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<11>サー姫らしく

 自然と、僕が真ん中で、両端にイトとルザクが並んで歩く感じになる。

 何となく、『男二人をはべらせている太った露出度の高いエルフ』と言うのが、すれ違う人の目を引き、衆目を集めている……気がする。

 自意識過剰かもしれないけれど、どうにも気になる。


 無人の荒野を歩いている時は気にならなかったが、こうして人の多い街を歩くとなると、やはりこの露出は辛い。

 必要悪、ではなく必要露出、であることが判明したわけだが、恥ずかしいものは恥ずかしい。


「うー……着替えたいかも……」


 ぼそりと呟くと、耳聡く二人が反応した。


「え? なんで?」

「服の汚れが気になるか? 洗濯に出すか?」

「いえ、そうじゃなくて、やっぱり、露出がちょっと……恥ずかしくて。こんな格好している人、他にいないですよね。僕、この世界の冒険者の女性って、こういうものなのかな、って思ってました……」


 せめて、こっちの世界の常識に沿っているなら我慢もできるが、どうやらそうでも無さそうなのだ。

 奇異の目で見られていると思うと、体がむずむずする気がする。


「別にそれほど恥ずかしがるほどのことじゃないぞ。アーラの言う通り、それくらいの露出の女の冒険者は割と普通にいるし、特にエルフ族の女性で言うなら、標準的な恰好だと思う」

「え、え~……そうですか? これが?」


 エルフ族は皆、露出が好きなのかな?


「そうそう。この街にエルフ族が少ないから、気になるんだよ。地元に帰ったら、気にならないよ」

「地元……ですか。うう……でも、きっと今日会ったエルフの男の人みたいに、皆、痩せてるんですよね」

「まーた、アーラはそんなこと言って。体型なんて、個性だよ。エルフだって、色々だよ」

「はい……」


 しかし、僕は今日会った同族のエルフからの嘲笑が忘れられない。

 そう。僕は決してこの露出だけが恥ずかしいわけじゃないのだ。

 アーラの着ている服は、確かに露出が多いが、水着で歩くよりはマシくらいの布面積はある。核心的な問題は、『太っているのに露出が多い』という点なのだ。


 僕は、大きく一つ、ため息をついた。


「はぁ、あの……サアスさんは、アーラさんが、好きなんですか?」

「えっ? なんで?」


 イトとルザクは揃って驚きの表情になった。


「すみません。昨晩の厩で、夢うつつに、そんな会話が聞こえてきた気がして……。黙ってようかと思ったんですけど……」

「あぁ。なんだ、そうなんだ。サアスは迂闊だから。自業自得だな。気にすんな」

「はい……でも僕……、アーラさんの気持ちは分からないので何とも言えないですけど、サアスさんは恰好いいですよね」

「そ、そうかぁ!?」


 ルザクの声が突然、変に裏返る。


「はい。あんな格好いい人が、なんでアーラさんを好きなのかよく分からないな、と思いました。だって、僕……アーラさんってこんなに太ってるし、釣り合いが取れないような気がして」


 アーラに関わる恋路の話題については、僕は完全に部外者の心境だ。

 ただ、とにかく今の自分が太っていて、やたらと露出が多いという点が気になって仕方がない。

 この体型を肯定する何かが、僕────アーラにあるなら、是非聞いてみたい。


「待って、ストップ、待って、アーラ」


 ルザクは拳で口もとを押さえ、何やら考える風をみせた。

 沈黙があった。

 ルザクとイトは眉間にしわを寄せている。

 それから、「ごめん、アーラ、ちょっとここで待っててくれる?」と両肩を押さえられて、道の隅に留め置かれた。


「はぁ……」


 何事かと思ったら、二人はコソコソと反対側の道の路地裏に入っていく。


『なぁ、これは、問題じゃないか? 昨晩の会話を聞いて、アーラが勘違いする可能性がある……それに、サアスが格好いいって、どういうことだ』

『うん、昨晩確かにサアスはアーラが好きだって言ってた。あれを聞いて、アーラがサアスのことをあまり意識しすぎるのは良くないと、思う』

『分かる。意識すると、気になる。こう、そわそわして、下手すると、恋心が芽生えかねない。それが女心ってやつだ……どうする?』


 ルザクとイトは僕に聞こえないように、ボソボソと密談のように言葉を交わした。

 いや、全部聞こえているけど。


 そこで、初めて僕は気が付いた。どうやら、エルフは耳が良いらしい。

 指向性聴力に優れている、というのだろうか。聞こうと思った方向の音を、自然に上手く選別することができるのだ。


『記憶喪失のアーラに隠し事をしておく、っていうのは不誠実だ、と思う』

『うん、つまり、以前のアーラが知っていたことは、今のアーラにも伝えるべきだ、ということだな。俺も同感だ』


 うーん……? 何の話だろう? 聞こえはするけど、内容が読み取れない。

 訝しんでいると、二人が揃って戻って来た。


「アーラ、聞いてくれ。サアスだけじゃない」

「はい?」


 僕はきょとんとして、首を傾げた。


「俺も君が好きだ」

「僕も、アーラが好きだよ」


 ルザクと、イトがほぼ同時に言った。


 ────んんんんんん!?


「えっ、えっ、あのっ……えっ?」


 僕は戸惑った。

 突然、何を言ってくれちゃうのだ。


「えーと、それは、仲間として、ってこと……ですよね」


 この問いに対する回答は歯切れの悪いものだった。

 ルザクも、イトも「うーん……」と言って、最後は照れたように笑ってお茶を濁された。


 その様子から何となく、理解した。

 たぶん、仲間に対する好意と、アイドルに対するあこがれみたいなものが混ざった「好き」なのだ。

 サークルの姫というのは、そういうものなのだ。本当の恋愛感情とは微妙に違う。だから、あまり本気で受け止めなくても大丈夫……なんだ。たぶん。


「そっかー。……じゃあ、好きっていっても、サアスさんも、そういう感じなんですね」


 そういう曖昧な好意を受けたら、人は、女の子は、サー姫は、どう対応すれば良いのか……?


 僕は、最適解を探り、拾う。


「ありがとうございます。嬉しいです」


 できるだけ可愛く、にっこりと笑って見せた。

 イトとルザクはそろって惚けたような表情になり、それから嬉しそうに笑った。


 僕は、「よし、とりあえずこれで良い」、という手ごたえを感じた。しかし、同時に己の尊厳を自分で破壊したような、脱力に襲われた。


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