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第十八話 僕と部活とゲーム大会(罰ゲームあり)

 奈留なるの転入初日の放課後、僕は奈留の教室まで迎えに行くことになっていた。


 まだ詳しくは話していないが僕が宇宙探求部に入ったと聞いて興味を持ったらしく、部の見学をしたいとのことだった。


 玉石たまいしさんにそのことを伝えたところ、歓迎してくれた。


 しかし、朝一緒に奈留と登校したときは新しい学校に馴染めるか不安がっていたけど、大丈夫だったろうか。


 奈留の教室の手前まで来たところで、ちょうど教室から出てきた奈留と鉢合わせた。


「あ、悠くん」


「奈留、初日はどうだった?」


「皆さんいい人で、何とかやっていけそうです」


 それを聞いて安心した。


「そっか、それはよかったね。じゃあ行こうか?」


「はい」


 奈留を連れて、二人で話をしながら宇宙探求部の部室へと向かう。


「悠くん、宇宙に興味があったんですね。ちょっと意外でした」


「え? なんで?」


「だって、宇宙探求部なんですよね?」


 ああ、部の名前だけ聞けば普通はそう思うか。


「うーん、宇宙は宇宙なんだけど、別の宇宙を探求しているというか……」


「別の宇宙……?」


 奈留がキョトンと首をかしげる。


「自分の中にある、内なる宇宙とでも言うのか……」


「ええと……哲学的な話ですか?」


 そんな大層なものじゃない。

 ただ玉石さんが快楽を追求しているだけの部活なんだけど、それを言って余計な先入観を持たせるのも良くないだろう。


「まあ、行けばわかるよ」


 奈留はしっかりしてるように見えるが、まだ十六歳の女の子だ。親元を離れて暮らすことに不安がないわけがない。

 この部活を通して、玉石さんや茉莉、先輩と仲良くなってくれればいいと思う。友達ができれば、不安も少しは和らぐと思うから。


 そうこうしているうちに、宇宙探求部の部室へとたどり着く。


「ぎゃああああっ!」


 入ろうとドアに手を掛けた瞬間、部室内から悲鳴が聞こえてきた。……この声は、先輩か?


「ゆ、悠くん……?」


 先輩の叫びを聞いた奈留が不安そうに僕の袖を掴んできた。


「だ、大丈夫だって」


 奈留にはそう言いつつも僕は内心不安だった。

 先輩に何かあったのだろうか。ま、まさか不審者が侵入してきて先輩に手を出したとか?


「先輩、大丈夫ですか!?」


 意を決して部室のドアを開けると、そこにはパソコンを目の前に格闘ゲームをしている先輩と茉莉の姿があった。玉石さんは後ろで二人の戦いを観戦しているようだ。


 ……なんだ、ただゲームしてただけか。ていうか、いつの間にこんなパソコンを持ち込んだんだ。


 対戦に熱中している二人は僕が来たことに気がついていないようで、玉石さんだけがこちらを振り返って出迎えてくれた。


「あら坂井くん、いらっしゃい。その子が、例の従姉妹の子ね?」


「は、はい。坂井奈留といいます。よろしくお願いします」


 奈留は初対面の相手に緊張しているのか、ぎこちなく頭を下げた。


「奈留ちゃんね。私は玉石蒼紅たまいしそうく。よろしくね」


「はい。えーっと、あれは何を……?」


 奈留が対戦している二人を見て、当然の疑問を投げかける。そりゃ宇宙探求部と聞いていたのに、ゲームなんかしてるの見たらそう思うよ。


「ゲームよ。七瀬ななせさんとも約束してたしね。七瀬さんから何のゲームをやりたいのかリクエストを聞いて、それを家の者に運ばせたの」


「ああ、そういやそうだったね……」


 茉莉はゲームで遊べるという条件のもと入部したのだ。

 にしても、家の者って。


「薄々そうなんじゃないかって思ってたけど、玉石さんの家ってお金持ち?」


「否定はしないわ。あら、決着がついたみたいね」


 玉石さんの言葉に二人の方を見ると、がっくりとうなだれる先輩と、涼しい顔をしている茉莉の姿が見えた。ゲーム画面を見ずとも、どちらが勝ったかは一目瞭然だろう、


「七瀬っ、あれハメだろ!? この勝負ノーカン!」


 内容に納得がいかなかったらしく、先輩が茉莉に異議を申し立てる。


「何を言ってるんですか先輩。永久コンボがざらに存在するこのゲームではハメられる方が悪いんですよ。罰ゲームは先輩に決定ですね」


 そんな先輩を茉莉が軽くあしらった。


「ぐぬぬぬ……」


 先輩が悔しそうに歯を食いしばる。

 ぐぬぬってリアルで言ってる人初めて見たよ。


「先輩……罰ゲームを賭けて茉莉と格闘ゲームで勝負するなんて……ひょっとして罰を受けたい系女子なんですか?」


「こいつがこんなに強いとは思わなかったんだよ……。てか、罰を受けたい系女子ってなんだよ。殴るぞ坂井」


 先輩が僕を睨んでくる。


「ひどい! 八つ当たりだ!」


「おまえが変なこと言うからだっつーの! ……ん? その子は?」


 先輩がようやく僕の隣の奈留に気がついた。

 奈留がペコリとお辞儀をする。


「坂井奈留です。悠くん――悠介くんの、従姉妹です。よろしくお願いします」


「ああ、そうなのか。くすのきだ、よろしくな」


「七瀬。悠介とは一応幼馴染」


 先輩に続いて、茉莉が短く自己紹介する。

 ねぇ茉莉、一応ってひどくない?


