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お江戸物語  作者: 六子
7/10

四話目:心に響く料理とは

「えええっΣ

 ひこと様が今度うちに来るの?」


閉店後の静かな神楽屋の店内に

瑚子の大きな声が響き渡った。



「瑚子が食材取りに行ってくれてる間に

 雷から頼まれたんだよ


 何かうちにすごく興味を

 持ってくれてるみたいで


 近々連れていくから

 もてなしてやってくれないかってさ


 いつもの感じでいいからとは

 言われてはいるんだが」


「…お出しするメニューを

 思いつかなくて悩んでる?」


「…」



晴から話を聞いた瑚子は

晴が悩んでいるであろう内容を

すぐに察した。




ーーーーー




名家と名高い、武田家…


ひことと呼ばれた女性は

その武田家の御令嬢であり


昼間に来店した

第8代征夷大将軍

徳川雷の許嫁でもある。



「あの名門武田家のお嬢様だぞ…

 絶対舌もこえてるって」


オロオロしている晴を横目に

瑚子はくすくすと笑いだした。


「?」


「あ、ご、ごめんね笑っちゃって


 お兄ちゃん昔さ、雷さんと哲さんが

 初めてうちに来てくれるってなった時も


 同じ様に【将軍家の人が来る!どうしよう】

 ってずっと慌ててたの思い出しちゃって…



 大丈夫だよ!雷さんと哲さんの時も問題なく

 もてなせたでしょ?」


「そりゃ…そう、だけど」


「上流階級の方に

 庶民的な料理を出すって

 緊張するものだとは思うけど…


 お兄ちゃんらしい料理を出さないと!


 うちの料理、折角来てくださる

 ひこと様の心には残らないんじゃないかな?」


「俺らしい料理…」


「丁度、明日は火曜日で店もお休みだし


 ゆっくり考えてみたらいい案が

 浮かぶかもしれないよ


 !そうだ!明日は天気もいいみたいだし

 一緒に深川の辺りでも散歩しにいかない?」


晴がその提案を即座に受けたのは

言うまでもない。





ーーーーー





お江戸の町の隅にある川越商店街は

川を挟んで、お江戸の町の中心地と

繋がっている。


その川こそ、深川ふかがわである。



昔、お江戸の町が出来て間もない頃

深川という商人が


この川の近辺を発展させたことにちなんで

この名がついたと言われていて


実際は、それほど水深は深くない

穏やかな流れの川である。




「昔はよくここで遊んだよな…」


「懐かしい…色々したよねー

 2人で鰻を捕まえようとしたり」

 

「そうそう、鰻を取ろうとした時は

 結局取れずじまいで

 2人してずぶ濡れになって帰って


 親父とお袋にすげぇ怒られたっけ」



温かい日差しが降り注ぐ中


兄妹は昔話に花を咲かせつつ

静かな河原を歩いていたが


ある場所に差し掛かった頃

何かを目にした晴が不意に足を止めた。


「?お兄ちゃんどうしたの?」


「瑚子、ちょっとあれ収穫するの

 手伝ってくれないか?」


「?あれ?」


目を輝かせ、晴が指差す草地には


まるで巨大なアスパラガスの様なものが

多数生えていた。






ーーーーー





「〜♫」


昨日悩んでいた様子はどこへやら

晴は上機嫌で次々と収穫していくが


瑚子はといえば、晴と違い

巨大なアスパラガス様なものの

正体が掴めず、恐る恐る収穫を

進めている。



「まさかこんなに沢山の

 権八が生えてるなんてついてるよ」


「権八!?これ権八なの?」


「あぁ、そっか


 店とかじゃ塩漬けにしたり

 下処理したやつしか見かけないから

 馴染みないよな」



権八ごんぱち


スカンポやサシボ、虎杖いたどり

様々な呼び名があるが


あくを抜き、調理すれば

歯触りのいい食感も楽しめる

美味な春の山菜である。



「春の今がちょうど旬の時期だし美味いぞ〜♫


 …よし!とり過ぎるのも良くないし

 これぐらいでいいな


 帰ったら早速下処理しないと」



収穫がひと段落して、気付けば

いつの間にやら日が若干傾き始めている。


晴は、瑚子にそろそろ帰ろうかと促すと

収穫した権八をまとめ始めた。





ーーーーー






収穫した権八を抱え、帰路に着く晴と瑚子。


兄妹間に流れていた

沈黙を先に破ったのは瑚子の方だった。



「…お兄ちゃん」


「ん?」


「今度の件、お兄ちゃんなりにね

 色々プレッシャーもあると思うんだけど


 私も出来る限り手伝うから…


 いつもみたいに楽しんで

 料理してくれたら嬉しいな」


「……瑚子…」



妹からかけられた優しい言葉に

思わず涙ぐみそうになった晴だったが


ぐっと堪えると、すぐに平常心を

整えて、優しい表情を浮かべつつ

瑚子の頭を軽くポンと撫でた。



「…ありがとな

 まだメニューは悩んでるけどさ


 兄ちゃん全力で料理楽しむわ!

 俺らしい料理でひこと様をもてなすよ!」


「うん!」



そうだ!料理を楽しまないと!

まず作り手が料理を楽しまなければ

人の心に響く品など出来はしない!!



晴は権八を新たに抱えなおすと

来るの日に向けて

決意を新たにするのだった。



四話目 心に響く料理とは〜完〜

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