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セヴァと人魚の物語  作者: 添木かもめ
1章 -現代-

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7. 図書館

荷物をまとめ、携帯用の新しい水槽にきれいな水を入れる。


「おまたせ、リラを水槽へ移すね」

「ぼくがやる!!!」

いろはが待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。

「結構よ。あなたやかましいから嫌。

セヴァが良いわ」

リラの思わぬ言葉にセヴァは顔が熱くなるのを感じた。

「そんなぁ、沢山おしゃべりして仲良くなれたと思ったのに……」

「あなたが一人で喋ってたんでしょ」

「そんなぁ」


いろはがしょんぼり静かなうちに水槽へ移ってもらい、いよいよ出発する。

随分と待たせてしまった運転手に挨拶をし、順に乗り込む。


研究所までは車で5分ほどの距離だ。

5分とはいえ、歩くと子供の足では30分はかかる。

比較的平和な国だが、子供たちだけで夜道を歩くのは危険なため、移動するには大人の付き添いが必須だ。



車が動き出すと、リラが暴れ出した。

「何の音!?やだ!!揺れる!助けて!!!」

昨日バスに乗せた時は眠っていたので、リラにとっては今回が始めての乗車体験となる。


「車に乗るのは初めてだよね。

大丈夫だよ、僕達を安全に運んでくれるんだよ。」

リラを落ち着かせるように声を掛けながら水槽のスイッチを入れ、窓際へ近づけた。

「陸をものすごいスピードで動いてるわ!」

怖い気持ちはなくなった様子で、きゃぁきゃぁとはしゃぎながら外の景色を楽しみはじめた。

あっという間に慣れたようだ。

「可愛い」

いろははリラを眺めながらずっと可愛いを連発している。


「あら?子どもたちが外で走り回っているけれど、あれは良いの?」

「あぁ、保育園の子どもたちだね。

小さな子どもは射光室でじっとしていることが難しいから。

園庭に大規模な射光器が設置されていて、外で遊びならが光を浴びることができるようになっているんだよ。」

「……何だかよくわからないけれど、ややこしい事をしているのね。

ヒトはあの光に当たらないといけないの?」

「そう。僕も部屋で浴びてるけど、人間にとっては必要な事なんだよ。」

「おひさまの光を浴びればいいだけなのに。

……あぁ、今はそれができないんだったわね。」


夜の間も煌々と、至る所で電気が使用され続けている。

「僕が生まれる前からそうだから。

おひさまの下を歩くってどんな感じなんだろうね。

想像もつかないよ。」

「おひさまは全ての源よ。とっても美しいの。

でも、この景色も沢山の色があって面白いわ。お祭りみたいね。」

窓の外の流れる景色に混ざり合う、数え切れないほどの光の波を、3人は無言で眺める。



研究所へ到着しゲートをくぐると、何だかいつもと様子が違うようだ。

今日は多くの職員がドタバタと走り回っている。



めずらしい光景に驚きつつも図書館へ向かう。

途中母を見かけたが、他の職員と同じく駆け回っており、セヴァ達の姿を確認すると両手を合わせ『ごめんね〜』と口パクしながら早足で去っていった。

父はデスクで頭を抱えて悩みこんでいる。

こっちはこっちで声を掛けづらかったので素通りした。


今朝仕事をしてきたといういろはに尋ねる。

「今日はどうしたのかな?」

「僕はもう今朝済ませちゃったから、あとはみんなに任せるだけなんだけど。

お偉いさんとの会議が今日突然決まったんだよ。超緊急だってさ。

珍しいこともあるよね。ま、大人たちがうまくやるよ、行こ行こ!」


研究所の図書館は、地域が管理する図書館より大規模で海に関する資料が沢山置いてある。

今はインターネットで調べれば何でもすぐに答えが出るが、沢山の図鑑等を机に広げ、紙をめくりながら探し物をするのがセヴァは大好きだった。

1日中ここに居ても平気なので、よく両親に呆れられたものだ。


「図書館で人魚について調べるなんて、初めてかも」

「まぁ!私の国の図書館とよく似ているのね」

「海の中に図書館があるの?」

「そりゃ、あるわよ。私たちだって本くらい読むわ。」

水中に図書館があるなんて。

昨日からずっと驚いてばかりだ。


「ということは、人魚の世界の本はミニチュアサイズなのかな?

これくらい?」

指で小さめの本のサイズを形つくってリラに見せる。

「いえ、ここに並んでる本とほとんど変わらないわ。

私一人では重すぎて本は持てないから、読書をする時はお父様や他の者に手伝ってもらっていたの。」

リラがとても小さいので、他の人魚も小さいのだと思っていた。


「リラのお父さんの体はおおきいの?」

「お静かに」

司書が指を口に当ててスタスタと近づいてきた。

「ごめんなさい。

ついお喋りをしてしまいました。」

司書は、いろはと同じく中性的で美しい外見をしている。

不思議な雰囲気の人だ。

胸元のネームに名前はなく「司書」とだけ書かれている。

「今日はその方についての調べ物ですか?」

「……はい!人魚について調べに来ました。

名前はリラです。」

「ほぅ。リラさん、よろしくお願いします。」

司書も、人魚を見ても全く驚かない。

「静かに過ごされるなら、ごゆっくりどうぞ。

いろはさん!ここは飲食禁止です!!」

少し離れたところでジュースを飲み始めていたいろはに声をかける。

「はーい。ごめんなさーい。」

「全く、何度言ってもやめてくれない……」

ブツブツと文句を言いながら去っていく。

飲食やお喋りは注意されるが、人魚の持ち込みは注意されなかった。


「リラのこと、怒られるかと思ったけど大丈夫だった。」

「そりゃ大丈夫さ。

この研究所内でリラの事は隠さなくてもいいし、出入りも自由。

おじいが今朝の朝礼で全職員に通達してたから。」

なるほど、だからリラを見ても驚かなかったのかと納得しつつ。

『人魚』についてこれほどあっさりと受け入れられるものだろうか、と不思議にも思った。


「ひとまず本棚を見てくるよ。リラも一緒に行く?」

「私は良いわ。ずっと動いてたから疲れちゃった。

ここに置いていって、いろはとお喋りしておくわ。」

「いいの!?やった!嬉しい!」


リラをテーブルに置いて本棚へ向かう。

と同時に、大声でお喋りを始めたいろは達の方へ司書が静かに近づいていくのが見えた。



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