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謎の男

 休みの日になりモモはリオたちと遊ぶために準備をしてからノアを誘った。


 ──何で俺がガキと遊ばなきゃならねーんだ!


「遊ばない」

「今日は校庭の遊具で遊ぶんだよ、来ないの?」

「当たり前だろうが」


 子供になったからと言って校庭の遊具で喜ぶほど子供じゃない、それに誘ってくる遊びを断るなんて凄く悪い奴だと 自惚れてドヤ顔向けた。


「気が変わったら来てね、待ってるよ!」

「だから、行かねーって!」


 そうは言ってもモモを玄関まで見送ったあと雷雨の隊靴に足つぼマッサージに付いてるような尖っている小石を入れてから台所へ向かった。

 台所では座敷わらしが床掃除をしてるが声をかけることも無く椅子を動かして棚の上にあるお菓子を探そうと漁っていると如月の声が聞こえてきた。


「何してんだ」

「...掃除」

「菓子の保管場所をピンポイントにか?」


 ノアは如月に無言の威圧を掛けられると仕方なく台所から出た。小さくなっても遊具で喜ばないがお菓子は欲する様になった、甘い物はそれほど好きではなかったのにノアの体では甘味がとても美味しく感じて止まらないのだ。

 することもないので森へ散歩に行くことにし、遊ぶ用の靴を履いて駆け出した。敷居を出る時には雷雨の悲鳴が聞こえてきたが振り返ることはなかった。


「いだぃぃいいいっス!!!!」

「何してるんだお前は...」


 座敷わらしが玄関を掃除したそうに雑巾を片手に経っているのに雷雨はそこでのたうち回って足を抑えていた。



 ✱✱✱✱



 「こっち行くか...」


 小石を蹴りながら普段は行かない無造作に草が育っている細い道に入った、お菓子をくれなかった如月の悪口を言っていると幼いノアが浮き上がってしまうほどの地響きが連発。また大猪達の群れかと思って辺りを見渡すが大猪たちは見当たらない、不思議に思っていると太陽に雲が掛かったかのように暗くなった。

 顔を上げて見上げてみると雲が歪んでいた。正確には学園全体に貼られている結界にひびが入ったから歪んで見えているのだ。


 「雷雨みたいに変な雲だな」


 ここは一国の領地ほど大きな孤島、端から端まで学園の敷地だから学園全体に張られている結界の凄さは幼い子供でもわかっているがノアは結界の歪みに気づいてないのか呑気に散歩を続けた。


 ──大丈夫、今はゲームでは少し先にあるデビュタントで一緒に出席するパートナーを選ぶ為の好感度アップの時期だ。それまでは何も間違えなければ大丈夫


 そう思って拾った枝を振りましていたが森の奥からモンスター達が大勢逃げるように走り出して来た。

 は口を揃えて「怖い!!」と怯えているから何かが起こったんだと気付いたが今度は校舎の方から爆発音が聴こえてきた。悲鳴が反響して聞こえてきて森から校舎の方へ逃げていたモンスター達はパニックでぶつかり合い、砂埃が舞って視界が悪いから渋滞をして危険だった。ふと、頭に浮かんだのはモモやリオたちのこと、直ぐに校舎の方へ向かうが爆発から逃げてきた人の波に逆らう行動のため中々進めずにいた。


 「ノア!お前どうしてここに!」

 「私たちここで遊んでいましたの、そしたら急に爆発が起きて...」


 校舎の横には子供の遊び場から現れたリオとミーナを見て無事を確認し一安心したがモモと春が見当たらないから2人はどこに?と問いかけたが爆発のせいで人の波に飲まれ、はぐれてしまったと聞いた。

 とりあえず爆発に巻き込まれていないのを知ってホッとしたが何故校舎が爆発したのか分からなかった。


 ──転生したら普通は先の展開が分かるもんじゃねぇの?どうして俺の知らない事が続いてるんだ...ッ!


