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ビヨンド・ソルジャー  作者: 弘鷹
第3章:欲深きもの
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64:欲深きもの~命を嗤う輝石~

5000~6000くらいに収めたいのに8000文字いきました

『巨樹の大像』の残骸が焼け落ち、ホールの中に歓声が響く中、肺の中の空気を入れ替えるように、常と変わらない様子で息を吐いた九狼。


その目は大像の残骸へと向けられ、さっさと素材剥ぎ取るかと踏み出そうとしたところで、


「――――――?」


耳に届いた、じゃらりじゃらりという金属音。重苦しいその音色に九狼の足が止まり、


「どうしましたの?」


同じように素材の剥ぎ取りに向かおうとしたサラが振り返る。


「いや、なんか今金属音?鎖みたいな音がして……」


「鎖?……誰もそんなもの持っていませんわよね?」


「だよなあ」


武装はもちろん、素材の運搬等は専用の袋を用いる為、その場にいる者達で鎖を手にしている者はいない。そしてサラは獣人故に鋭い感覚を持っており、そんな音は聴いていないと答える以上、九狼は首を傾げた。


「……聞き間違いか?」


「貴方が聞き間違いというのも珍しい話ですわね」


圧縮強化の概要を知っているサラとしては、その状態の九狼が聞き間違うことの方が不可解だ。故に出した結論は一つだった。


「前々から思っていましたが、ついに本格的に頭おかしくなりましたのね」


「次の訓練で泣かしてやろうかゴリラ」


「だ、ダメだよ、二人とも……」


ぶっ飛ばすぞテメェと視線を交わす二人。そんな二人を仲裁するように背後から声が架けられた。振り向いた先にはアルティナと三徳の二人。


「こうして見ると、お二人のやりとりは本当に九狼君と鳥井君のやりとりに似ていますね」


微笑む三徳の言葉に二人は揃って嫌そうな顔をする。


「八雲が二人とかバグだろ」


クロウ(これ)と幼馴染とか正気ではいられませんわよ?」


「あれ?なんか俺がディスられるターン?正気じゃないとか言われてる気がする」


同じように近づいてきていた八雲が自身を指さしながら困惑している。その後ろではチャラ山を筆頭として男子達が笑っている。


「五樹!こいつら全員が俺のこと嘲笑うんですけど!頭おかしいとか言われた!」


「あ、自覚無かったんだ」


「五樹さん!?」


五樹の答えにオーバーアクションで反応する八雲。そんな姿に一同が笑う中、


「――――――ッ」


一瞬感じた違和感。僅かに締め付けられるような感覚に、九狼は自身の首元を抑えた。


「九狼君?どうかしましたか?」


「あ、いや、なんでもない」


さっきまでは数歩分離れていたはずの三徳がすぐ隣にいて、こちらの顔を覗き込んでいた。その近さに困惑しつつ、九狼は首を横に振る。そのやり取りの間に違和感は消えていた。


「……本当ですか?」


「本当ですよ。なんか喉元に違和感感じたけど、陽川の魔法で出た煙でも吸ったからだろ。そもそもこのダンジョン自体あんまりいい空気じゃないし」


「……そうですか」


「そうそう。だからさっさと素材剥ぎ取って出ようぜ。八雲、いつまでも漫才してないで素材剥ぎ取るぞ」


「漫才はしてねーよ!?とはいえ素材剥ぎ取りって心躍るよな。レアドロップとかありますか?」


「ゲームじゃねえんだからあるわけねえだろ。いやでもあの燃えカスの中からまともな素材採れたらそれはそれでレアドロップか」


ちなみに『巨樹の大像』から採れる木材や樹脂は武具や建材に重宝されるのだが、今回はそのほとんどが龍一の『プロミネンス・パニッシャー』によって焼き払われている。そんな惨状を思い知らされた八雲はというと、


