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入学

一人一部屋が与えられるほど屋敷は広くて2階へ続く階段を上がり直ぐ左に行くと雷雨の部屋、その隣はモモの部屋。2人の向かい側がノアの部屋となり成弥と如月の部屋は1階にある。常に監視されているがノアやモモに取って与えられた部屋だけは自分だけの空間だった。

モモは自分の屋敷から琥珀の人が送ってくれた荷物や写真を飾っており、成弥や雷雨は基地から送ってもらった書類を運んでいた。だがノアは他のみんなの用に部屋の中に置く写真も荷物もないから敷布団に寝転んだ。


「このまま順調にいけばいいんだけどな」


頭の中でゲームの事を整理して居るといつの間にか時計はてっぺんを超えていた、子供の体では朝までオールも出来ず寝ようとしたのに微かに聞こえる泣き声に気付いてしまった。何処から聴こえるのかと泣き声を辿るように部屋を出るとモモの部屋の前に着いた。どうして案内人が泣くのか、分からないが放って置く訳にも行かずノアは無断で部屋に入った。


「ノ、ア...?」

「なんで泣いてんだよ」

「怖いんだ...僕は化け物になったんだよ?いつ殺されるか分からない...ここだって安全じゃないんだよ?」


小さな両手を胸元に当ててモモは声を殺すように泣いていた、入学式が近づいているからいじめられるのが不安なんだと話してくれた。


(案内人も、怖かったのか)


ゲームの中でモモはなよなよして居るからイジメをする子供たちの格好の餌食だった。それを分かっているが泣いているモモに追い討ちをかけるような事は口にしなかった。

攻略対象でも無くただの案内人なら変な恋愛に発展することも無い、同じ半鬼として嫌な思いも共有できるモモとは親友になれる気がした。ノアもそうなる事を望んだがそれでも悪態をつくことや悪役を目指すのを辞めないのは転生したばかりの時に見た夢を完全に忘れていて、良い子ちゃんじゃなければバットエンドも回避できると思ってるのだ。


「俺が絶対に守ってやる、お前を何者からも守ってやる。約束しただろ」

「...へへ、ノアはカッコイイね」

「だからもう泣くな、泣きたくなったら俺が何時でも傍に居てやるから1人で泣くな」

「うん!」


独りぼっちの2人が仲良くなるのは必然だった。

お互いに依存し合って支え合える存在はこの世界のノアにとって貴重な相手。


──こんな相手が居たら俺も死ぬ事はなかったと思う...神が死なないって誰が言い出したんだろうな。俺はあっさり死んだ。神力も与えられないまま下界に落とされて1人は怖かった。


その日夢を見た、ビルの上から見渡した時の街の映像がスローモーションで再生されてレーヴァティは涙を流して笑っていた、そしてそのままビルから飛び降りた。 その飛び降りる夢が妙にリアルで、地面にぶつかる寸前にノアは目を覚ました。


「起きろ、朝だ」


モモが寝たあと、自分の部屋に戻っていた。

起こしに来た成弥はノアの顔色の悪さを見て体調が優れないのかと声を掛けた。


「...怖い夢を見ただけだ、気にすんな」


その回答は成弥にとって意外な物で、ノアがただの子供のように思えた。小さい頃、如月も怖い夢を見て泣いていたのを思い出したのか 思わず口角が緩んだがノアは成弥の笑顔が怖くてゾクゾク鳥肌を立てた。


「顔洗ってくる」


眠い目を擦りながらゆっくり起き上がり1階に降りた、顔を洗っている最中にいつの間にか制服が置いてあったためそれに着替えてから居間に向かった。


「クラスはもう決まってるッスからね、1年生から3年生まではそのままクラス持ち上がり。4年生から6年生で力や能力でクラス分けするっス。8年生まであるっスけど7年生からは外へ行く実戦が始まるっす。琥珀に入れるのはクラスの優秀者上位6人までっスから2人にはその6人になってもらうッスよ」

(めんどくさい...なりたくない。なんで半鬼を嫌うお前らの為にこっちは命懸けで勉強しなきゃなんねーの?)


