04:フライングマジック
抜け駆け回
「魔法を」
「試す?」
「おうよ!」
目を輝かせる八雲。そんな彼に待ったをかけるのはもちろん九狼で。
「ついさっき魔力を使えるようになったばっかりなのにどうやって試すんだよ」
「そりゃあもちろん……どうする?」
「ノープランかよ」
幼馴染のバカっぷりに溜め息一つ。けれども、九狼自身魔法については興味がある。
「我らが軍師殿、なにか策は?」
「軍師殿ぉ!!」
故に五樹へと向ける。九狼と八雲の二人で会話をしていると、どうしても勢い任せになってしまいがちだが、そんな状況を解決するのはいつでも五樹の役目だ。
「えっと、近衛騎士団長さんはこの世界の生物は例外なく魔力を持つって言ってたよね?だったらこの世界の人に聞くのが一番早いんじゃないかな」
「部屋付きのメイドさんか?」
「うん、九狼正解」
「すげーよな!俺らに先生含めて42だろ?そんな人数をいきなり王城の中に住ませてくれる上にそれぞれの部屋に世話役のメイドさんを配置してくれるとか!マジもんのメイドさんとか男の子のロマンだろ!」
九狼達が魔力の発現、スキルの確認を行った後に案内されたのは王城の一角。
そこには彼らが滞在する為の部屋が用意されており、更には世話役のメイドまで配置されていた。
九狼が聞いてみたところ、これも国王の計らいだという。自分達の都合で呼び出した以上、衣食住に関しては面倒を見ると言っていたがまさかここまでしてくれるとは、と驚いたものだ。そして同じ話を聞いた八雲は身近にメイドがいるという事実に大興奮している。
「バカは放っておいてメイドさん呼ぶか。魔法について教えてもらおう」
「なんだかんだ九狼も結構乗り気だよね」
「そりゃ昔から八雲に薦められてアニメとか漫画とか見てたしな」
アニメやゲームを中心に幅広く興味を広げる八雲と四六時中一緒にいた関係で、九狼もそういったものへ触れる機会が多かった。必然、興味の対象にそれらも含まれ、『異世界』『魔法』といったワードに心躍るものがないわけではないのだ。
「まあ、そこのバカほどじゃないけど」
「あはは、それは、まあ……」
「あ、メイドさん!えっと名前はリリィさん、だっけ?魔法について教えてください!」
既に椅子から立ち、部屋の外で待機していた八雲と九狼付きのメイドも含めた三人に声を掛ける八雲。そんな彼からの頼みに三人のメイドは顔を見合わせると顔を合わせて何事か相談を始めた。
時間にすると1分もないほどの相談。そうして前に出たのは八雲を担当するメイドだった。
「ヤクモ・トリイ様付きメイドのプラム・プライマリーと申します。僭越ながら、魔法の事ならば我々三人の中でわたくしが適任かと存じます」
美しい銀髪を僅かに揺らしながら、彼女はスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げて行なうカーテシーと呼ばれる挨拶を行なった。隣で感動のあまり拝んでいる八雲は放っておこうと決意した九狼は話を進める。
「プライマリーさん、単刀直入に聞きますけど魔法ってどうやったら使えるんです?騎士団長さんからは魔力を使って想像を現実にするって聞いたんですけど」
九狼の言葉に頷くプラム。彼女もまた、ウィリアムと同様に右手を目線と同じ高さまで挙げると、薄紅色の魔力を励起させる。
「数代前に召喚された方の研究によれば、魔法とは自己の魔力を用いて世界に干渉し、事象を上書きする力。魔力をコントロールし、望む現象を明確にイメージすることで、その現象を発現させます。皆さまは、騎士団長からどのような魔法を拝見されましたか?」
「はい!確かトーチって言ってました!あとファイアーボール的な火の球の魔法も!」
八雲が勢い良く手を上げる。そんな姿にプラムはくすりと口元を緩めた。
「火の球……騎士団長ならば流星火でしょうか。騎士団や王国軍でも制式採用されている戦闘用魔法の一つですね。『灯火』に『流星火』、なるほど騎士団長らしい、わかりやすいラインナップかと……闇を照らせ。『灯火』」
プラムは掌を上に向けながら詠唱。そして小さな火が生まれる。
「この『灯火』の魔法はこの世界に生まれた者のほとんどが魔法を学ぶ際に最初に覚えるものの一つです。他にも簡単な水や風を生むような魔法があり、そういった魔法は日常生活でも使用される為、大別して『生活魔法』と呼ばれています」
更にプラムは先ほどの騎士団長と同じように掌に火の球を生み出す。
「灼熱よ、空を舞い打ち砕け。『流星火』」
騎士団長のそれと比べると一回り大きな火球を生まれ、すぐさまそれは消える。
「流星火のような戦闘魔法は基本的に戦いを生業とする方々が使用されます」
「あの、プライマリーさん。いいですか?」
「如何いたしましたか、センドウ様」
「えっと、違っていたらすいません。さっきプライマリーさんが火を灯す前に言っていた言葉と、騎士団長のアーレンスさんが言っていた言葉が違っていたと思うんですが」
「騎士団長は確か……女神よ、導の火をここに、だったっけ」
「え、覚えてんのかよオマエ」