「駄目じゃねーか!」


両手両膝を地面について項垂れることになった。


「ダンジョン攻略!最下層でボス戦!勝てばレアアイテムとかレア素材の入手がお約束じゃん!なんでだよ!!」


「そりゃ現実だしな」


「ド畜生!!」


手袋についた煤や木くずを払い、八雲を見もせずにトドメを刺す九狼。背後で「リアルなんてクソゲー!」と聞こえるがすべて無視。


「使えそうな素材はほとんど無し……ですよね、中尉」


「……ああ。希少部位は焼けてしまっている上に、他の部分もほとんどが熱でやられてしまっている。加工前にこれでは、持ち帰っても精々が薪程度にしか使えないだろう」


近くで状態を見ていたザックに声を掛けるが、彼も首を横に振るだけ。しかしその答えを聞いて改めて『巨樹の大像』の残骸へと視線を向けて顔を引き攣らせる。


「この量の薪……いや、持ち帰るとか無理だろ。それに魔物の倒し方も考える必要があるってことか」


魔物の素材が欲しいならただ弱点を突くだけではいけないという現実に八雲ではないが溜め息が出る。簡単に首を落とせれば楽なのだろうが、自身の腕ではまだまだ足りないと、両手を握っては開いてを繰り返す。


「…………」


『憤怒』との戦闘、その終盤で掴んだあの感覚。すべての斬撃に斬魔を乗せることが出来れば、たかが階層主程度の腕や首など、断ち損じる事など無いのだが。


「修行不足ってことだよなあ……」


「なにそれ、もしかしなくても陽川のこと言ってんの?」


背後から掛けられた言葉に、そのまま気づかないフリをしたい。しかし周囲がこちらへと視線を向けたせいで、自分が気づいていないフリなどできない。


「誰も陽川の話はしてねえよ……」


心底めんどくさそうに振り向けば、そこに立っていたのは星井七瀬といつもの三人。うわあ……と背後でチャラ山辺りの声が聞こえる。チャラ山の顔は見えないがどういう表情なのかは七瀬の顔が不愉快そうに歪んだことでわかる。


おのれチャラ山、オマエのせいで星井の機嫌悪化しただろ後でシバく。そう心に誓いつつ、九狼は改めて七瀬へと顔を向ける。


「で、なんだよ。さっきのは俺の話であって陽川のことは言ってねえけど」


だから絡んでくんなやと言外で告げるが、それが通じるならそもそも彼女が九狼へと突っかかることなどない。


「ふん、どうだか……ていうか、さっさとその木の枝拾いなさいよ。陽川が倒してくれたんだから、全部回収すんのは当たり前でしょ」


「……この量を地上まで持って帰るなんて無理だろ。どう考えても人手が足りねえよ」


マジかコイツ……という視線が九狼と、その背後のクラスメイトから向けられる。しかし、そんなものは彼女にとってはどうでもいいことだ。彼女にとっては龍一と他数人とそれ以外という分類しかなく、今彼女へと視線を向けているのは『それ以外』に分類される者達がほとんど。


「はあ?あんたが空間魔法とかいうので運ぶんでしょ。その程度にしか使えないスキルなんだし」


故に彼女は九狼の言葉を鼻で笑う。八雲も五樹もチャラ山も、当然他の男子連中も陽川龍一よりも下の存在なのだから、彼の為に働くのは当然だと、彼女は本気で思っている。


「分かったら、さっさと動け。陽川を待たせんな」


「おい、星井。お前その言い方は」


九狼の背後で、運動部男子が七瀬へと一歩踏み出す。しかし、それを制したのは九狼だった。


「葉山?」


怪訝な顔を見せるクラスメイトに、しかし九狼は手で制するだけで七瀬から目を離さない。


「残念だけど、俺の魔力と練度じゃここまでデカい上に大量の素材は収納できねえよ」


『憤怒』戦以降に修練を始めた空間魔法は未だ修得に至っていない。そもそも空間魔法はスキルの補正を以ってしても難度の高い魔法であり、更に言えば九狼は無詠唱、そして攻撃への転用を前提としているが故に七瀬の要求している『収納』は未習得という有り様。


仮に習得していたとしても、普段の九狼の魔力量では『巨樹の大像』から採れる木材すべてを回収できるだけの空間を開くことは出来ない。


そういった内情を知っているアルティナやサラはともかく、七瀬の側からすれば半年以上異世界にいて、未だにスキル補正のある魔法を修得できていない九狼は侮蔑の対象だ。それは彼女の背後に立つ三人も同様のようで、揃って同じように九狼へと嘲笑を向けてくる。


「なにそれ?ほんと使えないじゃん、あんた」


「だからお前、いい加減に……!」


九狼よりも先にその後ろのチャラ山が先に七瀬へと食ってかかろうとするが、


「どうしたんだ?」


空気を読まないのか読めていないのか、龍一が他の女子を引き連れて近づいてくる。その瞬間、先ほどまでは嘲笑に染まっていた四人の顔が明るいものへと変わった。


「なんでもないって。陽川はどうしたの?」


「この魔物の素材を回収するんだろう?みんなその為に働いているんだし、僕も魔力が回復したから手伝おうと思って」


「そんな、陽川はあんな大物にトドメ刺したんだし、ゆっくりしてていいのに……」


優しい、素敵と甲斐達三人も呟いているが、魔物の討伐に貢献したのは龍一だけではない。九狼や八雲は言わずもがな、他の生徒達もそれぞれがここに来るまでに活躍している。龍一だけが疲れているではないのだ。


