第十一話
久しぶりの更新です、今回は米軍の爆撃機乗りからの視点です。
第十一話
1942年(昭和一七年)11月7日、ブリーフィングで告げられた作戦概要に対するその場にいた者達、つまり士官搭乗員たちの反応は色々なものが有ったが大きく分けると二つに分けることが出来た。
この時を持っていたとばかりに小躍りしそうな表情の者達、これはこれまで点滴爆撃などと陰口を叩かれてきたことに反感を持つ経験豊富な職業軍人、所謂プロの搭乗員たちと現実を知らないヒヨッコたちだった。
一方の一群は、沈黙と言うか悲痛な表情の未だ攻勢に出ることに消極的な者達、主に予備士官つまりアマチュア(と言うより非プロと言った方が合っているか)の搭乗員たちで彼らは当分は点滴爆撃でいいのでは無いかと思っていた。
今回、米第5空軍が目的地としたのはラバウルの日本軍飛行場、攻撃にはここタウンズビル基地の機体だけでなく、ダーウィンやケアンズ等のオーストラリア北部やニューギニア各地に分散して造られた基地より多数の機体が参加、総数は約50機を超える大規模作戦と成る、と説明の参謀は自慢げに語り、加えて・・・・。
『諸君らも知っての通り、ジャップ達はここ最近大幅に活動量を減らしている、分析の結果として奴らの戦力が枯渇しつつ有るとの答えが出た。(※1)
おそらく今回の作戦にも組織的な反撃は無いと見られる。
少々物足りないかも知れないが今回は我慢してくれたまえ。』
そう言って参謀はブリーフィングを締めくくった。
攻撃は黎明、日の出前に行うとして深夜に各基地から攻撃隊は発進すると言うことだった。この作戦の概要を聞いて私はこの作戦をこの時、この段階で行うことに疑問を感じた。
『冗談じゃない!現在の俺達で、戦闘機の護衛もなく日本軍基地を叩けだと?
俺たちは未だ半人前の素人上がりで、あっちにはベテランのパイロットがゴロロロいて、あのジークに乗って待ち構えている。下手すりゃ半分も帰ってこれないぞ。』
当時私は心の中でそう毒づいた。
そう、私も機長のアーノルド・ケイン大尉も大学在学中に、選択課程として飛行士官候補プログラムに合格し飛行訓練を受けその結果としてB-17の操縦資格を得ただけの、素人も同然の士官搭乗員であった、当然告げられた作戦目標に対しては後者の反応と成る。
今のチームでの出撃はたったの三回、それが我愛機❝雷鳴❞の戦歴だった。今のままだと単独では目的地まで無事飛べるかも不安なのが現状だった、それはこの基地、いや第5空軍の凡そ半数の実情であるとその時思った。
〈中略〉
「ジェフ、どう思う?」
駐機場の愛機に向かうジープを運転しながら、アーノルドは仏頂面で、そう私に問いかけてきた、勿論今回の作戦についてだ。
「どうだろう?
かなり無茶な作戦だと思うよ。」
私は、アーノルドの荒っぽい運転をシートにしがみつきながらそう答えた。
「夜間の点滴爆撃だってやっとなのに、本格的な攻撃なんて早すぎるよな。」
「大方、上から突っつかれたのかも。」
私は、アーノルドのボヤく言葉に頭に浮かんだ状況を言葉にして返した。
恐らくそれが正解だろう、夜間の小規模な散発的な爆撃の繰り返し、どこかのお偉いさん、恐らくヨーロッパ方面の指揮官か若しくは海軍さん辺りが、自分達が苦労しているのに消極的な攻撃(※2)しかしていない、とか言ってウチの司令部を非難したのだろう。
なにしろ第5空軍は、フィリピン以来負け続けている。何か言い返せる訳がない。
それ故に、ヨーロッパに派遣されているモノよりも練度に劣る戦力を、夜間の散発的攻撃を繰り返すことで経験を積ませ、今後の本格的反攻に備えているのに、まだ充分では無いのに要らんことを言う奴が有ったものだ。
〈中略〉
今日一日を掛けて整備調整した機体の調子は極めて良かった。同じように好調なエンジン音を響かせた中隊各機が誘導路を進み発進に備えた。
今は深夜の時間である、発進作業のためサーチライトを浴びた滑走路はその周辺のみが昼間のように明るく周囲から隔絶された別世界の様に見えた。
やがて❝発進❞を命じる信号弾が打ち上げられ、最初に発進する第一中隊の第一小隊の一番機のエンジン音が一際高まりやがて滑走を初め、機体を持ち上げると闇の中へ消えていった。
続く小隊の残りの2機が離陸し、次の小隊と行った具合に深夜にも関わらずトラブルもなく次々と発進が続いて行った。