「み〜ぃつけた」


 聞き覚えの無い声はノアの背後に現れた。嫌な予感がし、振り返らずとも分かる背中に走る冷気にゾクリと震えた。本能的に「やばい」そう感じているのに3人は足がすくんで動かない、人が溢れかえってる中でこの状況に気付く者は少なかった。


「ほんっと...大鬼王そっくり〜」


 男の張り付いたような人工的な笑顔は目も口も弧を描いており瞳に光はなかった、栗色の髪の毛はクシを入れたことないボサボサの髪だが項からは腰まで届く三つ編みが施されていた。蒼色がモチーフのアラビアンな服は髪の毛に似合わず上質なものだった。

 中々振り返らないノアにしびれを切らして腕を掴んで振り向かせた、顔を見るなり更に気に入ったとばかりにノアを連れて行こうとしたがリオは男に掴みかかった、もちろん ビクともしない。


「なにお前」


 男はノアの手を敢えて離すとリオの鳩尾を殴り付けて気絶させると膝から崩れ落ちる前に肩に担いだ。


「このガキ助けたいなら俺について来てよ」

「離せッ!!やめろ!」

「来るの来ないの?」


 ──誰だ、誰なんだこいつは!


 もとより男はノアを逃がす気は無いのか返事をしないのに苛立ちを見せ、首を掴んで持ち上げた。胸ぐらを掴まれるのには慣れているし今回もそうなのだろうと伸びてくる手を拒絶しなかったのが間違いだった、苦しくて足をバタつかせたが息が出来なくて次第に力が抜けてノアも意識を手放した。

 ミーナは恐怖で声も出せず、口元を両手で抑えてぷるぷると産まれたての子羊の様に震えた。助けを求めたくても周りにいる人達は自分達のことで精一杯になっておりノアが首を絞められたことにも気づいていない。


 「ノアッ!!」


 爆発音と騒ぎに駆け付けたが如月はノアを持ち上げている男に気づいた、その男を知っているのか突風のように苛立ちが心を満たしていく。


 「チャルズ…なんでてめぇが此処に!」

 「え〜?ノアちゃんを貰いに来たんだよ」


 チャルズと呼ばれた男は如月と知り合いなのか呑気と言えるほどこの状況にそぐわない笑顔で手を振る。

 今回の事件は黒幕は鬼ではなく、チャルズが仕掛けてきたのだとすぐに分かった、この男はそういう事を平気でする男だから。何を企んでいるのか如月が警戒していると白龍隊の到着に合わせて歪みの入った結界から鬼達が侵入。

 この鬼達はチャルズの奴隷だ、その証に額にはチャルズの所有物と云う奴隷印が入れられている。白龍隊(自分たち)を引き止める為ならば平気で生徒を殺すであろうこと分かっているから如月は成弥や雷雨にチャルズを刺激しないよう指示。


 「でも隊長!!」

 「いや、隊長に従うんだ。ノアを捕まえに来たのなら殺しはしないはず。」

 「じゃあねリュウちゃん」


 怯えて動けなかったミーナもチャルズの奴隷鬼に掴まえられたが如月達は学園の生徒を守るために連れ去られるのを見ているしかできなかった。

 連れていかれた先は学園からは遠く、帰り道も分からないほど離れてしまい着いた先は森の中に隠されたように建って居る小さな城だった。

 リオは2人より先に目を覚ましたのか豪華な装飾や衣装、宝石などがガラクタのように積まれている部屋を見渡してベッドに寝ている2人の姿を見つけたからすぐに駆け寄った。


 「ノア、ミーナ起きろ」


 ノアとミーナの肩を揺すって起こし怪我がないかを確認する為にミーナの服を捲ったリオは盛大なビンタを食らってベッドにひっくり返った。レディに対してハレンチだと怒るミーナもここがどこだか分からないのか高級な部屋に似合わないほど床にも高級品が散乱しており見栄えが悪い部屋にチャルズはろくでもない奴なんだと容易に想像できた。


 「ごほっ、...こほ」

 「大丈夫?ひどい痣だわ...」


 謎の男 チャルズによって絞められた首は痣がくっきり残っていた、子供相手でも手加減をしないチャルズは半鬼なら乱暴にしても壊れないと思っているのだ。


 ──チャルズ?誰だそれ、ゲームには出てこなかったキャラクターだ...


