第7話 旅立ち
一晩泊めさせてもらった優は転生者の事、国の現状を聞いてこれからどういったプランで”転生者”を殺すか思考する。
そして一日だけお世話になったバーラに対し頭を下げ、感謝を告げる。
「泊めさせて頂いて本当にありがとうございました。この恩はいつかお返し致します」
「何もそんな改まる事じゃないわよ。けど、転生者の件絶対に死ぬ様な無茶だけは止めなさいね。後、何かあったら此処に戻って来なさいよ?小さい家だけど面倒見る事は出来るからね」
バーラの様に優しい人達が主国家ザーグに奴隷として生活をしている事を改めて考え、抑えられない憤りを覚える。
(みんなが幸せに暮らせる国に戻さないとな…)
邪神に筒抜けの脳内で独り言を言いつつ密入国に向けての支度を整え、出発する。
「それじゃあ優ちゃん、いってらっしゃい。気を付けてね」
バーラが満面の笑みで不安なんて吹き飛ばすくらい手を振り、元気よく送り出す。それが優には自分のお母さんと重なって見え、自分の家族の元に帰りたい気持ちが溢れるくらい湧いてくる。
(お母さん……俺ちょっとだけ頑張ってみるよ)
優は再度自分に課せられた目的を胸に留めてこの村、そして始まりの森林にまで響き渡る声で「いってきます」と叫び、バーラに負けないくらいの笑顔で手を振って旅立った。
ーーーーーー
優は城壁視察に向かう道中に邪神から聞いた話を思い出す。それは《ヘルプ》についてだ。多分、優の知らない何かがそこに記されているのであろうが、また脳内に語りかけてくるあの気持ち悪い感じを味わう事になる…と思うと気が引けてしまう。
「まぁいずれ慣れるかな…《ヘルプ》」
そう言葉を発すると携帯電話の呼び出し音が頭の中に鳴り響く。どういった仕組みになっているのかはあまり分からない。
優は「それも聞いてみるか」と呟きつつ応答を待っていた。
……接続しました
ーーやはり朝食にはパンケーキが欠かせないな……砂糖をふんだんに使ったのが一番美味いのだ。お前もそう思うだろ”ラーヴァナ”?
優は聞いた事のない声を聞き、思わず「誰だこの声」と口走ってしまうが、接続先の主も急に声が聞こえて驚いてしまったのか咳払いを幾度となく繰り返し「あーマイクテスマイクテス」とちゃんと繋がっている事を確認する。
「おほん、えーと私は邪神ヴィーゴだ。何か用か?優よ」
これは紛れもなく邪神ヴィーゴの声だ。
じゃあさっきの朝食のくだりは誰が話していたのだろうと気になるがそれは置いておき、歩きながら質問を始めていく。
「おはようございます、邪神様。」
優は挨拶から入り、続きを話そうとするがヴィーゴが何故か静止させ「ヴィーゴさんで大丈夫だ。堅いのは少し気に入らん」と邪神らしからぬセリフを吐く。
「では、ヴィーゴ……さん?が何故ヘルプに出てきたのですか?お付きの者が対応するのではないのですかね?」
少し上から目線でモノを言ってしまったと反省する優だが、ヴィーゴはその質問に答える。
「私はずっと暇……ではなく、この様な面倒事に巻き込んでしまったのは私の責任だ。私自ら対応するのが一番適切だろうと考えての事だ。暇ではないぞ」
邪神ってこんなに誠実で優しいの?と思ってしまう優だったがそれも筒抜けである為、邪神は嬉しくなったのか少し声を上ずらせてしまいつつ、続けて邪神は「何か用かね?聞きたい事があれば教えよう」と優に言葉を投げかけた。
「はい、以前転移する前に頂いた《能力》についての事ですが、あまり良く分からないのでその事について質問しようと思いまして」
邪神は「なるほど」と言い手を叩く。すると目の前に黒板が現れて、まるで教師みたいな格好をしたスーツ姿の邪神が出てきた。しかし、邪神の姿は黒のモヤに包まれている為ハッキリと見る事は出来ない。マジシャンみたいだな、と思っていると邪神が説明を始める。
「まず”邪神の加護”についてだが、ステータス値の上昇と闇属性魔法の適正に関与している。後はヘルプが使えるくらいか…」
最初に聞いた話と同じだ。特に変わりはないのだろうと考える優だったが、言い忘れたと言わんばかりに邪神は話を続ける。
「そうだ思い出したが、転生者を殺した際に”魂”と言うものを得られるのだ。以前話した《魂喰い》というスキルでな。これに関しては”魂”を獲得した時点で自動的に私の元へ吸収され、お前に更なる力を与える事が出来る。後は視認した人物のステータスを閲覧出来るくらいだな、以上だ」
(更なる力か…)
と考え込む優だったが自身のステータスについても話を聞いた。
「優のステータスはこんな感じだな、至って普通だ。私も今はあまり力をやれんのだ。許して欲しい。しかし指標として、Bランク冒険者のステータスを用意したのだが比べて見て欲しい。そこそこ強いはずだ」
一般的なB級冒険者のステータス平均値
筋力(力や耐久に影響)……300
知力(魔法や魔力量に影響)……200
機敏(素早さや精密な動作に影響)……300
【神木優】
【Lv1】
【筋力】……500
【知力】……700
【機敏】……300
【スキル詳細】
《邪神の加護》《魂喰い》
見た感じは知力が高いだけでそこまで強い訳ではない。A級冒険者のステータスは4桁である為、優はB級よりも強くA級よりも弱いと言う事になってしまう。B級冒険者は、基本的に才能の無いものが冒険者を20年〜30年続けて続けて成れるか成れないかというランクなので若干優は優遇されているのだ。
「B級冒険者よりも上なら王国騎士団とギリギリ渡り合えるくらいだな……うむ、すまない。しかし優であれば転生者をも殺す事が出来るであろう!私は信じているぞ。……無茶振りだがな。それと、現状報告を頼めるか?」
今の邪神、いやヴィーゴは力を失っているのであろうか。もしそうであれば失った原因とは一体何なのかを優は知りたくなってしまったが、今は取り敢えず最低限の情報だけ聞いておけば良いだろうと思い、聞きはしなかった。
「詳細な説明をありがとうございます。分かりやすくて凄く助かりました。現状報告としては、今現在作戦を練りながら主国家ザーグへ密入国する最中です」
話を聞いたヴィーゴは「ほう……密入国か、待っていろ」と言いガサゴソと電話口から音が聞こえるが、当然優はその音の正体が気になる。待っていると音が鳴り止み、呪文であろう意味が分からない言葉をヴィーゴは唱え始め、ヴィーゴはある”紙”をこちらに送ってきた。
「優よ、もし何かあった時の為に《テレポート》と言う魔法を封じ込めた紙だ。これは行きたい場所を念じて”テレポート”と唱えればすぐにそこへ着く。勿論、これで元の世界に戻る事は出来ないが緊急脱出用に使える。」
「ありがとうございます!これは本当に危ない時に使わせてもらいますね。助かります」
中々良い働きをしたとご満悦なヴィーゴは更に「ついでに優をザーグへ飛ばすぞ?密入国する手間は面倒臭いだろうからな。また何かあったらいつでも《ヘルプ》を使ってくれ、夜11時から朝の7時は所用で出られないからそこだけは留意しろ。それでは幸運を祈る……《テレポート》」
目の前の視界が歪んでいく中、
(邪神って意外に健康的な生活をしてるんだ……睡眠って言えば良いのに)
と頭の中で健康的な邪神の姿を想像し、笑いを堪えながらザーグへ転移する優だった。