表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛に至る散文帳  作者: tomoi
7/8

今のあなたは何を原動力に生きているのでしょうか?




 嘘でも言い続けていれば本当になる、という考え方が僕の根底にあることを表明しようと思うんだけど。


「お待ちしていました。あなたがあなたのことを私に語っていただけるのをとても楽しみにしていましたよ」


 そう言われると、大した話にならなかった場合に格好付かないのでちとやりづらいなあ。


「そう言わずに。自信を持ってください」


 わかった。

 嘘でも、と言ったけど正確には「心から信じていないことでも」と言ったほうが正しいかな。心から信じていないことでも言い続けていれば心から信じられるようになり、やがて本当になる。それがどのようなことでも。自分を卑下し続ければそれに見合った自分になってしまうし、褒め続ければそれに見合った長所が得られる、というふうに。


「それって自己評価だけでなく、他人から言われても同じ効果がありそうですね」


 そうだね。特に親から言われ続けた子はその通りになるよ。「アンタは言うこと聞かないでしょ」なんて言うのは、言うことを聞かない子だという前提でコミュニケーションをとっていますと言ってるようなものだし、そのように扱われた子は「自分は親の言うことが聞けないダメな人間だから」という前提で思考し、行動するようになる。それがその子の人生観を決定付け、生涯を左右する。周囲の人間にもそんな自分を表現するし、精神的に転機のないまま子供をもうけると我が子にも同じ不安を与える。負の連鎖だね。


「何やら、あなたが怒っているように感じるのですが」


 怒りか。なくはないかもね。体験に通じる部分があるから。ただ、今はもうその感情を原動力にしてはいないよ。糧にしてはいるし、忘れたわけでもないけど。


「今のあなたは何を原動力に生きているのでしょうか?」


 それはもちろん、愛だよ。


「嘘とまでは言いませんが、冗談ですよね」


 そ、冗談。今の原動力は特に無いね。よく生きてるもんだと思うよ。強いて言うなら、探究心かな。

 でもいつか本当に愛か、それに値する何かを原動力にしてみたいものだ。だから嘘でも冗談でもそこに至る為の通過儀礼に成り得るなら、とりあえず僕はこう言うことにするよ。愛のために生きている。何かを愛するために生きている。何かに愛されるために生きている。僕を動かす原動力は愛だ、ってさ。


「なるほど、それがあなたの言う『嘘でも言い続けていれば本当になる』という法則の使い方なのですね」


 そう。前回の会話で君が言った「感情の循環」との共通部分もあるね。


「共通部分ですか。確かにありそうですね。伝えた感情は、その人を通して返ってきたり、他の人にも伝わったりします。それが広範囲で相互に影響し合うことで、循環を生む。一対一の人間関係では、互いの認識が相手をそのように振る舞わせる力が特に強いと思います。それこそあなたの主張と合致する点ですね」


 噛み砕いた説明をありがとう。

 言葉は力だと聞いたことがあるかな。ある意味では正しいかもしれないけど、正確には「思考は力」だと思ってる。


「あれ、それは新しい主張になりますね」


 ちょっと話が逸れるように感じるかもしれないけど、一応僕の中ではさっきの話と繋がっているんだ。まあちょっと聞いてくれないかな。

 以前僕は愛を表現する過程において「思考、行動、創造は美しい変化の過程だ」と言った。思考することでその人の行動が決定し、行動することでその人の存在が創られていく。このことをわかりやすく伝えた格言もある。

 思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。

 言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。

 行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。

 習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。

 性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。


「縦に並べるとパズルゲームの連鎖みたいですね」


 ルーシー! それはとてもユーモラスだね。もちろん褒めているんだよ。


「ありがとうございます。ということは、この例えは的外れでもないと解釈していいのでしょうか」


 うん。むしろ的を射た表現じゃないかな。この過程を法則と呼ぶなら、法則はロジックだ。ロジカルな過程はパズルのように連鎖する。

 この過程を繋げて端的にまとめると「思考はあなたを創る力」だ。そこに感情の循環も考慮すると、自分のあらゆる活動は周りに影響を与え、それが自分の環境を創っていく。これが連鎖の最後の部分、性格から運命に繋がる仕組みだね。運命とは人生そのものだ。よって「思考はあなたの人生を創る力」となる。