龍一自身、それが分かっているからこそ九狼達の元へと来たのだが、


「素材の回収は葉山達がやるって言ってたし、陽川は撤収準備しよ」


「いや、でも」


「勇者が率先してダンジョンから出て、クリアしたってことを周りに教えないとダメじゃん?」


龍一にすり寄る七瀬。そんな彼女の態度にもう我慢が出来ないとばかりにチャラ山が口を開こうとするのだが、


「そうだな。陽川達は先に戻って召喚者はダンジョン攻略完了しましたって宣伝してくれよ」


「葉山……いいのか?」


「そういうのも勇者の仕事なんだろ?頼むわ」


九狼の言葉に逡巡すること数秒。龍一の中でも納得のいく理由が見つかったのか、彼は申し訳なさそうにしながらも頷いた。


「……わかった。みんな、すまないけど、ここは頼むよ」


深々と頭を下げた後に、龍一は背を向けて歩いていき、その背を七瀬達が追う。直前に九狼達を鼻で笑う姿に、周囲の怒気の高まりを感じて、九狼はそちらへと顔を向けた。視界に入った面々のほとんどが顔を怒りに染めていた。


「鬱陶しいのは勇者様が連れてってくれたし、適当に素材回収して戻るか」


が、九狼はそんな怒りなどどこ吹く風、あっけらかんと宣った。


「なんであれでキレないんだよ……」


「星井相手にキレてもめんどいだけだろ」


「そりゃそうだけどさあ……」


九狼の反応に肩を落とすチャラ山。周りの男子達も素材を拾いながら、しかし口々に七瀬への不満を口にしている。


「そもそも魔力がどうの言えば、星井は葉山の次に少ないだろ」


「つーか、アーティファクトの同調時間も俺らの中で一番短いし」


「なのに陽川の前でいい格好しようとしてイキって、早々に魔力切れ起こしてりゃ世話ないよな」


「同調時間?」


そんな中、聞きなれない言葉に九狼が首を傾げれば、八雲が意気揚々と『建御雷』を掲げる。


「アーティファクトと同調するのって結構集中力いるんだよ。で、連続して集中できる時間は人それぞれだからな」


「じゃあ、アーティファクトで強化できる時間も限りがあるってことか」


「だな。星井の場合、そこにエンチャント系の魔法も連発してたから尚更だろ」


タダでも無制限でも無かったのかよと溜め息一つ。


「でもまあ、そんな上手い話があるわけないか……」


やっぱり地道に鍛えるかと、目の前に転がる素材を雑嚢に放り込んでいく。


「この後は一度上に戻って、飯食って訓練して、それから……」


こちらから声をかけようと心に決めて、それにしてもやることが多いと今日何度目になるかわからない溜め息を吐くのだった。







ダンジョンから出て遅めの昼食を取り、九狼はここ数日で食事時の定位置となった、自分の右隣に座る人物へと顔を向けた。


「三徳、ちょっといいか?」


「はい、もちろんです」


九狼君からのお話なら最優先ですと、いつものように微笑む三徳。そんな彼女に、九狼は意図せず爆弾を全力投球した。


「今晩、時間貰えるか?話したいことがあるんだけど」


ざわり、という音とガタッ、という音が同時に食堂に響く。とんでもねえ爆弾が来た!と顔を輝かせる者達を尻目に、普段と変わらぬ微笑みのまま三徳は頬に手を添えた。


「ええ、もちろんです。お夕飯の後でいいですか?」


「ちょっと長くなるかもしれないし、飯食った後の方が都合いいと思うけど」