「悪い...俺のせいだ」


 狙われていたのは自分なのに2人を巻き込んでしまったことをノアは悔いて珍しく謝ったが2人は全く気にしておらず、この部屋から逃げられるか窓を調べたりしていた。


 「怖くないのか?」

 「怖いですわ、でも友達が一緒にいるから平気ですの」

 「まぁ、俺ら(子供)を人質に取るような奴だ、たかが知れてるだろ。...それにしても開かないな」


 ノアは攫われたのがこの二人でよかったと思ってしまった。


 ──モモだったら...モモが傷付いてしまう(案内人を失う)ことが怖くて先の事を何も考えられなかった。


 リオは心剣を取り出すと窓ガラスに向かって矢を放ったがビクともしなかったし傷跡も残らなかった、逃げられないようするためか部屋に散乱している宝石類を取られないようにする為かわからないがきっと魔法が仕掛けられているのだろう。ノアは首の痛みに慣れてきた頃 ベッドから降りた、うろちょろして画策していたミーナは一か八かで外に通じる唯一の扉にふれた、すると不思議な事に鍵がかけられていなかったのだ。


 「あら?これ出られるんじゃ...」


 ミーナは 出口を見つけたわ!私のお陰でしょう? と絵に書いたようなドヤ顔で振り返って見せたがリオは顔色は一瞬にして悪くなり ハッ、と息を呑んだ。

 開いた扉の外には鬼が執事の服を着て歩いているのが見てた、リオは鬼に気付かれる前に扉を閉めたが起きたことに気づいた鬼が入って来た。驚きのあまり腰を抜かしてガタガタと骨が鳴っているかのように全身を震わせるミーナは今にも泣きそうだった。


 「なんの用だ」


 怖くて動かない自分達とは違いノアは迷わず前に出て2人の壁となった。そんな優しいノアだから口数が少なくても...口を開けば減らず口に暴言、それに拍車をかけるように態度が悪くてもリオたちはノアが好きなのだ、それは" ノア "が欲しくて堪らなかった友情と言えるのだろう。


 ──ゲームで簡単にノアを切り捨てたコイツらは憎い、でも...ゲームのノアは自分の感情を伝えるのがとても下手だった。半鬼だから誤解されてたんだ、だってコイツらは...凄く良い奴らだから


 鬼は目の前に現れたノアを襲うことは無く凍ったように視線はノアを見つめたが、3人へ衣装を渡してから出て行った。


 「これを着ろって事ですの?」


 逆らっても良い事はない、3人がかりでも鬼に勝てる保証もない。だから与えられた衣装に渋々着替えた。


(クソ...俺にもっと力があったら。)


 リオは手のひらを ぎゅう、と音が鳴るほど握り締めて表情には悔恨(かいこん)の色が表れた。


「サイズはピッタリですわね...いつ測ったのかしら」


 真っ黒のシンプルなドレスですらミーナは着こなしていて、開かれている背中にはリボンが造られているがその先が長く 動く度に ひらひら揺れて蝶の羽を連想させる、攫われた時に取れてしまった金髪縦ロールはゆるやかなパーマになっていてキツい顔の印象も それだけ大分変わってしまった。


「今日はブスじゃないじゃん」


 ミーナは憤慨しそうになったが先に怒ったのはリオだった。


「バカ、お前はもっとこう...普通に褒められないのか?」


 燕尾服(えんびふく)を着こなしているリオは高貴家柄の子息そのものだった、溢れ出るオーラは眩くてノアはそれが気に食わなかった。


「褒めたつもりはこれっぽっちもない」


 ハッキリと断言する。

 ワイシャツにサスペンダーを付けて短パン姿のノアは衣装に着せられている感が否めない、本人もそれを自覚してるのか自分だけ2人とは違う衣装に不満を抱いていた。

 そこへ着替え終わったタイミングを見計らってか扉を開けた鬼は大人しく着いてこいと指示をして3人はついて行った。案内されたのはパーティー会場で参加している者は目元だけ隠せる仮面を身に着けて顔を隠していた


