<10>露出の意味
先に宿屋に行き、荷物を置いた。
冒険用の荷物は結構邪魔なのだ。勇者や魔法使いといっても、リュックサックを背負っていると外見が登山家寄りになるのはご愛敬……というか、現実的だな、と思う。
僕は荷物を持っておらず、身軽な手ぶらだ。
一応、腰のところにベルト兼ポーチのようなものを提げていて、多少の所持品はある。しかし、こちらの世界に来てからひたすら強行軍で、いまだ中身すらきちんと確認できていなかった。
宿で一息ついたので、机にポーチの中身を出して並べてみる。
中からは、何やら細々したものが出てきた。
キラキラしたボタンみたいなやつ、ハンカチ、ティッシュ、畳んだゴミ袋みたいなもの、薬らしいもの、ペンダント、緊急時に吹く笛みたいなの……等々。
ルザクが、それぞれの用途を一つずつ教えてくれた。
一番驚いたのは、このキラキラしたボタンがこちらの世界のお金だということだった。
色と模様がそれぞれ違うが、まるで玩具みたいだ。素材もよく分からないが、貝か石じゃないかと思う。偽造防止の面で、大丈夫なのだろうか。
ハンカチ、ティッシュ、ゴミ袋は生活用品、薬は化粧品で、ペンダントはアーラの大切にしている装飾品、笛はアーラの私物で楽器だった。
「さて、これからの予定だけど、ギルドと、教会、どっちを先に行く? ギルドも教会も、そろそろ窓口が開いたと思うぜ」
「えーと、そもそもギルドには、何しに行くんだっけ?」
「戦利品の換金と、冒険の報告。あと、この街のクエストで何か良さそうなのがあれば受ける手続き。近場の廃墟の確認。地図が売ってるなら購入」
「うわ、面倒くさい。かなり時間がかかりそうだな……二手に分かれるか。ギルドと、教会で」
「その方がいいな」
ギルドと、病院もとい教会に行く係で分担する方針になった。
当然、診察を受ける当事者の僕は教会に行かねばならない。では、他のメンバーをどう分けるか、というところで議論になった。
「じゃあ、サアスがギルド担当で、俺達が教会担当でいいか?」
「待て待て。二手に分かれる、って言っておきながら、1対3で分けるのはおかしいだろう。ギルドの方が難しい判断が多いし、相談役も無しじゃ、俺が勝手に決められないぞ」
「大丈夫。サアスは勇者。つまり、俺達のグループの代表者だし、冒険の手続きは全面的に任せるよ」
うんうん、とルザクが頷く。
「いやいや、教会の付き添いに、二人も要らないよな。それに、俺は勇者だけど、この中で最年少だぞ」
「サアスはアーラが心配じゃないのか? 記憶がなくて不安な今だからこそ、俺達ができるだけ、傍についていてやらないと」
「いや、それは分かるけど……………………違う。俺も、アーラが心配だから教会の方に行きたいんだって」
「アーラのことは俺達がちゃんみておくから、気にするな! サアスは勇者だ、ギルドは任せた!」
話し合いの末、押し切られる形でサアスが単独でギルドに向かうことに決まった。
サアスの肩書は勇者だけど、仲間内で権力があるわけではなくて、むしろちょっとヘタレなところがある。こういう人物が逆にリーダー向きだったりするから、悪いことではない。
「行ってらっしゃーい」
「ギルドの手続きが終わったら、俺も教会に行くから!」
「はいはーい。頑張ってね~」
皆で陽気にサアスを見送った後、イトが「たぶん、サアスの方が遅くなるな」と呟いた。
「そうだな。昼飯は俺達だけで食おうぜ」とルザクが非情に答える。
こうして、僕、ルザク、イトの3人で教会に向かうことになった。
教会への道は、宿で聞いた。街はずれということで、少し遠いらしい。
見上げると太陽はだいぶ高く昇っている。街も完全に活動を始めていて、来た時よりも人の往来が多い。
「今日も暑くなりそうだな~」
「そうですね。既に頭がジリジリ灼ける感じがします」
「アーラも何か頭を守るものが欲しいか?」
「いえ、大丈夫です」
僕は自分の頭に触れながら答えた。
イトはフードを被っているし、ルザクは帽子を被っている。頭が出ているのは僕だけだ。
街の人たちも何らかの手段で頭を覆っている人が多い。
「頭を出して置くのがマナー違反、とかではないですよね? 宗教的な理由とか」
「もちろん、そんなことないから、大丈夫」
見れば、通り沿いには服を売っている店も結構ある。案山子みたいなのが、マネキン代わりに使われて、先々でコーディネートを決めていた。
僕は、それらと自分の恰好を見比べる。
「ちなみに僕の────アーラさんのこの恰好は、ずいぶんと肌の露出が多くないですか? ほら、ああやって売ってる服も、普通はこんなに露出ないですよね。僕の恰好って、場違いじゃないですか?」
「あぁ、アーラの来てるその服はね、一見頼りないけど『加護』がかかっているから守備力は高いんだよ。紫外線カットの効果もあって、肌を守るし」
「えっ、そうなんですか?」
UVカット的な機能が備わっているのだろうか……。加護という言葉は何回か聞いたが、定義がはっきりしない。魔法的な力、と解釈して良いのだろうか。
改めて僕は、自分の体を眺めた。
むっちりしている。見下ろす胸も、谷間があって相変わらず、ばいーん、って感じだ。
お腹と太ももは、あえて直視したくない。……が、もし言葉に表すなら、むちむち、ぶるーん!って感じ。
ずっと嫌だなぁ、と思っていたが、この破廉恥な服装のおかげで、逆に皮膚や体の健康が守られているならば、露出も無意味ではない。
一応、「意味のある露出」、「必要な露出」ということになる。「必要悪」みたいな語感だ。
────アーラさんが、露出狂だったり、男達の趣味でこういう服を着させられたりしてるわけじゃないのは、良かった。
あえてそんな危惧をしていたわけでもないけど、改めて考えればこれは重要なことだ。
万が一、アーラが露出狂か、男達の趣味で露出させられているとしたら……もう、なりふり構わず逃げ出すところだ。