表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/29

第三話

間が開いてすみません、ついにオリジナル機〈蒼電〉登場です。

第三話



 昭和一七年(1942年)十月二二日、前日の出撃で愛機を破損させてしまった私、檜山和則一等飛行兵はその日、邀撃任務と言う現場待機を命じられ根拠地でも有るブイン基地に留め置かれていた。

 しかしながら幸運と言うべきか、その日、ニューブリテン島のラバウル基地を米軍が大挙して爆撃に来襲、その通過地点であるブインも同じく目標とされ一部の編隊が向かっている事が解った。

 邀撃命令を受けて我々邀撃要員は、基地に残された十一機へ向かった。

 運良く旧式の二一型に搭乗できた私は、先行するもう一機の二一型と共に二機のコンソリ(B24リベレーターの日本側通称)の撃墜に成功したものの基地への投弾を許し少なからず損害を出す結果となった。


 滑走路の被弾箇所を確認し、着陸に問題ないことを確認して私は慎重に機体を降ろすと整備員の指示に沿って爆撃痕を避けながらタキシングさせて機体を駐機場へ運んだ。

 私は先に着陸した機体に並べるように自機を止め発動機の停止させ、座席のベルトを外し操縦席から降りて周囲を見渡した。

 邀撃を開始した時点で十一機いた各型の零式艦戦が、邀撃終了時では七機になっていた、後で聞いたところでは、邀撃に上がった零式艦戦の内、三二型乙三機が敵の防御火線に捕らえられて未帰還、更にもう一機が被弾後に敵機に体当たりして自爆していた。

 戦後にこの爆撃に関するアメリカ軍の公式記録を見る機会があったのだが、この日アメリカ軍が投入したのは陸軍の爆撃機大中各型40機あまり、爆撃の目標とされたのはラバウル、ブイン、ブカなどの日本軍基地、その内の6機がブインを目標として飛来、我々が邀撃に当たったと言うことだったらしい。この日邀撃に上がった陸海軍の戦闘機は三十機足らず、それでもブインの四機を初めとして総数で十二機を撃墜若しくは撃破している。

 しかしながらその代償としてブインの四機以外にも六機、計十機が未帰還となっている。全体の三分の一が未帰還は決して小さくは無い。その犠牲もあって各基地の損害は軽微と言う程度で済んでいたが、今後もこの程度で済む確証は無い。

 いや、寧ろアメリカ側も出撃機40機の内12機喪失の代償として、この程度の戦果であるなら以後はより以上の戦力で持って叩き潰しに来ると考えるのが自然であろう。

 そう考えるなら更に犠牲と被害は増える考えるべきだし、その事態に備えるべきであろうと私はそのとき考えた、但し如何にするべきか等は考える余地も無かったのだが。

 機体から降りると、それまで緊張の中で自覚していなかった疲労がそれこそドッと襲い掛かってきた。私は自分が意識していた以上に疲弊していたらしく、地面に足を取られてよろめいて駆け寄った整備員に支えられることになってしまった。

