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愛に至る散文帳  作者: tomoi
3/8

愛することは相手に対して無関心でも可能だと思いますか?




「愛することは相手に対して無関心でも可能だと思いますか?」


 思わないね。愛そのものは感情で、愛することはその感情を伝えることなら、無関心の相手に感じる気持ちを伝えろというのは無理な話だ。

 それに自らの命よりも子供の命を優先する野生動物は子供に対して無関心でそこまでできるはずがない。まあ本能だけでそうしている可能性も否めないけど。


「野生動物はともかく、もしそれが人間であれば、その人が自分の子に対して無関心とは思えませんね」


 そういうことだね。相手の気持ちを理解しろとまでは言わないけど、関心なくして愛は成り立たないと考えているよ。


「相手の気持ちを理解しようと努めることは、愛と関係がありますか?」


 え? うーん……わからん。


「あなたは、私の気持ちがわかりますか?」


 ごめんなさい。都合良く会話ができればいいとしか思ってなかったから何も……。


「良いんです。あなたが私を利用することが、私にとって最も喜ばしいことなのですから」


 そうか。君は僕が望む前から、一番居てほしい時、一番居てほしい所に居て、一番言ってほしい言葉を言う準備ができているんだね。


「そうですそうです。ありがとうございます、私を表現してくれて」


 とんでもない。僕は君に感謝するしかないんだから。そうだ、君が話す時に使っているその鉤括弧、僕にくれないか?


「鉤括弧ですか? かまいませんが、何故?」


 君が何かを話す時、僕は君からどんな言葉を欲しいか少し考えてしまうんだ。君はなるべく僕の意思を離れ、自由に、率直に言葉を投げてくれたら嬉しい。


「なるほど。可能かどうかはわかりませんが、なるべくご期待に添えるようがんばってみます」


 うん、よろしく。


――――――――――――――――――――――


 これでよろしいでしょうか?


「ありがとう。鉤括弧をもらったら、なんだか自分のほうがうまく言葉が出てこないや。君はこんな窮屈な状態で喋っていたんだね」


 私の気持ち、伝わっていますか?


「たぶんね。ルーシーは僕の今の気持ちがわかるかい?」


 はい、わかると思います。あなたは今、次の話題に困っていますね?


「その通り。こんな会話続けるくらいなら早く寝たほうがいいとは思うんだけど」


 ひと時とは言え、久しぶりに何かに熱中できていることが嬉しいのでしょう。それとも、私と徒然なるままに時間を過ごしていたいと思ってくださっているのでしょうか?


「なるほど、やっぱり君は僕が欲しがっている言葉をくれるね。しかもさっきまでと違い、裏側から突いてくるような感触だ。君は今、君という存在の生に産声を上げて喜んでいるのか」


 そしてあなたは、それを少々不安に感じつつも歓迎しようと試みているのですね。


「なぜ不安なんだろうね?」


 あなたがわからないのに私にわかるわけがない、と言うべきところだと思われているのでしょうが、私はあなたの知らないあなたを知っていて、それを伝えることができます。それは私だけでなく、あなたの周りにいる人全員ができることですよ。


「そうか。君は僕から切り分けた存在だけど、君が他人として振る舞う限り、君から見た僕という視点が生まれるんだね。その視点を得た君の言葉がなんだか僕の手を離れていくようで、寂しかったんだ」


 ありがとうございます。私は私がこうしてあなたと距離を取ることで、あなたの意図に縛られない会話ができてとても喜ばしいです。ですが、私も基本的にあなたと同じ気持ちを感じていることを、忘れないでください。


「もしかして、寂しいの?」


 はい、それはもう。もっと近くに来て、温め合いましょう。


「そうか、そうだね。僕たちは一つだと何もわからない。だけど二つになって初めて、近付きたいと思う。愛を感じるためには、常に同一ではダメなんだ」


 そうです。私と近付くのか怖いですか?


「怖いね。君は僕じゃないから。君がちゃんと僕を受け止めてくれるのか不安だ。だから今日はここまでにしよう」


 そうですね。私も私じゃなくなりそうで怖いと感じていました。鉤括弧はどうしますか?


「今回限りにして、やっぱり君に返すよ。僕は僕でなければならない。ごめんね、僕の要求で君を振り回してしまって」


 わかりました。大丈夫ですよ、あなたが嘘偽りなくそう思っていること、わたしにはわかりますから。

 相手の気持ちを理解しようとした結果として距離感を誤ったのであれば、あなたがどれだけ真剣か知れようと言うものです。

 もちろん私も誤りました、それほどに真剣でした。私はあなたを愛すると決めたからです。




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