第四話 僕と彼女と足ピンドリーム
その日、僕は夢を見た。
僕の正面で制服姿の玉石さんが机に腰をかけている。左足は机の上に乗せ、右足は前方へとピンと伸ばしていた。足を攣らせるためだろう。
僕は床に座り込んで、そんな玉石さんを見上げていた。
夢の中の玉石さんは何故か犬の首輪をしている。僕の願望なのだろうか。そんはバカな、僕は普通の青少年でそんな特殊な性的嗜好は持ち合わせていないはずだ。
「坂井くん……一緒に宇宙……感じよ……?」
玉石さんが妖艶に微笑みながら脚を僅かに開くと、黒のタイツ越しに下着が見え――見えなかった。なんと、玉石さんは下着を履いていなかったのだ。
「た、玉石さん!? な、なんで!? なんで下着を履いてないのさ!?」
そう言いながらも僕の視線は玉石さんの下半身に釘付けになってしまう。あの黒いタイツの向こうにはきっと未知の世界――――宇宙が広がっている。そう思うと目が離せなかった。
「それはね坂井くん……あなたにも宇宙を感じてほしかったからよ――――はぁっ……はぁっ……あっ、あぁっ、足つるっ――足つりそっ――」
玉石さんが息を荒げならがら右脚がピーンと張ると、その身体がビクビクと跳ね上がる。
――――ああ、玉石さん、君はどこまでも宇宙的だ。
夢の中の僕はわけのわからないことを考えながらも、玉石さんのその淫猥な姿に興奮しっ放しだった。
「玉石さん! 僕も! 僕も宇宙を感じてみるよ! こう!? こうすればいいの!?」
僕はもうたまらなくなり、床に座ったままの姿勢で右脚を突き出し、ふくらはぎに力を込めて足ピンした。
「そ、そうっ、上手よ、坂井くんっ……あなたと一緒にっ、一緒に宇宙を感じたいのっ……」
玉石さんのいやらしい声に、僕の宇宙と海綿体はどこまでも膨張して止まらない。
僕のズボンに張られたテントに気がつき、玉石さんはくすりと笑うと、自分の履いているタイツに爪を立てた。右脚の太もものあたりの黒色がぴりぴりと伝線していき、白い肌が露わになっていく。
――――それはまさに白い宇宙、否――ブラックホール――違う、ホワイトホールだった!
その白い素肌――ホワイトホールから加速度的に放出されたエロスは僕の脳髄に直撃し、僕の足ピンは更に加速した。
「ああーっ! つ、攣る! 僕っ、僕もう攣っちゃいそうだよ! ほら見て玉石さん! もう足がピンピンだよ!」
叫ぶような僕の喘ぎ声を聞いて、玉石さんは満足気だ。
「ふふ……坂井くん、もうピンピンでビンビンね……」
そう、僕は玉石さんの言う通りピンピンでビンビンだった。語彙力が崩壊するほどに、もうすごいことになっていた。ピンピンでビンビンだ。
「はぁっ……はぁっ……一緒に宇宙……感じよ……?」
玉石さんが息を上げながら、僕の方へと右脚を伸ばしてくる。
玉石さんのピンピンになった右足が、僕のピンピンになった右足に触れたその刹那――僕は宇宙を見た。
それは例えるなら、足の先から脳天まで、全身に電流が走ったような感覚だ。
「ああっ、もう攣るっ……! 攣っちゃうよっ……! いい!? 僕もう攣っちゃってもいいのかな、玉石さん!?」
懇願するように喘ぐ僕を見て、玉石さんは淫らに笑って、囁いた。
「……いいよ、攣っちゃえ、坂井くん」
「ああぁぁっ、す、すごい! すごい攣る! すごい攣っちゃうよぉぉ!」
僕は足つりの宇宙を感じた瞬間、こむら返りで夢から覚めて、ベッドの中でのたうち回った。痛みにより意識が急速に現実へと引き戻されていく。
「あっ、痛っ!? やば! マジでやばい! イタタタタ!?」
慌てて上体を起こし、自分の脚を掴んで筋肉を伸ばそうと試みるが、こむら返りはなかなか治らない。
「痛い! めっちゃ痛い!? 何これ!? 全然治らないんだけど!? これが宇宙なの!?」
だとしたら、全く快感なんかじゃない。あるのはただ激痛のみだ。
夢の中では僕は玉石さんの言う宇宙を理解できそうな気がしていたが、現実では全然そんなことはなかった。
「朝からうっさいわね、何してんのよ」
姉さんがノックもせずに僕の部屋のドアを開けてきた。
姉さんは仕事に出かける準備をしていたのか既にスーツに着替えていて、口には歯ブラシを咥えている。
「……うわ、変態かよ」
そして足ピンしている僕と、その股間に張られたテントを見ると、それだけ言って出て行ってしまった。
「姉さん!? これは違うんだって!? いや違わなくないけど! 僕も男だから朝にこうなるのは仕方ないんだよ!? 姉さーん!?」
しかし姉さんはもう既にそこにはいなく、僕の虚しい弁明だけが家に響き渡った。
それから僕は身内に醜態を見られたことに一人涙を流しながらこむら返りと格闘し、それがどうにか鎮まったあとに大変なことに気がついた。
「……パンツ洗わないと」
家は僕と姉さんの二人暮らしのため、姉さんが仕事に行った後は家にいるのは僕一人だ。
一人残された家で汚れたパンツを洗いながら、色々な意味で自己嫌悪に苛まれた僕は、その日学校を休んだのだった。