プロローグ
初めての執筆で中々四苦八苦していますが暖かく見守っていただけると幸いです
神木優18歳高校3年生。顔は平凡、髪は白色。特に特徴がない彼の1日が始まる。
いつもと変わらない朝。
ガミガミと神木優をお越しに来る母親。
昨日は仲の良い学校の友達と2時までゲームをしていた彼は当然眠たく、重い瞼をどうにかして開く。
「優ちゃん、もう7時なんだから起きなさい!!いつまで経ってもお母さんにうるさく言われなきゃ起きられないのはいい加減直しなさい!!」
このやり取りはもう中学生に入学した頃から続いておりもう耳にタコができるほどだ。
彼は夜中までゲームをする癖があり、そのせいで朝が辛く起きられないのだ。
当然何も言い返すことも出来ずに優はだらりとベッドから身体を起こし、リビングにムスッとしながら家族に顔を合わせに行く。
「おはよう、優」
まぁまぁの声量でニコニコしながら挨拶してきたのは父親だ。
父親は焼いてもいないパンをそのまま頬張っており、優は焼いてもいないパンなんか何が美味しいのだろうと毎日疑問に思う。
本人が良ければ別にいいのだが。
「いただきまーす」
母親が用意していた卵焼きとご飯と味噌汁を食べ終え、ささっと洗面器へ向かう。
「顔洗うか……」
ビシッと気合いを入れる為に冷た〜い水を顔に掛ける。
「うぼぁ」
目を瞑った筈だったが何故か目に水が入り視界が濁ってしまった為、優は横に置いてあったタオルを手に掴むがそこで謎の声が聞こえた。
ーーーー私の為に戦え。
その声はかなり低く、聞くだけで身体全体に鳥肌が立ち恐怖を覚えるような喋り方だった。
優は驚きのあまり身体を強張らせ固まってしまったが、ハッとして父親に助けを呼ぶ。
「…………!!」
しかし優は何故か声が出せなく、首を絞められたように必死に助けを呼ぼうともがいていた。
ーーーーお、驚かせてすまない。まずは経緯の説明をする、『テレポート』。
瞬間、優の視界がミキサーにかけられたようにグルグル回り世界が歪む。
10秒ほど経っただろうか、水によって濁った目も治り、視界が開けた優は辺りを見回す。
するとそこは真っ黒な世界で目を開けているのかすら分からないような暗黒であった。
優は突然の事に驚きすぎて心臓が変なリズムを刻みだすように鳴りだしたが平静になる為に深呼吸をする。
すると後ろから声が聞こえ。
「ここに座ってくれ」
先程、優を突然滅茶苦茶な目に合わせた張本人だろうか、身体は全身黒く輪郭がぼやけている謎の人物が優雅に紅茶らしきものを飲みながら座っていた。
隣にはお付きのものであろうメイド服を着た肌が真っ黒な生物が佇んでいる。
優からの質問を待っているのか低い声の主は微動だにしない。
そこに痺れを切らした優が。
「戻してくれるんですよね……?」
と精一杯声を出そうとしたが自分にしか聞こえないような音量で喋ってしまい内心焦ったが、低い声の主はそれを聞き取り。
「すまないが、事が終わるまで戻す事は出来ないのだ」
その言葉を聞いた優は”何故自分だけがこんな目に”と考えた。それもそうだ、いつも通りのやり取りをし家族と顔を合わせ朝ごはんを食べ終え身の回りの支度を済ませ学校へ登校する筈だったのだ。
しかし何も変わらない一日が始まることは無く、勝手な都合で自分は変な男に変な頼みを聞かされ、それが終わるまで元いた世界に戻る事は出来ないと。
優は顔をくしゃくしゃにし声にもならない声で泣いた。
そしてこのまま泣き続ける前に話を済まそうとした低い声の主が。
「一番気になってるであろう頼みの内容だが、それは”転生者”を殺してもらう事だ。転生者は神によって選別され、異世界に転生される者の事を言う。しかし何故お前に殺して欲しいかという点が気になるであろう。それは……」
涙を服の袖で拭った優はここまで聞いて遮るようにふと気になる事を質問する。
「殺すのは人……なんですか?」
低い声の主は顔一つ変えずにその質問に答える。
「ああ、そうだ。だがそれは人”だった”者だ。奴等は転生する際に神からとてつもない力を授かる。その力を受け取った転生者は力に溺れ、他人のことなど一切考えずに自身の要求を押し付け、それらが叶わないのであれば無残に殺すのだ。ここまで聞いて”人”であると思うのか?優」
確かに聞く限りでは傲慢でどうしようもないし許されないと思った。暴力的な統治は反吐が出る様な気分になる……しかしだ。