1度その事に不満を覚えてしまうとこの理不尽な環境に腹が立ってきてしまう。


「この学園は階級社会だ、能力や成績で階級が変わってくる。最高級はロイヤルスカラー、全校生徒の中で6人しかなれない天才の仲の天才に与えられる階級だ」

「ロイヤルスカラーも毎年いるわけじゃないんす、誰もが認める天才でなければならないんス..俺も狙ってたんスけど、結局1歩手前で卒業...」


思い出したのか悔しそうに話す雷雨は如月と成弥はロイヤルスカラーだったことを話した。

人間より鬼の力をもっている半鬼がロイヤルスカラーになりやすいんだと雷雨は教えてくれて、モモは自分も天才の中の天才になれるかもしれないと目を輝かせていた。


──モモはロイヤルスカラーにはなれない。


作中でもノアとモモはロイヤルスカラーを目指していたがモモは頭脳は良くても実戦がダメだった。誰ルートを選択してもモモは「案内人」だから琥珀にも入れないしロイヤルスカラーにもなれないのだ。


「ノア、一緒に目指そうね! 」

「......うん、そうだな」


校舎がたるエリアまでは雷雨に送ってもらった、お城のような外見の校舎にノアは楽しみなのか珍しく明るい雰囲気になったが馬車から降りると好奇な目で見られてしまい直ぐに明るい雰囲気も隠れてしまった。それに比べて泣き虫のモモは貴族のステータスとしてロゼストン学園は入学できることが凄いから行きたくて堪らないようだった。昨日は不安でないていたくせに、と思いながらモモが笑顔で安心した。


「入学式は直ぐに終わるから大丈夫ッスよ、それに俺が着いてるっす!」

(お前じゃ頼りないから成弥か如月連れてこいよ)


言いたくても我慢したノアは自分を褒めてから入学式が行われる歌劇場(かげきじょう)へと向かった。バルコニー席は5層になっており、自由席となっているから雷雨は2人のために席を用意してくれていた。


「ここだったら他の子の目にも映ることないっス!」

「え!?」


この席に驚いているのはモモだけだった。歌劇場の座席は座る場所によってその人の地位や権力が垣間見える。


「ほ、本当にここでいいの...?」

「そうッスよ、ここは嫌っスか?」


ミッテルロージェと呼ばれる中央ボックス席は舞台が真正面にあるため、最も上質とされる席で本来なら貴族の中でも上位貴族や国賓、王族が座る席なのに雷雨がミッテルロージェを取ってくれた事に驚いていたのだ。


「すげー、ここの会場見渡せる!」

「もう、ノア!お行儀良くしてよ」

「お行儀よくしなくたって、誰も見てねーよ」


長い入学式を終えて雷雨とは校舎の前で別れて教室に向かった、教室でも席は自由に座っていいのか既に友達を作っているクラスの子達は隣同士に座って仲良く話していた、けれどノアとモモが教室に入ると皆黙り込んでしまった。皆の視線を一斉に浴びてモモが泣かないか心配だったが、ノアと繋いでいる手のお陰でモモは大丈夫だと頷いた。


「あんま見てやんなよ」


皆より一回り大きい背丈にサラサラの黒髪は毛先が少し跳ねていた、ゴールドというより淡い黄色の目をした男の子はみんなに聞こえるように大きな声を出してくれた。


(アイツは確か...、あれ名前何だっけな。)

「ノア、奥の席に座ろう?」


モモとノアは空いている窓側の1番後ろの席に向かった、 縦長テーブルに長椅子は小さい1年生なら余裕で3人掛けで座れる大きさだった。後ろに座れば視線もそんなに浴びずに済むと安心して座ると丁度このクラスの担任と副担が入ってきた。担任はひ弱そうな内気な女性で小さな声で自己紹介をはじめた。


「3年間担任を務めさせていただきますモネア・バーグです。新任で至らないこともあるかと思いますが...よろしくお願いします。」


俯き気味に挨拶をするモネアは紫色の髪をポニーテールに結んでいて重い前髪のせいで目は隠れていた。

教師なのに人前で話すのが苦手なのか気の弱さもありオドオドした雰囲気も隠せていなかった。


「目より態度隠せよ」


中央前列に座っている少年たちの中から誰かが発言したが犯人はわからなかった。モモはそんな事言うなんて可哀想だと 眉を下げさせた。


(は?...悔しい、俺が言おうと思ったのに!)

