二十二話 僕と忍者とツイスターゲーム
奈留が加入したことにより規定人数を満たし、宇宙探求部は晴れて正式な部活動して認定された。諸々の手続きは全て玉石さんがやってくれたらしい。
そんな記念すべき日の放課後、僕たちは全員で部室に集まっていた。
「よくやってくれたわ、坂井くん! 偉い!」
部員集めをした僕を玉石さんが労ってくれる。悪い気はしない。ていうか可愛い女の子から褒められるのってめちゃくちゃ気持ちいいな。
「七瀬さんも、楠先輩も、奈留ちゃんも、本当にありがとう。我が部では決して部員を退屈させないことを約束するわ」
奈留がパチパチと拍手をすると、釣られてか茉莉と先輩も気だるそうに拍手をした。
「玉石さん、今日は僕にどんな宇宙を感じさせてくれるんだい!?」
褒められて気をよくした僕がハイテンション気味に質問すると、茉莉の「うざ」という小さな声が耳に入ったが、気分が最高にハイなので全く気にならなかった。
「ふふ、坂井くん、よく聞いてくれたわね。今日はこれよ!」
玉石さんがパチンと指を鳴らすと、見知らぬ女生徒が大きめの箱を両手に抱えて部室へと入ってきた。
箱に描かれてるイラストを見ただけで分かる。みんな大好きツイスターゲームだ。美少女たちとの密着不可避なゲームに僕のテンションはぶち上がりした。
「うわぁぁぁ! 玉石さんは天才だよ! こんなの絶対楽しいよ!」
ガッツポーズを取りながら周りを見回すと、茉莉と楠先輩は白けた目をしていた。唯一、奈留だけは目を輝かせていたが、おそらく坂井の血がそうさせているのだろう。坂井一族はみんなツイスターゲームが大好きなのだ。多分。
「ツイスターはルーレットを回す人が必要でしょう? 部員全員がゲームに参加できるようにと、今日は家の者を呼んだわ。甲賀、みなさんに挨拶を」
玉石さんに促され、甲賀と呼ばれた女の子が僕たちに綺麗なお辞儀をする。長い黒髪と、キリッとした目が特徴的な美人さんだ。にしても、甲賀って忍者みたいだなぁ。
「玉石家に仕えています、甲賀沙織と申します。どうぞよろしくお願いします」
「忍者みたいな名前してんな」
「ええ、忍者ですが?」
先輩が僕と全く同じ感想を口にすると、甲賀さんは真顔でそう返答していた。
「え、本当に忍者なの!? 玉石さん家って忍者雇ってるの!?」
「もー坂井くん! 甲賀のことはいいでしょ! 今はそれよりもツイスターゲームよ! 甲賀、準備して!」
玉石さんがぷりぷりと怒る。怒る顔も可愛らしいが、今はそれよりも忍者に対する好奇心が勝っていた。
「いやいやいや、忍者って普通にめっちゃ気になるんだけど!? 変化の術とかできちゃったりするの!?」
「坂井さん、それはマンガの読み過ぎです。変装と声帯模写くらいはできますが」
「せ、声帯模写!? 声真似ってやつ!?」
「ええ」
僕から質問攻めに合いながらも、甲賀さんはテキパキとツイスターゲームを始める準備をしていた。
「悠介、テンション上げすぎ。現代に忍者なんているわけないじゃない」
茉莉には夢とか希望とか、そういうものが欠如していると思う。僕が茉莉に哀れみの視線を送ると、逆に可哀想なものを見るような目でみられてしまった。
「悠介、好き。……愛してる」
茉莉の声だった。しかし、茉莉は口を動かしていない。
声がした方を見ると、甲賀さんが茉莉に対してドヤ顔をしていた。
あ、この人ってクールに見えて意外とアレな人なのかもしれい。
「な、なな、何言って……!」
茉莉の顔がたちまち真っ赤になる。自分が言ったわけじゃないにしろ、自分の声で僕のことを愛してるだなんて言われたのが相当恥ずかしかったらしい。
先輩と奈留は甲賀さんの声真似に目を丸くしていた。それほどにそっくりだったのだ。
一方で、僕は茉莉の声では本来絶対聞けないであろう言葉を聞けたので、多幸感に包まれていた。
「甲賀、悪戯しないの」
「失礼しました。どうぞ、準備が整いましたよ。ルーレットはわたしが回しますので」
「わーい、やったー!」
「え? 坂井くんは見学よ? このゲーム四人までだし、体が密着するゲームに男子を混ぜるわけないじゃない」
大喜びする僕に対して、玉石さんが余りにも無慈悲な宣告をする。
「じゃあ甲賀さんいらないじゃん!? 僕がルーレット回せばいいじゃん!?」
「それは違うわ。坂井くんには大切な役割があるの」
「た、大切な役割……?」
「そうよ。宇宙というのはね、自分で感じることも大切かもしれないけれど、外から観測することで何か気づきを得られるかもしれない……私はそう考えるわ」
言ってることの意味はよく分からないが、玉石さんが言うのならきっとそういうものなのだろう。
まあいいか、パンチラはたくさん見られそうだし、これも役得だと思おう。
「待て玉石、ツイスターをやるのは構わんけど、体操着に着替えさせろ。坂井の目を見てみろ、ありゃ獣の目だぞ」
先輩がとても失礼なことを言ってきた。
「嫌だな先輩! 宇宙を観測するという高貴な役割を与えられた僕がみんなを変な目で見るわけないじゃないですか。だから制服のままでやりましょう!? ね!?」
「今日体育なくて体操着持ってきてないから、わたしはパス」
「そういったこともあろうかと、皆様分のジャージも用意しています。ご安心を」
理由をつけて不参加を決め込もうとした茉莉だったが、現代の忍者はその辺も抜かりがないようだった。
「というわけで着替えの間、坂井さんはご退出ください」
問答無用で甲賀さんに部室を追い出されてしまう。
女子と体を密着させるという希望は打ち砕かれ、パンチラを見るという夢も破れた何の楽しみもないツイスターゲームが今始まろうとしていた!




