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<3>ぽっちゃり

 僕はこれ以上のショックがどこかに隠れているのではないかと、自分の体を触って点検し、もう一度屈みこんで泉を覗いた。

 そこには、耳が尖っているだけで、他は普通の人間と変わりない女の子が映っている。


 エルフと言っても、耳が尖っている以外は、人間と変わらないようだ。

 何にせよ、おでこに第三の瞳があったり、鼻が尖っていたりしなくて良かった。


 ────でも……ちょっと待って。それだけじゃない。やっぱり……。


 ここまでの行程で既に気づいていたのだが、水鏡に映して確信を得た。


「僕、太ってますね。この女の子……ぽっちゃりっていうか、体型が。身長は低めな気がしますけど。体重が……。だいぶ、デブでは……」


 すると、サアスの動きが不自然に止まり、数秒間硬直した。


「………………え? 今、何だって?」

「デブですよね、って」

「で……」

「そんなことないよ! そんなことない!」


 突如ルザクが飛んできて、やたらと近くで大声を出す。まるで、事実を打ち消し、誤魔化そうとするように、手をぶんぶんと振っている。


「そう、そんなことないよ、アーラ。全然太ってないよ。気にしすぎだよ!」

「全っ然、大丈夫だよ」


 イトもやってきて、加勢してくる。


「えっ……いや、明らかに、これは太ってますよね。デブですよぅ。やだなぁ……だから、こんなに汗が出るんだ……」

「た、確かにちょっとぽっちゃりしてるけど、普通だよ!」


 普通?

 まさか、このぷっくりした輪郭やマシュマロのようなムクムクした体が、この世界のエルフ族、女性としては標準なのだろうか?

 僕は自分のほっぺを掴んで、軽く引っ張った。まるで、餅だ。


「これが、この世界では、エルフの普通体型なんですか?」

「いや、普通っていうか、個性だよ。それに、アーラは可愛いんだから、何も問題ないよ!」


 力説されてしまった。

 でも…………可愛い? それは不明だ。

 水面を利用した鏡では、ほとんど容貌は判別できない。

 だが、やはり太っているのは確かなようだ。というか、この手足とお腹を見れば、一目瞭然なのだけども。


「……いえ、別に、そんなにフォローしていただかなくても大丈夫です。アーラさんが太っていても、僕は全然構わないんです。ただ、太った女性なんだな、って思っただけです」


 そう思うと、この目下の巨乳も肥満の産物なのか、と思えてくる。

 気づいてみれば、手も足もむちむちしているし、お腹のところなんて、脂肪の塊を巻いているみたいだ。剥き出しの太腿なんて、ちょっとヤバイ。


「うーん……なんていうか……こんな体型で、よくこんな露出の多い恰好ができるもんですね……恥ずかしくないのかな」

「なっ……アーラを侮辱するのは、断じて許さないぞ!」


 サアスに強めに叱られてしまった。手が剣の柄にかかっているのは……冗談だと思うけども。


「すみません。そういうつもりでは無かったんです」


 僕は慌てて失言を詫びた。仲の良い相手をけなされて、腹が立つのは自然なことだ。

 しかし、考えてみれば「アーラ」が「アーラ」を侮辱するのは、自己卑下でしかない。それを咎めるのも変な話である……。


「あ、あぁ、こちらこそ、大きな声を出して、すまない……」


 同じ思いを抱いているのだろう。サアスは複雑そうな顔をしている。

 何だか変な空気になったところを、ルザクがとりなしてくれた。


「まぁまぁ、その話は、今は置いておいて。それより、記憶喪失のアーラに、状況の説明をしてあげないと」

「そういえば、そうだったな。……じゃあ、まずはどこから説明するのがいいかな……」


 気持ちを切り替えるように、サアスは少し微笑んでみせてくれた。

 おかげで僕もホッとして、宜しくお願いします、と頭を下げることができた。


「もう自己紹介は終わったし。次は俺達4人の関係からかな。見ての通り、俺達は冒険仲間なんだよ。グループを組んでる。それぞれに目的があって、冒険で稼ぎたいとか、名をあげたいとか、探し物があるとか。そういう各個人の目的を叶えるために、互いの能力を出し合って協力しているわけだが、まぁ、気が合ってずっと同じメンバーだから、結構、古なじみっていうか……信頼できる間柄なんだ」

