現実逃避
気が付いたら、がむしゃらに自転車を漕いでた。
気が付いたら、住んでた町が遠くに見えた。
遠くに行きたかった。
どこまでも遠くに行きたかった。
だから自転車を漕いだ。
だから無我夢中で自転車を漕いだ。
知らない所に行きたいのに…。
自分を知っている人が、誰もいない所へ行きたいのに…。
気が付いたら、生まれた町だった。
気が付いたら、生まれた町で泣いていた。
自転車漕ぎながら泣いていた。
悲しくなんて無かった。
痛いところなんて無かった。
苦しかった。
息苦しくて、心が苦しかった。
この苦しみから解放してほしかった。
この苦しみを癒してほしかった。
僕は死を選んだ。
僕は死を選んでしまった。
誰も知らない所へ行くために、死を選んだ。
ただ…苦しみから解放してほしかった…だけ…。
目を開けたら病院のベッドの上だった。
僕はまた泣いた。
死ねなかった事に泣いた。
生きている事に泣いた。
僕の為に涙を流してくれる人に泣いた。
いつかまた、死への逃避を行わないように、誰かに僕の為に涙を流させないように、僕は薬を飲んでいる。
薬を飲み続けている。