「大丈夫だよ、...ね?」


拳を作って悔しさで震わせていたのに、モモはそれに気づくとノアが怯えていると勘違いしたのか慰めてくれたが否定する訳にもいかず苦笑いした。


「俺は副担を勤められる 戸川聡之(とがわさとし)だ。」


教師にしては体格が良い戸川は怖い印象を与えた、それに子供も好きそうではなく何故教師になったのか不思議な程だった。


「今年入学した半鬼(ハーフ)はお前ら2人だけだが安心しろ今学園には6人の先輩半鬼がいる。」

「あ...はいっ」

「分からないことがあったら彼らに聞くといい」

「教師のくせにお前は何もしねぇのかよ」


ノアの発言にはクラスがザワついた。

このシーンはよく覚えている、ノアとモモは教師ですら自分たちの事を生徒だと見ていなくてショックを受けたシーンだった。


「あっ、...私に聞いて下さい」

「アンタに聞いてないんだけど」


モネアがフォローに入ってくれたがノアは発言を辞めなかった、睨み合うように戸川と視線を交わりせると折れたのは向こうだった。


「聞きたいことがあるなら、聞きに来い」


ノアはその言葉を聞くと許してやるとばかりに顔を背けた、その後は校舎の説明などでその話が終わると休憩の時間に入った。

またおしゃべりを始めた子供たちだがモモやノアに話しかける人はいなかった、憧れのロゼストン学園に通えて嬉しそうだったモモは自分の存在が「害」として見られている事はポジティブに考えようと思っても隠されずに向けられる悪意に落ち込んでしまい笑顔が無くなってしまった。


「帰りにアイス買ってもらおうぜ」

「アイス?」

「何お前、アイスしらねぇの」

「知ってるよ!でもノア食べたことあるの?」

「俺の事バカにしてんの?」


人付き合いが無かったノアは他の人から向けられる視線も嫌悪感も当たり前の事なんだと気にしてはいなかった。休憩時間が終わるとモネアと戸川も教室に戻ってきて教壇の前に立った、これから行うのは1年生が毎年入学した日にする恒例行事だ。


「まずは五人グループを作ってください」


他の子達は何をするのか分かっている上に友達同士で直ぐにグループを作ったが当然のようにノアとモモは余った、半鬼と言うだけだ無条件に嫌われているがこうもあからさまに除け者にされるのはいい気分では無い。どうしようかとモモが考えていると時、先程の黒髪に黄色の目をした男の子が女の子2人を連れてやってきた。


「俺は瑠璃川(るりかわ)リオよろしくな、人数足りねぇから一緒にやろうぜ」

「うん、ありがとう!」

「私は桜春です、よろしくお願いします!」

「よ、宜しく!」


桜春は黄緑色の肩上までの髪を揺らして頭を下げ挨拶をしてくれた、雰囲気から優しいのは見てわかり丸顔にたれ目は可愛らしい印象でモモは頬を赤く染めていた。


「私はヴォルガ子爵の娘ミーナですわ、本当は小鬼と組みたくありませんが私に見合うレベルの子が居ないから仕方なく組んであげるのよ」

「金髪縦ロールは悪役令嬢の専売特許じゃないのか?」

「...え?」


悪役令嬢なんて言葉はこの世界にはなくてノアは口に出て居た事に自分でも驚いたから何事も無かったかのようにそっぽを向いた。

全員グループが決まったところで担任のモネアに変わり戸川がこれから行うことを説明した。


①1年生のレベルで倒せる下級モンスターを倒す

②倒し方は自由

③倒した数が多いチームが優勝。

この簡単な競走で分かるのは家柄や容姿の劣等は関係なく能力があるかないかだけ。


「ノア、見てよ。隣のグループ...僕達を見てるよ」


胸元で手をモジモジさせて困ったように眉を下げてるモモとは違いノアの態度は正反対でポケットに手を突っ込みながらそちらへ視線を向けた。

あからさまに敵対心を剥き出しにしているのはの家族で代々鬼殺しをしてる血統一族は同じ教室に半鬼が居るのが気に食わないのだ。


──気持ちの悪い奴ら。


ノアがそう思うのは無理もなかった、自分たちの血統が1番だと思ってる血統集団は必ずしも居てその血統に他の血を混ぜないように身内で結婚をして子を産む、その子供はまた身内と結婚する...の繰り返しだ。


