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お江戸物語  作者: 六子
2/10

一話目:はじまりのおにぎりと卵焼き

初めて作った料理は、おにぎりと卵焼きだった。




親父とお袋が買い物に出かけている間に

お腹がすいたと、可愛い妹にせがまれ


料理なんてしたこともない癖に


「兄ちゃんに任せとけ!」なんて

えらそうな台詞をはいて


どうにかこうにか作りあげたのは


一部がボロボロに崩れた

なんとも不格好なおにぎりと


所々焦げて、ほぼスクランブルエッグの

状態に近い卵焼き。




それでもそのおにぎりと卵焼きを

「美味しい」と笑顔で食べてくれた妹の姿は


今でもはっきり覚えている。



ーーーーー



毛利晴もうりはるは、25歳から

本格的に料理の道に歩み出して10年。


お江戸の町の外れにある、少し寂れた

川越商店街にひっそりと佇み

30年の定食屋【神楽屋かぐらや


彼はそこの2代目店主を務める料理人だ。



本日土曜日は、神楽屋は夕方からの営業。


火曜日が定休日で

日曜日は夕方からの営業というのは

昔から変わりないが


土曜日が夕方からの営業に

変更となったのは

晴が店主となってからである。



ーーーーー



朝8時15分


厚みも均一で綺麗な三角形のおにぎりと

小口ネギが加わり色鮮やかな卵焼きを


慣れた手つきで作り上げた晴は

小さめの曲げわっぱの弁当箱に

手早く盛りつけていく。



初めて作った際は悲惨だった

おにぎりと卵焼きだが


現在では、一応料理人となった身。

当時よりかは随分とマシなものとなっている。



因みにこのお弁当は

今日の晴の昼ご飯…ではなく


これから仕事に向かう

妹、瑚子の為に作ったものだ。





晴の7つ下の妹、毛利瑚子もうりここ


神楽屋の給仕を務め

看板娘としても陰ながら評判の彼女だが


本職は、癒者ゆしゃ。いわゆる

治癒魔法を使用できる薬師やくしである。



癒者の資格を取得後、診療所で

毎日忙しく働いていたのだが


神楽屋を兄妹2人で協力して

切り盛りしていくこととなった為


診療所の上司と相談の上


14時で診療所が閉まる

土曜日のみ勤務する形で

(まれに火曜日も勤務が入る事もあるが)


現在も癒者の仕事を続けている。




土曜日を夕方からの営業に変更したのは、勿論

今後長く店を続ける上での体力面の考慮もあるが


瑚子の仕事を配慮してというのが主な理由だ。



ーーーーー



後は風呂敷で包めばお弁当の準備が完成という所で

何気なく居間においてあるカレンダーに

目を通した晴は


何やら驚いた表情を見せるや否や

のんびりと庭で水やりをしている瑚子に声をかけた。



「瑚子!」


「ん?」


「今日朝1のシフトに変更…って

カレンダーに書いてあるけど…」


「え?……!あああΣ忘れてた!?」




真面目な努力家なのに

どこか抜けている所は昔から変わらない。


慌てて準備を整える瑚子を

優しい眼差しで見守りながら


晴は包み終えたお弁当箱、そして水筒を

手提げにそっと入れて瑚子に手渡す。




「ほらこれ、弁当と水筒な」


「ありがとう!お兄ちゃん」


「何なら魔法で送るけど」


「大丈夫だよ、ギリギリ間に合うから


それじゃ、行ってきます!」



ーーーーー



初めておにぎりと卵焼きを作った時から

瑚子を応援したい時には、晴は必ず

おにぎりと卵焼きを作ってきた。



今日は瑚子が癒者として働きだして

ちょうど5年目。


今日のお弁当をおにぎりと卵焼きにしたのは

これからも頑張れよ!という

晴なりのメッセージが込められている。



(瑚子…気付くかな)



帰宅後の瑚子の反応を密かに期待し

微笑みをうかべながら


急ぎ足で診療所へと向かう瑚子の背を

見送る晴であった…







これから始まるのは


この兄妹を中心として

お江戸の町で巻き起こる

ちょっとした話である。



一話目:はじまりのおにぎりと卵焼き~完~

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