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ビヨンド・ソルジャー  作者: 弘鷹
第1章:サモンデイズ
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06:懸念、そして明かされた趣味嗜好

九狼達が召喚されて既に6日。


この日の訓練も終わり、彼らの訓練を担当する近衛騎士団、その筆頭であるウィリアム・アーレンスは国王の執務室を訪れていた。用件は召喚者達の訓練状況を国王へと報告する為である。


「して、どうだ。ウィリアム」


「は。訓練が始まり五日間となります。午前中は基礎体力をつける為の走り込みを。午後からは武器術のスキルを得ている者は対応する騎士から、魔法スキルを持つ者は騎士団の魔導士からの手解きをそれぞれ受けております。それ以外の生産職に関わる者達も、訓練自体は戦闘職の半分ほどの時間ですが、続けております」


「ふむ。練度の方は?」


「やはり、高ランクスキルの恩恵でしょう。皆一様にそれぞれの技能の習得が早うございます。とはいえ」


「今すぐに実戦、という訳にはいかぬか」


「御意にございます。聞けば、やはり彼らのいた世界は国同士の諍いや確執はあれど、概ね平和な世界。そのような世界でもとりわけ平和を掲げる国で生まれ育ったようです」


「国の名はやはりニホンか……」


「御意」


ウィリアムの返答に、国王オルドは深く息を吐きながら背もたれへと体重を預ける。


「……500年前、あのハイエルフの姉妹と共に当時の魔王を討伐し、その後にこの国の王家の一員となった『勇者王』も、先代の勇者も。そして帝国、共和国、正教国でそれぞれの時代に呼ばれた勇者とその仲間達も、ほとんどがニホンの出身と伝え聞く」


どれも争いなど無縁だった少年少女達が傷つきながらも世界を救う英雄譚。


この世界に生まれた子供達は誰もが寝物語にそんな英雄譚を聞かされて育つが、しかし。


「未だ子供である彼らに戦いを強いるなど、余はなんと罪深い」


「陛下……」


国王が溢す慚愧に満ちた告白。そんな、かつての教え子の後悔をウィリアムはただ立って受け止めるしかない。


召喚の魔法陣が輝き始めた直後から、血統派の貴族達は国王への連日の奏上を開始した。


曰く、伝説の勇者召喚は早々に行ない、それをもって同盟各国との連合軍を結成。勇者と王国貴族軍を中核に一気呵成に魔族との競合地帯へと本格的に攻め込み、その先の魔族領へ侵攻。そして魔王と魔族を討伐するべきなのだと。


当然、国王もその奏上を聞いた上で反論した。


勇者を召喚したとして、早々に戦えるとは思わない。そして現状、同盟各国との連合軍の結成もそれぞれの国が抱える内憂によって困難。仮に結成できたとして、現在の競合地帯は先代の勇者と魔王の戦いの余波で生まれた瘴気で三十年ほど前までは出鱈目に区切られ、現在も情報不足。少数による競合地帯への偵察は行っているが、大規模な侵攻など未だ望むべくもない。


そもそも王国貴族軍と言えば聞こえはいいが、王国における最精鋭の存在を忘れたのか、と。


そんな言葉を国王から投げかけられて、血統派貴族達は苦虫を噛み潰したような表情で謁見の間を出ていった。しかし連日の奏上、そして国王が片側の勢力ばかり重用することで国が割れる可能性を危惧したことと、他国への示し等を鑑みて、最低でも勇者召喚を行なわざるをえなくなってしまった。


当然、改革派筆頭の説得は国王直々に行なったが、結果として召喚者達の世話は血統派とみなされている近衛騎士団が担当することになった。


せめて召喚者達が血統派の傀儡とならないよう、騎士団長を始めとした中立派が目を光らせてはいるが……。


「いや、今は我らの内情よりも彼らのことだ。血統派が特に注視しているだろう勇者殿はどうか?」


「元々あちらの世界でも剣を学んでいたようで、基礎はできておりました。その上で破格のスキルの恩恵もあり、既に騎士団の剣士の中でも中位以上の者達とまともに切り結べるほどです」