「まぁ、あの子が大鬼王の子供?」

「やだわ、目が合ってしまった」

「美しい...」


 様々な反応の声が聞こえてくるとノアは怠そうな顔を隠そうともしないで出席者たちを目で捉える。このパーティの主催者であるチャルズにはスポットライトが当たっていた、彼は有名な売買コレクターのチャルズ。ただの売買コレクターでは無くその世界では有名な男だ、剣技は琥珀の選抜部隊と渡り合えるほどの強さを誇りながら奴隷として鬼を従わせている人間と言うことで琥珀からも一目を置かれて危険視されている人物である


 「舞台の上に行こう、 おいで」

 「は?...いやだ」


 舞台へあげようとしてくるチャルズをつき飛ばしたがすぐに腕を掴まれ、ノアは拒絶する前に顔を近づけられた。常に笑っている様に見える瞳には光なんて一切篭ってなくて瞳に映る自分の姿を見たノアは自分が震えているのに初めて気づいた。


 「大人しく従わないとお友達の2人、殺すよ」


 二人を人質に取られたノアは舞台へあがるしかなくて大人達の好奇な目に晒された。憎悪の感情を向けられ、ある者は殺せ、ある者は私にくれ、ある者は奴隷にする、母に似た綺麗な容姿をしているノアを可愛いというものまでいた。


「俺が貰おう。」


 男の声に一瞬で静まり返った、現れたのは花柄の燕尾服に身を包んだサングラスをした男。その柄の服が似合う者などいないと思うほど独特のファッションをしているが「似合ってる」の言葉以外浮かばないほどに着こなしていた。


 「これはこれは...ルドアート閣下、お高いですよ」

 「構わない、さっさと用意しろ」


 チャルズは目を細めて笑いかけるとルドアートを別室へ案内させた。ノアは一通り見世物にされたあとルドアートが待っている部屋へ向かうために会場を出てチャルズに手を引かれながら歩いた、会場に残ったままのリオとミーナは奴隷鬼がボディーガードの様に傍に立っていて逃げることも出来ずにいたが貴族達に危害を加えられる心配もなかった。


「彼はとても紳士で金払いも良い、おイタはしちゃダメだよ」


 長い廊下で立ち止まりノアに視線を合わせて優しく話し掛けてくれたチャルズの顔にノアは唾を吐きつけた。


「誰がお前の言うことなんか聞くか」


 ノアが言い終わるとチャルズの目は一瞬にして攻撃的な目に変わる、見える所に痣はこれ以上付けられないためお腹を蹴り飛ばしてノアの抵抗が無くなるまで何度も蹴り付けた。商品には立場を理解させなくてはならない、目玉の商品や価値のある者は多少反抗的でもいいが主人に楯突くのはいけない。と教え込むのだ

 咳き込む事さえ出来なくなってグッタリ横たわっているノアをお姫様抱っこしてルドアート公が待っている部屋へ入室した。

 ふかふかのソファに降ろされると対面に座っているルドアートは「出て行け」と目でチャルズにアイコンタクトをし2人だけの空間となる。


「名はなんという」

(てめぇから名乗れよ、こっちは痛くて息するのもやっとなんだぞ)


 お腹を蹴られすぎてとても気分が悪く、吐き気まで込み上げてくるのを堪えるためにずっと眉間には皺が集まり不機嫌顔を丸出しにして質問に答える気はないという意思表示。

 売買コレクターのチャルズの幾つもある拠点の一つでしかない此処には様々なモンスターも捕らえられているのかずっと色んな声が聴こえてきて落ち着くことも出来なかったが如月たちが助けに来てくれると信じていた。


 「リヴィアに似ているな」

 「なん、で...知ってる」

 「リヴィアは私の義妹だ。私はルドアート=ルクセヴィー、ルクセヴィー家の現当主でもある。リヴィアは私の父が養子に迎えたが...学園を卒業した途端に彼奴は姿を消した」

 (ゲームでは名前だけの登場で気付かなかった...けどまぁこんなクソ野郎が居たら母さんが出ていくのは当たり前だ)