「じゃあ顔合わせも済んだところで……はい、楠先輩」


 玉石さんが紙袋から何かを取り出し、先輩に差し出した。


 それはなんと、先輩にとてもよく似合いそうな黒い猫耳だったッ!


「先輩、猫耳つけるんですか!? 僕、なんだかテンション上がってきました!」


「いちいちキモいんだよ、おまえは!? ……な、なぁ玉石……これ、本当につけなきゃダメか?」


「もちろんです」


 玉石さんが満面の笑顔で答える。


「でも、なんで猫耳を?」


「この前、動物が撫でられてるときに宇宙を感じてるんじゃないかって話の続きよ。彼らの気持ちを知るためには、より彼らに近づく必要があるんじゃないかって思ったの……」


 僕の疑問に玉石さんが説明をしてくれた。

 僕は玉石さんと先輩に撫でられ、そして何よりも先輩を撫でたことで満足していたのだが、玉石さんの中ではあの話はまだ終わっていなかったようだ。


「なるほどね、それで猫耳か……理解したよ」


「それが理解できるあたりがたいのよ、悠介は」


 茉莉が呆れたようにため息を吐く。


「え、僕、今なにかおかしいこと言った!?」


「おまえがおかしいのはいつもだから気にすんな」


 先輩までひどいことを言う。

 もう僕の味方は、玉石さんと奈留だけだ。


「奈留、僕おかしくなんてないよね!?」


「え、えぇぇ……い、いや、それは……」


 しかし僕の問いかけに、奈留は何故か目線を逸らすのだった。


「奈留!?」


 そんな僕たちを見て先輩が愉快そうに笑った。


「あっはっはっ、坂井は、坂井の従姉妹にしちゃまともなんだな。って、二人とも坂井だからややこしいな。奈留って呼んでもいいか?」


「はい、是非に」


「僕のことも悠介って呼んでくれてもいいですよ?」


「おまえは坂井で十分だ」


 僕も奈留も同じ坂井なのに、どうしてこうも扱いが違うのだろうか。理不尽だ。


「それにしても……はぁ、なんであたしが、こんなことを……」


 先輩が手元の猫耳を恨めしげに睨みながら言う。


「負けたからですよ」


 茉莉がドヤ顔で煽る。普段絶対にそんなこと言わないのに、格闘ゲームが絡むと茉莉は別人のようになる。


「七瀬ぇ……おまえ、覚えてろよ……」


 茉莉に恨み言をひとつ言ってから、先輩は猫耳を装着した。そのあまりの可愛らしさに、僕の理性が溶けかけた。


「せ、先輩! ニャーって言ってください! ニャーって!」


 というか、溶けていた。


「んなこと誰が言うか、このバカ!?」


「いいえ楠先輩、これは猫の気持ちになりきることが目的なんです。坂井くんは間違ったことは言っていませんよ」


 なんと玉石さんが味方についてくれた。これは心強い!


「おまえらバカだろ!?」


「二人とも、あまり調子に乗らない」


 茉莉が僕たちをいさめるように言う。


 茉莉は何だかんだで優しい子だ。自分が先輩を負かしてしまったせいで、先輩がこんな状況に陥っていることを申し訳なく思っているのかもしれない。


「語尾にニャで勘弁してあげたら?」


 ……そんなことは全然なかった。


「あたしの味方はいないのか!?」


 先輩が頭を抱えた。

 ああ、可愛いなぁ。

 不憫な猫耳先輩も可愛い。うん、可愛い。


「……くそ、おまえら全員、あとで覚えてろよ…………ニャー…………」


 先輩が少しだけ涙目になりながら、頬を赤らめながら言った。


 嫌々ながらも語尾にニャをつける先輩に僕は胸がキュンとした。


 いいものを見れた。

 今死んでもいいと思えるほどの幸福感だ。


「じゃあ、楠先輩が猫になりきったところで、本番よ! この猫ちゃんを撫でる人を決めるわ!」


 玉石さんが場を仕切り直す。

 いや、そんなことよりも、聞き捨てならないことを言った。


「この猫ちゃんを……撫でるだって……?」


 僕の胸がトゥンクと高鳴った。


「猫ちゃんとか言うなボケ!」


「語尾」


 茉莉の短い一言が先輩に突き刺さる。


「……ニャ、ニャー……」


 そう言いながら、屈辱と羞恥で先輩の顔がますます赤くなっていく。


「本当はみんなで撫でたいんだけど、それは楠先輩が嫌がると思ってね」


「撫でられてること自体が嫌だけどニャ……」


 先輩のツッコミを無視して、玉石さんが部室にあった割り箸で意気揚々とクジを作り始める。


 どうやら、ペンで色を付けた割り箸を引けた人が先輩――猫ちゃんを撫でる権利を得られるようだ。


 絶対に負けられない戦いが、今ここにあった。

 坂井悠介の、一世一代の勝負が今始まる――――!

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