初めてのお勉強
入学までの1週間、モモとノアは毎日ひたすら遊んだ。ただ森を探検したり庭でボール遊びをするだけなのにこんなに楽しいのはノアがそれさえもさせて貰えなかったからだろうか。すっかりこの生活にも馴染んでノアとして生活していくことも受け入れた。
──如月と成弥は琥珀の仕事で忙しそうだし変に関わってくるよりいいんだけど...ワンコがこんな簡単に攻略出来るとはなぁ...。
モモと一緒にお絵描きをしている時にクレヨンで白龍隊の絵を描いた、態とブサイクに描いて嫌がらせをしたつもりだったのに雷雨は物凄く上手だと褒めて抱き締めてくれた。その日から仕事の暇をみつけてはモモとノアと遊んでくれた。
「今日はノアに琥珀と異能について説明するッス!」
「何で俺だけなんだよ、モモは?」
「モモは知ってるから話す必要がないんス」
──そっか、モモは生まれた時からこの世界に慣れてるもんな。それに比べて俺はこの世界に転生した影響からか記憶が曖昧だからいい勉強になるな。
雷雨は琥珀の話から説明してくれた。
琥珀には現在3万人以上の隊員が所属している、基本的に6人編成のチームであるが鬼を自ら狩りに行けるのは24部隊の選抜部隊だけ。
選抜部隊以外は街や15もある基地の警備に配属されたりするのだ、鬼に襲撃された際は選抜部隊が到着するまで警備の琥珀隊員が人命救助を優先に鬼と対峙するが基本的には選抜部隊以外が鬼と戦うのは禁止されている。
選抜部隊に入れる隊員の条件は複数あるが、中でも「異能」の有無と「心剣」の具現化はできる出来ないで大きく左右される。異能とは自身の中に流れる魔力が開花して不思議な術や力を操れる事をいう、心剣とは魔力によって自分の体内から取り出せる武器の事で、「剣」と名が付いているが「弓矢」にも「トライデント」にも「ハンマー」にもなるたった一つの武器だ。
(俺の心剣はなんだったっけな...嗚呼、だめだ思い出せねえ。こんな調子で生き残れんのか俺...!)
「異能にも様々なモノがあふんスけど、如月隊長の異能は最強と言われてるッス!...というか、如月隊長の存在そのものが最強なんスけどね!」
「 ...最強なのか」
──もし、死ぬフラグがたったら如月からは真っ先に逃げよう...嫌、すぐに捕まる可能性があるからワンコを盾にでもするか。
如月は心剣を数多く具現化させる事が出来るがそれは如月の異能ではなく桁違いの魔力を保有しているから、如月の異能は「自分の意思でしか消せぬ特別な炎」。如月が消そうと思わない限り何日でも燃え続けるが如月が許可した者は炎の影響を受けない、現在その許可を受けているのは白龍隊員だけ。
「へぇ、そんな不思議な力があるのか。成弥は?」
成弥は如月から"怪力ゴリラ"と言われているが異能は怪力ではなく「身体強化」、体を銃弾や刃物を通さないほど硬化させる事はもちろん、1キロ先で離れた場所で落ちたスプーンの音まで聴こえるほど聴覚を強化することも可能。「身体強化」は琥珀の隊員が開花しやすい異能として2番目に多い異能ではあるが普通の隊員は 身体のどこか一つしか強化 できない、それだけでも凄いが成弥は自身の体なら何処でも強化できる天才の中の天才。
「それって、超やばいじゃん」
「成弥さんって出来ないことは無いんじゃないかってくらい凄いんスよね...」
そんな天才の中の天才だから成弥は如月の相棒として常に傍らにいる。
「俺?俺はッスね…」
「いや、お前の事は聞いてないけど」
「体から電磁波を発せられるっす!」
「でん…じ、は?」
「そうっす、ノアに分かりやすく説明すると… 人の体だけでなく生き物や物質には微弱な電気が流れてるんス!」