「ほう。訓練を始めて五日となるがもうそこまでか」


「ええ。しかし……」


「ふむ。なにか懸念があるのか?」


「御意。気質の話となりますが、正々堂々真っ向勝負を好み、小細工や搦め手の類を極端に嫌う性質のようで」


「なるほど。元来の性格が騎士の類であると」


「御意。そういう意味では貴族出身の騎士達との相性は良好にございます。搦め手に関しては……おいおい対処法を教えていく方向でどうにかしていこうと考えております。魔法に関しても、本人の素質とスキルがうまく合致していたのか炎と光の魔法に高い適性を持っていますが、魔力が多すぎる為か繊細な制御は苦手としています」


「なるほど。他の者達はどうか?」


王の言葉に、ウィリアムは頷き、他の召喚者達の訓練風景を思い出す。


「他の者達もみな、素晴らしい素質を持っております。まずは聖女の称号を得たフタミ・カゼナリですが―――」


その後は各人に関してのウィリアムの所感を報告していく。かつて自身に剣術を指南した師が、弟弟子妹弟子に当たる者達に関して語る言葉は興味深く、そして自身が呼びつけてしまった彼らが生き延びる為の力を着実に身に付けていることに胸を撫で下ろすのだった。


そして


「最後に、クロウ・ハヤマですが」


「うむ」


ウィリアムのどこか複雑な表情に王も僅かに身構える。


九狼に関しては国王も当日のうちに耳に入れていた。魔力等級、スキルの保有数とそのランク。どれもが今回召喚された者達の中でも、恐らく歴代の召喚者と比べても、もっとも低い少年。故に指南役の騎士団や貴族達の中には既に彼を軽んじている者も少なくないと。


そして既にそれを口実に仲間である少女達と一悶着があったとも聞き及んでいる。


「この世界の一般兵と同等と聞いているが」


「ええ。目安については初日のアーティファクトの使用前に全員に教えてあります。ただ、驚いたことに本人はまるで気にしていないようなのです」


「ほう?あの年頃ならばその辺りは気にしそうではあるが……」


「私自身、訓練の合間に少し話をしてみましたが、本人曰くもう気にしてもしょうがない、と。魔力に関しても使用を重ねることで等級向上の可能性が残っているからとも」


「心強いな。貴族達に聞かせてみたいものだ」


「まあ、恐らく血統派の者達はやせ我慢だなんだと軽んじるだけでしょうが……当人の資質についてですが、魔力制御に高い適性を見せています。魔力の安定性に関しては随一かと。剣についても、何か一つきっかけがあれば一気に伸びると私は踏んでいますが……」


「む?どうかしたのか?」


途中で言葉を濁すウィリアムに、国王も眉をひそめる。ウィリアム自身、言うべきか悩んでいるのだろう内容を、しかしオルドは口にするよう命じる。


彼は全幅の信頼を寄せる忠臣だ。今躊躇っているのも王の耳に入れるべきではないのではと考えているからこそだと容易に理解できる。しかしそれでもオルドは国王として聞くべきだと判断した。自分達が呼んだ召喚者の話だ。懸念があるならば知っておかねば王の名が泣くし、そうでなくても王族や召喚者達の為に骨を折っている臣下の抱えるものを、これ以上悪戯に増やすべきではない。


「……陛下。私は正直、かの少年からはどこか異質なものを感じます」


「ふむ。異質とな?」


「御意。他の者達とは何かが違う。そのように感じられますので、それを明日の訓練で確かめようと考えております。とはいえ、時間の許す限り総当たりをさせるだけでございますが」


