<18>就職活動
「分かりました。ギルドで、他の仕事も探してみます」
「俺達も一緒に探そうか?」
「あ、いえ。たぶん、大丈夫です。まだ色々と情報収集をしているだけですから」
午前中も、僕が職探しをしている間、ギルドで待っている皆を何となく手持無沙汰の状態にさせてしまったのだ。人を待たせるのは、申し訳ない。
「う~ん、じゃあ、俺達は午後からは装備品とアイテムの補充に行くか」
「そうだな。でも、アーラ、本当に大丈夫か? 1人で心細くないか?」
「大丈夫です」
こうして、午後からは僕一人だけ、別行動をとることになった。
サアス達から、「街の用事が終わったら迎えに行くから、絶対にギルドの建物から外に出ないこと」と言われた。
僕は「ちょっと過保護過ぎですよ」と笑った。
まるで、お留守番をする子どもみたいじゃないか。
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過保護な監視の目────という表現は失礼か。
親切な三人の保護者がいなくなると、ちょっと気楽になった。
よーし、やるぞ!という、謎の気合が入る。
本来、僕は行動派だ。
いや、一応、慎重派でもあるけれど……いったんスイッチが入ると、自分でも驚くほどの実行力が出るタイプだと思う。
まずは、ギルドの窓口で申し込みをして、酒場の方の面接をお願いした。
ただ、あの貼り紙だけでは、具体的な雇用条件が分からず、曖昧過ぎる。もし、話を聞いてみて、僕の方で条件が合わないと思ったら断っても良いかと尋ねた。
すると、ギルドの職員さんは、特に懸念を示すことも無く、了承してくれた。
「もちろん、面接で条件を聞いてみて、もし、貴女様の方で合わないと思うならば、断って頂いて結構ですよ。その方が、後々のトラブルにもなりにくいですしね」とのことだった。
それならば、こちらの世界の雇用の常識を知るのにも良い機会なので、願ったり叶ったりだ。
「では、話を進めておきますね。日程と時間を決めるので、明日の早い時刻にまた来てください。最短だと、明日中に面接になりますので、心構えをしておいてください」
「分かりました。よろしくお願いします」
僕は、頭を垂れて、窓口のギルド職員さんに御礼を言った。
これで、まずは1件、話が進んだ。
すごろくのマス目を前進させたような感じがする。
「あの~、ついでに、あっちに大きな貼り紙があった、堀の工事作業員の方もどんな感じが知りたいんですが……」
そう言うと、職員さんは一度奥に引っ込み、詳しい資料を持ってきてくれた。
「お待たせしました。こちらは、公共事業なので、街の役所が雇用主になります。こっちが、募集用紙で、こちらが、雇用契約書です」
募集用紙の方は、既にギルドの貼り紙にあったのと同じ、最低限の情報しか記載されていない。
しかし、雇用契約書の方は具体的な記載がされている。実際に採用の手続きをするときの書類らしい。
「本来は、採用が決まってからお出しする書類なんですが、こちらの方が詳しいので、どうぞ、お持ちください」
普段は表に出さない書類を、ギルドの職員さんが親身になって提供してくれたということだ。
朝から僕がずっと頑張っているから、同情してくれたのかもしれない。
僕は、もう一度御礼を言った。
「すみません。窓口の相談には時間制限があるので、一度、並び直してもらっても良いですか?」
見ると、傍らに置いてあった、砂時計の砂が落ち切っている。これが、ギルド窓口で相談する時のルールだ。決まった時間内でしか、相談ができない。
職員さんは、僕の後ろにずらりと伸びている列の最後尾を指さした。
「はい。ありがとうございました」
砂時計の制限時間は、体感で10分くらいだろうか。
今並んでいる人数が8人くらいで、窓口は二つあるから、もう一度並んだら待ち時間は約40分。人気のアミューズメントパークを思えば、それほど苦にならない時間だ。
僕は、もう少しだけ聞いておきたい話があったので、列の後ろに並び直した。
並んでいる間に、一度、サアス達が僕の様子を見に来てくれた。
「どう? まだ、終わらない? 休憩に行かないか?」と聞かれたので「今、並んでるから、無理です」と答えた。
「そっか、じゃあ、また後で来るよ」
サアス達は、何となくがっかりした雰囲気で帰って行った。
街の必需品の買い出しは終わったのだろうか?
