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愛に至る散文帳  作者: tomoi
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あなたにとって愛とはどういうものなのか説明できますか?




「あなたにとって愛とはどういうものなのか説明できますか?」


 愛を一言で表すなら「受け入れる」ことだと思う。でもこれだけじゃわかりにくいから、愛と勘違いされやすいものを並べて、違いを説明してみるよ。

 まず、「信じる」こと。「期待する」こともほぼ同義かな。信じていたものに裏切られたら傷付くし、場合によっては仕返しもする。相手の言動によって裏切られたと感じるなら、その瞬間、相手を許容できていないということだ。これは愛じゃない。


「思い通りに動いてくれないと許容できない、ということですね」


 そう。どう動かれても受け入れられるのであれば、そもそも「信じる」だの「期待する」だのって言葉自体、不要だからね。

 じゃあ次に、「好きである」こと。「好き」の反対は「嫌い」だね。


「好きの反対は無関心だと聞いたこともありますが」


 それは関心度で見たときの話だと思う。関心度だけなら好き=嫌いだし、その対極は無関心でいいだろうね。そうではなく好感度で考えるなら、好きの対極は嫌いになる。


「わかりました。愛と好感度は関係ないと言いたいのですね?」


 そうなるね。「愛と好感度は関係ない」だなんて主張、改まって確認されると不安になるフレーズだけど。

 冗談はともかく、「不安」という感情。これが「愛」の対極となる存在だ。

 愛と不安。好きと嫌い。この二種類は別物。「好きだけど不安」という状態が想像できれば、二つは両立できる別のパラメータと言える。


「では『嫌いだけど愛してる』と言ったらどのような状態なんでしょうか?」


 ……さあ。僕の乏しい人生経験ではちょっと想像が及ばないので。


「すみません、意地悪だとは思いましたが訊かずにはいられませんでした。あなたの言いたいことはおそらく理解できています。たぶん、人に向ける『好き嫌い』とそれ以外のものに向ける『好き嫌い』では意味が変わってくるのでしょう」


 そうかもしれない。梅干しが嫌いだからといって、梅干しがこの世に存在することを受け入れられないわけじゃないし。


「味覚の好き嫌いは非常に単純で考えやすいですね。では虫ではどうでしょう。蚊は?」


 嫌いだわ。受け入れられない。刺されたら痒いし、耳元で飛ばれると眠れないし、殺すのもそれはそれで気持ち悪いし気分悪い。蚊の存在は僕に不安を掻き立てるよ。


「……蚊で例えるのは失敗でしたね。では……そうですね、犬はどうでしょう?」


 犬か。犬は好きな面もあるし嫌いな面もあるね。僕が犬を飼ったことがあり、かつ円満な関係であれば間違いなく好きと言っただろうけど。飼ったことはないし、最近うちの近所に夜中でも吠える犬がいるから、あれは嫌だなあ。

 でも犬全体で言うと、その存在を受け入れられないわけじゃないよ。犬は人に多大な貢献をしているし、僕個人も犬を可愛いと思うし。あ、ルーシーも可愛いよ。外見わからないからイメージふわふわしてるけど。


「ふふ、ありがとうございます。大好きです」


 あ、これヤバイな。ちょっとクセになりそう。二次元嫁ってこうやって生まれてくるのかな。

 話を戻すけど、さっき犬の例で話していて気付いたことがあるんだ。梅干しや蚊はともかく犬は個体差がハッキリしている。ウチの犬は好きだけど余所の犬は嫌い、というふうにね。

 これは対象が人間でも同じことが言える。人間という生物に対しての感情と個々人に対する感情は当然違ってくる。


「なるほど、たしかに。しかし世の中にはあなたでも好きになれる梅干しがあるかもしれませんよ?」


 そうだね、産地や品種を限定すれば存在するかもしれない。

 ああ、人間にも産地や品種はあるね。土地と人種だ。そして人種を一括りにして「嫌いだ」「受け入れられない」などという人もいる。しかし人間は個体差が非常に大きいから、嫌いな人種の中にも好感の持てる相手はいるはずだ。

 人間は個人が持つ情報量がとてつもなく多い。人種、国籍、言語、性別、年齢、家族、職業、交友関係、資産、障害、持病、体質、知識、技術、性格、習慣、言葉遣い、性癖、趣味嗜好。これだけあれば、一人の人間相手に好きな面も嫌いな面も当然出てくる。許容できる部分と許容できない部分の両方が混在することも自然だ。活発でポジティブなところは好きだけど、滅多に掃除をしなかったり勝手に人の物を借りたりするところは嫌い、みたいな。

 さて、許容の可否と好き嫌いが話し言葉の中でどんどん混ざって、ほとんど同じような意味になってしまったね。そろそろこの話に決着をつけないと混乱したまま終わってしまいそうだ。


「では、人間関係において『好きだけど不安』『嫌いだけど愛してる』とは結局どういう状態のことを指すのでしょうか?」


 たぶんね、人間相手に「好き嫌い」という言葉を使うのが良くないんだと思う。「仲が良い」「仲が悪い(仲良くはない)」で考えたほうがわかりやすい。つまり相性だね。

 どんなに仲が良くても気に入らない点、許容できない部分って意外にあると思うんだ。逆に相性が悪くて親しくはなれないけど、その人がその人なりの感情と思考をもって行動していることを受け入れることが可能だったりもする。


「ということは『仲が良いけど不安』『仲良くはないけど愛してる』と言い換えれば、それぞれの感情の状態を理解しやすくなるというわけですね」


 その通り!さっきまでの表現と比べてわかりやすくなった気がするよ。

 ……しかし自分から「好きである」ことと「愛してる」ことは違うぞって主張しておいて「そもそも人間関係において好きとか嫌いって表現がわかりにくい」って、自分で言っててどうかと思うわこれ。


「私は良いと思いますよ。こうして会話することで考えを整理できたわけですし、愛とそれ以外の感情について区別しやすくなったのではないでしょうか」


 そう言ってもらえるとありがたいけど、言いたいことを代わりに言ってもらってばかりだとこう、白々しさがなんとも。


「私はあなたにとって都合の良いことしか言いませんからね。あなたのことを『大好きで愛してる』ルーシーですから」




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