「この機体の搭乗員は君かね?」

やっと、両の足で身体を支え体勢を整えた私に問い掛ける声がしたので私はその声の方を振り向いた。

 そこに居たのは私より少し年かさの少尉だった。

「良い腕だね。突っ込む思いっきりも良い。」

 慌てて敬礼する私に苦笑気味に答礼するとその少尉はそういった。

 並ぶように発令所に向かいながら、少尉は自分を、小橋信久と名乗った。

「ところで、檜山一飛、あのB公に泡を食わせたいと思ったことは無いかい?」

 少し悪戯っぽい笑みを浮かべて小橋少尉はそう言ってきた。だから私はこう答えた。

「出来るのなら是非やりたいです。」

 私の答えに、一言「そうか」と小さく答えて小橋少尉は満足そうな笑みを浮かべて戦果報告に発令所へ向かって歩いていった。

 小橋少尉が言った言葉の意味を理解したのは、その晩の事だった。


 私は他の搭乗員と同様に晩飯を取り翌日に備えて搭乗員用の幕舎で就寝の準備に掛かっていた。そこへ、当番兵が現われて飛行隊長が私を呼んでいると伝えてくれました。

 私は“はて、どうしてだ?”と疑問に思いながらも、命令と言うことで銜えていた煙草を投げ捨てて、着衣を整えてその当番兵に付き従って仕官用の幕舎へ向かった。

 士官用幕舎まで案内された私は、案内の当番兵に礼を言うと幕舎に向けて自分の到着を告げました。

「入れ。」

 今日、何度も聞いた声を聞いて、私は幕舎の入り口を潜り中へ足を踏み入れた。

 中には五つの人影があった。その中の一人はやはり今日供に邀撃戦を闘ったあの小橋少尉であった。それ以外には飛行隊長の小福田租大尉と、第六航空隊司令の森田千里大佐と、後の二人は馴染みの勝田実二等飛行曹長と倉本一二等飛行曹長であった。

 それまで頭を突き合せる様にしてして何やら確認していたらしい森田司令と小福田飛行隊長それに小橋少尉はそれを済ませて我々の前に立った。

「ご苦労、楽にしてくれ。」

 小福田飛行隊長はそう言って手にした書類を捲りながら集められたメンバーを見渡した。

「本日も、護衛任務に邀撃任務に、ご苦労だった。

 特に檜山一飛、今日はコンソリを喰ったらしいな。」

 行き成り話を振られて私は慌てて頭を下げた。

「いえっ、私は小橋少尉のやることを真似しただけで、特別なことは何も・・。」

「そう謙遜するな、この小橋がお前を褒めていたぞ。

 若いのに大した突込みだってな。

 さて・・・。」

 私の言葉に笑顔で小福田飛行隊長はそう答えたが、そこで言葉を切り笑顔を消して他の三人を含めた搭乗員全員に顔を向けて姿勢を正した。

 私達も全員が何かあると察して同じく姿勢を正した。

「お前さんたちを呼んだのは他でもない。

 明日俺と一緒にカビエンまで行ってもらいたい。」

「カビエンですか?」

 カビエンは、ラバウルやブインが有るソロモン諸島の一番北に位置するニューアイルランドの北端の町で、そこには陸揚げが可能な港と近くに空港があって帝国陸海軍が航空機の海上輸送の拠点に使っていた。

「何があるのです?」

「勿論、戦闘機を受け取りに行くのさ。」

 私の問いに何やら意味ありげな笑みを浮かべた小橋少尉はそう答えた。

「戦闘機って、三二型ですか?」

「いや、零式艦戦がどの型でも、B-17やB-24を墜とすのは苦労する事はお前さんたちなら骨身にしみているだろう。」

「今度の新型は当然、あのB公に太刀打ちできる代物だそうだ。」

 倉本二飛曹の不安げな問い掛けに、小福田大尉と小橋少尉が答えた。

「新型?」

「ああ、零式艦戦とは全く別の新型機だ。

 まあ、詳細は明日の楽しみにしておけ。」

 何やら小福田大尉の言葉に、煙に巻かれるような感じで私達は明日の集合時間だけを伝えられてそれぞれの幕舎へ返された。


 翌早朝、不安と興奮で寝不足気味の私達五名は、迎えの九六式陸上輸送機(九六式陸上攻撃機を輸送用へ改造した機体)二機へ零式艦戦を受け取りに同行する八人と共に乗り込んだ。