僕は列に並んでいる間に、もらった契約書と、募集書類を穴があくほど繰り返し読んだ。
街の外周を囲う堀の工事、整備員。業務内容:掘削作業、土砂の運搬等。
契約は3月氏更新。1月氏が10日なので、30日、つまり1か月更新だ。
支払いは最低賃金が1日あたり30オンで、あとは能力給、成果給とある。
30オンというのは3000円くらい、と目星をつけているが、まだこちらの世界の相場観が曖昧だ。
1日働いて肉体労働で3000円は安い気がするけど、住居と食事の補助があるなら、決して悪くはない。
住宅補助は専用寮があり、空きがあれば無料。食事は平日の昼食のみ提供される。
他には、工事中の怪我の保障がついている。業務中の怪我に関しては、指定の教会による治療あり。
もし、怪我をして治療費で稼ぎが吹っ飛んだら意味がないし、怪我で仕事ができなくなるのも困る。日常生活が営めなくなるほどの怪我のリスクだってゼロではないのだから、考えてみれば、これは案外、重要な福利厚生かもしれない。
質問したいことを頭の中でまとめておいた。順番が回って来て、もう一度さっきの職員さんと相談する機会を得た。
「あの、ここに書いてある専用寮っていうのは、一人部屋ですか? 男性と女性で同じ建物なんですか? あと、お風呂とかトイレはどんな感じですか」
「すみません。その辺りはちょっとギルドでは把握していないので、役所の方に行ってもらう方がいいですね」
「女性の労働者もいるんですよね? 何人くらいいらっしゃるんですか?」
「はい。適宜、応募さえあれば採用されています。人数は、そうですね。過去に10~20人くらいは採用されていると思います。ただ、その人たちが今も働いているかまでは、ギルドでは把握できていません。もしかしたら、全員辞めているかもしれませんので」
「あぁ、なるほど」
契約書の中に、「契約期間中の退職は、違約金として給金の3割が削減される。」という一文がある。これが僕の元の世界だったら、ブラック企業の匂いだが、こちらの世界ではどうなのだろう。
離職率なんて知りようがないから、一種の賭けだ。
「もし、この仕事がやっぱり無理、っていうことになって、1日とか、すぐに辞めちゃったら、どうなるんでしょう」
「そういう人もいますよ。ただ、その場合は、給金はもらえないと思った方がいいでしょうね」
「その場合、ギルド的にペナルティになったり、ブラックリストになったりしないんですか?」
「うーん……あまりに労働状況が酷い人は、次の紹介をお断りすることもあります。酷い問題を起こした人とかは、やっぱりちょっと、雇用主から苦情があるので。ギルドは求人に関しては、仲介業ですから」
それは、そうだろう。
しかし話を聞いて行く限り、まぁまぁ、真っ当な仕事で、悪い条件ではないように思える。
大きな落とし穴さえないなら、社会勉強だと思って、この仕事をしてみても良いんじゃないかな、という気持ちになってきた。
酒場より、公共事業の方が、最初の仕事としては、手堅い気がする。
ただ、女の細腕で、どれくらい力仕事ができるのかが、一番の不安だ……。
そう思ってから、「細腕?」と問う自分がいた。
細腕じゃない。脂肪のたっぷりついた、むっちりした腕だ。
二の腕の下の部分を摘まんでみる。ぷにぷに、ふわふわ、むにむにしている。
太さはあるが、残念ながら、筋肉は無さそうだ。
力仕事をしたら────……痩せるかもしれない。




