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§10 樹精

§10 樹精



 枯死した大杉の下まで戻った玄太は、先ほど描いてあった丸い円の中に、均等になるように消石灰を撒いた。闇の中に白い円が、まるで満月のように浮かび上がる。

 そして、その中心に線香を立てて火をつけると、口の中で何かを唱え始めた。


「何これ?」


「キジムナー……を呼ぶまじないの結界ッス」


「キジムナー? あの、沖縄のガジュマルの精っていう妖怪の?」


「いや……ちょっと違うス。べつにあいつらガジュマルの精ってわけじゃなく……隠蔽種いんぺいしゅなんスよ」


「はあ?」


 あおいは変な声を出した。

 隠蔽種、というのは外見などの特徴が共通なので同種だと思われていたが、DNA鑑定や詳細な形態の比較から、実際には別種と分類されるようになったもののことだ。

 身近な例では、ニホンヤモリとして認識されていた種の中に、ヤクヤモリ、ニシヤモリなどのいくつもの別種が発見されたというものがある。

 だが、隠蔽種というからには、外見の特徴がほぼ同じ別の種が存在しなくてはならない。


「キジムナーの隠蔽種って……なんの隠蔽種よ? そんなの聞いたこともないわ」


「人間の隠蔽種ッス。遠い昔に人間と別れた種族……妖怪じゃなく、普通の生き物ッス」


「ええっ!? でも、まじないで呼ぶって……」


まじない……っていうか約束事みたいなもんス。これをやったら足跡をつけないと……ダメみたいなんス」


「ダメって……?」


「風習みたいなもんス。あいつら、見た目は人間の子供とほとんど見分けつかないッスから……」


「あ!!」


 あおいは叫んだ。

 脳裏に、桂蓮神社の裏山へ駆け込んでいった、地元の子供たちの姿が浮かぶ。


「まさか。だって、服装も態度もまんま人間だったわよ?」


「だから隠蔽種なんスよ。その辺うろついていたら、普通は区別つかないス。それに、沖縄にしかいないわけじゃなく……どこにでもいるッス」


 玄太は懐からあの時落ちていた木の枝を取り出した。


「コレ……あいつらがよく作る守り符なんス。俺、同じモノもらったことあるッスから……」


 あの時はただの木の枝と見えたが、よく見るとたしかに、枝の表面には何か細かな細工が施してあるようだ。


「でも、伝説じゃあ真っ赤な顔とか髪の毛とか……」


「それは夜間外出用の化粧ス」


「それにしても……なんで真菰君はそんなこと知ってんのよ?」


「……それは……その……父に教わったんスよ」


「真菰専務に? 」


 いくら蛟竜として、海に千年、地に千年潜んだ大妖で古今の妖怪に通じる存在だった真菰専務であっても、沖縄に伝わる伝説の正体をそこまで知っていたのだろうか。

 あおいは真菰の説明に、少し不自然さを感じた。


「……一時間ほど隠れるッス。社長達は宮社の方で」


 玄太はぼそりとつぶやくと、数m下がって手印を組んだ。


「穏形印?」


 あおいが聞く間もなく、玄太の姿は背景にすっと溶け込み見えなくなった。いや、見えなくなったというのは少し違う。見えているが気配がない。まったく周囲の景色と区別が付かないのだ。

 石段の隅に腰掛けた玄太の姿は、それと分かっていても岩か何かのようにしか見えない。


「えと……寒くない?」


『……大丈夫ッス』


 微かに聞こえた返事も、どこか遠い別の世界からのようであり、まるで風の音のようである。見事な穏形の術であった。


「へえ。こんな隠し芸持っていたなんてねえ……」


 葉子も目を丸くして感心している。


「じゃ……玄太君、お願いしますね」


『……はい』


(……あれ?)