 いったいどんな機体が与えられるのか?確かに不安は有ったが、それでも零式艦戦以上の機体と小橋少尉は言っていた、それを信じるならば相当期待が出来そうな予感がする。

 そんな事を考え、昨夜の寝不足で船を漕ぐ内に輸送機は何のトラブルも無く無事カビエンへ到着した。

 ハッチを潜って地上に降りると迎えの車が待っていて私たち新型機組みはそれに乗って零式艦戦組みとは違う一角に連れて行かれた。

 そこで私達は初めて話しに聞いた新型機を目にした。

 その印象は・・・。

 “頭でっかち”だった。

 恐らく高出力を出す発動機として小型機用の物が存在しなったが為に採用された、爆撃機用の大型発動機はざっと見ただけでも見慣れた〈栄〉発動機よりも二回りか三回りも大きく、それに伴う機首の巨大なエンジンカウルが目に付いた、そして、そこから機体後端まで容赦なく絞り込まれた機体の線は、見慣れた三菱の優美な線とは違って荒削りで大胆さを感じさせるものだった。

 機体中央に目を移せば、零式艦戦のものより少し後ろよりに設けられた、操縦席の風防は窓枠も少なくすっきりとした外見で小さくとも視界は良さそうだった。

 主翼は、機体の太さに比べると不釣合いなまでに短く、主翼の前縁が後退角を持たない独特な平面形をしていた。更に一風変わっていたのは尾翼で、水平尾翼は見慣れた零式艦戦と違い垂直尾翼より離されて前方に取り付けられていた。

 私はこの機体に見覚えが有った。いや私だけでは無い。

 多くの搭乗員が見知っていたはずだ・・。

「何です?この機体は?

どうして、陸軍の機体が此処にあるのですか? 」

「我々に陸軍の機体に乗れと言うのですか?」

 並んでいた機体を見て、勝田ニ飛曹と倉本ニ飛曹が揃って不信と不満の声を上げた。

 そう、新型機と言われたその機体は新聞などで知られた、陸軍の二式単座戦闘機、愛称〈鍾馗〉その物であった。

 新鋭機をその存在を秘匿して切り札とする傾向にある海軍に対して、陸軍はその存在を積極的に喧伝し国威発揚につなげるようにしていた。

 故に新聞などのへの新鋭機の写真の掲載も多く海軍の搭乗員である私達もその姿を知っていた言う訳だった。

「おやおや、それは聞き捨て成りませんね。

 これは正式な海軍の機体ですよ。」

 頭の上から聞きなれない声がしたので仰ぎ見ると、その新型機の操縦席の開いた天蓋から一人の青年が顔を覗かせていた。歳は小橋少尉より上、小福田大尉と同位の少し線の細い感じのする青年だった。

「よう、塚本大尉。

 ご苦労だったな。」

 誰?と言う顔の我々に気づいた小福田大尉がそう言って件の操縦席の青年に声を掛けた。

「小福田先任も元気そうで何よりです。

 約束通り、持って来ましたよ〈蒼電〉。」

 塚本大尉はそう言って機体を手のひらで叩くと、〈蒼電〉と名づけられた機体から降りてきた。

「海軍航空技術廠・空技廠の飛行実験部で俺の後で戦闘機を担当している塚本隆之大尉だ。」

 居並ぶ我々の前に塚本大尉を連れてくると小福田飛行隊長はそう紹介してくれた。

「空技廠の塚本です、今回この〈蒼電〉の開発に関わった関係でここまで出向いてきました。

 皆さんに〈蒼電〉の扱い方の説明もありますので暫らくお願いします。」

 軍人にしては妙に腰の低い塚本大尉にどう反応して良いのか悩みながら私は敬礼をしました。

 自己紹介の後、私たちは新型機の脇に用意された天幕へ移動した。

「この機体は〈蒼電〉二一型、最新鋭の局地戦闘機です。

 まあ、原型が陸軍の二式単座戦闘機〈鍾馗〉ですので、陸軍機に見えるのは致し方ありませんが正式な海軍の戦闘機です。」

 塚本大尉は相変わらずの口調で後ろに置かれた〈蒼電〉を指差しながらそう説明を始めた。

オリジナル機登場と言いながら最後にちょこっとだけでしたね(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