今回の作戦に第5空軍タウンズビル分遣隊は7機編成の特設中隊2個の計14機を投入している、この数は当時のタウンズビル基地稼働機の八割に当たり、この数字からも第5空軍司令部の力に入れようが分かる。
もっとも、この凡そ一年後にはこの十倍を超える数の爆撃機が常時ラバウル基地攻撃に投入されることに成るとは我々には予測も出来ない事であった。
第二中隊の一番機で中隊指揮官テックス・グレイ少佐の乗機である❝グラスホッパー❞が離陸を始め、やがて我々の離陸の番と成り慎重にエンジンの出力を上げ、スピードを上げると数度バウンドして機体が浮き上がり、私とアーノルドの引く操縦桿に合わせてユックリと高度を上げてゆく。
主脚を引き上げフラップを格納位置へ戻すと機体はスピードを更に上げ高度を上げてゆく、上昇途中に先に飛び立った第二中隊第二小隊の3機を追い越して我々は今回決められた位置である第一小隊の最後尾の位置、四角形を作るように4番機の位置へ機体を持っていき固定させる。
少し落ち着くと、航法士のデニスが天測で現在位置を確定して素早く飛行経路を確認して方向くしてくる、取り敢えずは予定コース上にある、この先巡航速度の290km/hで飛んでも凡そ6時間掛かる、更に気象情報を聞いていた通信士のアンディから進路上に大規模な積乱雲が有るとの情報を伝えてきた。
現在の高度は約3000m、熱帯地方ということも有って辛うじて電熱服に頼らなくても耐えられる気温だが酸素は薄くマスク無しでは限界近い。積乱雲を避けるために高度を上げれば酸素マスクと電熱服の着用は必要だ、しかし、この先6時間もその格好は体力を消耗するし士気も下げる、故に高度を上げるのは得策ではない。
オルジス灯を使用した発行信号(無線封止中のため)で長機より伝達された指示は西に迂回するとの内容であった。
我々は先を行く編隊機の翼端灯を頼りに左に旋回して積乱雲を迂回するコースに機体を乗せた。航法士のデニス中尉は作戦目標到達に15分程の遅れが出ると心配をしていたが無線を封止している現状では確認する術も無かった。
〈中略〉
『クソッタレ、空はジーク(零式艦戦)だらけだ!』
『後ろにつかれた、助けてくれ!』
目的地であるラバウルに予定よりも20分遅れで到着した我々の耳に入って来たのは一足先に到着して攻撃を開始した、友軍機からの悲鳴であった。
これまでの状況を聞くところに拠れば、荒天で編隊がバラけてしまった友軍各機は大小3群に別れてラバウルに上空へ進入、3000mの低高度(※3)からの爆撃を試みているらしい。
「中隊長はどうするつもりかな?」
アーノルドがボヤく様に呟き、登りつある朝日に機体を赤く染めながら先行する中隊長機の❝グラスホッパー❞に視線を向けていた。
「なるほど、味方を囮にする気か・・・。」
再び呟いたアーノルドの言葉に、私は周囲へ視線を走らせた。確かに攻撃を仕掛けた我が軍の爆撃機は投弾後それぞれが思い思いの方向へ離脱を図っていた、そしてそれを追いかける日本軍機はそれに引きずられるようにして基地上空の防御を手薄にしていた(※4)。
「チャンスだね。」
私もそう呟いてもう一度しっかりと操縦輪を握った。
やがて爆撃準備のため爆弾倉の扉が開かれ速度が落ちる、ここから先は爆撃手に機体のコントロールを預けることになる。
ジャングルの向うに滑走路が見えてきた。まだジークはこちらに気づいてはいない。
「直上に、敵機!」
航空機関士兼上方機関銃担当のジャックの叫び声が響き視線を上方に向けた、コックピットのキャノピー越しに上空を仰ぎ見れば先を飛ぶ小隊各機からは上空へ向けて一斉に対空射撃を打ち上げ始めていた。
防御火線の向かう彼方、上空に私はやっと二つの影を見つけた、それは最初小さな点にしか見えなかったが瞬く間にシルエットがハッキリと見えるようになってきた、見慣れたジークとは違う巨大な機首と比較して小さな主翼をもった猛禽類のような獰猛な印象も持つ機体だ。
しかし、特筆すべきはその外観ではない、見慣れない敵機は我々が必死の思いで放つ防御火線をいとも簡単に振り切ると予想以上のスピードで肉薄してきたのだ。
敵機は一直線に先頭を飛ぶ編隊長機に向かう、彼らは間違いなく編隊の先頭で爆撃行を嚮導する編隊長機に狙いを定めて爆撃を阻止しようとしている。
こちらも必死に応戦するが敵の速さに防御火線がついて行けないでいた、やがて隊長機に敵機が迫り交錯する寸前その太い機首と短い主翼の中程に機関砲の発射火炎を光らせた。
