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2章 神様は手違いを起こしがち

この僕、清水(しみず) 将大(まさひろ)は日本の、ありふれた一般家庭に生まれたごくごく普通の男の子だった。家族構成は父、母、僕、そして弟の四人。


僕と弟は二卵性双生児だった。だけども、とても瓜二つだったんだよ。まぁ、赤ん坊の冴えない顔なんて意外と見分けはつかないかもね。


いつもどこでも一緒で両親でさえ僕と弟を間違えることがあったらしい。


でも、最初に異変に気付いたのは僕だった。やっぱり、一番近くに居たからかな。四歳になって、幼稚園の遊技場で遊んでいた時のことさ。鬼ごっこで一回も弟にタッチ出来なかったんだ。


些細な事だよ。実際、物心ついて間もない子供の問題さ。でも、当時の僕はとてつもなく悔しかった、それだけは覚えている。



それから僕は弟に一勝も出来なかった。



勉強も、運動も、家事に遊戯、優劣のつくものはあらゆることに於いて僕は弟に劣っていた。



僕の弟は俗に言う天才ってやつだった。



県内どころか全国にだって同学年で弟に勉強で敵うやつはいなかった。青春を全て捧げたスポーツ少年たちでさえ弟に食らいつくので精一杯だった。


それでいて、人格者だっていうから完璧な弟だよ。

だけど、それこそ僕にとって苦痛だった。全てを持ち合わせる弟が、何も持っていない僕に普通に接してくるのが苦しかった。


勿論、周囲に比べられることも苦痛だったよ。だけど、何よりも弟と話す時間が僕にとって苦痛だった。


だから小中高では弟とは別の友人グループに居た。

一緒に帰りたくないから帰宅部で真っ先に帰った。


両親を上手いこと言いくるめて部屋を分けてもらった。そうやって今までどうしようもない劣等感に耐えてきた。



そして歳を重ねること18年。



県外の大学に合格した今日、生まれて初めて兄弟喧嘩をした。


喧嘩、というより一方的なものだったよ。きっかけは些細な事すぎてよく思い出せない。でも、気が付けば兄として言ってはいけない罵詈雑言をまくし立ててた。


それから冷静になって、それでも落ち着いた弟の顔を見て、いたたまれなくなって家を飛び出した。


冬を越したとはいえ三月の夜は冷えたよ。部屋着姿だった僕は特にね。それでも走って走って走り続けて。疲れて足を止めて…それから………


あぁそうだ思い出した。喧しいクラクションの音が耳の奥まで響いて─────僕の人生は幕を閉じたんだ。


───────────────────────

「どーしてボク様が君のしみったれた話を聞かなきゃいけないのヨ。」


真っ白な世界で中学生ほどの男の子が悪態をつく


「しみったれたって酷いなぁ。君が自己紹介をしろって言うもんで僕はこうして身の上を掻い摘んで話したんじゃないか。」

「普通に名乗れってことだヨ。まぁ君の名前も人生も全部知ってる(・・・・)けどネ。」


男の子が指を鳴らすと真っ白な世界にこれまた真っ白な机と椅子が現れる。座りなヨと促されるままその椅子に座る


「それで、ここは天国ってことでいいのかな。僕、最期に悪いことしちゃったからさぁ。そこのとこ、結構心配なんだよね。」

「安心しなヨ。ここは地獄じゃないヨ。でも、天国でもないネ。ここはボク様だけの空間だヨ。神の間とでも言おうかナ。」

「僕の認識だと神様がいる場所は天国なんだけどねぇ。」


でも確かにここには天使の姿もないし、美味しそうな果物の生っている木もなければじっちゃんばっちゃんもいない


「それで、僕は神様に呼ばれでもしたのかな?」

「そーだネ。君の死因は大型トラックに轢かれたことなんだけど、本来死ぬのは君じゃなかったんだよネ。」

「死に損なのかな?あ、でも生き返らせなくていいよ。僕は現世に未練はないからね。というか弟とお別れ出来て安心してるまであるよ、うん。」

