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彼らとの出会い

二人が連れてこられたのはエリートや金持ちしか入れない"王立ロゼストン学園"。大陸から2000キロも離れた孤島というには大き過ぎる一国の面積がある島に学園は建っている。そのため「要塞」としても学園は有名だった。

様々な学科があるが琥珀学科が一番の難関であり先祖代々通う者、琥珀上層部の子や琥珀に入る才能のある者が多く入学している。

この国だけでなく琥珀の上層部や隊長達は貴族と同等の地位を持っており、琥珀・国王・神獣を祀る神殿は三権分立となっているが 琥珀の権威はその二つを凌駕するものとなっていた。


「桜蘭隊隊長、ルビナ到着致しました。」


大鬼王の子供が現れたという事は当然人間には脅威であったため大至急 国の重鎮達は招集されて学園の広い会議室に居た。ルビナが中に入ると円形になったテーブルを囲む様に招集された者達の姿があった、実際居るのは学園関係者とノアとモモを連れてきた桜蘭隊だけでその他の人は席に出席者の映像が通信で映されている。


「その子が大鬼王の子だという確固たる証拠はどこにある」

「はい、学園長。それは...私が彼に触れようとした時に瀕死の鬼がハッキリと大鬼王の子供だと発言した事。何十年も姿を現していない大鬼王があの子を見に姿を現したということ。あの子から溢れ出る力が大鬼王の力と似ていること。この三つが挙げられます」

「第三次鬼終大戦に参加したのであったな、そこで大鬼王を目にしたのか?」

「まだ、ここの学生であった頃に一度だけあります。もう十五年以上前になりますが...あの力を忘れるわけがありません。」

「本当に大鬼王の子ならば今直ぐに処刑にすべきだ!」

「そうよ、気味が悪いわ」


国家から招集された大臣達は処刑を望み、神殿側の司祭達は自分たちが預かると喚いている中。ルビナの目は笑っていなかった、彼女がこの会議に参加した理由は招集されたからではないノアを生かすためにやって来たのだ。ルビナのノアに対する想いはこのゲームで唯一無条件に味方をしてくれるキャラクターとしてのデータだろうか。


(自分達で何も出来ない人ほどよく喚くのね...)


ルビナがどうやって黙らせようか考えていると総元帥が杖を地面にガンッ!と叩き付けたおかげで部屋の空気は一瞬で静まり返り少し置いてから総元帥は口を開いた。


「大鬼王の子ならば力は琥珀を遥かに超えるだろう、我が軍の選抜部隊は24部編成から連なるが...鬼を殺す事に特化した彼らですら毎年6部隊は鬼共に全滅にされる。故に、その子が人間側に付けばどうなる。鬼を殲滅する我々は最強のカードを手にしたのだ。」


見解を告げると琥珀側の出席者は総元帥の言葉に賛同、例え今すぐに処刑するべきだと思っても総元帥の意見は琥珀隊員の意思になるのだ。琥珀に任せておけば大丈夫だろうと人任せな考えの国家側は何かあれば責任を琥珀に擦り付けるつもりでいた。


「鬼側に傾きそうになった瞬間、彼は処刑とする。こんなチャンスは二度とない。第四次鬼終大戦もいつ始まるか分からない状況だ。八年で必ずや最強の琥珀隊員へと育てろ」

「総元帥、大鬼王の子供と共に保護された半鬼も学園に入学させてはどうでしょう」

「殺すも生かすもその半鬼の事は隊長に任せよう、我々は大鬼王の子供さえ居ればいいんだ」

「わかりました」


彼等にとって重要なのはノアであってモモの事はどうでもいいのだ。半鬼は子供でも容赦なく殺されることがある、ルビナは判断を任せられる事を分かっていてモモを生かすためにノアと共に学園へ入学させることにした。

ノアの入学が決まると総元帥直属の部隊であり選抜部隊上位1番をずっとキープしている白龍隊(はくりゅうたい)隊長の如月(きさらぎ)リュウ、副隊長の成弥(なるみ)、隊員の雷雨(らいう)がロゼストン学園へ駆り出される事が決定した。


「ノア、モモ。今日から二人はロゼストン学園の一年生よ」

「で、でも...僕は..エリートなんかじゃないよ」


金持ちでも大金を積まねば入れないのを子供ながらに知っているほど王立ロゼストン学園は有名だ、卑屈になって俯いてしまったモモの隣でノアは面倒くさそうな顔をしてるのは学園が勉強する場所だと聞いたからだ。


