ダンジョンで駄菓子屋始めました
この世界にはダンジョンがある。
ダンジョンというのは、魔物が住んでいる空間がいくつもある不思議なところだ。
私こと、萱野水琴はそのダンジョンの前で途方にくれていた。実は数日前、偽聖女として追放されて、辺境領のダンジョンまで来たのだ。
アラサーだった私は、薹が立ってるなどと言われ、召喚されたにもかかわらず、部屋に閉じ込められたり、明らかに不当な扱いを受けていて。
あげく、侯爵令嬢が本物の聖女だと言って追放された。意味がわからない。はじめから召喚すんなよ! 元の世界に帰してよ! 帰し方はないとも言われて恨んだときもあった。
そんな王城に居たいわけもなく、追放自体は別にいいんだけど、この世界のことがわからない。
王都から出るまで付き添っていた騎士様は、人が良くて冒険者になれば生きていけるだろうと教えてくれた。
「何もできなかったけれど、少しだけど生活費にしてください。内緒です」
着の身着のままで出されると思っていた私には、彼は神に見えた。『二度と会えないのは残念だなぁ』と思いつつ別れたあと、なるべく遠くへ行きたくて、話に聞いた辺境の街ガーランドまで来たのだ。
ギルドで鑑定を受けると、全属性使えることが分かってざわざわしたけど、規定だからとEランクから始まることとなった。ランクはEから始まりSSが最高らしい。ちなみに名前はミコとした。
Eランクで受けられるクエストなんて報酬が知れているから、魔獣を勝手に倒して買い取りしてもらうのが割がいいと聞いて、ダンジョンに来たのが今である。
さて、何からしますかね。初心者向きのCランクダンジョン。ここに来るまで溢れ出てきた魔物を倒していた。聖魔法を魔のものに放つとあとかたもなく消え、ドロップ品しか残らない。火魔法も炭になって同じ。素材とは?
ダンジョンに入ったら何か変わるのかな?
そして初心者ダンジョンでの一人無双が始まった。倒せば倒すほどレベルが上がっていくのが楽しくて、気がつけば8階層まで来ていた。
【スキルを獲得しました】
ステータスを見ると錬金術が増えていた。他にも攻撃系のスキルは色々あったし、収納スキルも便利だったけれど、クラフトRPG系ゲームを愛した私には錬金術が魅力的に見えた。
何階層にボスがいるかわからないので、一度地上に戻って、薬草を摘んで帰ることにして。
宿に帰ってから、ステータス画面とにらめっこする。レベル以外にも素材合成のウィンドウが増えている。
「やってみるっきゃないよね」
収納ボックスから薬草とドロップした氷花水を出して、合成するとあっさり中級ポーションができた。
「なんか……水みたいだし、味気ないというか、つまんないな」
火喰花ってなんだろ。手持ちの花をさらに加えるとカラフルな色水みたいになった。
これあれだ! 昔飲んだボトルドリンクを思い出した。
「ジュースなら甘みがいるよね!」
蜂型の魔物からドロップしたハチミツを加えて出来上がったものは、どう見てもジュースだった。見た目と味は。
「まあいっか」
面白くなってハチミツを使って飴も作った。それを収納ボックスにいれて、翌日はBランクダンジョンに入ってみた。
ダンジョンで賑わう辺境の街の外れには、3つのダンジョンがあり、あとひとつはSランクだった。さすがにひとりじゃ危ないよね。
そうして突き進んだダンジョンの5階層で、大きな狼に囲まれた3人のパーティーを見かけた。
「ホーリーシャワー!」
聖魔法の範囲攻撃で一気に片付け、駆け寄って安否を確かめる。
「大丈夫ですか?」
「あ……あぁ。助かった」
「ありがとうございます! もう駄目かと思いました」
見ると3人はズダボロで、傷を負っていた。その時、ひらめいたというか魔が差した。
「怪我も酷いし、良かったらこれ飲んでみてください。試作品ですけど不味くはないです」
「え……でも」
それぞれに赤、青、緑のドリンクを渡す。ギョッとして躊躇しているのが見て取れたけれど、さすがに命の恩人からの贈り物は無下にできないんだろう。おずおずと飲み始めた。
「……おいしい!」
「えっ! なにこれ!?」
「傷が……!」
あ、やっぱりポーションはポーションだったんだ。色水だけではなかったね。3人は感謝してくれると同時に代金を払いたいと言ったけれど、初めて人に飲んでもらった試作品なので断った。
「こういうのってダンジョンで売ったら需要あるかな?」
3人が力いっぱい頷いていたので、他にもなんか作ろうと思った。
「そうだ! 街だとお店を開いたり、場所代がいると思うけど、ダンジョンはそういうのないの?」
3人は顔を見合わせて考えているようだった。
「そもそもダンジョンで何かを売っている人を見たことがないよ」
「あえて許可を取るなら領主様?」
「そうなんだ!」
お礼を言い合って、地上に戻り、せめてと言われたので夕食をご馳走になった。冒険者がよく立ち寄るらしい店は、とても賑やかだったけれど、肉もエールも美味しかった。