「アーレンス流の稽古を思い出すな」


「陛下も久々に顔を出されては?」


ウィリアムの冗談めかした言葉に、オルドはこの指南役はなにをいきなり、と苦笑する。


「今更余が顔を出しては門下生が委縮してしまうであろう……ウィリアムよ、件の少年の本質をそれで見抜けると?」


「その可能性はあるかと」


「……よかろう。見極め、徹底的に鍛えよ。方法も方向性もすべてお主に任せる」


この時、オルドは九狼が今のままでは早々に戦いの中で命を落としてしまうのではという危惧からこの言葉を向けた。けれど、その言葉が間違いであったと彼らは後に思い知ることになる。


葉山九狼は今代の召喚者達の中でもっとも■■に長けた存在の一人であることを。







国王とウィリアムの会話、その翌日。

九狼達は王城の敷地内にある訓練場へと集められ、連日同様に訓練を行なっていた。

時刻は昼過ぎ。食事と休憩を終えて、午後からの武術や魔法の訓練に備えようと各々が準備を行なっていた時だった。


訓練場へと戻って来たウィリアムは、引き連れてきた騎士団の面々にホワイトボードや大量の荷物を運ばせていた。そんな彼らを目にした一同は一斉に訓練場の一角、その場で椅子を作り、吸いきった手持ちの煙草の代わりにこの世界の葉巻をふかしている不良教師にあんたかよ、と視線を向けた。


「ん?ああ。頼まれたから作ったぞ」


生徒達の視線を受けて、訓練着に白衣を羽織った猪塚六輔はあっさりと肯定した。


この数日、科学ではなく、魔法としての錬金術に触れる機会を得たことで訓練時間以外は水を得た魚のように実験を繰り返している六輔。すでに鉱物に対しては即興である程度形状の変化をさせられる程度には錬金術を使いこなしていた。


睡眠時間を削って得た結果、その代償として無精ひげは伸び放題、眼の下には濃い隈が出来ている。三十を超えた彼にはそろそろ連日の訓練+徹夜生活はきつい。


そんな彼から目を離し、相変わらず女子に囲まれている龍一を他所に男子は集まってしゃがみ込む。


「なあ、そろそろロク先生寝させないとヤバくね?」「あの隈はまずいだろ。ていうか髭」「先生の担当のメイドさんも困ってるらしいぞ」「なんでメイドさんのこと知ってんだよ」「俺のとこのメイドさんに聞いた」「……そういえばお前よくメイドさんと仲良く話してるよな?」「「「おいチャラ山」」」「やっべ!」


メイドと早速よろしくしている疑惑の生まれた男子(通称チャラ山)が逃げ出し、他の男子数人との追いかけっこが始まる中、八雲が九狼の肩を組む。


「なあ九狼。ロク先生がいつ倒れるか予想してみね?俺はあと三日に晩飯のおかず全部」


「クソ外道かオマエ。明日にでもカナ先生が説得して、ロク先生が渋々聞き入れて倒れない。これに晩飯のおかず半分」


「葉山、結局乗っかるお前も外道だぞ?」


「ていうか、五樹と他の生産系の奴らも戻ってきたな。どうしたんだ?」


横で二人の会話を聞いていた男子生徒からの忠告は無視して九狼は首を傾げる。そもそも六輔がこの時間に訓練場にいる事自体今までなかったのだ。何か今までとは違うことをするのかと九狼が訝しんでいると、


