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お江戸物語  作者: 六子
6/10

三話目:心温もるおかいさん【後編】

料理を待つこと5分程だろうか。


「お待たせ」


ほうじ茶の香ばしい香りを

まとった茶色い粥が盛られた椀と

梅干しが晴の目の前に置かれた。


「おっ茶粥!」


その正体が、昔よく両親が

作ってくれた茶粥だと気付き

晴は喜びの声をあげる。



茶粥ちゃがゆ


茶色い粥という事で

初見は驚く人も多いが

香ばしいほうじ茶と白ご飯が調和した

漬物等とも相性のいい粥である。



茶袋にいれたほうじ茶を

水をはった鍋に入れ、火にかける。


沸騰したら、白ご飯を投入し

弱火にして若干ご飯をほぐして約5分。


米から炊く方法もあるが

作り方自体は至ってシンプルだ。




店内のカウンター席に隣同士に

座った兄妹は早速茶粥を口にする。


疲れた体と空っぽの胃に

温かくも優しい粥が沁み渡っていく…


「「は〜〜」」


ほっとしたのと、美味しいのとで

ついもれ出た声が見事に揃い


兄妹はどちらともなく顔を

見合わせて笑い合うのだった。




ーーーーー




兄妹が遅めの昼食を取り

和やかな時間を過ごしていた頃…



1つにまとめられた長めの紺色の髪

左目の下の泣き黒子、そして右目に眼帯



少々目立つ容姿の男性が

神楽屋の入り口の引き戸に

手をかけようとしていた。


何を隠そうこの人こそ

城を抜け出し、行方を眩ましていた


第8代征夷大将軍

徳川雷、その人である。



城の飯は美味い。

それは間違いない事実だが


家庭的で素朴で、和む神楽屋の料理は

時折無性に食べたくなるから不思議だ。





「見つけましたよ兄上!」


ずっと自分を探し回っていたであろう

弟、哲の声が突然背後から聞こえて


しまったという表情を浮かべつつ

雷は背後を振り返った。


普段であれば、自身の魔法で人の

気配を察知することなど訳ない雷だが


久しぶりに神楽屋に寄れることに浮かれて

魔法の発動をすっかり忘れていたのだ。




「よお!哲」


「よお!じゃないですよ!


 僕がどれだけ探し回ったと思っているんですか!」


「でもま、お陰でお前もこうしてさ


 神楽屋に来る機会が出来た訳だから

 大目に見てくれって!」



隣で抗議の言葉を口にする哲をいなしつつ


店内に入ろうと、再び雷が入り口の引き戸に

手をかけようとしたところ


不意に引き戸が開き、店内から

晴と瑚子の兄妹が揃って姿を現した。



「まぁ!!雷さん!哲さん!お久しぶりです」



2人の来店を大層喜ぶ瑚子に比べて

晴は隣で若干残念そうなオーラを浮かべている。


知り合い、それも長年の友人に

来店してもらえることは

非常にありがたいことなのだが


来客があるということは


折角の妹との和やかな時間は

終わりを告げることを意味する。



(もう少し兄妹2人でゆっくりしたかったんだがな…)



晴は小さく肩を落としながら

2人を店内へと通すのだった。





ーーーーー





日の本国は、魔法界との交流を深める為

魔法界への留学を時折行っていて


徳川兄弟と毛利兄妹

そして毛利兄妹の近隣に住む星麗(✳︎二品目参照)


この5人は10年前、魔法界に

同時期に留学した同志である。



留学を終えて10年…


全員歳を取り、性格やら容姿やら

色々と変化している部分はあるものの



「あ…そういや、財布城に置いてきたんだった…

 哲!今日の支払いは任せた」


「えっ!?ちょっΣ兄上!?

 この前も僕が支払ったじゃないですか!」


「エーオニイチャンキヲクニナイナァ」


「うう…わかりましたよ!


 そのかわり帰ったら僕の残っている仕事

 手伝っていただきますからね!」


「あーはいはいわかったよ」




【やんちゃな兄とその兄に振り回される弟】


徳川兄弟のその関係性は

10年経つ今も全く変わらない…


晴は兄弟のやり取りを横目に

ぼんやりとそんな事を思いながら


腰巻の紐を締め直すと

仕事モードへと気持ちを切り替えた。



久しぶりに来てくれた友人の為に

腕によりをかけて上手い飯を作らねば!!


じきに自宅から食材を取りに行ってくれた

瑚子も戻ってくるだろう。



(兄弟それぞれの好きなメニューを

 おまけで加えるか…いやそれとも…)



「あ、そうそう!晴。


 今日俺が神楽屋に寄ったのは

 久しぶりにお前の飯が食いたかったってのも

 あるんだが…


 もう1つ!お前に頼みたい事があってさ」



瑚子に持ってきてもらうよう頼んだ食材を元に

脳内で料理の構成を考えていた晴だったが


不意に雷から話かけられ思考が中断する。


「頼み?」



友人とはいえ、征夷大将軍直々の頼み…となると

やはり緊張するものだ。


「あぁ、実はさ…」





この雷の頼みが

まさか後にあんな事件を引き起こすとは


この時の兄妹は知る由もなかったのである。



三話目:心温もるおかいさん〜完〜


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