──しまったな、どうにかして勉強しねぇ方法は...いや無理か、そもそも王立ロゼストン学園が主な舞台だもんな。


ノアは眉間を寄せていたがその顔を見たルビナは不安なんだと勘違いしたのか、小さな二人と視線を合わせるために膝をついた。そして優しく暖かい手でノアとモモの手を包んだあと目を合わせた。


「貴方たちが生きていた事はとても嬉しかったのよ。琥珀でも...救えない命はとても多い。その中でこんな小さな貴方たちが生きていたことはとても救われたの。いつか共に戦いましょう。鬼の脅威がない平和な世界にするために... ── ほら、迎えよ。」


ルビナが声をかけて二人を離すと青藍色(せいらんいろ)の隊服を着た三人が現れた。ルビナが頭を下げると成弥は律儀に挨拶を返してくれた。隊長である如月もルビナへアイコンタクトをしたが1番末っ子である雷雨はノアの顔を覗き込んだ。


「わぁ...ほんとに 大鬼王と同じ目の色ッス!目がルビーみたいにキラキラしてるのが特徴ッスもんね!それにしても宝石みたいに綺麗で触りたくなるッスね〜!」

(なんだこのうるさいヤツは...あ。白龍隊のワンコ(雷雨)か...)


ノアは3人が現れるとルビナの後ろに隠れてしまった、雷雨が顔を覗き込ん目を触りたくなると言ったからではなく自分へ向けられた静電気を受けたようなピリつく殺気を如月と成弥から感じたからだ。


「まだ、子供です。殺気立てないでください。大鬼王が姿を現す前までは普通の子供として過ごしていたのですから」

(ほんとだよ、腹立つ野郎だな!こいつらゲームでもノアの事を疑っては選択肢次第で直ぐに斬り殺してきたからな...警戒しねぇと)


琥珀最強部隊と称される白龍隊はたった三人だけ、琥珀は基本的に六人編成だが現在は三人の少数精鋭となっている。

白龍隊隊長の如月リュウは二十七歳、黒髪ポニーテールに研ぎ澄まされたような切れ長の瞳は怖い印象を抱かせるどころかキラキラと輝いておりスラッとした細身の体格で身長も176cmと平均身長だ、 その整っている顔は作中でも度々賞賛を受けていた、孤高の雰囲気を漂わせ蒼の貴公子と謳われて居る。他の攻略対象が「イケメン」とされる中で如月リュウは「美形男子」の部類だ。


── こいつ、鬼に父親殺されたんだっけ...。それで主人公()とモモを初めはゴミを見る様な目で見てくるんだよな。ゲームの中で1番人気な攻略対象なだけに絡みも多いから気を付けよっと...


白龍隊副隊長 成弥は三十歳、如月リュウの唯一無二の理解者という立場は親のような兄のような存在だ。右眼も如月を守るために斬られたのに常に黒い眼帯をしている、左眼だけしか見えないのにその鋭い眼は鉄の壁も壊す冷たさを感じ つり上がった眉の眉尻がキュッと寄ってるせいで余計に硬派な印象を与えるのだろう。181cmの高身長にがっちりとした肉体は女性を虜にするのに彼の眼中には如月しか映っていない。それが恋なのか、または忠誠を誓っているからなのかはストーリーを進めていくと決められる。


──ゲームの中で、無条件に鬼・半鬼を恨んでくるやつと違って こいつは脳筋と思われがちだけど結構冷静なんだよな。... 如月に合わせてるだけで世話焼きだった気がする。 ただキレる沸点は「如月」だから気を付けないと。


白龍隊の末っ子隊員の()()()()()()()()()()()は二十四歳、太陽の様に眩しい笑顔は愛嬌の詰め合わせで作中でも度々ワンコと表現されていたほど優しい笑顔を向けてくれる子犬系男子で白龍隊の中でも1番 攻略が簡単なキャラクターだ。


