男装の麗人の話2/3
きみらも知ってる通りぼくのこのお店は、表はもちろんそこの入り口にも看板がないよね。それに特に宣伝とかもしてないから、ここがバーだって知ってる人もお客さんも少ないんだ。だからここが初めてのお客さんは誰かの紹介で来るんだよ。でもその彼はちょっと特殊でね?
カランと扉を開いた音がした。
「いらっしゃい。」
ぼくがそう言うと入ってきたお客さんはびっくりした顔をする。
「あの・・ここって・・・?」
「お酒を飲むところだよ。バーってやつだね。知らないで入ったのかい?」
「えっと、お、俺、廃墟巡り、が好きで、それで地下に続く、階段が、気になって・・。」
ずいぶんとオドオドと喋る子だなー。
「そうなんだ。せっかくだからお酒飲んで行きなよ。今日はまだお客さん来てないから暇だったんだ。」
ぼくに誘われた彼は少しためらいながらも席についてくれた。
「どうする?何かいつも飲んでるのがあれば出すけど、特になければおすすめにしようか?」
「え、あ、じゃあ、おまかせ、します・・。」
「お酒は飲める方?飲めない方?」
「普通には・・。」
「ご飯は食べた?」
「あ、いえ、まだ・・。」
それならこれで。
「はい、キール。意味は最高のめぐり逢い。」
ぼくはにっこりと微笑むと彼はうろたえる。
「ふふ。すこしキザすぎたかな?食前酒にぴったりだからさ。・・・おつまみ系今パッと出せるのナッツしかないけど大丈夫?」
「・・は、はい。全然、大丈夫、です。」
彼はゆっくりとお酒に手を伸ばす。
「・・おいしい。」
「そう、よかった。」
ひと口飲んだら緊張が溶けたみたい。彼は続けてお酒を煽る。程なくしてぼくはカウンターに肘をついて手を組みあごを乗せた。
「それで?なんでここに来たんだい?」
ぼくの問いに彼は驚く。
「え、そ、それは、さっき・・。」
「言ったね。廃墟巡りが好きだって。でもそれは変だよね。」
ぼくは断言する。
「確かに表にも扉にも看板はないからここがお店だとわかる人は少ないよね。でも小さいけど灯りはあるし掃除も行き届いてる。それに扉から光も漏れてたと思うし、ここが廃墟だと感じる人はいないんじゃないかな。・・・で?きみはどうして扉を開けたんだい?」
「・・・・。」
ぼくはニコニコ笑って見つめる。ぼくも彼もなにも言わない。ただひたすら時計の針が動く音だけする。
「じ、実は・・」
耐えきれなくなったのか彼は口を開いた。
「一目惚れしてしまったんです!!!」
まさかの答えにぼくは目が点になる。
「・・え?それはどっちに対して?ぼく、こんな姿してるけど女だよ?」
「それは知ってます!女性として好きなんです!」
知ってるっていったいどうして?
「君とは初めましてだよね?それともどっかで会ったことあったかい?」
「直接お会いするのは初めてです。俺が一方的に知ってるだけで・・。前に商店街で見かけてすごくかっこいい女性だなーって。」
「え、まさかひと目で女だってわかったのかい?」
「あ、はい。人を見る目はある方なので。」
すごいなこの子。
「それで気になって見かける度に観察してたんですが、あなたが荷物を持ってここに入って行くのを何度も見たので。」
うわお、地味にストーカーされてた・・・。
「それで今日入ってくれたんだ?」
「はい。」