「大丈夫だ。気にするな」


ノアはモモを安心させたあと手を差し伸べた、その手を握ったモモは笑顔になって大きく頷いた。


「でも…どうやってモンスターを倒すの?」


この競走は個々が持ち合わせている能力や開花しているなら異能の善し悪しを見るものだが今日までモモとノアほ自分の力を意思に合わせて使ったことなどない。その使い方や発動のやり方だって分からない状態だ。


「3グループ対抗のポイント制。範囲はこの校庭から森の中まで、川は超えるな。越えた先は3年生達の獲物だ。よし...今からスタートだ」


戸川の声と共にノアたち以外の2グループは直ぐに走り出した、出遅れたのを取り戻そうと走り出したが体力のないモモと春は直ぐに疲れたらしく足が止まってしまい、ミーナは泥が着くからと森の中へ入るのを拒否。ノアに至ってはこの競走にすら興味がないのかただ皆に着いてきているだけだった。


「こりゃ最下位だな」


この状況をどうしようか考えていた。

皆を森の手前まで連れてきたリオは当たり障りなく普通に振舞ってはいるがノアとは目を合わせようとせずどこか壁があった、そして心剣の弓を取り出して木々の方へ構えると弓を放ち跳ねていたうさぎ形モンスターを1匹倒した。


「おい、ウサギは殺すな」

「ノアはウサギがすきなの? 」


モモからの問いかけに頷いた。


「凄いです...私の異能は競争には向きません...」


春は申し訳なさそうに俯いた、この競走の役に立てないことに対して責められるんじゃないかという不安で落ち着きがなかった。誰も春を誘わなかったのはその「異能」のせいだ。そんな顔をしないで欲しいと思いつつモモはどんな能力なのかを問いかけた。


「植物を...どんな植物でも薬に変える事ができます...家は薬屋です。先祖代々薬を作ってきました、学園にも調達しているんです!」


各国のエキスパートが集う学園との取り引きはその品物の価値を何倍にも上げてしまう、取引をしたいがために365日通っては頭を下げる者までいる。雑草を貴重な薬草に変えられる「異能」を受け継いでいるからロゼストン学園にも薬屋の娘が入学できたのだ。


「使えない能力ね」


自分の事にしか興味のないミーナは制服のスカートに着いている汚れを落としながら意地悪を言った。


「そんな言い方ないよ!」

「そういうミーナの能力はなんだ?」

「私の異能はフェロモンですわ、様々な物を魅力できますの」

「使えねぇじゃん」


ノアの言葉に腹が立ったのか今できる精一杯のフェロモンを体から溢れさせた、そのフェロモンに春やモモは掛かったのかミーナを見て「かわいい!」「美しい!」と褒め称える声をかけていた。

突然ミーナを賞賛する言葉を言い出した二人を見てノアとリオは 顔を顰めさせた。


「今は調子が悪いの。それよりモンスターを...」


子供の悲鳴で思い出すのは鬼に襲われた時のこと、恐怖で顔が蒼白し小刻みに震え始めたモモを見て春が優しく手を握ってあげていた。森にいる下級モンスターは弱いからミーナのフェロモンにかかって暴れ出してしまったのだ。


「まずい...何処かへ避難するぞ!」


リオは矢を射ちながら道を切り開くように先頭を走った、下級モンスターと言えど凶暴化して暴れているから怪我をしてしまう恐れがある、だから安その時、誰かの悲鳴が聞こえてきた。それも1人だけでなく子供達の悲鳴が森の中で反響してこだまになって聴こえた。

