁ、ね、断るだけだけど……。


「う~ん……」


 サアスは、困ったように頭を抱え込んでしまった。

 煮え切らない様子で、無意味な時間が、流れる。ギルド内は朝から賑わっており、周囲はガヤガヤしている。向こうでは、相談窓口に人が並んでいるのが見える。


 ルザクは腕組をして眉を潜めているし、イトは無言で素知らぬ顔だ。


 『何ですか? プロポーズのことですか?』と聞きたくなった。

 が、一応面接を受けている立場なので、こちらから切り出すのは止めた。それに、プロポーズのことだとしたら、こちらから「ああ、例のプロポーズのことですか? お断りです」と続けるのは……いくら何でも……あまりに薄情過ぎる。


「あのさ、アーラ、一つだけ、先に伝えておきたいことがあるんだけど、その……引かないで聞いて欲しいんだけど」


 目に言えない砂時計が落ち切ったらしい。たっぷり時間を置いた後、ようやくサアスが切り出した。


「はい。何でしょう?」

「俺達、アーラのことは女の子として、最大限尊重した扱いをするつもりでいるんだけど、もちろん、アーラは可愛くて若いレディだから、それは当然だと思うんだけど」

「へ? はい……?」


 話が見えない。

 っていうか、さっきから言っているけど、僕にレディの意識はない。


「やっぱり、共同生活だと、どうしても男女の間でもこう、失礼をしてしまうケースがあって、例えば、水浴びをするときにアーラの裸を見てしまうとか、あっ、もちろん、わざと見るような真似はしないんだけども、偶然見えてしまうだとか、アーラの前で俺達が真っ裸になることもあるし、下ネタじゃないけど、まぁ、そういう粗相があることもあるんだが、その点については、我慢してもらえるか?」


 引き続き、何を言われているのかよく分からない。僕は、ぽかんとしてしまった。


「は、はぁ……大丈夫だと思いますけど」

「うん。まぁ、アーラなら、そう言ってくれると思ってたけど、一応な。やっぱり、男3人のグループに女が1人入るって言うのは、抵抗があるだろう?」

「はぁ……そうですかね」


 何か、婉曲に伝えようとしていることがあるのかと、深読みしてみる。

 だが、言葉の字面を見る限り、そんな感じはない。

 今は想像できないけれど、男3人のグループに女1人というと、やはり多少の障りもあるのだろうか。


 しかし、下ネタ?

 朝立ちとか、隠れ自慰とか、そういう系の話?

 まぁ、実際のところ、共同生活をすれば、そういう局面に出くわす場合もあるだろう。


 ────別に、僕は中身が男だから、そんなの全然気にしないけどね。


「あと、これは先に伝えたほうがいいと思うから、伝えておくんだけれど」


 意を決したように、サアスが語気を強めた。


 ────んっ? こっちが、本題?


 僕は目をパチパチさせた。


「アーラは、エルフだから、他人の魔力を回復させることができる。でも、別に、そんなことしなくていいから。俺達も、元から『それありき』で、冒険の計画を立てたりはしないからな! 信じてくれよな! 今までもそうだし、これからも変わらない。例え、他の冒険者から囃し立てられても、事実無根だから、気にせず毅然としててくれ」


 ものすごい早口だ。耳では拾えるが、意味に頭が追い付いて行かない。


「ちょ、ちょっと待って下さい! それは、どういう意味ですか?」


 なんだか、早口で有耶無耶にされそうな感じだけど、重大な事項を伝えられたような気がする。


「エルフが他人の魔力を回復させることができるって、言いました? それ、どういうことですか?」


 初耳の情報だ。

 魔力回復? それがもし本当の話ならば、とても便利な能力ではないか。

 いや、僕は記憶喪失だから、回復魔法のやり方を忘れてしまったのと同じで、その能力も無くなっているのかもしれない。


「でも、やらなくていいから」


 手のひらを僕の方にかざし、念を押すように、サアスは言う。


「それ、今の僕にもできるんですか? 他人の魔力を回復させるって」

「あ、あぁ……たぶん」

「それも、魔法の一種なんですか?」

「ええと……、アーラ、この前の、冒険者のお姉さんに聞いてない? そういう話」


 横から、イトが助け舟を出すように口出しした。


「ミミロアさんのことですか? 何も聞いてません」

「そうか……」


 3人は、再び押し黙ってしまった。


「どういうことですか? 何か、僕に、大事なことを隠していませんか?」


 なんだか僕は、我ながら冷たい口調になっているな、と思った。


「サアス、ちゃんと言いなよ」

「イトが言えばいいだろ……」

「僕は、初日に言おうとしたよ。アーラの記憶がなくなった日に。止めたのは二人でしょ。なのに、今更僕に言わせようとするなんて、嫌だよ」


 イトは拒否した。

 押し付け合い、結局お鉢がルザクに回った。


「あー……えーと……つまり、一応伝えておく、っていうだけで、それは先に伝えておかないと、かえって誤解を招くといけないから、ハッキリさせておきたいだけなんだ。本当に」


 それは、さっきも聞いた。


「はい。じゃあ、言ってください」

「あぁ。うん。アーラは、っていうか、エルフは、かな。魔力を人間に分け与えることができるんだ。人工呼吸的な感じで」


 言ってから、ルザクは僕から目を逸らした。


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