20ミリかそれ以上と見られる太い火線が数連射、それが誤る事無く❝グラスホッパー❞の右主翼付け根を連打した。
次の瞬間、グラスホッパー”の右主翼が、付け根から叩き折られた。やがて飛ぶ力を失った“グラスホッパー”は眼下のジャングルへ消えていった。
「何だ今のは!」
「ジャップだ!」
「ジークはあんなに早くないぞ。」
機内通話機を通じてクルーたちの狂騒とも言える言葉が飛び交った。
「落ち着け。」
「敵機、11時、上昇中!」
クルー達を落ち着かせようとする機長のアーノルドの声に被るように、爆撃手兼前部機関銃担当のリックの声が入ってくる。
その声に前方左を見ると彼方を2機の敵機が悠々と機首を巡らせて上昇中であった。
「編隊の指揮は、2番機の❝戦斧❞のヘンリー大尉が取るそうです。」
「了解したと伝えてくれ。」
通信士のデニスが伝えてきた。次席指揮官のヘンリー大尉は経験豊富な職業軍人だがこの状況は彼でも荷が重いだろうとその時私は思った。
今私達がすべきなのは、爆弾を捨て身軽に成って高度とスピードを上げて敵機を振り切り基地へ帰ることだ。
だが、そうな行かないもの事実だ、ここで踏ん張ってあと少し前進して敵の基地に一発でも爆弾を落としてほんの僅かでも敵に損害を与えなければここまで来た意味がない。
私の胸の内をそんな葛藤が過ぎゆく内に状況は変化した。
それまで上昇を続けて居た敵機は、今は機首を巡らして我々と正対して上空を飛行している。間を開けず彼らは仕掛けてくるだろう、今度は奇襲では無い、そう簡単にはやられない自身は有った。
「敵機来る、1時方向!」
「撃ち方はじめ!」
上方の動力銃塔の中で上空の敵機の様子を監視していたジャック軍曹の報告に機長のアーノルドが応えた。
3機のB-17の上部機関銃と側面銃座の内、射界に入れられる各銃が一斉に射撃を始めた。
今度こそと言う思いは、各機の各機銃員には有ったであろう、しかし、彼らのその思いは尽く叶えることは出来なかった。
降下する敵機は、自らに向かう多数の火線を素早い挙動で躱しながらあっと言う間に間合いを詰め、再びあの大口径の機関砲(※5)を打ち込んできた、❝戦斧❞のキャノピー付近は集中攻撃を受けて一瞬で消え飛んだ。
「あっ・・・・。」
アーノルドが何か言おうとしたが言葉には成らなかった。
2機を屠った敵機は再びそのまま降下してジャングルの彼方に消えていった。
「先行の❝グラナダ❞が爆弾を投棄!」
リックの声がしたので、前方を見ると先行するB-17から次々と爆弾が投下されていた。まだ目標の敵司令部の建物までには距離がある、間違いなく爆弾を投棄して逃走に入ろうと言う行動だ。
「どうします機長!」
爆撃手のジャスパーからの問に一瞬考えてアーノルドは投棄を命じた。
「機長、5時の方向より敵機、突っ込んできます!」
「ジェフ、エンジン全開だ高度このままで逃げるぞ。」
我々は爆弾を投下しながらスロットルを全開にした。爆弾が投下され機体が軽くなると同時に速度が上がり始める、投下が終了し次第爆弾倉の扉を閉めると更に速度が上がる。
先行する❝グラナダ❞は同時に高度を取り始める、敵機の苦手な高高度に苦れば安全と考えての行動だが、現状では時間が無い、逆に速度が落ちて良い鴨に成るだけだ。
「高度を下げろ」と忠告しようとしたその時、再び敵機が襲ってきた。
高度を上げてようとして速度が落ちた❝グラナダ❞に銃弾が集中した。しかし、今度の攻撃は上手く行かなかったらしく❝グラナダ❞はまだ飛んでいた。❝グラナダ❞も高度を上げるのは断念して抵高度のまま敵基地を突っ切ることにしたらしい。
敵の対空砲火をさけ、追撃を振り切って洋上に出てやっと我々は安心することが出来た。取り敢えず致命的な命中弾もなく燃料やエンジンにも以上はない。
「❝グラナダ❞から入電、損書が激しく機体を捨てて脱出するそうです。」
「そうか、やはり見た目より酷かったんだな。」
通信士のアンディからの連絡に機長のアーノルドはそう答えて後ろを振り替えた。
勿論見えるはずはない、が私も釣られるようにして同じ彼方を見やった。先の連絡では乗員の半数以上が戦死したとの話で飛行も維持できなくなったのであろう、ここでパラシュートで脱出すれば助かる可能性は有る、しかし、敵勢力下のうえ周辺の海域はサメが多く出没することでも有名であった。脱出した彼らの無事を祈ったが残念ながら彼らの帰還の資料は存在しない。