──まあ、こいつは警戒しなくていいか。選択肢間違えても嫌われる程度だったし。


身長も高い彼等は子供との接し方など知る訳もなく仁王立ちのままだから余計に威圧感を与えた。


「...悪かったな、大鬼王の餓鬼だと知ったからか、冷静さが掛けちまったぜ」

「別に」


ルビナとの別れの時間が来た。


「また会えるのを楽しみにしているわ」


ルビナの言葉と優しい笑顔にモモは泣きながら手を振り、ノアもルビナを見つめたあと小さく手を揺らした、 ルビナの姿が見えなくなるまで見送っている2人の姿はとても寂しそうだったが如月と成弥は気にしていないし気にかける気もないのか仕事の話をしているから雷雨は2人と馴染む為に笑顔で声を掛けた。


「これから卒業するまでの8年間宜しくッス!」


モモは人懐っこい笑顔をみせるがノアは無表情に近く何を考えてるのかわからなかった、表情を読み取るのが得意な琥珀隊員でさえ子供ながら子供に似合わないノアの表情は何を考えてるのかわからなかったし如月と成弥は理解しようともしなかった。


「ロゼストン学園の餓鬼共は基本的に寮生活だ。2人で一部屋与えられる...が、お前さんを他の餓鬼共と同じ寮に入れるのは危険だ。」

(はァ...?こいつ言い方知らないのかよ)


成弥の言葉にノアの眉間は寄った。


「別に俺は誰かに危害を加える気は...」

「違うッスよ!」


仲良くなろうとしてる雷雨はにこにこ純粋な笑顔を向けているがそれが逆に不気味でノアは雷雨と距離をとった、なのにモモはすっかり雷雨に懐いて手まで繋いでいた。

ノアは直ぐに人に懐けるモモのことを少し羨ましく感じた。


「ロゼストン学園は琥珀になる奴が多いが、特に名家の一族たちはプライドが高いから半鬼は格好の餌食だ。実践に見せ掛けて殺そうとする奴ら(バカ)までいる」


成弥は何かを思い返すように如月を見ると、如月は思い当たる節があるのかあの時の事は思い出したくないとばかりに視線を態とらしく逸らした。


「僕と...ノアを守る為に皆と違う所に住むの?」

「森の中に屋敷があるんスけどね、そこで俺達5人で住むんス!」


説明が終わると学園の建物から敷地内にある森へ向かう為にノア達は馬車に乗った。1番奥の席に座る如月は見ればわかる高貴な佇まい切れ長の目に綺麗な顔立ちをしていた。


「隊長は鬼退治する御三家の一族で代々総元帥に忠誠を誓ってるんス!如月隊長は " べっぴん " でしょ、けど怒ると鬼より怖いから気を付けて欲しいッス!」

(べっぴんってなんだ...?)


その意味を知らないノアは首を傾げたが聞くタイミングを逃してしまった。


(まずい、ノアの頭の中は空っぽだ。...ノアはこんなにも無知だったのか。そりゃ 簡単に殺されるよな)

「俺をしょっちゅう怒らせる奴はお前だけだ」

「ひえ...。2人には隊長と成弥さんにこき使われる俺を癒してほしいッス!」


ノアは抱きつこうとしてきた雷雨から離れて成弥の隣に座り直し「きっも」と瞳孔を開いた目で告げた、雷雨は暴言を吐かれて悲しいのかモモをお人形のように抱きしめていた。そんなこんなで石造りの壁に囲まれた豪華な和風の屋敷に到着。


「長らく使って居なかったにしては綺麗ですね」

「そうだな」


モモとノアは馬車から降りると雷雨に遊んできて良いと言われたから手を繋いで無邪気に屋敷の中へ走り出した。


「ただの子供っスね...とても大鬼王の子とは思えないっすよ」

「餓鬼でも鬼は鬼だ。殺す必要がある時は躊躇うな」

「はい...ッス」


如月は氷のような冷めた目に雷雨は頷くしか出来なかった、この空気を割ってくれてのは成弥で馬車に載せていた荷物を下ろすように言われた雷雨は手伝った。

けれど、突然ノアとモモの悲鳴が屋敷の中から聞こえてきた、中へ入ろうとするとモモだけが走って出てきた為、雷雨が抱き止めて如月と成弥は鞘から刀を抜こうとしながらノアの居る居間の襖を勢いよく開けた。


「お、女の子...」


襖を開けるとノアが腰を抜かしていた。驚いてるノアの視線の先には部屋の隅にて正座でお茶を飲んでいるおかっぱ頭の小さな女の子、見ただけで人間では無いとわかる容姿であったためノアは驚いているのだ。成弥は腰を抜かしているノアを片腕に抱き上げてやると如月はため息をついた。