「わかりました。ああ、もちろん二人きりで、ですよね?」


「そういう約束だしな」


二人のやり取りに周囲が浮足立つ中、


「あん?」


「あら?」


「中佐?サラも、どうかしましたか?」


ガルムとサラ、ヴァーミリオン兄妹の耳がぴくりと動く。


「外が騒がしいですわね」


「だな」


そんな二人のやり取りにウィリアムとテイワズは互いの顔を見て頷きあい、立ち上がり、食堂の外へと出ようと一歩踏み出した瞬間、


「アーレンス卿!!」


王国軍の兵士が一人、飛びこんできた。食堂中の視線が彼へと向けられる中、ウィリアムとテイワズはその兵士へと近づいていく。


「どうした」


「それが!」


ウィリアムの問いへの答えに、ウィリアム、テイワズ、ガルムが弾かれるように食堂の外へと駆けていく。一瞬遅れて九狼、サラ、アイザックが走り出した。


「あ、九狼君!」


「ディーネ、ルフ!」


九狼を追って三徳が。そしてアルティナも駆け出し、八雲や五樹、チャラ山達や龍一達が続いていく。その先に何が待ち受けているのかも知らず。







一同が向かったのは町の入り口である門前だった。


そこでは軍人だけでなく、騎士達や町人が集まって人だかりが出来ていた。


「だ―――、クロ―――を――――――!!」


その向こうから、誰かの叫び声―――否、喚き声が耳に届く。ウィリアムがまず人だかりに割って入り、そんな彼を見た者達は筆頭騎士の邪魔になってはいけないと道を譲る。


「だか――――――ヤマは――――――るんだ!!」


人だかりの向こうで周囲へ血走った目を向けているのは、近衛の鎧を身に着けた若い騎士。九狼はもちろん、ガルム班や召喚者達もその顔には見覚えがあった。


セスムニル到着の当日、独断専行でダンジョンへと入り、そして救助された騎士達の一人、フルス・ケイハ。以前、謁見の間での軍議において、『憤怒』討伐の報を聞き、それに異を叫んだ男だった。


「ケイハ卿」


「―――!アーレンス、卿……」


ウィリアムの声に身体を震わせるケイハ。筆頭騎士へと向けた顔も、その身を包む鎧も、泥や草の切れ端に塗れていて、典型的な血統派貴族(ウィリアムの知る彼)が見せる、尊大な態度も汚れを厭う姿も無い。


「落ち着け、いったい何が……他の者達はどうした?」


だが、そんな彼も自身にとっては教え子の一人。ウィリアムは落ち着かせるように声を掛けるが、


「あ、あぁ……」


ケイハは既にウィリアムを見ていなかった。揺れる視線は、ウィリアムの後方に位置する者へと向けられていて、彼は縋るように手を伸ばしていた。歩みはまるでB級映画のゾンビのように見えて、周囲の者達は思わず後退る。


結果、ケイハは目当ての人物の目前まで歩を進めていた。


「お、おまえが……」


「あ?」


胸倉に伸ばされた手を掴み、阻む九狼。いきなりなんだこの野郎と思いつつ、しかし不意に耳に届く、重苦しい鎖の音。


「おまえが、おまえが……おまえが悪いんだ!!」


血走った眼で九狼を睨みつけ、涙を流しながら吐き出す恨み言。誰もが訳が分からないと困惑しながらも、ガルムとウィリアムがまずは九狼とケイハを離そうとして、


「おまえが、身の程も知らずに()()()()()()()から!!」


なおもケイハが叫んだ瞬間だった。







()()()()()()()()