久しぶりのひとりではない食事は特に美味しかった。
流石に手持ちが寂しくなったので、ドロップ品の中からキラキラした輝鉱石というのをギルドで売ってみた。レアドロップですよとギルドのお姉さんが派手に驚き、思いのほか高値がついてビックリした。宿代と食事代がなんとかなって良かった。
宿の女将さんとは仲良くなってきたので、夜に厨房を借りて、クッキーやカラメル焼きを作った。女将さんはカラメル焼きに興味津々で、そのさくっとした食感に虜になっていた。
一度作ったものは合成でも作れるみたいで、大根の魔物が落とした魔糖も混ぜてみたら効能が付与された。楽しい。
順調にできたストック品を持って、ダンジョンに潜る。サンプルを何人かに渡したので、駄菓子屋の名も売れてきた。
そう、色水を見たときから【駄菓子屋】にしようと思っていたのだ。
「ミコさん、こんなところで甘いものが食べられると思ってなかったよ」
クッキーを食べたお客さんに感謝される。
「この飴、とても元気が出るよ!」
「毎度あり!」
私のMPは保有量が多くてあまり削れないから気づかなかったけど、MPがけっこう回復されるらしい。作ったあとの鑑定では、どれくらい回復されるかわからなかったので【飴】として売っているけれど。
爆竹や水鉄砲も作ってみた。ドロップ品からでも色々作れるなぁ。
「ミコさん、このバチバチ大きな音がするやつ、3階層で鳥を避けるのに役立ったよ」
「この水が出る鉄砲、炎蝶の群れに効いて良かった!」
オモチャと思ってたけど、喜ばれるととても嬉しいし、次は何を作ろうかなってなる。楽しく生活できるようになって来ていた。
ガーランドに来て、1ヶ月ほど経った頃に宿に、あのときの神がやって来た。王都で別れた騎士様だ。
「その節はお世話になってありがとうございました。会えたことだし、頂いたお金は返します」
「いや、それはいいんだ。遅くなったけど気になって追いかけてきたんだ。俺はアルベルトと言う」
「私は今はミコと名乗ってます」
「無事にガーランドに来てくれていて良かった」
「……来てくれて?」
「ここ、俺の故郷なんだよ」
明るい茶髪に緑の目の美丈夫の騎士様はニコリと笑った。なんと面倒みのいい。
「親父に手紙で知らせていたけど、黒髪の女性を保護した様子がなかったから、心配していたんだ。でも、女性のひとり旅は足跡が追いやすくて助かったよ」
「そうだったんですか、ご心配をありがとうございます。お城はどうされたんですか?」
「規程の2年が経ったから、近いうちにやめる予定だったんだよ。いい機会だから辞めてきた」
なんとなく言い回しに違和感がある。そういえば、ガーランドに行くことを勧めてきたのもアルベルト様だ。
「アルベルト様は、今はどちらに?」
「……うん。まあガーランドの屋敷かな。君も一緒に住まないかと思って……」
「えぇ!?」
ちょっと待って。領主様のご子息ってこと?
「私、今のところで満足してるし、お店も楽しいから大丈夫です」
「お店?」
「はい。駄菓子屋をやっているんです」
「駄菓子屋?」
「こんな感じのお菓子とかオモチャです」
私はいつも通り収納ボックスから、色水やクッキーやカラメル焼きを取り出した。
「初めて見る……! こういうのは君の国によくあったものなのかい?」
「えーっと、少し昔にあったものをイメージして作りました」
彼には私が召喚された人間と知られているようで。確かに濃茶の髪の人は多いけれど、黒髪の人は会ったことがない。
「新しく店ができたとも聞いていないけど、買い取ってもらってるのかい?」
私は首を横に振る。
「ダンジョンで駄菓子屋を始めたんです」
「ダンジョン!? 危ないじゃないか!」
「まだᏚランクダンジョンは行ってなくて。いつか行きたいですが、Bランクでしたら問題ないですよ」
「……そうか」
彼はしばらく考えていたようだけど、決意した顔になって言った。
「今は暇だから、ダンジョンに付き添うよ」
そうして駄菓子屋はSランクダンジョンにも進出した。
Ꮪランクダンジョンでは、低階層でもストック用にドリンクを買う人が後を絶たず、大盛況だ。なぜか赤色が人気だ。青は食欲を減退する色と聞いたことがあるから、そういうイメージかもしれない。
追放されたけど、ダンジョンでスローライフを楽しんでいる。王都で何が起こっているかは知らないけれど、私にはもう関係ない。
アルベルト様が知らせないようにしているのが分かるので甘えることにした。
いつかアルベルト様との関係が変わることもあるかもしれないけれど、今は駄菓子を考えたり作るのに夢中なのだ。
聖女だけど、ダンジョンで駄菓子屋をやっています。
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