「リヴィアがお前の母親だろう?」


 言葉に出さずともノアの顔には思っている事が映し出されておりルドアートは鼻で笑った。

 初対面でここまで印象が悪い人は珍しいくらいだがリヴィアが母親であるのは認めて素直に頷く。


 「お前の名は...ノア=ルクセヴィーだ。消息を絶ったとはいえリヴィアはルクセヴィー家の者で、我々は家族だ」

 「...家族...」


 ノアにとって家族と言えるのは母親だけ、大鬼王の大きな手と優しい眼差しも思い浮かんだが...レーヴァティの兄弟も自然と脳裏に現れる


(駄目だ、思い出すな。アイツらは俺を捨てた)


 喉の奥が熱くなり瞳が涙を溜めてしまいそうになるのを堪えるのに少し手間取った。

 ルドアートがリヴィアの子だと知ったのは如月が琥珀に提出した報告書を興味本位で裏ルートで手に入れた事がキッカケだ、リヴィアそっくりなノアの写真は幼い頃のリヴィアを生き写している。


 「そんなの知らない、俺に家族は要らない」

 「この部屋から出ればお前はチャルズの玩具にされて飼い殺されるぞ。だから俺が買い取ってやった。」

「誰が、お前にそんな事頼んだ。てめぇが勝手にやった事を俺に恩着せがましく押し付けるな!」


 ノアは目の前のテーブルに置いてあった果物の山から果物ナイフを手に取るとルドアートに向けることはせず自分の首に当てた、その見覚えのある光景はルドアートの記憶を鮮明に蘇らせた。


 「俺はいつでも死ねる。チャルズを殺して...彼奴らを逃がしたら死んでやる。"誰の玩具にもなりたくない " 」


 その言葉には、その仕草には聞き覚えがあった。養子にきたばかりのリヴィアが義父に向かって言っていた言葉だ。ルドアートがなにか言おうとした時、爆発音が聞こえて琥珀が現れたと会場はパニック、違法なオークションを摘発された貴族たちを他所に如月たち白龍隊とルビナの桜蘭隊は奴隷鬼を優先して相手した。


 「迎えが来たようだな、行け」

 「お前に言われなくても行くに決まってんだろうが」


 ノアはミーナとリオを探すために部屋を出て会場に戻った、オークションを摘発され貴族たちも逃げ回るため会場は大混乱。本来なら直ぐに叩きのめせる鬼でも貴族を盾にされれば無闇に剣を振るえない、違法を犯したとはいえ貴族(人間)を傷つけるわけにもいかず苦戦を強いられた。

 如月のイライラは募っていき貴族ごと鬼を斬ろうとして成弥と雷雨に全力で止められていた。ノアはそのやり取りからしか見ていなくてバカを見る眼差しを向けた、リオとミーナも隅のテーブル下に隠れていて無事だったが逃げることも出来ないでいた。


「リオ!ミーナ!」


 ノアの声に2人も気付いてくれた。

 直ぐに2人の元に駆け寄ろうとしたが行く手を阻むようにチャルズが現れた。


 「パーティーが台無しだ、せめてお前くらい貰っていかないと割に合わない」


 自分を捉えようと伸びてきた手から逃げようと向かっていた方向とは反対方向に走り出した、2人が人質に取られることがないようとせめて距離を取ることが出来たら良いが子供の逃げ足などたかが知れている、直ぐに追い付かれて捕まりそうになったがミーナがフェロモンを溢れさせて皆の注目を集めた。フェロモンに当てられた鬼と人間は足を止め、その一瞬産まれた隙で白龍隊と桜蘭隊は勝負を決めた。


「でかした」


 如月は進行方向に居る邪魔な貴族を蹴り飛ばして瞬きするよりも早く瞬時に移動してチャルズの首を切り落とそうとした。けれどチャルズも実力者、攻撃を避けるとこの状況下でもまだ諦めて居ないのか逃げること無くノアに手を伸ばした。


 「させないッスよ!」


 雷雨はノアに手を伸ばしていたチャルズの左手を切り落としてからノアを抱きしめ、外へ連れ出した。


「雷雨!駄目だ、リオとミーナがまだ残ってる!」

「直ぐに保護されるッス」


 片手を失ったチャルズだがその程度で死ぬ男ではない、ポケットから取り出した注射器を肩に打つと血が垂れていた腕の先から触手がうねりながら伸びていき手が再生した。 その過程は気持ちが悪いものだが触手は化け物なんかでは無く皮膚細胞を増長させるもの。