 あおいはまた少し驚いた。

 小首を傾げながら頭を下げた七海の方を向いた瞬間、玄太の姿がくっきりと見えたのだ。


「はいはい。早く行きましょ」


 立ち止まって考え込もうとするあおいの背中を葉子が押した。


「あっと。ちょちょちょっとぉ!!」


「ほんとにあんたって鈍いんだねえ。相当なモンだわ」


 手足をばたつかせるあおいをすっと支えて歩き出した葉子がひそひそと耳打ちした。


「え? え? 鈍いって……?」


「いーから。行くよ」


 葉子は地面に転がっている棚家の首根っこをつかむと、軽々と引きずって歩き出した。



***    ***    ***    ***    ***    ***



 一時間後、再び枯れた大杉のところへ戻ったあおい達が見たのは、十数人の小学生に囲まれ、和やかに話す玄太の姿だった。


「真菰君……じゃあ、その子達が……?」


 あおいは、どう見ても小学生としか見えない子供達を指して、きょとんとした表情で聞いた。


「はい。キジムナー……いや、樹精じゅせいの方々ッス」


「おはつにおめにかかる。われがいちぞくのおさ、サンショウ、ともうします」


 小学生の一人が、くるりと振り向き挨拶をした。

 その顔を見て、あおいは息を呑んだ。たしかに背格好、そして声までもが完全に小学生であるが、その顔だけは年をとった男のものだったからだ。その違和感は、妖物を見慣れたあおいにも背筋がざわつくような恐怖感を与えた。しばらく、ぽかんとその「サンショウ」と名乗った樹精の長の顔を見つめていたが、後ろから葉子につつかれた。


「社長。ちょっと、失礼よ」


「あ、あの、私は圓野あおいと申します。その、真菰君の上司で……」


 あおいのような失礼な反応にも慣れているのか、樹精の長は軽く手を挙げてあおいを制すると柔らかく微笑んだ。その優しげな微笑みは、先ほどの強烈な違和感を払拭するのに充分であった。

 あおいは赤くなった。


「わかっております。ぐうじのゆめにたち、そなたらをよんだのは、われですから」


「え!?」


「玄太、あんた彼等は普通の生き物だっつったけど、この人達、あんまし普通じゃないんじゃない?」


 葉子が大杉の周りに並ぶ小学生を眺めながら言う。


「……そうッスか?」


「この人達の住処って、そもそも陰界なんでしょ? 臭いで分かるわ。

 それに、かなりな霊力も持ってる。そうでもなきゃ、いくら人間そっくりだからって言ったって、見つからないはずはないもの」


「きつねどののおおせられるとおり。われらは、いんかいにすみ、げんかいとをゆききするもの。こんかいのことについて、そしてわれらのことについても、すこしはなしましょう」


 樹精の長、サンショウが説明するところによると、こうであった。

 彼等は、古くからこの山に住み着く一族である。彼等の種族は日本中にいるが、お互いにはあまり交流はない。また住む場所には、巨木が必要であった。

 何故なら、彼等の住む陰界と食料などを調達する現界の境界面が、巨木の近くにあるからだ。巨木の生命力と周囲に放射される強力な木気により、境界面に穴を開けやすいのだという。

