第3話 転生者
それは突如として空から降ってきた。
神々しく輝くその身は神から賜ったであろう”神聖装備”を纏っており、その姿は国民達から見ると正しく”神”に見えた。
神像の横へ降り立ったそれは、国民達に見せびらかすように白く燃え盛る炎を纏った劔を掲げそして。
「私は神の力を授かった”転生者”である”田上猛”だ! この国を救う為に駆けつけて来た! 」
けたたましく声を響かせる”転生者”に国民達は勇気づけられ、「英雄だ」「この国は救われるぞ!」と声を揃わせ歓喜に震えた。
バーラ達も「これで助かるわ」と互いに抱きしめ合い”転生者”の登場に心から安堵し、自然と頰を伝っていた涙を拭い笑みを浮かべながら神に感謝の祈りを捧げていた。
敵に剣先を向け「今から私の力によってこの絶望を振りまく龍を打ち滅ぼしてみせよう」とカッコ良くポーズを決める
田上はそう言うと「スキル《支配者》発動」と呟き、神々しさはみるみる増していき、太陽を束ねた様な光が包み込み、そして身体の周囲に直視することすら難しい光を放ち始める。次第に田上が急速に異常な力を得ている事が素人でも理解出来た。
《支配者》というスキルを使用した田上は剣先に手を添え敵に向けて構え、そして力を身体全体に行き渡らせ腰を低くする。
「お前の様な雑魚に対しこのカッコいいスキルを使うのは勿体無いが……これも今後の為、これからのハーレム生活への引き立て役になってもらうぞ。スキル《ゴッドライジングトラスト》!」
スキル名だけ大きく叫ぶと田上は龍と対峙する目の前から姿を消し、国民達は「どこへ消えた?」と不安そうな声を響かせる。龍も「恐ろしくなり逃亡したか」と言いたそうに身体を震わせ高らかに笑う。
--次の瞬間龍の口から赤い液体のようなものが飛び出し、龍も不思議に思ってしまうが胸の激痛と呼吸が出来ない苦しさに耐えられず目の前が闇に包まれてしまう。
「ま、大した敵でもなかったな。やっぱチートスキル最高だわ」
と誰にも聞こえないように独り言を言いながら倒れた状態の龍の背中を歩き、龍の頭の上へ移動する田上。そして頭の上で止まると「皆よ、もう怯えることはない私の完全勝利だ!」と叫び剣を頭に突き刺す
周りにいた人々は一瞬の出来事に頭が回らず、数秒固まるが徐々に「勇者の勝利だ!」「我々の英雄だ!」「勇者が強すぎる」と周りから賞賛の声が上がり、その賞賛を聞いた田上は「ハーレムルート突入だな」とまたも独り言を呟くがそんな独り言は今の国民達の耳には入る筈も無く、街は厄災前とは一際違う盛り上がりを見せた……
その後街は負傷者の救出治療や崩落した建物の修復作業を進めており、勇者の登場で活気が湧いたせいか国民達が一所懸命に各仕事を務めていた。
バーラ達は特に家の被害が無かったのを確認すると、三人で夕食の買い出しに出かけるつもりだったが、夫が「二次被害が起こるかもしれないから家で待ってなさい」と言い、夫一人で夕飯の買い出しに出かけ、残されたバーラとマーラは家で晩餐会を開く準備を始めていた。
その最中、国王が英雄田上猛を呼び出し、褒美や礼を渡すという英雄を迎え入れるパーティーが開かれ国王が
「勇者田上よ、欲しい物はあるかな?この国、ザーグを救ってくれたお礼に何か褒美を渡そう」
というこの言葉に周りの貴族達がヒソヒソと「お金か?」「地位かもしれない」と言った予想を次々立てていくが、予想は一回りも二回りも上を行った。
田上が王の目の前まで移動すると、ニヤニヤしながら顔を近づけ「この国をくれよ」と、異常な事を要求する。
