表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/38

<1>炎天下で目が覚める

よろしくお願いしますm(__)m

 気が付けば、荒野の真ん中に座っていた。

 足の下には、貧弱な草が這うように生えている。その草が僕の剥き出しの手足に刺さって、軽い不快感をもたらしている。


「暑っ……」


 掠れ声が出た。空から太陽がギラギラと照り付けている。ここは、一体どこだろう。

 周囲を見渡すと、すぐ近くに、僕以外の人間がいた。いた、というより、倒れている。

 1人、2人……少し離れたところにもう一人。全部で、3人だ。


 何が起こったのか、全く分からない。

 ぼんやりと、『爆発事故でも起きたのかな』という考えが浮かんだ。こんな屋外────見知らぬ荒野の真ん中で爆発事故に遭う心当たりは全くない。

 ただ、異常事態が起きたということは間違いが無かった。


 ふいに、視界に入る自分の姿に気づき、驚いた。着ている服装がヤバイ。


「な? 何……これ……」


 胸当てのついた、鎧とドレスを組み合わせたような服装だ。緑と、白の、パステルカラー。浮世離れしていて、しかも、とんでもなく露出度が高い。

 リオのカーニバルの仮装でもしているみたいだ。


 更に、自分の手が、すごく白いことに気が付いた。これは、僕の手ではない。

 手をグーパーしてみると、ちゃんと動くけれど、自分のものではない。手のひらの感触が、やたらと柔らかい。ふわふわしている。

 これが僕の手ではないなら、じゃあ、一体誰の手だ?


 金髪が垂れている。

 それに……胸がデカい。


 ────すごく大きな、おっぱいがある……。おっぱい……おっぱい……おっぱいがある……。え? なんで?


 考えなくちゃいけないことは色々あるはずなのに、僕は中々「おっぱい」から思考を切り替えられなかった。


 ────なんで、ここにおっぱいがついてる……。これって、完全におっぱいだよね


 ひたすら、おっぱいという単語が頭の中を飛び回る。

 おそるおそる手で触れてみた。自分の体の一部として、ボリューミーな膨らみがある。

 更に、視界に垂れている金髪を一房掴み、引っ張ってみた。この金髪も、僕の体と地続きだ。頭から直に生えている。


「僕が……女になってる?」


 そう。つまり、そういうことだ。

 しかも、金髪で巨乳の女の子だ。

 自分の顔を両手で挟むように触れた。頬はふっくら、すべすべしている。どんな顔かは分からないけれど、とにかく肌質は良い。唇もぷにぷにしてる。

 これは、『僕』じゃない。全くの別人だ。


「え、えー…………えー……。あー、あー」


 喉が馴染んでくると、声質も違うのは明らかだった。


 ────夢……? 夢じゃ、ないよね。


 これが現実か、非現実かは分からない。

 でも、どちらでも同じことだ。ここに自分の意識がある以上、僕にとっては現実なのだから。

 早急に現状を把握しようと、頭を回転させる。


 僕は、傍に倒れている3人の様子を窺った。男が3人だ。

 皆、寝たふりをしている気配もなく、ぴくりとも動かない。生きてるのだろうか。


 一人は、鎧を着ている。一人は、フード付きのマントっぽいものを着ている。もう一人は、民族風衣装を着ている。

 それらを見て、僕は「ここはファンタジー風の異世界なのか?」と考えた。あるいは、ゲーム世界に迷い込んだような感じ……かもしれない。

 そう考えれば、自分が女の子になっているのも一応の納得がいく。つまり、この体は別人の、別キャラクターのものなのだ。本当の僕とは全く関係がない、ただの容れものなのだ。


「信じられないけど……」


 信じられないという自分の感情は別の問題として、どうしたら良いか。悩んでいるうちに、他の人間が目を覚まし始めた。


「うっ…………なんだ……? ここ、どこだ?」


 鎧を着た男が最初に起き上がり、よろよろと立ち上がった。周囲を見渡し、僕に気が付いた。

 男は短髪で黒髪。年のころは18、19と言う感じ。腰の所に鞘に入った剣を提げている。『剣を提げている』という異様さは、一際僕の目を引いた。


「大丈夫か? アーラ」


 え? アーラ?

 今、確かにそう呼ばれた。それが、僕の────このキャラクターの名前なのだろうか?