全な場所まで逃げようとリオは判断したのだ。

逃げている途中で茂みの中から飛び出してきた狐のモンスターに春とモモが襲われそうになってしまい2人がしゃがんでしまうとミーナが体ほどある大ハサミでモンスターを倒したのだ。ミーナが戦える事と心剣がハサミなのに驚きながらもやっと森を抜けて川岸へ着いた。呼吸を整えるために立ち止まって居ると血統一族のグループが逃げるように川を渡ったのが見えた。


「あいつら!」

「逃げ場がないよッ!後ろから来てる!」


1匹倒したはいいが続々と現れるキツネのモンスターを相手して戦えないモモと春を庇いながら逃げるのは難しかった。ミーナも服が汚れる事を嫌がっていたのに今は自分と仲間のために汚れるのも気にせず戦ってくれていた、だからこそリオは判断に追われた。このまままでは全員怪我してしまうと判断したのか渡っては行けないと言われた川を渡った。


──この競技の結果は分かってた。なのになんでだ?

こんな風に川を渡ることもモンスターが暴れることもなかったはずなのに...また展開がかわったのか?


川を渡るとキツネのモンスターは追い掛けて来ようとはせず、リオたちが戻ってこないのを確認すると森へ戻って行った。


「...暑っつ」


川を渡ったる前はちょうど良い気温だったがここは南国のように気温が高くて制服のジャケットを脱いだ。大木の窪みに隠れて疲れた体を少し休ませて体勢を整えようとしたが茂みから狼のモンスターが現れた、リオが皆の前に出て弓で射抜こうとしたが、別の弓で射られた。


「落ちこぼれの雑魚は引っ込んでろ」


血統一族のグループのリーダー的存在の風早透だった

風早家と瑠璃川家はどちらも心剣が弓であるためライバル関係にあった。琥珀の幹部であったリオの母が亡くなってからは父親が瑠璃川家の当主としてやっていたが父親には当主になる器はなかった。それまでは瑠璃川家の方が圧倒的に実力もあり血統主義で有名な風早家は何かと比較されていた。

瑠璃川家は没落してしまったがそれでもリオは父親が好きだった、けれど リオを養うために琥珀に入った父は鬼に殺された。お金などなくてもリオは父が居てくれたらよかったのにそれを伝える前に父は死んだ。両親を奪った鬼を倒す為に琥珀に入ることを決めた、だから学園にコネのある母の知り合いに頼んで入れてもらったのだ。どれだけ馬鹿にされようと、憎い鬼の血が入ったノアとモモと手を組む事になっても絶対に琥珀に入らなければ行けなかった それが自分の使命だとリオは思っていた。


「お前こそ引っ込めよ、あ...もしかして突っかかってくんのってかまって欲しいのか?」


煽るような言葉に奇妙な笑みが唇の端に浮かぶノアの顔は清々しいほど風早を嘲笑っており、ノアの体に入る前に神だったとは思えないほど性格の悪さが垣間見えていた。


「な...っ! 」

「そうよ、透。あんな子達と同じ空気をすったら品格が下がるわ。」


風早華は風早透の従姉妹だが2人は婚約者同士でもある。風早達がポイントを稼ぎに行こうと背を向けて行くのを見たリオはノアに「お前性格悪いだろ」と笑った。同情したから庇ってあげたのに性格悪いと笑われたノアはもう絶対こいつに手を貸さないと心に決めた。

だが突風が吹いて子供の軽い体は浮き上がり風早たちは木に打ち付けられてしまった。ノアは仁王立ちのまま打ち付けられて尻餅を付いた風早たちを馬鹿にして笑っていたが風圧をうけて後ろにいたモモと春にぶつかってしまった。リオは咄嗟にミーナを風圧から守るように力強く抱きしめた。


「大丈夫か!?」


リオはミーナに声をかけて体に怪我が無いのを目視して確認したあと、ノア達の方を向いた。ミーナは男の子に触れられたことなど生まれてからある訳がなくて顔を真っ赤にして大人しくなった。「触らないで!」と怒られるとばかり思っていたリオは大人しいミーナを見て怖かったんだと勘違いした。