『は?』
貴族達と国王が同時に声を上げる、もちろん当然の反応だ。
いくら王国の窮地を救ってくれた英雄だからと言って国そのものを明け渡す訳には絶対に出来ない。
それは誰にでも分かることだった。
国王の地位はこの国のほぼ全てを牛耳る事が出来る権力を持っており、もし明け渡したとてこの国の法律や制度が滅茶苦茶になるかもしれないし、一番恐れるのは各国との関係が悪化して断交されてしまう事だった。
そうなった場合、国の流通などは著しく機能を低下していくことが目に見えている。
しかも各国との関係が悪化して戦争などに万が一にも発展してしまった場合、長年続いたこの国の平和はどうなるのかと国王は考えてしまい汗がだらだらと流れ憔悴する。
返答が出来ずに戸惑う国王に田上は更に脅迫紛いの選択を迫る。
「国王の権限をくれないのならこの国を今日中に潰す。勿論一切人は生き残る事がないようにな、俺が授かった神の力を見ただろ? ならどういう返答をすればいいのか分かるよなぁ? 別に悪いようにはしない、この場で返答を聞くがどうなんだ? 国を滅ぼしたいか生かしたいか選べ」
田上の言い分はこうだ。
国王の地位を寄越さないのであれば殺戮を始めるが、譲渡されるのならこの国を好きな様に変え独裁政治を始める。
こんな究極的な選択のせいか国王に過大なストレスがかかり過呼吸になる。
自分の選択でこの国の未来が決まるのだ、奴を殺すことも頭によぎったがあの《フレイムドラゴン》を一撃で倒した男だ、どうにかなる筈もないしS級冒険者も歯が立たないであろう。
--そして国王は選択を決めた。
--国王の地位を譲渡する事に。
国王は目の焦点が合っていないのか様々な方向に目を向けたどたどしく田上に喋る
「分かった。お前に、権力を譲、渡する」
田上はニコッと鼻歌交じりに微笑むと「それでいいんだよ、それで。じゃあ国王”だった”おっさんはいらねぇよなぁ?死んどけよ」と言い終わった瞬間無表情になり驚くべき行動に移す。
田上は手に力を込めて国王の額へ一撃殴りを入れたのだが、あまりの速さ故国王は何も抵抗することが出来ずに頭が爆ぜ、王座の周囲には脳漿や頭蓋骨が散り散りに拡散し、部屋を異質に彩る
王宮内ではまるで人が誰も居ないような静寂に包まれ、何が起こったのか理解する事を拒否した貴族達で溢れかえるが、そこへ田上が勢いよく手を叩き皆を現実へ引き戻す。
「今日から俺が国王だ。まずはとびきり可愛い女十人を持ってこいそれとこの国に現住している人間は全て奴隷にさせ、金を没収する。飯や生活用品は配給制だ。あとは、逆らうゴミ共を処刑する事くらいか。じゃあ6時間以内に終わらせろよ」
そう言うと前国王が座っていた席へ向かい、無表情でゴミを扱う様に死体を人差し指と親指で摘んで国王の従者の目の前へ投げ、転がす。
「それ捨てとけ、臭えんだよ」と国王の頭を掴んだ逆の指で鼻をつまみながら心底臭そうに喋る。
国王の従者は目頭に涙が溜まり溢れる寸前だったが涙を見られない為にも直ぐに前国王を抱え王の間を出ていく。
非現実的な事が起こり立往生していた貴族などは、田上に睨まれると慌てて直ぐに仕事に取り掛かるような仕草を見せ王の間から逃げるように退出していく、そして王の間に一人残った現国王田上は
「これからラノベみてぇな生活が始まるんだろうなぁ。マジで死んで良かった〜異世界最高だわ。このチートスキルをくれた神様ありがとなぁ」
と誰もいない王の間でこれから訪れるであろう至福の時間に身を滾らせていた。