「逆に聞くけどなんで九狼は覚えてないんだよ。魔法だぞ?テンション上がるだろ?当然覚えるだろ」
たった一回、それも初見でいきなり言われた言葉を完璧に覚えていることを当然と宣う八雲に辟易しながら、しかし確かにプラムの唱えた言葉とは違う。三人が揃ってプラムを見ると、彼女は微笑みながら頷いた。
「ご明察にございます。軍でも採用されている魔法は混乱を避ける為に詠唱を揃えておりますが、本来魔法を発動させる為に必要な詠唱は自由なのです。例えば、市井の子供などは灯火を使う際にこのように唱えたりします。女神様、どうか暖かい光をお恵みください。『灯火』」
言うが早いか、プラムの指先に火が灯る。それを食い入るように見るのは八雲。
彼女の説明を一言一句逃さないとする気概は傍らでこの授業を眺めているメイド二人も苦笑するほどだ。
「このように最終的に魔法名に繋がるならば詠唱は基本的に自由にございます。詠唱とはあくまで自身のイメージを構築し、固める為に必要な要素ですので。そしてそのイメージ自体が確かなものならば」
今度は『灯火』と呟くだけで火を灯す。
「詠唱無し、魔法名を唱えるだけで発動も可能にございます」
「てことは、魔力の扱い方と魔法のイメージが確かなら使えるってことですか?」
「仰る通りにございます、ハヤマ様。魔力操作の初歩は手に集中させることですので、まずはそちらから始めるのがよろしいかと思います」
「プラムさん、ありがとう!!よっしゃ九狼、五樹。さっそく試そうぜ!」
「お役に立てたようでなによりにございます」
一礼の後、プラムは他のメイドと共に入り口近くに控える。そして九狼達は互いに向き合い、それぞれがそれぞれ魔力を発する。
九狼は灰色、八雲は紫色、五樹は翡翠色。
それぞれの魔力が発する中、色だけでなくその勢いも三者三様。そのどれもが全身に纏っているが、八雲は間欠泉のように、五樹は僅かに揺れながら、九狼の魔力は微動だにせず。
そんな三人の様子を見て、プラム・プライマリーは目を見開いていたのだが、それに気づく者はいなかった。
「よーしよし!こんなこともあろうかと異世界に召喚された場合の魔力操作のイメージトレーニングしててよかった!」
「マジかオマエそんなことしてたのか」
「なんで九狼はしてないんだ?」
「普通異世界に召喚されるなんて思わんだろ」
「え」
「え」
「はいはい、二人とも。そこまでにして今は魔法でしょ」
放っておけばいつものやり取りに発展しかねない為、五樹が待ったをかける。
二人も大人しく聞き入れ、改めて魔力を操作。それぞれ手に魔力を集め、
「八雲、行け」
「だね。八雲、先どうぞ」
「よっしゃ!まずは火を出すところからだよな……闇を照らせ、『灯火』!」
ボンッという音と共に指先に灯る火。それは先ほどまでのプラムや騎士団長の出した火がマッチなら、ガスバーナーと言えるほどの勢いでもって、天井近くまで放出されていた。
「うわ、バカ!弱めろ!」
「うお、えっと……こうか?」
慌てながらも魔力を操作、火勢を弱めることに成功する。
「ふ、ふふふ……魔力操作極めた!」
「人の部屋火事にしかけてなに言ってんだこいつ」
「えっと……うん、天井も焦げてないし不幸中の幸い、かなぁ?」
「部屋については本当にごめんなさい!でもすまん!今どうしようもなく魔法使えて楽しい!」
「くそ、バカにいらんおもちゃ与えてしまったかもしれん」
「……九狼、手綱はよろしくね」
健康上の問題でこれ以上は無理ですと放り投げる五樹。そんな五樹に溜め息をつきながらも、九狼は手に宿した魔力を見つめる。手本は既に見たし、イメージも固まっている。ならばあとは唱えるだけだろう。
「詠唱は……わかったよ、八雲。同じじゃ芸が無いって言うんだろ?じゃあ……集束、着火。『灯火』」
先ほどの八雲のような放出といった風情ではなく、プラムや騎士団長のような小さな火が灯る。
「よし、出来た。五樹」
「うん、じゃあ僕はアーレンスさんに倣って、女神よ、導の火をここに。『灯火』」
五樹の指先にも、九狼と同程度の火が灯る。
三人ともが一発で魔法を使ったことにプラムは賞賛し、残り二人のメイドも拍手を送ってくる。
「いやーどうもどうも!」
「プライマリーさんの教え方がわかりやすかったからだろ。プライマリーさん、ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
「いえ。皆様の一助となれたのならば幸いにございます」
「よっしゃ、じゃあもうちょっと簡単な魔法できないか試してみようぜ」
ノリノリで続ける八雲に付き合う九狼と五樹。
その過程で三人それぞれの才能を目の当たりにしたメイド三人は驚きと困惑に包まれるのだった。
プラム・プライマリー(20)
八雲の部屋付きメイドさん。
代々王家に仕える侍従の名門一族出身。
銀髪美人。本来は王族の世話に任命されるくらいの人。つまり超有能。
「一流の侍従とは主を護り、敵を退ける力を持っていて当然」という家訓がある為、何気に戦闘力も高い。現時点の召喚者42人が彼女とタイマンした場合、ほぼ勝てない。龍一は絶対に勝てない。
真っ向勝負?なにそれおいしいの?