 鎧の青年は僕の返事を待たず、周囲の他の男達にも声をかけ、体を揺する。


「おい、イト、ルザク、二人とも大丈夫か? 起きろ」


 伊藤?と呼ばれた男が、先に起きた。

 魔法使い風の細身の男だ。魔法使い風の羽織りに、フードを被っている。樫の木を伐り出したような魔法の杖を手にしていて、文字通りそれを杖にして立ち上がった。


「はあ~ぁ、大丈夫だ……とりあえず……生きてる。無事に脱出できた?」

「あぁ、イトのおかげだ」

「そっか……。良かった。死んだと思った」


 もう一人の、ルザクと呼ばれた男も起き上がり、両腕を上げてあくびをする。


「ふわっぁぁ、よく寝た~あぁー……」

「ルザク、永遠に眠ることにならなくて良かったな。怪我はないか?」

「ああ、たぶん。本当に死にかけたな~。全員生きてるのか? マジでやばかったな」


 こっちの男は、幾重にも布を巻き付けた、放牧民のような恰好をしている。茶髪で、頭にも布を巻いている。結構ガタイが良くて、長身だ。


 というか、3人と比べて気づいたけれど、「僕」がかなり小さい。立って並ぶと、見上げなければいけない。


 男達はとりあえずの無事に安堵しつつ、持ち物の確認なんかをしている。

 倒れている彼らもまた、僕と同じ境遇────つまり、『ここはどこ、私はだれ』状態なのかと思ったが、そうではないらしい。


「あのー……すみません、ここは、どこなんですか?」


 僕は、問いかけた。そして、自分の声の可憐さに狼狽えて、咳ばらいをした。自分の口から、可愛らしい声が出るというのは、肉体の変化以上に、物凄い違和感がある。

 もしかして、この体は子どもなのかな?と思い、いや、この胸の大きさで、子どもということはないな、と思い直した。


「さぁ、どこだろうな。イトのワープで、廃墟からは出られたみたいだな」


 ────ワープ……?


「うん。座標を決める余裕が無かったから、適当に飛んだ。廃墟からそう遠くはないだろうと思うけど」


 魔法使い風の男が、そう言ってまたため息をついた。彼の名は伊藤じゃなくて、イト、らしい。糸……かな。


「廃墟? あの、それから、それより……私は……誰ですか?」

「ん? 何がだ? アーラは、アーラだろ」

「いや、私は、アーラじゃありません。っていうか、僕は、アーラじゃなくて別人です。中身は、アーラって人じゃないです。っていうか、ここ、どこですか? これは、どういうことなんですか? さっき、ワープって。なんで、急に僕はこんなところにいるんですか? なんで貴方たちは剣と杖とか持ってるんですか? まさか、ゲームの中の世界とか、絵本の中の世界とか、そういう映画みたいなやつですか? そんな馬鹿なことって! すみません、意味不明でパニックなんですけど……」


 喋り始めたら、止まらなくなった。早口で一気にまくしたて、ゼイゼイする僕を見て、男たちは、しばし呆然と、顔を見合わせた。


「えーと、急に変なことを言い始めて、どうしたんだ? アーラ」

「だから、僕は、アーラじゃありません! 別人です」

「────……大変だ……。アーラが……あれだ。ええと……なんていうんだっけ────……そう、記憶喪失だ」


 黒髪の青年君は、なぜか、そう断言した。


「記憶喪失?」


 違うだろう。僕は、即座に訂正した。


「いや、記憶喪失じゃなくて……僕は……つまり、中身はアーラじゃなくて、この世界の人間じゃない、別の人間、しかも、男なんですっ」

「アーラ……、大丈夫か? もしかして、さっきの戦闘で頭を強く打ったのか? 痛いとこ、ないか?」

「本当に大丈夫? 記憶喪失って、回復魔法で治るのかな?」

「治るよな? 外傷によるものなら、たぶん、治るんじゃないか?」

「アーラ、試しに、回復魔法を使ってみろよ、自分に対して。頭のところに回復魔法をかけてみて」


 男達3人が円陣を組むようにして、一斉に詰め寄ってくる。圧がすごい。


「えっ、いっ……でも……、絶対に、記憶喪失じゃないしっ……怪我もないから……」

「いいから! とりあえず、回復魔法かけたら治るかもしれないから!」


 男達は真剣な表情だ。

 僕はたじろぎ、少し悩んでから、尋ねた。


「あの────……回復魔法って、どうやって使うんですか?」

「わー! マジか!」

「アーラ、冗談だろ? 冗談だって言ってくれよ!」

「冗談でも怒らないから……な?」


 生憎、冗談ではない。僕は、狼狽える男たちの顔を上目遣いに見回した後、黙って首を振った。


「ああああ~……嘘だろう~……」


 絶望混じりの落胆の声が、揃った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