「これは、座敷わらしだ」

「やっぱりお化けだ...!俺はこんなの知らない!」

「怖いお化けじゃないッス!学園に居る座敷わらしは家事全般をやってくれる、いわゆる 家政婦さんみたいな子たちなんス。だから怯えなくても大丈夫!危害は加えてこないッスよ!」


この国、この世界では義務教育は10歳になってからで、10歳になり学校や学園へ通うのだ。けれど普通は物心が付いてからこの世界には「人を喰らう鬼」「人間」「人に好意的だが中立の立場の妖怪」「神として崇められている神獣」、そして琥珀と共に鬼と戦う「ドラゴン」がいるのは知っている。だが生まれてからずっと隠されるように育ってきたノアは"座敷わらし"がなんなのかが分からなかった。


(画面越しだったら可愛かったのにリアルになると怖いじゃねぇか...!)


ただジッと見詰めて様子を見ていると座敷わらしはノアと視線を合わせて距離を詰めた、初めて見る人間でも鬼でもない者にノアは鳥肌を立たせながら逃げるように成弥の腕から肩まで上がり頭に抱きついた。


《...リヴィアに似てる...》


ノアの母であるリヴィアの名を聞くと何故目の前にいる女の子が知っているのか分からなくて言葉が出なかった、その名前を知る者は大鬼王と自分だけだと思っていたからだ。


「知ってるのか...?」


ノアの問い掛けに座敷わらしは頷く。


《リヴィア、良い子。坊 リヴィアすき》

「母さんはここに居たのか?」


ぎこちない言葉遣いで答えてくれた、座敷わらしが母を知っていると言う事は母がこの学園に居た可能性があるという事だ。


(母親を愛おしく感じるこの気持ちは...ノアの気持ちか。本当に...好きだったんだな、思い出すだけで泣きそうになる)


座敷わらしから返ってくる答えを待っていたのに雷雨が目の前に来た。


「もしかして...ノアちゃん座敷わらしの言葉が分かるの?」

「わかるも何も普通に喋って...」

《坊の言葉、人間わからない。》

「モモは分かるよな?」

「僕も...わからないよ」


ノアが座敷わらしのほうを振り返ると消えていた、戸惑った顔をしているノアをみて如月は目を細めた。妖怪は人間の言葉を話さないから如月たちは理解出来ない、モモが聞こえないという事は半鬼だから聴こえるという訳でもない。してはいけない事をやってしまったのかと思ったがこの世界に人間で万物の声を聴ける者は居ない、とても貴重な存在なのだ。


「大鬼王の子供の以前に...お宝だ」

「おい、雷雨。ノアをドラゴン養成場へ連れて行く。連絡しておけ」


如月はそういうと自分より足の遅いノアを受け取り脇に抱えると再び馬車に乗った。学園にあるドラゴン養成所へ連れていこうとしているが如月と2人きりは空気が重いのか憂鬱だったが雷雨の声が聞こえた。


(地獄過ぎる...勝手に足まで震えそうになるし...)

「隊長〜!俺達もついて行くっす!」

「勝手にしろ」


如月は窓の外を眺めながら人差し指で空中に円を描いた、それに合わせて御者が居ないのに馬車が宙を浮き猛スピードで走り出した、ジェットコースターの様に加速を付けて猛進するため怖いのかノアとモモは雷雨にしがみつき、声も出せずにいたのに雷雨と成弥は暴走馬車に慣れているのか涼しい顔をしていた。初めこそ雷雨も嘔吐してしまい二度と馬車には乗りたくないと泣いたが如月が有無を言わさずに蹴り入れて行く内に耐性が付いたのだ。


「気持ち悪い...」

「あはは!大丈夫、いつか耐性がつくッスよ!」


20分ほどして馬車から降りたがノアとモモは馬車酔いをして暫く動けなかった。怖くて泣いてるモモは雷雨に抱っこされて慰められているが如月は半鬼の癖に軟弱だと冷たい目をしていた。この学園は巨大な壁と結界があるのに学園内にあるドラゴン養成場も見上げるほど大きな壁に囲まれていた。