 彼等は基本的に山の恵みを採集して暮らしている。また人間の畑を手伝って野菜をもらったり、人間の子供に交じって遊んだりもする。

 日本中に伝承として残る山の子供妖怪……キジムナー、ケンムン、木の子、山童やまわろ山姥やまうばの子、コロポックル……それらはすべて彼等のことなのだという。

 現代の幽霊目撃談として、居るはずのない深夜の山奥や廃墟などに子供がいた、などというのも、彼等のことのようであった。


「そういえば……」


 あおい自身にも心当たりがあった。

 志水東公民館のビオトープ整備の折、カエルに興味を持って、よくまとわりついてきていた少年がいたのだが、名簿をどう探しても名前が見つからなかった。

 友達に誘われ、一人だけ区域外から来ているのかと思っていたが、いつも一人で現れる彼には、区域内には友達はおろか親戚もいないようだった。


「それ、ぼくです」


 若草色のセーターを着た樹精が進み出た。


「あーっ!! そうそう、君、たしか笹木君!」


「まことのなは、クマザサといいます」


 二人のやりとりを、老人の顔をした小学生姿のサンショウが、微笑ましげに眺めた。


「そのせつはせわになった。そうしてにんげんのちかくでくらしつづけてきたわれらじゃが、きがかれてしまっては、あんしんしてくらせぬのじゃ」


 大杉が枯れ始めた時、彼等はまさか人間が故意に枯らそうとしているとは思わなかった。

 ただ、志水東のビオトープ整備を通じて、生物について造詣の深いあおいのことを知っていたため、宮司の夢枕に立ち、株式会社トープスを指名したのだという。


「この大杉を枯らしたのは、この人です。木材をお金に換えるため、除草剤を注入して枯らしたんです」


 あおいは棚家の背中を押した。

 異様な集団の真ん中に押し出された棚家は、怯えた目で周囲を見渡した。

 小学生の姿をした樹精達の怒りの目が注がれる。だが、樹精の長・サンショウは険しい表情で哀しげにかぶりを振っただけで、棚家に言葉をかけなかった。


「そうか。なんとかあのきをなおしてもらいたかったのだが、くすりをつかわれてはどうしようもあるまい。やまひめどのにはせわをかけた」


 そして、地脈を抑えていた大杉の生命力が衰えるにつれて、陰界へ土蜘蛛の気が蘇ったのだ。

 木克土。つまり巨木の木気を使って押さえ込まれていた地脈の土気そのものが陰界に凝り、現界のクモを依り代として顕現したもの、それが土蜘蛛という妖怪であった。


「われらは、つちぐもがおおきくなりはじめたとき、おそろしいものがよみがえったことを、にんげんたちにしらせようとした。このままでは、ちなまぐさいじけんがおきると。ゆえに、みなのちをすこしずつあつめてみちにまいたのだ」


「じゃあ、あの大量の血は、あなたたちの? それにしたって鑑識の結果は一人の血だって……」


 いぶきが驚いて言った。


「……たぶん、近親交配が進んでいるんじゃない? 彼等の遺伝型がかなり平均化されているとすれば、つじつまは合うでしょ?」


 検証のしようはなかったが、樹精たちの顔立ちは皆よく似ていた。服装がまちまちなので何とか見分けが付くが、着替えられたら区別は付かないほどである。おそらく、あおいの言う通り遺伝型がかなり限定されてしまっているのだろう。


「でも……こうして話せるなら直接話してくれても良かったんじゃ……」


「はなしたのじゃが、だれもとりあってくれなんだ。こどものくうそうだとおもったようじゃ」


 たしかに、どう見ても小学生の彼等が、異世界に怪物が蘇ると言ったところで、いくら真剣に事情を説明しても取り合ってはもらえないだろう。


「だが、こうしてなんとかつちぐもをたいじできた。あらためてそなたたちにはれいをいいたい」


「ちょっと待ってください。陰界にはまだ、マイナスの土気が強く残っているはずですよね?

 しかも、大杉がない状態だとその陰気が溜まり続けて……また土蜘蛛は復活します。それに、そのたびに殺し続けていたら、依り代にさせられている、この地域のクモが絶滅してしまいます」


「では、どうすると?」


「そこでこの人の出番、ってワケですわ」


 樹精達の怒りの目に囲まれながらも、あまりに突飛すぎる内容に、まるで人ごとのように話を聞き流して、ぼーっと座っていた棚家は、あおいに突然肩を叩かれて飛び上がらんばかりに驚いた。


