<19>居場所
痩せたい。
その願望が決心を後押しした。
少々の不安はあるものの、土木作業員の応募手続きを進めてもらうことにした。
ギルド職員さんに「酒場の給仕の案件はどうしますか? こちらは取り下げますか?」と聞かれたので、一応そっちも話だけ聞きに行かせてもらえるよう、お願いした。
宿に戻ってから、進捗状況をサアス達に話した。
3人からは、強い反対をされてしまった。今からでも、断ったほうがいいと力説されたが、僕は「とりあえず社会勉強だと思ってやってみたい」と答えた。
ダイエットを兼ねているという不純な動機については、胸に秘めておいた。
「昔から、アーラは行動力がすごいんだよなぁ……」
「思いついたら、すぐ行動に移しちゃうもんね。心配だけど……そういうことろ、本当に尊敬するよ」
「ただし、とにかく、少しでもやばそうだったら、すぐ辞めること。ああいう仕事って、変な奴も大勢いるからな」
僕の意思が揺るぎなく固まっているのを悟り、三人は渋々ながらも諦めてくれた。
「はい。無理とか、危ないとかだったら、すぐに辞めるつもりです。あと、一応、酒場の給仕も、明日、話だけ聞きに行ってみます」
「はあ~……酒場の給仕もな~……どっちも心配なんだよな~」
ため息をつかれてしまった。ルザクは頭を抱えてうーん、と唸った。
「酔っ払いなんて、マジでロクでもないからな~」
「それに、アーラが他の男の目に晒されるのも、ちょっとなぁ……」
僕はつい、笑ってしまう。
「ぷっ……ただ、お酒と食事を運ぶだけですよ。それに、僕みたいに太った女の子は、採用されないかもしれないし」
「そんなわけないだろう。アーラはこんなに可愛いのに」
「アーラが運んでくれたお酒なら、間違いなく美味しいよ。僕なら飲み過ぎるね」
「確かに、アーラのエプロン姿かぁ……それは見たい気もするが……ダメだ」
3人とも、何か悶々とした感じで俯いてしまった。
エプロン姿……僕は、今の姿にエプロンをする自分を想像した。
この露出の多い服の上にエプロンをしたら、それは変態の姿になりはしないか……。
**
夜ご飯を食べに行き、戻って来てから宿の風呂に入った。この世界に来て、まだ3日目だけど、何だか少し生活に慣れてきた感じがする。
部屋の窓を開け、少し気温の下がった夜風にあたる。
「俺達も、また明日ギルドに行かなくちゃな」
「あぁ、新しい回復士さん、見つかりそうですか?」
僕がこの街で働き始めたら、3人はどうするつもりだろう。
魔法の使えなくなった僕の代わりに、別の回復士を仲間にして、廃墟とやらに行ってしまうのだろうか。
もちろん、そうだろう。覚悟しているつもりだが……寂しい。
「それこそ、紹介待ち。ギルドから応募者の連絡があるまで、少し時間がかかるかもしれない」
「じゃあ、その間は、まだ一緒にいられますね」
嬉しくなって、僕は両手で拳を握り、ガッツポーズを作った。胸が邪魔で無駄肉を寄せたようにむぎゅっとなった。
決して、わざとではない。
だけど、その瞬間、サアスの視線がもろに、谷間部分に注がれたのを感じた。僕は気づかないふりをしたが、内心気まずかった。
好意を利用しているような……。僕は自意識としては男なのに、それを偽って周囲を欺いているような感じがする。
「そういえば、今日の買い物の途中で、美味しそうなケーキ屋を見つけたんだ。明日、行ってみないか?」
ルザクが、言った。
僕は気持ちを切り替え、びっくりしたように目を丸くする表情を作った
「えっ、すごい……。この世界のケーキって、どんな感じなんですか?」
「それはもちろん、食べてみないと分からないだろう?」
「いえ────……でも、大丈夫です。僕が自分でちゃんと稼げるようになってから、にします」
僕は一度遠慮した。
「じゃあ、アーラの就職祝いにしよう」
「まだ、採用されるかは分からないんです。女だし、僕は魔法が使えるわけでもないので」
もし魔法が使えれば採用時に優遇されることがある。と、ギルドの職員さんが言っていたのだ。
「じゃあ、採用が決まったら行こうな?」
ルザクが嬉しそうに言うので、これ以上は断りづらい雰囲気だった。
痩せようと決意したばかりなのだけれど、ここでケーキ一個を頑なに断るのは無粋かな、と思う。
それに、僕自身は割と甘いものが好きだ。異世界のケーキというのは興味がある。
「はい。分かりました。楽しみです」
「僕も行く」
「もちろん、俺も」
横からイトとサアスが付け加えた。
てっきり、僕は最初から全員で行く話だと思っていたので、「はい」と言った。が、ルザクが首を振った。
「いいや。あのケーキ店を見つけたのは、俺だ。アーラを誘って、約束を取り付けたのも、この俺だ。お前らは却下」
「ずるい!」
「横暴だ!」
非難が飛ぶも、ルザクは受け入れない。
「たまには、そういうコミュニケーションも重要だろうが。お前ら、弁えろ」
「俺達は仲間だろう」
「そうだよ、抜け駆けだよ」
「サアス、イト……。お前らは、俺にとって、大切な仲間だ。だけど、『この件』に関してはライバルでもある。譲る気はない」
僕は、そんな会話を横目に、苦笑してしまう。
────うーん……。つまり、デートみたいな意味なのかな? 二人きりでケーキ屋さんっていうのは、デート……だよねぇ。
どうやら、ルザクとデートに行くことになりそうだった。
僕としては、別にどちらでも構わない。いつも4人一緒に行動しているので、たまには二人で行動するのも、悪くはない。
デート、と言われてもピンとこないが……。
良い機会でもある。まとめて「お断り」をするなんて不誠実だと思っていたところだ。
一対一でちゃんと、僕の気持ちを伝えないといけない。
やはり現時点では僕の答えは「ごめんなさい」以外に考えられない。
自分からその話題を振るつもりは無いが、もし、プロポーズの答えを催促されたら、断ろう、と思っている。
ルザクとサアス、イトは引き続き「デートの権利」に関して討論を交わしている。
僕は愛想笑いのような苦笑のような表情を浮かべつつ、その会話を聞いた。
窓の外を見て、暗いなぁと思った。当り前だ。
ここは、僕が元居た、夜でも電気が煌々と灯る世界ではないのだから。
でも、この薄暗い感じはどこか落ち着く。
この「場所」も…………何なら、サー姫のポジションも少しだけ、落ち着く。