「流れてない」
「静電気のせいでドアノブ掴んだ時にバチッてなったことないっすか?それって体内に流れる微弱な電気のせいなんス」
こいつは絶対に嘘をついてる!と思ったのにドアノブに触れた時に何度も静電気のせいで地味に痛い思いをしたことを思い出したのか黙った、それをみた雷雨は優しく微笑みかけて話を続けた。
鬼の身体も脳からの微弱な電気信号によって動いており、雷雨はその電気信号を自分の強い電磁波で弄るのだ、そうするとことで知らぬ間に相手はあやつり人形のようになる。
「そしたら、剣を使わずに敵を倒せるし電磁波で雷を呼び寄せて撃ち落とす事も出来るんスよ!」
「如月たちみてぇに心剣使わねぇのかよ。」
「使うっす!...と言いたい所なんスけど。俺の心剣は国宝級だから簡単に出せないんスよね」
「嘘つくな」
「嘘じゃないッス!!」
「あれ、口に出てたか」
「その代わり俺の真剣には電磁波を絡めてあるからひと振りすればその辺一帯は雷が落ちるっすよ!」
その後はひたすら雷雨の自慢話を聞かされそうになったが成弥がちゃんと教えないなら書類作業をやれ、と言うので脱線した話は元に戻った。
「琥珀の隊員で1番多い異能は桜蘭隊が使ってる"守護霊を呼び出す"異能ッス!」
その隊員と守護霊の相性が悪かったら呼び出せない。1番多いといえど異能を開花出来ずに選抜部隊を諦める隊員は何千人といるのだ。
「でも、守護霊で戦うってそんなにかっこよくない」
「そんな事ないッスよ、守護霊さん達は怪我を癒してくれる貴重な子も居るんス!琥珀には治癒異能は少ないっすから凄く助かってるス!戦えて治療も出来るってかっこいいッスよ!」
「そうか?」
「うちの医療班には疫病神が居るんで凄く有難いんスよ」
ノアからしてみると男の子だから剣や武器を振り回して戦う方がかっこいいと思ってしまうのか納得はしていなかった。
「ノアの異能はルビナ隊長からの報告によると大鬼王譲りの" 覇気 "ッスから、この時点で選抜を目指す最低限の条件はクリアっすね!」
「目指さないと行けないのか?」
「...。そうッスね、悲しいけどそれは抗えない現実ッス。」
「ふーん、異能なんか開花しなきゃよかった。そしたら琥珀を目指すこともなかったのに」
「ははは... ... けど、本当に異能が開花していても琥珀を目指さない子も居るっすよ。特に治癒系の異能が開花してる子は危険な戦場に行くのが嫌で入らない子が多いッスね、まあ治癒系が開花したら一生食っていけるし...仕方ないッスね」
決して責めている訳では無い口ぶりだが勿体ないとは思っているようだった、医学の面での異能はまだまだ未発達に近い人間達に比べて鬼は人を喰らうか自己治癒を自分でしてしまう。故に人間の治癒異能は重宝されるから琥珀の治癒異能の持ち主である疫病神は手厚い待遇をうけている。
「モモは、...異能が開花しないといいな。そしたら危険な所に行く必要も無いんだろ?」
「そうっすよ、ただ...モモは半鬼になったっスからね。異能は開花するかも知れないッス」
「もし開花しても黙ってるように言わねぇと」
──彼奴は善人だからな、ちゃんと俺が守ってやらないと。それにしても...ゲームの中じゃこの世界についての勉強なんかしなかったよな、雷雨への好感度を上げたから善意で教えてくれただけか...?
廊下で聞いていたモモは俯いた、ノアの考えと自分の考えが異なっていたから。モモはずっとノアといる為なら異能が開花するように訓練をするつもりだった
(ノアは...ボクと居たくないの...?)
ピシリ、と何かにヒビが入る音がモモには聴こえた。