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第三話 僕と彼女と肌色の風船Ⅱ

 僕は風船の口に空気入れを差し込んで、しゅこしゅこと空気入れを動かして風船を膨らませていった。


 風船は全くの無作為に選んだのだが、僕はよりにもよって肌色の風船を膨らませてしまっていた。しまった。


 ――――エロいことを考えて肌色を選んだと思われたらどうしよう。


 しかしそれは僕の杞憂だったようで、玉石さんは風船の色に関しては特に気にする様子もなく、風船が膨らんでいく様を眺めていた。


 肌色の細長い風船が、ムクムクと棒状に膨張していく。


「どこまで膨らませればいいの?」


「どこまでもよ」


 僕の問いかけに対して、玉石さんはさも当然のように言い放つ。


「いや、途中で止めないと割れちゃうでしょ!?」


「それがいいんじゃない! 割れるか割れないかの瀬戸際にある風船に触れる……そこに新しい宇宙がある気がするの……!」


 玉石さんがそう言いながら、肌色の風船の先端にそっと触れる。


「あっ……すごい、もうパンパン……」


 玉石さんは風船をさすりながら、うっとりとした。

 狙っているのか天然なのか定かではないが、その台詞と仕草は僕の股間を直撃し、海綿体へと血液が送られていく。


 そうして僕の股間は風船と同じように膨らんでいき、ズボンがパンパンになってしまった。


 幸い玉石さんの意識は風船に向いているため、僕の異変には気がついていないようだ。


 しかし、このままではいつか気づかれてしまうかもしれない。そうなってしまったら大変だ。

 僕は大変な変態として校内で噂になってしまい、学校に居場所がなくなってしまうかもしれない。


 僕は風船を膨らませながらも、どうにか自分自身のことを鎮めようと試みる。


 目の前にいるのは玉石さんじゃない。姉さんだ。そうだ、僕が姉さんに欲情することなどあるはずがない。


 姉さんは子供のころ、僕にバッタを食べさせようしたり、ロケット花火を僕の尻に挿して発射させようとした外道だ。

 この辛い記憶を思い出せば、こんな状況であっても僕は平静になれるはずだ。


 ――――よし、少し落ち着いてきたぞ。


 ズボンに張られていたテントが畳まれていくことを確認し、僕は気になっていたことを質問してみる。


「なんでバルーンアート用の風船なのさ? 普通の風船じゃダメなの?」


「普通の風船だとすぐ割れちゃって、宇宙を感じる暇もなかったの。その点バルーンアート用は割れにくく作られてるからね……きっと宇宙を感じられるはずよ……」


「い、いや、もう限界でっ……全然入っていかないんだけどっ」


 肌色の風船はもう限界とばかりにパンパンに膨れ上がり、これ以上の空気の受け入れを拒否している。


「ダメよっ、もっと頑張って坂井くんっ! もっとっ……もっとたくさん入れてっ……」


 僕は玉石さんの声援を受けて、限界を超えて風船に空気を入れようとする。そうすると徐々にだが空気が入っていき、肌色の棒状の風船が限界を超えて膨張していく。


「あんっ……あぁっ、すごいっ……パンパンではち切れそうっ……」


 そうすると、玉石さんがまた僕の股間に直撃するような言葉を言いながら肌色の棒状の風船――その先端をツンツンと突いた。


 ――――ユニバァァァス!!


 それを見た瞬間、僕の海綿体が宇宙的な叫びを上げ、いきり立った。おいバカやめろ。


「ハァハァ……もっとっ……もっと入れてっ……坂井くんもっとぉ……!」


 玉石さんは宇宙を感じ始めたのか、息を荒くしながら風船を両手で包み込んだ。目にはハートマークが浮かび上がり、口元からはよだれを垂らしている。


 玉石さんの淫靡いんびな姿に僕の理性は吹き飛び、僕はもうがむしゃらになって風船に空気を送り込んだ。


「ハァハァッ……た、玉石さんっ……ど、どうっ……?」


 パンパンになった風船に空気を入れるのは結構な重労働で、僕の息も上がっていく。


「さ、坂井くんっ、す、すごっ……どんどん入ってくよっ……ああンっ……もうっ……もうすぐ宇宙っ……宇宙感じそうっ……」


 風船が限界を超えて膨らんでいくに連れて、玉石さんの宇宙、そして僕の股間も限界を超えて膨らんでいく。


 空気を入れるのに酷使をした僕の腕はもう限界だ。股間ともどもに、もうこれ以上は無理だと悲鳴をあげている。


「た、玉石さんっ、ぼ、僕もうっ、限界だよっ」


「感じるっ! 宇宙感じるぅぅぅ!」


 玉石さんは身体からだをビクビクと震わせると、強く風船を握りしめた。



 ――――パァァァァァン!



 次の瞬間、風船が大きな音を立てて破裂した。

 平常時であれば間違いなくびっくりしたと思うが、僕も玉石さんも頭がどうにかなっている状態だったため、風船が割れたことには全く動じなかった。


「ハァ……ハァ……ああっ……す、すごいっ……こんな宇宙……はじめてっ……」


 玉石さんが力なくその場に崩れ落ち、僕の脚にしがみついてくる。この姿勢はまずい。何故なら玉石さんの顔の正面には僕のテントが張られている。


「ちょ、ちょっと玉石さんっ、た、立ち上がってよなっ」


 僕は慌てて飛び退こうとするが、玉石さんはまだトランス状態のままなのか、力強く僕のズボンを掴んで離そうとしない。


「坂井くん、何をそんなに慌てて――――」


 そして、玉石さんは見てしまった。

 眼前にある男の股間に高く――力強く張られたテントを。


「きゃぁぁぁ!」


 玉石さんがまるで変質者に遭遇したように悲鳴をあげて飛び退いた。


「さ、坂井くんっ!? あ、あなた、不潔よ!?」


 僕をこんなにした張本人から、あまりにも理不尽な罵声をかけられる。


「し、仕方ないじゃない! 玉石さんが、あんなだから!」


「坂井くん! 前にも言ったけれど、わたしは決して性的欲求を満たしてたわけじゃないんだからね!? それなのに、あなたって人はっ……不潔よーっ!」


 玉石さんは涙目になりながら僕を罵り、部室を走って飛び出していってしまった。


 残されたのは割れた風船と、僕のテントだけだった。


「ひ、ひどい……何で僕がそこまで言われなきゃいけないんだ……」


 僕は何だか無性に切なくなり、涙目で割れた風船を片付けて、股間のテントが鎮まるのを待ってから帰路へ着いたのだった。

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