「ノア痛いよぉ...」

「完全に油断した!くそ!」


突風が吹いた方へ視線を向けると猪が居た。それも小さな猪ではなくゴリラほど大きい大猪が群れで姿を表していた。

風早は大猪を見て怯えながらも1歩前に出た、瑠璃川家の跡取り(リオ)に自分の力を見せつけようとしてるのだ。


「こんなモンスター俺が...」


弓を構えようとした瞬間に風がナイフのように鋭くなり頬を掠めた。避ける暇もなく頬を切られた風早は血何が起こったのか分かっていなかった、1年生に反応出来る相手ではないし"異能"を使うモンスターは3年生になってからだ だから副担任の戸川は川を渡るなと言ったのに気付いた時には風を操る大猪に既に囲まれていた。


「怖いよ...」


モモが恐怖で臆して後ろに退ろうと動いたが大猪はモモを見た、動く物に反応しているのか風を放ってきた。モモの傍には春だけでなく先の突風で吹っ飛んできた風早のグループの双子がいるのだ、それを見たノアは頭で考える前に体が動いていた。もう駄目だと目を閉じたモモと春の前にノアは立ち塞がると攻撃をまともに食らった。


「ノアッ!!」


自分では敵わないのを分かっていたリオはどうすべきかを考えて動けなかったのにノアは友達(モモ)のためになんの躊躇もなく壁になったのだ。


「...ば、馬鹿め。避けれないのかよ」

「..俺が避けたら 、守れないだろ」

「鬼の癖に何言ってんだよ!!」


ノアが身を呈して守ったのを見ていたのに風早はムキになってノアに怒鳴ったが大猪は風早に向かって走り出した。


────ドッウウゥウン!!!!!


ノアから放たれた覇気を受けた大猪達は巨大な身体を倒れさせたあと消えてしまった、ノア自身もどうやって出したのか分からないし未だにコツは掴めないがそれでも消えていった大猪の群れを見て一安心。

誰もが助かったと安堵したのに地響きが聞こえてきた、段々と近づいて来る地響きの正体に警戒して怯えていると姿を現した。熊のように巨体な大猪の主だった、先程ノアが倒した大猪の群れはこの主の仲間なのは直ぐに理解した。


《私の子供たちを倒したのは誰だ》


攻撃をまともに食らって肩やお腹から出血しているノアは制服に滲む血と静かに地面に落ちる血を見て 戦う事がこんなにも痛い事だと知った。大猪相手にこれだけ痛いのなら鬼相手はどうなるのか、この状況なのにノアはそんな呑気な事を考えるのを止めずにはいられなかった。


「ノアくん、これ...!」


リオと風早は弓を構えて警戒しているが春はやっと恐怖から少しだけ正気に戻ったのかなんて事ない雑草をむしり取って大事に握りしめて力を込めると薬草が完成した。桜家特有の異能だ、故に桜家は琥珀にも学園にも重宝されている。完成した薬草を渡されたノアは一気飲みした、直ぐに効果は現れて痛みがマシになったのかノアの呼吸は落ち着きを取り戻した。主がいつ襲ってきてもおかしくない状況にモモは打開策を考えて顔を上げると自分たちが大きな木の前にいるのを思い出した、大猪は木登りなど出来ないからモモは木に登るように皆へ告げた。


「俺だ、他のモンスターを殺したのは」

《ほう……声が聞こえる者が来たと風の噂で聞いたがお前だったか。正直な事は良いが、死ぬ覚悟は出来ているんだろうな》


それには答えなかった、生きるに執着するほど死にたくない訳じゃないが今死んだらモモを守れない、それは困ると思考をめぐらせた。


《 あの世で後悔するがいい...!》


ヌシが突進してこようとしている間、その場を微動だにしなかった。今自分が動いたら木に登っている皆へ攻撃が行ってしまうからだ。


「 死んだフリしたら見逃してくれっかなぁ... 」


この期に及んで死んだフリを考えたが実行はしなかった、残り2メートルという距離までヌシが迫ってきた時 ふわっとノアの身体は持ち上がり銃弾がヌシの足元を撃ち抜いた。


「川は渡るなと言ったはずだ」


自分を抱き上げた戸川を見てモモたちの安全が確保されたのを理解したノアは意識を手放した。



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