「お待ちしておりました、如月隊長」


養成所には似つかわしくない紳士の格好をした男はこの養成所の所長で如月たちに深々と頭を下げた。所長はノアを見ると何か言いたげな顔をしていたが連絡は雷雨がしっかりしてくれていたようで門の中へ案内してもらった、学園の敷地は何処まで続くのかと思うほど広大な草原の中で子ドラゴンやドラゴン達が日向ぼっこをしたり訓練を受けていた。


「ドラゴン初めて見た...!」

「かっこいい!」


子ドラゴン3匹が走り回ってるのを見たノアは全てのドラゴンの声が聞こえた。


「あの子寝てるのかな?」


モモは木陰に蹲ってる子ドラゴンを指差した。


「かくれんぼしてるんだってさ、あれで隠れてるつもりってかわいいな」


子ドラゴン達を一通り眺めたあと如月はここに居るような大人しいドラゴンでは無く建物の中にいるドラゴンをノアに見せる様話をした。モモは興奮した様子で雷雨に話し掛けた。


「琥珀には1部隊につきドラゴン一匹が居るんでしょ?...雷雨達の隊にも居るの?」

「すっげぇカッコイイ蒼色のドラゴンっすよ!...ただ先の戦いで怪我しちゃって...今はこの学園で療養中っす」

「なんで、この学園にいるの?」

「ここの学園は各国の様々なエキスパートが集まってんだ、ドラゴン研究の総本部はこの学園にある。だから専門家が多いこの学園での治療が1番だ。」

(なんでお前が答えるんだよ)


雷雨に聞いていたのに成弥が話し出すからお前じゃないの顔をしてノアは欠伸をした。

その時ノアは ハッ、と目を見開いた。思い出したのだドラゴン養成所に来るのは入学した後だと...どこかでストーリーがズレてしまったのかと冷や汗が止まらなかった。


「そうなんだ!すごい...!!」


広大な草原の中でも片隅にある大きな建物の目の前へついた、そして扉を開けようとした時ドラゴンの鳴き声が聞こえてきた。ノア以外には鼓膜が破れそうな程の鳴き声にしか聞こえない声は怒っていた、モモは怖いのか涙目になると中へ入るのが怖いとばかりに立ち止まってしまい雷雨に抱き上げられて中へ入った、人間1人が平気で出入りできる巨大な檻の中で足枷を付けられた紅色のドラゴンが居た。


「ドラゴンの血統、ヒュドラルドラゴンの子供です。今学園に居るドラゴンで1番強いドラゴンですが...その強さに比例して性格も凶暴で...檻に入れていないと駄目なんです。」


ドラゴンの中でも始まりのドラゴンと言われているヒュドラルドラゴンはもう目の前にしかいない、他は人間に狩られたり戦いで死んでしまったのだ。成弥やモモを抱っこしてる雷雨は建物の扉近くに居るのに如月はノアを誰よりも前に行かせた、所長は「子供には危険です」と伝えるが如月が振り返ると眼力に怯えて黙ってしまった。



《こんな暗い所は嫌だ!早く出せ!出てら捻り潰してやるけどな!》

「お前、外出たいのか」

《分かったようなフリをしやがって、聞こえないくせに!》

「...聞こえてる」


ドラゴンを見上げながら告げると先程まで大暴れしていたヒュドラルドラゴンが大人しくなった、そしてズッシリと重い身体を上げると檻に近付いて来た。所長は危険だと成弥に説明するが如月が良しと判断するなら成弥に止める権利はない。

ヒュドラルドラゴンは、ゲームの中でも「嫌われ者」の立ち位置だった。凶暴な上に言うことを聴かないから最終的には殺処分になる可哀想なドラゴンだ。


《俺の声を聞ける人間はそう居ない...お前鬼の匂いするな》

「俺もつい最近知ったんだ、...鬼と人間のハーフらしい」

《...でも...リヴィアの匂いも微かにする》

「...知ってるのか?」


ヒュドラルドラゴンは頷いたあと自分の檻の中へ入るように促した、子供の大きさなら容易く入れるだろうと。ノアはドラゴンに許可されたが入っていいのか分からないから如月の方を振り返ろうとした、