 現在、琥珀の医者が学園と協力して開発している技術を目の当たりにした如月は情報が漏れていることにも腹を立てた、琥珀の医者はとても馬鹿だから漏洩させたのはきっと学園側だ。帰ったらやる事が増えたと溜息をつきながらもチャルズと決着を付けようと如月は真っ黒い炎を体に身にまとった。


「リオくんとミーナちゃんね?」


 ルビナはテーブルの下に隠れているふたりを保護をして陣営を構えている外に出した、リオとミーナが連れてこられるとノアは安心したのかホッと吐息を零し、張ってた気が抜けたのか座り込んだ。


 「ノア、とても勇敢だったわ」

「ルビナ隊長、後はよろしくお願いするッス!俺はもう一度中に戻るッスね」


 雷雨はルビナに子供たちを任せて如月が暴れている中に戻った、戦いが終わるまでルビナと桜蘭隊は3人を守るようにそばを離れなかったがチャルズが姿を消して逃げた後は捕まえられたモンスターや奴隷を保護するために別の忙しさだった。


「桜蘭隊は...わ、私の憧れです...!」


 ミーナは待っているあいだ思い切ってルビナに話し掛けた、それを聞いたルビナは目をパチパチさせて驚いたあとミーナと視線を合わせるようにしゃがんで笑顔になった。


 「光栄だわ、小さな子にまで憧れてもらえるなんて」

 「でも、剣あんま使わねぇからカッコ良くねぇ」

 「ノア!!」


 ミーナはデリカシーの欠けらも無い事に怒ったのかノアに掴みかかったがそれを抵抗する訳でもなく「事実だ」と他人事の様な顔をするノアにさらに怒ってしまった。ノアが謝罪しないと収まらないのにその気配がないから仕方なく兄貴肌のリオはミーナを引き剥がした。


 「ごめんなさい。ノアは人とのコミュニケーションが苦手で...でも悪気はないと思うんです」

(なんでお前は俺の事知ったように喋ってんだ)


 年相応の子供らしさが感じられず、大人びているリオの言葉に驚いたルビナは固まったあと吹き出すように笑ってしまい、ノアを膝に乗せて小動物を愛でるように頭を撫で回した。


 「大丈夫よ、ノアが口下手なのは知ってるわ」

 「口下手ってなに?」

「それはね...」


 ノアに優しく享受する姿はまさに親子の様でノアも珍しく気を許してるのか安心しきっていた。

 保護者代わりの如月達にでさえノアは気を許していないのを知っているからルビナは特別な存在なんだと直ぐに察した。

 如月達は後処理に時間がかかるとの事で桜蘭隊が子供たちを学園まで送る事となった。孤島に着く頃にはすっかり夜の12時を過ぎて門の傍で立ち止まった。


「友達を守ったノアは本当にいい子よ」


 膝を着いて視線を合わせるとノアはリオとミーナを見てから再びルビナに視線を向けた。


 「彼奴らは生きなきゃいけない。」

 「それは貴方もよ。…約束して自分を大事にすると」


 その言葉に返事をしなかった、できなかったのだ。まだ分からないことの多いノアだけれど一つだけ確かな事は自分の存在が人々に否定されるという事と、この世界で確実に生き残っていける確証もないから。


「約束よ、またね」


 子供たちを気遣って適度な速度で走っていた馬車は白龍隊の暴走馬車には敵わない、どれだけのタイムロスがあってあそこを出発したかわからないが白龍隊が戻ってくるのが見えたため ルビナはモモを抱っこして門まで迎えに来た戸川に頭を下げてから防衛任務へ戻った。

 後で雷雨から聞いた話しでは本来なら奪還作戦に桜蘭隊は参加しない予定だったがノアの事を聞き付けてルビナはわざわざ遠くから駆け付けてくれたのだ

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[良い点] チャルズがちゃんと頭狂ってて好き、チャルノア、、、 [気になる点] 特になし [一言] 特になし
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