「信頼ね……信頼はさ、大事だよな」


 イトとルザクが少し笑う。嫌な感じではなかった。たぶん、改めて言葉にすると気恥ずかしい、という感じなのだろう。

 更にサアスが語り始めた。


 ここは『ツードル』という大陸の『ダックグー』という国である。この世界には『廃墟』と呼ばれる荒廃した街がいくつもある。

 廃墟には、強い魔物や、珍しい宝があり、その場所を探検し、攻略するのが冒険者の主な仕事である。


「そう聞くと、冒険って、ゲームみたいですね」

「ははっ……命がけのゲームと言えば、そうかもな」

「命を落とすこともあるんですか?」


 そう尋ねると、当たり前だ、という顔をされた。


「いえ。なんというか、回復魔法があるなら、蘇生魔法もあるのかなー、と思っただけです」

「いくら回復魔法を極めても死者の蘇生は、流石に無理だ。でも、死にかけてる人間を助けるくらいの回復魔法もあるから、あれは、考えようによっては蘇生だよな」

「確かに。どこから死んでる、と定義するか次第かもね。首と胴体が離れても、すぐにくっつけて回復魔法を使えば助かった、っていう話もある。腸が溢れても、手で押し込んで回復したら元通り収まった、とか」

「へぇ~……ちょっとそれは、見たくないな」


 話が時々脱線する。


「そういうわけだから、回復師のアーラは、俺達にとって、冒険の命綱みたいなものなんだ」


 なるほど。回復師が欠けたのは、致命的だというこだ。

 イトの魔術師とアーラの回復師で分けているということは、同じく魔法が使える職業でも回復特化はそれなりの専門職なのだろう。

 僕が魔法を使えないのは残念だ。純粋に、魔法を使うというのがどんな感じなのか興味もある。諦めずにもう一度後で練習してみようか……。


「まぁ、でも、唯一、ワープ魔法を使えるイトだって、俺達にとって、命綱といえば命綱だ」

「そうだな。今回の冒険ではワープ魔法のおかげで助かった。あの場で脱出できなかったら全滅してた」

「座標は滅茶苦茶だったけどね。何とか間に合ったよ。あの時、アーラが、『早く、ワープ!』って叫んでくれたから、動けたんだ。アーラ、ありがとう」

「は、はい……僕は関わってないですけど」


 今回の冒険とやらで、何があったのか、僕は知らない。

 しかし、話のすじから想像するに絶体絶命の大ピンチで命からがら逃げてきたのだな、ということは察しがついた。

 その結果、荒野の真ん中で気絶することになったのだ。


「ルザクは盗賊だが、補助魔法が得意だ。ルザクの補助魔法が無ければ、俺達は戦えない。それに、自分で言うのも何だけど、俺の剣の力が無ければ、廃墟で魔物相手に戦い抜くこともできない。つまり、俺達4人は誰が欠けてもダメな、大切な仲間だ、ってことだ」

「そうなんですね……」


 僕は神妙に相槌をうつ。


「それなのに、僕……ええと、アーラさん?が、こんなことになってしまって、すみません。僕にできることがあれば、協力しますので、何でも言ってください」

「ありがとう。でも、記憶がなくたって、アーラが大切な仲間なのは変わらない。それだけは、覚えておいてほしい」

「きょ、恐縮です」


 これでは『中身は別人だ』と主張しづらい雰囲気だ。

 更に、こちらの世界に関する知識をサアスからいくつか教示してもらった。魔物のこと、魔法のこと、この国の広さや、歴史について。

 僕にとっては、おとぎの国の物語のようであった。


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