「…どうやら精神がやられてるみたいだネ。まぁボク様が原因だけどネ。とりあえずこれでも飲みなヨ。」


再び指を鳴らすと机の上にコーヒーのようなものが現れる。ちょうど喉が乾いてきたところだ。ありがたくいただこう


「菓子もだそうかナ。少し昔話をしようじゃないカ。昔々…具体的には19年前のことだネ。」


そんなに昔じゃないね。お、この苺のショートケーキのようなもの、コーヒーと合うなぁ


「退屈で仕方のないボク様は新しい遊びを思いついたんだヨ。」

「神様って退屈なんだね。」

「それは現代に人類史上最高の天才が現れた時、周囲はどんな反応をするかを観察する遊びだヨ。」


ケーキを食べる手が止まった。そんな僕を気にすることなく神様は話を続ける


「歴史上、多くの天才が人類の発展に尽力してきたヨ。が、彼らの多くは周囲に迫害されたって話は有名だよネ。死後に評価された偉人も少なくはないネ。そんな天才が現代に現れた時、凡人は彼を殺すのか…ってネ。」

「そんな戯れで僕の弟は誕生したってことか。」


正解だヨと言わんばかりに笑顔で拍手をする神様。

…そっかぁ神様の遊びかぁ。そりゃ誰も勝てないわけだ


「あんまり怒ってないネ。ま、兄として君がどう接するかってのは見ていて飽きなかったヨ。10歳の時に呪いの藁人形作ったのは傑作だったネ。この時代に藁人形なんてネ。」

「ヤダなぁ恥ずかしい。結局効果はなかったけどさぁ。」

「そりゃ君の弟はボク様に魅入られた存在だからネ。子供の遊びなんて効かないヨ。」


街の図書館で必死に調べて作った自信作だったんけどなぁ


「とまぁ、君はボク様の玩具としてもう少し生きてもらおうと思ってたんだヨ。少なくとも事故死なんてさせるつもりはなかったネ。」

「でも実際僕は事故死だよ。そこのところどうなの神様。」

「あのトラックは特別製でネ。聞いたことはないかナ、『トラックで異世界転生』なんて話。」

「そういえばそんなこと友達の一人が言ってたような気が…」


友達の尾宅(おたく)君がそういった本が増えてるなんて言ってたっけ


「つまるところアレがそのトラックだヨ。本来轢かれるはずの人間は生き延びてしまってネ。君のせいで予定が狂ったから君に代わりに転生してもらうヨ。」

「ふーん、ちなみに拒否権は?」

「あるけど君の魂は永遠に『無』を彷徨い続けることになるヨ。」

「それは嫌だなぁ。じゃあ大人しく転生させてもらうよ。」

「その返事が聞けて良かったヨ。」


神様が笑顔を浮かべる。それは、これから新しい玩具を買ってもらった子供のような無邪気な笑顔だ。


神様が手を振れば今まで食べていたケーキとコーヒーが消失する。そして次に机と椅子も消失する。

だが、僕が尻もちをつくことはなかった。気が付けばどうやら僕の肉体も消失してしまったみたいだ


「喜びなヨ。君は向こうの世界の天才に転生するのヨ。弟の見た世界、君も見られるといいネ。」


視界が暗くなっていく。いや、視覚だけじゃない。五感全てが鈍くなっていっている


「それじゃまたいつの日にかネ。シミズ マサヒロ。」


視界が暗転する。先程までの真っ白な世界とは正反対の、どこまでも広がる闇の世界。

そこに仄かな熱が生まれる。次第に全身へと広がる。瞼があることに気付き、開いてみればボヤけた視界が少しずつ明瞭になっていく。

十秒ほどで日本家屋とは明らかに違った、木造の天井に吊り下げられたランタンが見えた。


どうやら異世界転生とやらは完了したようだ。

では早速異世界にシミズ マサヒロの存在を伝えてやろう。


うーん、悩むけど無難に「シミズ マサヒロ参上!」にでもするかな。


全世界に轟かせんとばかりに大きく息を吸い込み──


「おんぎゃあ!!」


文字通りこれが僕の異世界転生、その産声となった。

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