「はあ? なんだってんだ一体!? あんなバケモノに俺は関係な……」


「関係ないわけないでしょうが!! 誰が除草剤でご神木枯らしたか、とっくにバレてんのよ!?」


「ぐ……う……」


「べつに命まで奪おうってんじゃないから安心なさいな。ただ、地脈が落ち着くまで、このご神木のあった場所にろうそくを立てて、供養の酒と清めの粗塩を撒いて欲しいだけ。毎日ね」


「ま……毎日だと!? そんなもんやってられるかよ!!」


「へえ……イヤだってのかい? こういう荒御霊あらみたまを鎮めるのに、一番手っ取り早いのは人柱なんだけど……そっちの方法を選んであげてもいいんだけどねえ?」


 葉子は棚家に顔を近づけ、凄みのきいた声で脅しをかけた。

 鋭い目つきに長い耳、妖狐の姿と相まって醸し出される、その凄まじい迫力に気圧されて棚家は諦めたように肩を落とした。


「でもよ……お……落ち着くまでってのはいつまでなんだよ?」


「さあ? 数百年も地脈を守ってきた大木ですもの。そのひずみが解消するには同じくらいかかっても不思議じゃないわね」


「そっそそそんなに付き合えるか!! っていうか生きていられるかよッ!!」


「まあ、そうでしょうね。でも、良かったわねえ。ここ見て。ご神木、ちゃんと跡継ぎを残していってくれたみたいよ」


「あ?」


 あおいの指さす先、神木から数m離れた場所には、スギの若木が一本生えていた。


「見た感じ十年生くらいの若木だけど、同じ種類の力を秘めた杉の木よ。

 これがあればまあ、落ち着くだけならそう長くはかからないでしょ。ま、いいとこ十数年って感じかな」


「く……それにしたって……」


「あんた……自分のやったことがまだ理解できてないようだね? 表参道で土蜘蛛に殺された男ってのは、木材市売組合の理事長らしいよ? そいつ知ってんだろ?」


 長身のいぶきが棚家の胸ぐらをつかんで引きずりあげた。


「察するところ、ご神木の伐採業者や売り先はそいつが手配してたんじゃないのかい? どうなの!?」


「ええ?! 殺されたってのはアイツかよ!?」


「ま、その理事長ってのは日頃の行いが悪かったって事でしょ。あんたはあたし達に助けてもらえたんだ。命があっただけ、ありがたいと思いな」


「く……くそッ……ツイてねえ……」


「あんた、まだ分かんないのかい? 死んでたって不思議はなかったって言ってるんだ。現にあの子が呼びに来なかったら、あんたは間違いなく土蜘蛛の餌だったんだよ!!」


「あれ? そういえば、あの子の姿が見えないわね。ね、サンショウ様? ピンク色のセーターを着た女の子、どうしたの?」


「いや? われらのいちぞくはこれでぜんいんじゃ。そのようなものは、おらぬ」


「でも……たしかに……」


 その時、うなだれていた棚家が急に顔を上げて叫びだした。


「じゃあ、どうしろっていうんだ!! 

 どうしたらよかったっていうんだよ!? え!?

 神様を信じてた俺の家族がみんな死んじまったのも、行いが悪かったせいだってのか!? 冗談じゃねえ!! 娘はまだ小学二年生だったんだぞ!! 死ななきゃならねえほどの何をしたッてんだ!? え!?」


 激昂した棚家は叫び続けた。


「俺は神様なんか信じねえ!!