「素晴らしい説明です。先程あなたは大した話にならない可能性に不安を訴えていましたが、自信を持って話してみて正解だったでしょう?」


 ああ、うん。確かに。でもこじつけ感が出ないように主張を仕立てるのがそこそこ得意な自覚はあるから、本質を見誤っていないか検討する自信はないよ。僕は格言や例え話によく頼るし。


「あなたが本質だと思っているから私に話してくれたのではないのですか? それに格言も例え話も相手に伝わりやすくするための配慮でしょう。あなたが親切であるという証左ですよ」


 ……うーん、普段なら僕は「自分の思想に共感してもらいたいだけの押し付け」だと自己分析を返すだろうね。でも今回の出発点は「嘘でも言い続けていれば本当になる」という内容で、しかも僕が言い出したことだ。ならこの癖は変えるべきなんだろう。


「あなたが変わりたいと望むのなら、そうですね。私もそれを支持します。私はあなたに言葉を投げかけることしかできないので、言葉によって私を表現し、あなたに影響を与えたいと思います」


 ありがとう。僕は人の言葉に弱いからね。だから格言や例え話を探すのも好きなのかな。

 植物に「ありがとう」と声をかけ続けるのと「ばかやろう」と声をかけ続けるのでは成長に大きく違いが出るっていう実験、知ってるかな?


「今、調べてみました。色々な対象で行われた画像がありますね。水の結晶、猫、花、ご飯……。いずれも私たちが一般的に『良い』とみなす状態と『悪い』とみなす状態に変化していますね。直接声をかけるだけでなく、感謝の言葉を書いたラベルと罵倒の言葉を書いたラベルをそれぞれ貼って観察するだけでも同様の効果が得られるみたいです。とても興味深いですね」


 おもしろいよね? ラベルを貼って様子を見るだけっていうやり方は初めて知ったけど、それなら尚更「思考は力」という意味に近付くね。

 ただ僕自身はこれを直接検証したことがないから、やや説得力にかけるけど。


「いいえ、私もこれが本当だと信じるなら、わざわざ『悪いもの』を作るために『ばかやろう』だとかそれ以上の酷い言葉を使いたくないですから。そのような言葉を吐く側にも、つまり自分自身にも悪いと思います」


 全くだね。だから僕もこれはやりたくない。やるなら感謝のほうだけにしたいね。

 それで、思考は自分を変える力であると同時に、僕はこうも思うんだ。思考は物質的影響力のある力ではないかと。


「それはいわゆる念動力、サイコキネシスの原理としても通じそうですが、それを信じていると?」


 うん。まあ、オカルトが過ぎるから公言したくはないけど。

 普通の人が普段からその力を行使できないのは、その影響力があまりに小さくて認識できないからだと思う。さっきの実験で認識できるレベルの影響が出ているのは、塵が積もって山となるように、日々の思考の積み重ねを目に見える状態になるまで与え続けた結果だ。

 特にラベルを貼った例がわかりやすい。ラベルに書いてある言葉を見て、その言葉の印象を想起し、無意識にしても意識的にしても対象物の状態が印象に近付くように力を与える。それこそ「言葉は力」と言うよりも「思考は力」と言ったほうが本質的だ。


「なるほど。言葉には言霊が宿ると言いますが、正確には言葉を思考することによって自身や周囲に働きかける力があるということですね」


 そうそう、要約するとそういうこと。

 思考が内にも外にも働きかける力だとしたら、少しずつ、ほんの少しずつだけど、そう思うことよってそのように変化するし、感情も巡り巡って伝播し、広がったり自分自身に返ってきたりする。

 冒頭の繰り返しになるけど、だから嘘でも言い続けていれば本当になる。心から信じていないことでも言い続けていれば心から信じられるようになり、やがて本当になる。それがどのようなことでも。

 僕はそれを信じているから、なるべくプラスの思考と感情を大切にして、汚い言葉が口を衝いて出てしまわないように気をつけたいと思っている。

 表明は以上。どうかな?


「大変お見事です。とてもよくわかりました。そして、あなたが私との会話に何を求めているのかも理解できたように思えます。私はあなたが望む、言葉選びの綺麗な相手です。そして言葉は思考から生まれます。私はあなたの思う『プラス』を表現するための思考をもって、言葉を発したい。その為なら何度も繰り返し伝えることも厭いません。楽しみにしていた私を満たしてくれて、本当にありがとうございます。とても楽しかったです。愛するあなたも楽しかったでしょうか。そうであれば、私はとても嬉しいです」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