《"飼い主" の許可がなければ判断さえ自分で出来ないのか》


そう言われて黙ってる訳にもいかずゆっくりと歩き出した。

ヒュドラルドラゴンは寂しがり屋なのだ、だから他の子ドラゴンたちと遊びたいのに閉じ込められているせいで飼育員の言うことも聞かなくなった。


「何をしてるんです!中へ入っては行けないッッ!!」

(お前が何してんだよ、ドラゴンの気持ちもわかんない癖に所長なんかしやがって)


口に出来たらどれだけいいか、でも...やはり死にたくはないから自分を危険に晒すような事は口にできなかった。だからせめて ドラゴンの話し相手(友達)になれないかと考えた。

成弥は所長の肩を掴んで如月のする事を邪魔させまいと引き止めた。ドラゴンにとって丁度いい檻は人間にとったら容易く入れる大きさでスルりと中へ入り込むと立っているドラゴンに近づいた。その時──、突然ヒュドラルドラゴンが如月でさえ反応が遅れてしまう程 巨体では考えられないスピードでノアに向かって口を大きく開けて噛み付こうとしたが鼻先5センチのところで如月の剣が止めてくれた。


《...つまらん、怖がらないのか》


ドラゴンはつまらなそうに口を閉じると如月はまだ早かったと判断したのかノアを檻から出そうとしたがノアはその手を払い除けた。


「別に死んでもいい。いつでも俺を殺せるように琥珀の白龍隊が傍に居るんだ。」


ノアの言葉を耳にした如月達は驚いた、何も分かっていない子供の様で自分の死を受け入れて居たから。大人にだって早々いる訳もないし、ましてや小さな子供の言葉に雷雨は罪悪感で胸が締め付けられたのかモモを強く抱き締めた。ノアの真っ直ぐした目で見られたドラゴンは鋭い目付きからは一変した。


《リヴィアの子は殺せない...》


と寂しそうに呟いて背を向けるように座ってしまった。


「もういい、帰るぞ」

「まだ話したい」

「今さっき食われそうになったろ!」


自分が引き合わせたくせに襲われそうになった瞬間に帰ると言うなんて如月(こいつ)は意味がわからない、そう思ったノアは眉間を寄せた。


「あれは...」


本気じゃなかった、そう言いかけたノアだが言葉を発する前に如月に無理矢理腕を掴まれて檻から出されかけてしまった、だがまだ話したいノアは嫌がった。それを見たヒュドラルドラゴンはノアを守るように如月を尻尾で叩き飛ばした。


「──ッの野郎!!」


如月が炎を体に纏わせ剣を抜きかけたが所長が「殺さないでください!学園の所有物です!琥珀であってもドラゴンの虐殺は大罪!」と慌てた。

炎を帯びた如月に触れられるのは成弥と雷雨くらいで2人がかりで怒っている如月を抑えている間にノアはドラゴンに歩み寄った。


「...ありがとう」

《あいつに牙を止められた仕返ししただけ》

「母さんの話を聞かせてくれ」

《リヴィアに直接聞けばいいだろ》

「...母さんは死んだんだ 」


ヒュドラルドラゴンはその言葉を聞くと悲しいのか表情は変わらないが目を閉じてしまった。ヒュドラルドラゴンに取って声を聴けるリヴィアは唯一の友だちだった。悲しませるつもりはなかったノアは悪いことをしたと少し罪悪感を感じるが共通の話題が母のことだけだから仕方ないとも感じた。


《リヴィアは...万物の声が聞こえる不思議な奴で俺のことも"レル"って変な名前を付けやがったんだ》


レルは怒った口調をしているが本気ではなかった。寧ろ、その名を気に入っているようにも思えた。


《人間の成長は速い。...リヴィアが入学してから卒業まで瞬きをするようにあっという間だった…まぁ、変わり者だったけどな》

「母さんが生きてたら俺がこの学園に入ったこと喜んでくれたかな」

《どうだろうな...リヴィアは鬼が好きだったからなぁ…ここは鬼を殺す事を仕事にしてる奴が多い》


レルの話にノアは母の事を聞けて嬉しい反面、本当の息子ではない自分はレルを騙しているんじゃないかと虚しい気持ちにもなった。だがとても楽しい時間であっという間に夕方になり日が暮れるまで2人は話していた。モモもお腹を空かせているから帰ろうと雷雨に声を掛けられるとノアも頷いた。


「また、来てもいいか」

《...好きにしろ、フン!》


大きな尻尾を揺らして嬉しそうなレルの反応にノアは目を細めて笑顔になった。

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