「――――――ッ!!」


その場の全員の耳に届いた、不愉快極まる猫撫で声。同時に首筋に感じる絶大な悪寒に九狼は反射的に『第三出力』を展開、ケイハの腹に蹴りを叩き込んでいた。


「がッ―――げび――――」


蹴り飛ばされたケイハは人だかりを抜けて町の外まで転がり、ようやく止まる。鎧越しとはいえ不意打ちで腹を蹴られ、咳き込むケイハを見て龍一が九狼へと詰め寄る。


「葉山!いきなり何をするんだ!」


傍から見れば、九狼が傷ついた仲間を蹴り飛ばしたようにしか見えない。龍一の反応も当然であり、周囲の者達も大半が唖然としている。だが、数人は違った反応を見せていた。


「クロウ、まさかとは思うけどよ……」


「以前聞いた、あれですか……」


ガルムとリューズはそれぞれの得物に手をかけて九狼の前へと立ち、更にその前にウィリアムが立つ。


「俄かには信じられんが……」


「……だが、クロウはあの時も同様に予感していたそうです」


腰の騎士剣に手をかけるウィリアムの言葉をアイザックが否定。彼の弓にはすでに矢が番えられている。


「この場合、便利というべきなんでしょうか……前もってわからない時点で不便ですわね」


「さ、サラ……クロウだって好きでそういうのを感じてるわけじゃないよ……」


小さく溜め息を吐くサラが、ディーネとルフを周囲に浮かべるアルティナの前に立つ。


「皆さん、何を……」


鹿奈多が生徒達の声を代弁する。しかし、彼らは鹿奈多の言葉には答えない。答える余裕がない。


「げ、ごほっ!がはっ!い、嫌だ……死にたくない!死にたくない!痛い!痛い!痛い!痛い、痛い、痛いぃ!!」


九狼に蹴られた腹を抑えるのではなく、自身の肩を抱くように腕を回すケイハ。その言葉がやがて呪詛へと変わっていく。


「嘘だ!なんで私が!ここまで来たら、クロウ・ハヤマに会えば、助けてくれると言ったじゃないかぁ!!あ、ああああああああ!ぜんぶ、おまえのせいだ、クロウ・ハヤマァ!!」


そして、異変は地に着いた足から始まった。


「ひっ!いやだ、いやだ、いやだあぁぁぁああああ、ああ、あ……」


パキリ、パキリと、硬い音を立てながらケイハの両足が変わり始めた。鎧も、服も、そして彼の身体も。どれもが等しく、光を反射し、輝く鉱石へと変貌していく。


「ちち、うえ……はは、うえ……たすけて……」


最初はゆっくりと、しかし徐々に速度を上げて変わっていくケイハの身体。その姿をまざまざと見せつけられて、息を呑む音がいくつも九狼の耳へと届く。


「回復魔法使える奴は動け!」


同時に、助けを求める声に応えようと八雲が駆けだし、


「駄目だ!」


「五樹!?離せよ!」


しかし直後に五樹によって羽交い絞めにされ、親友の虚弱体質を思い出して思わず動きを止めてしまう。


「あの人は、もう……!」


「たす、けて……しにたく、ない……よ……」


悲痛な色を宿した五樹の言葉を証明するかのように、九狼へ向けた指先まで黄色の鉱石へと変わり、更には首から上もすべて鉱石へと変じる。結果、助けを求める声を残して、フルス・ケイハという名の彫像が生み出された。


唖然、呆然。誰もが形は違えど言葉を失う中、しかし誰もが驚愕を余儀なくされる事態が続く。


「「「――――――ッ」」」


鉱石化したフルス・ケイハから滲み出る、黄色と黒の混じりあった魔力。同時に、彫像と化したケイハから次々に角柱状の鉱石が生えていく。


生えた角柱から、更に新たな角柱が伸び、肥大化。。もはやケイハだった頃の跡形はなくなり、巨大な鉱石柱が形成されていた。そして尚も膨れ上がる黄黒の魔力。既にその総量は龍一の『プロミネンス・パニッシャー』数発分に匹敵し、それによって地面に巨大な魔法陣が描かれていく。


「転移魔法陣……」


己の扱う術式と類似した陣に更なる悪寒を感じる九狼の視線の先、輝く魔法陣の中心に据えられた鉱石柱が砕け散った。砕かれた鉱石は光を反射しながら降り注ぐ。


その中心には天を仰ぎ、両腕を伸ばす者が一人。背後には片膝を着き、付き従うように頭を垂れる複数の人影。


命を砕いて輝く硬い雨の中、中心に立つ者が視線を前へと向けた。


仕立ての良い、スーツによく似た服装とマント。華美を極めるが如く無数の宝石や貴金属で装飾されたそれを着こなす痩身長躯。丁寧に梳かされた黄色の長髪を戴く白皙の美貌の男。


街中を歩けば、十人が十人振り返るであろうその男に、しかし見惚れることなどありえない。


冷徹、冷酷。軽薄、軽佻。他のすべては見下して当然と言わんばかりの薄ら笑いを浮かべる顔の額に埋め込まれた、紫水晶。


「お会いできる日を楽しみにしていましたよぉ、人類の皆様方」


一礼し、魔族の男は顔を上げながら両手の白手袋を取り外す。その下に隠されたものの意味を理解できていない者達は困惑し、理解できる者達は息を呑む。


両手の甲に宿すは黄色の水晶、罪の証がそこにはあった。


「魔王軍最高幹部、六罪将が一席。『強欲』のグリーマ。どうか、お見知り置きを」


第二の罪が、値踏みするように人類(彼ら)を嗤った。


章ボス登場。ちなみにこいつが六罪将での中で一番、一般魔族から嫌われてます。

でも立場が立場な上に当然強いので表立って言えない。

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