「みな、集まってくれ!!」


ウィリアムの言葉に全員が集まると彼は頷き、ホワイトボードに戦闘系のスキルを持つ生徒達の名前を書き込んでいく。


「毎度思うけど、なんでこの世界の文字が読めるし書けるんだろうな」


「九狼知らねえの?異世界召喚のお約束だろ?」


「じゃあオマエはどうしてなのか知ってんのかよ」


「いや、知らねえ」


「オマエはマジで一度くたばれ」


どうせ魔法的な何かだろと結論付けて、九狼はホワイトボードを見る。


「ロクスケ殿、ご協力ありがとうございます」


「ああ、いいです。こっちも楽しんでるんで」


「さて、今日は戦闘系の者達の総当たりを行なってもらう。武器に関しては既に訓練で使用しているものを使ってくれ。防具に関してはこちらで用意したものがある」


騎士の一人が箱から取り出したのは地球のヘッドギアやプロテクターによく似た防具。視線が一斉に六輔に向けられ、当の本人はクラス副担任の遠山鹿奈多を指さした。


「素材は試作品。それを遠山先生が形にした。全員遠山先生に感謝するように」


はーい、と生徒達が応える中、九狼はあることに気付く。


「なあ、八雲。あそこ」


「ん?」


指さしたのは訓練場の上に設けられている観客席。そもそもこの訓練場自体が地球のサッカーや野球のスタジアムのような形状であり、これもかつての召喚者達が提言してこの形になったと聞かされている。


そんな観客席には初日に謁見の間で見かけた貴族がちらほらと。そして一段と高い場所に設置された貴賓席のような場所にはこちらを見下ろす王家の面々。


「おお、王家の方々揃い踏みじゃん。オーラ半端ない」


「ていうかシルヴィア姫可愛いよな~」


いつの間にか隣に来ていたチャラ山。彼の言葉に首を傾げる九狼。


「シルヴィア?」


「お姫様の名前だろ。王子様の方はジルヴァ殿下。ちなみに王妃様はフラウ様」


八雲の補足にへえ、と気の抜けた返事を返す。そんな名前だったのか知らんかったと思う九狼。そんな様子にチャラ山はライバルが一人減ったのでは!?とありもしないチャンスに表情を明るくする。


「あれ、葉山はあんまり興味ない感じ?」


しかしそれに反論するのは九狼本人ではなく八雲だ。


「九狼があのお姫様に興味ないわけないだろ、チャラ山。なんせ姫様はとびきりの美少女に加えて、胸部装甲は常磐のお嬢にも負けないくらい立派だからな」


「ああ、意外とおっぱい星人なんだっけか?え、なに。葉山が常磐と仲良いってつまりそういう」


「不敬罪で死ね」


「「おごぉっ!?」」


鉄拳炸裂。両横に並ぶ八雲とチャラ山の鳩尾に、九狼の超速の裏拳がそれぞれ突き刺さる。ちなみにこの場合の九狼の言う不敬とはシルヴィア姫に対してではなく、九狼の尊厳に対してだったりする。


蹲るバカ二人は放っておいて、九狼はウィリアムが書き込んでいくホワイトボードに目を向け、そこに書きこまれた組み合わせを指さす。


「八雲、チャラ山。ほら、あれ」


「「待って、死にそう。つーか吐きそう」」


「吐かずに死ね。八雲、オマエの最初の相手勇者殿だってよ」


「うぇ、マジ?」


「陽川は二連戦だけど、相手がチャラ山」


「おおう……」


もう二、三発殴って削って陽川相手に二人とも超無様な姿をを曝すのがさっきの落とし前かな、と考えつつ九狼は自身の初戦の相手が書きこまれるのを見て、そして苦虫を噛み潰したような表情を見せた。


書かれていた名前は『星井七瀬』。召喚初日の夜、九狼にいいように扱われ、未だ怒りを燃やす少女。


じっとりと絡みつくような視線を感じてそちらへ目を向ければ、星井七瀬は確かに笑っていた。


嗤っていたのだった。

チャラ山(本名:茶羅山 悟)

チャラい外見とその通りの性格。クラス1の伊達男(自称)。

外見はチャラいが不良というわけではなくクラスのムードメーカー的存在の一人。

見た目も悪くないのでモテそうではあるがクラスの女子にはバカでスケベな本性がバレているので恋愛対象外。でもめげない。最近気になる子は部屋の担当メイドさん(16歳・貴族の子女で行儀見習い中)

好みは尻。

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