 いるッてんなら、宗教によって違うなんておかしいだろ!? ホントにいるんならとっとと出てきてバチでも何でも当ててみせろや!!」


「バチなら……とっくに当たってんじゃないかねえ……」


 哀しげな表情で葉子が棚家を見やる。


「当たってるだと? 俺を見ろ!! 何本も神木を枯らして叩き売ってやったってのに、こうしてピンピンしてらあ!!」


「あのさ……大きな神木は、古い由来のある神社にしかないだろ?」


「……そ……それが何だッてんだ?」


「古い神様、それも天地創世に携わったような……そうね、古事記に出てくるような神様は、人間一人一人に目に見えるような御利益を与えることは出来ないのさ。逆を言えば、そういうバチも当てられない」


「じゃ……じゃあ、何の御利益も神罰もないってことか? それなら神社なんて、あっても無くても同じってことじゃねえか……」


「そうじゃないさ。力が大きすぎて一人一人には無理なだけ。家族単位、集落単位すら難しい。でも……国とか地域単位なら、素晴らしい御利益があるし、神罰もあるんだ……」


 言い続ける葉子の哀しみの表情が深くなる。


「天罰や神罰は、目に見える形ですぐには起きないけど……起きないワケじゃなくて確実に起きる。つまり、もう起きちまったってことなんだよ…………」


「それって……どういう意味?」


 あまりに哀しそうな葉子の表情を見て、あおいが怪訝そうに聞いた。


「神様の大きな神罰って言ったら……天変地異と相場が決まってるさ」


「まさか……」


「そう。一昨年の大地震」


「そんなバカな……あれは……俺がご神木を枯らしたせいだっ……てのか?」


「そうよ」


「地震と津波でたくさんの人を殺したのは……俺だってのか?」


「だからそれは神罰。あんたが殺したワケじゃない」


「なんだと!? 死んだ奴らに何の罪があったってんだ!?」


「なにも。

 でも、この国はあんたの暴挙を止められなかった。

 自然への畏敬の念を忘れ、次々に枯れたご神木を不思議にも思わず、金に換えて流通させた。

 自分さえ良ければって勝手な考えが、この国の連中の心を占めていたからそれができた。

 数百年、あるいは千年以上地脈を守ってきた神木をみすみす枯らせちまったのは、あんただけじゃない。この国に住むモノ全員の責任なんだよ。私らも含めて……ね」


「だからって何故……地震なんだよ……」


「長いことご神木が抑え、その力を調整していた地脈が突然解放されたんだよ?

 ひずみが解放されることで地震ぐらい起こるし、地脈が狂えば大きな台風だって来る。悪意じゃないのさ……神罰ってのはね。」


「同じ事じゃねえか!! そんな事しでかした俺が……俺がなんで生きてる!?

 何かの罰か? つまりこれも神罰だってのか!? いっそ……」


 棚家は土蜘蛛にボロボロにされた衣服を引き寄せるように自分の肩を抱いた。

 激しく震えているのは、寒さのせいではなさそうだった。


「あんたの生きてる理由……それこそが御利益だとしたら……どうする?」


 葉子がぽつりと言った。


「……なんだって?」


「あんたの家族……事故が起きて亡くなる寸前……その一瞬に、みんなあんたのことを気遣ったのさ。ご両親も、奥さんも……娘さんもね」


「………」


「いい……お父さんだったんだろ? あんた……」


「その願いを、金刀比羅宮様は聞き届けた。本当なら……運命のままなら家族全員死んでいたんだよ」


「馬鹿な……馬鹿な……そんなこと……だれが信じるか…………」


 つぶやく棚家の声はか細い。


「その、きつねのいうことは、ほんとうだぞ」


 じっと様子を見つめていた樹精の長・サンショウが言った。


「われらは、ひとのたましいをみることができるからな。

 おまえのうしろには、やさしいかおのものたちがみえる。

 みな、おまえをきづかっておる。おまえにも、ほんとうはわかっておるのだろ?」


 神木枯らしの張本人と知ってから、厳しく棚家を睨み付けていたサンショウの目が、急に優しくなった。


「たすけをよびにきたのは……おまえのむすめのたましいだ」


「う……うあああああああ……」


 棚家は泣き崩れた。

 両手をついて、声を枯らし、泣き続けた。

 あおい達が見つめる中、枯れた大杉の幹に寄りかかるようにして、いつまでもいつまでも男は泣き続けていた。


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