「確かに人ではありません。ですが何故僕が自分と一切繋がりのない世界で、人”だったもの”を殺さなくちゃならないんでしょうか。自分の繋がりのある家族や友達に何かが起こったのならまだ分かります。しかしそれはあくまで他所での出来事。私がやる必要は無いんじゃないでしょうか」
至極真っ当な返答だ。それは誰に聞いたとてそう言うだろう。しかし低い声の主は
「近々この世界も転生者によって侵食される。あいつら神は英雄もどきを世界に召喚する事でどんな問題も解決し平和になると考えている。勿論人格者がその力を持てば話は別だろうが、奴等は全て力の適正値のみで判断する。性格云々は関係ない。その所為で各世界が混沌となっているのだ。この世界も混沌と化すのは時間の問題だろう……」
そう言葉を紡ぐと低い声の主は何もない空間から黒い珠を出した。
「何故お前でなければならないのか。それはこの闇の適正値を持ちお前が穢れを持たない人格者だからだ。この世界の他にもまだまだ自分より良い人格者がいると考えているだろうがお前以外は適正値が低いのだ。この珠に収まっている力は”闇”だ。良い人格者は大抵”聖”の適正しか持たないのだがお前はただ一人”闇”の適正と穢れのない人格者という二つを兼ね備えている為お前にしか頼めんのだ。嫌とは言わせん。優、お前の人生の為やらざるをえないのだ。分かってくれたか?」
自身の人生を人質に取る巧妙な会話術に優は何も言い返す事が出来なかった。”自分にしか出来ない” ”自分の人生の為”こんなことを言われたらもうやらざるをえなくなる。
しかも自身の家族に影響が起こるかもしれないのなら尚更だ。そして優は
「私しか成し遂げやれないのならやりましょう。ですが事が終わったのなら確実にみんなで安心して暮らせる様にする事を条件にして下さい」
その返答にフフッと鼻を鳴らし笑った低い声の主は
「良いだろう。では事が終わったのなら安心して暮らせる様に手配してやる。そしてこの力の説明だが、ステータス値の大幅な引き上げと属性魔法”闇”の適正、固有スキル”邪神の加護”と”魂食い”というものだ。分からない事があれば”ヘルプ”と念じればある程度の事は分かる」
すると慌てた様子で優がツッコミ混じりに質問する。
「って邪神なんですか?それにしては世界の為にやら邪神らしからぬ事を喋ってた様な気がしますけど」
邪神は大きく頷き優の偏見を優しく訂正していく
「邪神と言ってもやる事が色々別れているのだ。お前のイメージとしては破壊が大好きな神というイメージだろうが確かに間違いではないな。ある一定期間が立つと邪神は各世界で暴れてもらうのだ。そして邪神は勇者に倒されてもらい、また休養期間に入るのだ。我らを憎しむ者もいるだろう。しかし我らもやらざるをえないのだ……不幸と幸福のバランスを保つ為にもな。勿論邪神でも良い神は居る、感情を与える邪神や悪しき魂を管理する邪神だ。色々と仕事があってしんどいがな」
不幸と幸福のバランス……考えても仕方がなかった。
取り敢えず悪い神ばかりじゃないんだと偏見を訂正する優だったが、それならあの目の前に座って居る邪神は何を担当している邪神なのか気になり質問した。
「あなたは何を担当している邪神なんですか?」
邪神は不敵な笑みを浮かべ先程より更に低い声で。
「私は全ての悪を司る邪神だ……」
そういった邪神は低い声が辛かったのか咳込み普段通りに改めて喋る。
「おほん……担当を分けていると言ったが全て私の分身だ。その分身に役割を与え、仕事を行なってもらうのだ。一人じゃ流石に管理出来ないからな」
そう言い終えた途端邪神のお付き者がコソコソと耳打ちで邪神に何かを言う。
「おっと、すまないそろそろ時間だ。取り敢えず力を与えておくぞ。一応人殺しをする訳だから戸惑いが生じるであろうが”邪神の加護”によって情緒は安定し如何なる時でも冷静になるので安心してほしい。そして今回行ってもらう世界は”メビウス”と言う世界だが、そこにある主国家ザーグで転生者が踏ん反り返って善良な市民と兵士を操っているらしい。そこで君が転生者を殺し、独裁国家から救って欲しい。暗殺するも良し、正面から殺すのも良しで殺し方は問わない。あとこの通信機を渡しておくが任務が終わり次第これで連絡して欲しい。最後に紹介して申し訳ないが私の名は”ヴィーゴ”だ、今後とも宜しく頼むぞ……『ディメンションテレポート』」
そう言い残して邪神との会話は終わりを迎えたのだった……