〈中略〉
再び6時間を越える飛行の後、我々“雷鳴”は何とか基地であるタウンズビルまでたどり着くことが出来た。我々が着陸するとすでに何機か帰投している機体があった、中にはタウンズビル基地所属ではない機体も有って損害が酷い状況が傍からも見えるほど多くの弾痕が見えた。
そんな連中と比べれば我々の損害は極めて軽微であった、単に運が良かったとも言えたがそれでも帰ってこれたこと、色々な経験を持ち帰れたことには意味があった。
だがしかし、それで喜ばしい気分に成ったかと言えば全くそんな気には成れないのが本音だった。
今回の作戦は誤った状況分析、憶測によって行われた、戦力を枯渇させているはずの日本軍は持てる力全てを投入して我々の攻撃を阻止してきた、今回初見の新型機まで投入してだ。
そして、その不確かな憶測を基に錬成途中の技量不十分な乗員を力量不足のまま大量に投入した、彼らが無事帰還したならその経験はその後の力量アップの大きな支えに成ったであろう、しかし彼らの多くは帰って来なかった。
出撃したB-17とB-24の数・53機、内帰還したもの42機、作戦時に喪失した機体11機、但し損害評価により修理不能と判定された機体14機、大掛かりな修理が必要な機体8機、それらを合わせると33機を失った計算になる。
大損害と言って良い結果だ、それに対して敵基地へ損害不明・その後の偵察と評価により軽微と判定を受ける。
これは作戦失敗と言っていい。
参謀の言う、物足りないはずの作戦は多くの機体と人員を喪失しただけに終わった。この結果、第5空軍はこの後の本格的反攻に於いて中心的な役割を負えないまま以後大戦末期を迎えることとなっていまうのであった。
南太平洋の戦い ジェフ・アンダーソン氏の回顧録より抜粋
以下は翻訳者による注釈です。
(※1)当時、日本海軍では組織改変が行われており同時に部隊の入れ替えなども有って一時的に攻撃を控えており、第5空軍にとって不幸だったのは攻撃日当日は今後の作戦に備えてラバウルへ戦闘機部隊を集結させている最中であった。
(※2)米軍側では効果のはっきりしない攻撃であったが、日本側には主に精神面で多くの損害を与えていた。当時、日本軍には陸海を問わず夜間の邀撃戦を戦うための機材が無く経験も無いため、闇に紛れて飛来する敵機に相手が高高度を飛んでいたこともあって手の打ち用がないというのが現実で搭乗員に寝不足による事故や喪失の頻発する結果となっていた。これに対応するために日本海軍では後に丙戦〈月光〉となる二式陸上偵察機の夜戦への改造が行われることとなった。
(※3)高度3000mは米軍の大型爆撃機が攻撃してくる高度としては低く、日本側としては意表を突かれる形で懐へ入られる結果と成った。
(※4)基地防衛のためにセント・ジョージ岬に電探基地を設置しており、ここがラバウルへ侵入しようとする機体を探知し警報を発することで邀撃を行ったのだが、当時の電探では方位と距離は大体判るが高度は分からなかった、さらに分解能が低いため敵の数が判別出来きず反応が大きいから大編隊と判断して迎撃に当たったのだが、空中の友軍を管制できなかったことから敵機に引きずられる様に基地から引き離される結果となった。
(※5)〈蒼電〉二一型の武装は、機首の12,7ミリ、翼内の20ミリ各二門であり数機の試作機を除けばこの武装に変化は無い、しかし、米軍側の記録には度々二〇ミリ二門と二五ミリ若しくは三〇ミリ二門との記述が見られる。これは当時日本陸軍の主力搭載機関砲である一式一二.七粍固定機関砲は皮肉なことに彼らの使うブローニングM2重機関銃のライセンス生産品であった、但し、オリジナルと違い弾薬は既に帝国陸軍で使用していたイタリアのブレダ機関砲用の弾薬を使用している、この銃弾はオリジナルの物と比較して軽量で射程と威力に劣るものであった、此れを解消する為に陸軍では銃弾に炸薬を挿入し威力を高めるようにしていた、これが撃たれた米軍側に同銃を20ミリ機関法と誤認させる結果となったと考えられており、そうした誤認の結果、同銃より威力の高い20ミリ機銃を20ミリ以上の口径とさらに誤解される結果となったと考えられている。
何か、色々とあって更新が遅れました。この季節に風邪をひくとは思いませでした、熱はないけど咳が酷くて創作に集中出来ませんでした><
少し良くなったんで急いで次を書きたいと思っています。




